「オノマトペ」は、自然界の音や物が発する音を表す言葉「擬音語」、耳で聞こえない物事の状態や様子、人の感情を表す言葉「擬態語」、人間や動物の声や鳴き声を表す言葉「擬声語」の総称です。この中で「擬音語」と「擬態語」は、“食”との関係性が強い言葉です。
近年流行りの食感。“サクサク”“カリカリ”“ザクザク”“シャキシャキ”“プチプチ”は擬音語、“もっちり”“ふわふわ”“とろとろ”“ぷにょぷにょ”は擬態語です。最近は、オノマトペを商品名に入れて魅力や特徴をダイレクトに伝える手法が当たり前になっていますが、戦略的に成功した事例として思い出されるのは、何といっても1996年に発売されたポッカコーポレーション(当時)の「じっくりコトコト煮込んだスープ」。“コトコト”という擬態語を入れた表現が、時間と手間をかけて作った温かいスープをイメージさせるのに、十分な表現力を持っていました。
オノマトペがそのまま名前になっている郷土料理もあります。例えば、福島県の「ざくざく」。里芋や大根、ごぼうなどを煮干しのだしで炊いた秋の煮物で、野菜を“ざくざく”と切る音からその名がついたと言われています。沖縄県の「しりしり」は、人参をせん切りにして炒め、カツオ節や塩で味付けした料理。専用の調理器具(シリシリ器)で人参をすりおろすときの“シリッシリッ”“すりすり”という音が名前になったという説があります。福岡県の「だぶ(らぶ)」は、さいの目に切った根菜類や鶏肉を煮込み、とろみをつけた汁物で“だぶだぶ”していることが由来とされていますし、太めの中華麺を揚げ、キャベツやキクラゲなどの野菜がたっぷり入ったとろみのある鶏ガラベースのスープをかけた山口県の「ばりそば」は、麺を食べたときに“バリバリ”という音がすることから名付けられたとか。
郷土料理以外にも、煮込んでいるときにする“ぽたぽた”という音、箸でつまみ上げたときに煮汁が“ぽたぽた”と落ちる様子から名前がついたとされる「ぽたぽた煮」もあれば、白菜やキャベツなどの葉野菜を、歯応えがないほど軟らかく煮込んだ料理を「くたくた煮」などと呼んだりもします。料理のプロセスや特徴だけでなく、おいしさ感を伝え、仕上がりの状態まで教えてくれる「オノマトペ料理名」。見栄えや食感にこだわるお国柄らしい料理名です。
月: 2026年9月
猛暑と規格外野菜
猛暑日が続くと思えば、一転して豪雨。被災した方々への思いは尽きることがありません。異常気象は、被災地のみの話ではなく、必ずや野菜の品質低下や生育不良による価格の高騰を招きます。
天候不順による農作物の被害とその対策。“食のトレンド情報”では、2015年[訳アリ・規格外食品]というキーワードで挙がっています。猛暑や大雨の影響で野菜や果物が不足し価格が上昇するケースが増え、割安な規格外品へのニーズが高まりました。有機農産物を宅配する「大地を守る会」(当時)は“規格外野菜・果物”のシリーズを新たに売り出し、「オイシックス」(当時)は形状が規格外の“ふぞろい野菜”を通常商品より3割安く販売。スーパーや生協でも[訳アリ・規格外食品]の取り扱いが定着し、生活者のニーズを掴みました。天候に関わらず当時、生産量の2、3割程度が規格外野菜・果物になるとされ、農家は自ら消費するほか、食品や飲料など加工用の原料に回したり、廃棄したりすることが多かったのです。が、ちょうどこの頃から、地域の直売所や「道の駅」などでそれらの野菜を割安に販売する事例が増え、さらには中高年層のネット通販利用が大きく伸びる中、世帯年収が少ない層に売れたのが、大きく曲がったきゅうりや傷が付いたりんご、割れた煎餅、チーズケーキの切れ端といった“訳アリ商品”。流通に乗せてすらもらえなかった野菜や果物、加工食品が一気に注目されました。
24年には、オイシックス・ラ・大地(当時)が高温の影響で4倍の重さに育った規格外パプリカを“横綱パプリカ”、着色にばらつきが出てしまったパプリカを“カメレオンパプリカ”と銘打ち、“猛暑順応ベジ”として発売。種苗メーカーは、暑さに強い野菜、短期間で生育する性質で猛暑や台風の時期を避けて栽培することができる野菜などを次々に開発しました。一方米は、高温耐性品種の作付割合がこの10年で10%増えています。
機を逸したかのように思える地球規模での温暖化。他方、猛暑にいち早く対応しようとする提供者の知恵と生活者の柔軟さ。まさに真夏の雑草のごときしなやかな力強さを目の当たりにしている近年の夏です。
月見商戦
今年も【月見商戦】が始まりました。大将は何といっても「マクドナルド」。9/2から“月見ファミリー”の展開を始めました。今年は定番の”月見バーガー””チーズ月見”、朝マック限定の”月見マフィン”に加え、新作の“炙り牛すき焼き風月見”やリニューアル商品“北海道産バターとあんことおもちの月見パイ”などバーガー、サイドメニュー、ドリンク、デザートから成る全8商品をラインアップしています。
大手で先陣を切ったのは「ピザハット」。8/24-11/1の期間限定で、”すき焼き月見ピザ”などを販売、続いては「ケンタッキーフライドチキン」が8/26から”とろ~り月見”シリーズ全5種を数量限定で発売しました。今年初めて参入したのが「デニーズ」。9/3から“お月見フェア”を開催。“黒麺×ガーリックライスの満月仕立て”“月見バーグ&オムライス”などに定番アレンジメニューを加え8品を提供しています。その他、「モスバーガー」「ゼッテリア」「ドミノ・ピザ」「吉野家」「びっくりドンキー」「ココス」「ペッパーランチ」「焼き肉ライク」「プロント」「コメダ珈琲」「ビアードパパ」なども月見関連のメニューを提案。変わったところでは、「ゴディバ」は満月とうさぎをデザインしたパッケージで“オータム コレクション”を、「ロッテ」は“雪見だいふく”を月見仕立てにした限定商品を登場させています。
日本人が最も好きな季節は秋、次が春です。二季化によって2つの季節がどんどん短くなっていますが、日本人はやっぱり季節感が大好き。特に、旬や行事に合わせた食によって季節感を堪能することを渇望する国民性があります。キユーピーが2024年9月に実施した「お月見に関する意識調査」では、月見の認知度は非常に高い一方、行事としての実施率は限定的であること、さらに「食べたいもの」として“ハンバーガー”が団子に次ぐ2位に。「実際に食べているものは何?」と尋ねたら、きっと団子より“月見バーガー”でしょう。
短くなった秋と春の季節感を感じにくくなっているからこそ、それをどんな風に感じさせ、楽しませることができるのかが、今後、食市場にますます求められます。季節感が大好きな日本人。たとえそれが、歪曲的・飛躍的解釈だとしても、季節の食として定着する可能性は大です。