スーパーのゾーニングと買いにくさ

 行き慣れないスーパーマーケット(以下スーパー)で買い物をすると倍近い時間と、3倍の歩数が必要になります。スーパーのゾーニングは、どの店舗もほぼ同じ。入り口付近には青果、そこから続くメインロードは鮮魚・精肉へと誘い、途中、加工食品、酒、菓子、日配品、卵、乳製品各売り場へ枝分かれの細道が通り、最後に惣菜売り場で完結します。面積の広狭の違いはあっても、基本は同じようなものです。
 が、しかし。初めてのスーパーでは、キャベツはどこ?トマト缶はどこ?と、探すのに案外時間がかかります。キャベツだからレタスの近くとは限らないし、トマト缶はパスタと一緒にイタリアン食材のコーナーにある店も、トマトケチャップと一緒に調味料のコーナーにある店も。同様に、地域ごとに同じような並びになるのがスーパーのあるある。海沿い、山間部などの立地による産物や食文化が大きく関係しています。加えて、そのスーパーが元は鮮魚店か精肉店かなど、何を生業にしていたかによってもゾーニング、陳列面積と品数のボリュームが異なり、面食らうこともあります。観光目的で地方のスーパーを覗くときにはそれが楽しいのですが、早く買い物を済ませたいときは、買い物ルーティンを妨げられる苛立ちを覚えます。
 入り口付近に青果売り場がある理由は、長らく、主婦が野菜を元に献立を考えるからと言われています。加えて、鮮度の良さをアピールしたいスーパーの演出とも。今の主婦(生活者)は、野菜を元に献立を考えているのでしょうか。献立に悩みながらスーパーに入り、野菜の品揃えからその日の献立、料理を発想するには、かなりの経験と知識が必要だと思います。
 私は、献立を考え、買い物リストを作ってからスーパーに行きます。が、外せない香味野菜やハーブが売り切れ、欲しい魚介がない、または異常に高い、買う予定のない肉が特売などなど、売り場にはアクシデントがいっぱい。その度に、頭の中で料理をアレンジし、献立を変更し。何のための買い物リストだったのかと情けなく、この恨み忘れじと足が遠のくのです。

季節感と体感を両立させた提案を

 6月、梅雨入り宣言早々。いきなりの真夏日続出。食市場には、計画変更が求められています。先に先に、選択肢を増やして対応力を強靭にすることの重要性を、今夏で再認識されたと思います。もちろん、旬を大切にする生活者に向けて暦を重視することは間違っていません。が、暦のように地球環境は動いてはくれません。だからの、先手必勝です。
 「2025年食市場のトレンド」に「地球沸騰化」と「冷活・辛活」を挙げました。これは、24年に続き、25年の夏も猛暑になると確信し挙げたキーワードです。でも今の食市場を見ると、一部企業を除き「冷活」のスタートが遅いと感じます。もっと早くから展開していれば、生活者の急激なニーズの変化にも即対応できたのではないかと。今回の「himeko’s VIEW」のテーマ「夏を乗り切る“汁なし麺”と冷たい“スープご飯”」で取り上げた商品はいち早く動いた商品。おそらく多々ある開発ストックのひとつでしょう。
 私は、30年近く、その年の食市場のトレンドを分析し、キーワードを付けて講演をしています。それゆえ、かもしれない程度の信憑性ですが、予測できることもあります。そして、過去にはうねりのように起こる生活者ニーズのスピード感も経験しています。食市場に大きな影響を及ぼす要因は、経済的環境、社会情勢などいろいろありますが、近年は環境問題がかなり大きくなっています。
  エアコンが効いた室内で提案者が考えることと、暑さに耐えて食の調達をせざるを得ない生活者の体感には大きな隔たりがあります。春と秋を日本で最も美しい季節と尊び、堪能したい生活者のニーズが強いことは事実です。それに応えながら、四季が二季になりつつある現実を踏まえた、かなりエッジが利いた提案が必要なのではと考えます。

「なべしぎ」と「しぎ炊き」

 梅雨入り宣言は、おいしい夏野菜を手頃にいただける季節の始まりを意味します。私は、なすが大好きです。なすは油と相性がいい野菜。淡泊な素材に油のコクがマッチします。ただ、乾いたスポンジのように、どんどんどんどん油を吸い込んでしまうので、なす自体は低カロリーなのですが、うっかりすると高カロリーの料理になってしまうことも。
 なすの料理名で、最近耳目にすることが少なくなったと思うのが「なべしぎ」。幼少期、母からよく「なべしぎ」という言葉を聞きました。「なべしぎ?」。なぜ「なべしぎ」なのかは分かりませんでしたが、それが「なすのみそ炒め煮」であることは理解していました。
 元は、「なすのみそ田楽」を「しぎ焼き」と呼び、それを鍋で作るようになり、「なべしぎ」になったようです。「しぎ」は、鳥の鴫(しぎ)のこと。なすと一緒に鴫の肉を合わせて調理したから、なすの切り口にみそを付けた様が鴫の頭に似ていたから、さらに調べると、なすのヘタを鴫の頭に見立てて飾り付けたからなどなど。その由縁はいろいろ。ヘタから延びる茎のカタチが、鴫の長くて細い嘴のようだからかもしれません。
 「しぎ」の名前が付いた料理はほかに、「しぎ炊き」があります。言わずと知れた「ホテル椿山荘東京」のスペシャリティ「米茄子の鴫炊き」です。米寿の米なす、喜ぶの昆布、白髪ねぎと縁起を担いだ素材で仕上げた逸品です。米なすを色が付くまで揚げ、熱湯に浸して油を抜き、調味しただしでとろとろに煮上げ、器に盛って白髪ねぎ、とろろ昆布、糸赤唐辛子を天盛りにします。
 日本の米なすは、米国の「ブラックビューティー」という品種を改良して作られています。特徴は、ヘタが緑色で肉質がしっかりしていて煮くずれしにくいこと。ステーキやラタトゥイユなどには最適です。反対に、煮てもとろとろにはなりにくく、日本のなすと同様に扱うと大きなしっぺ返しを食います。

朝食動画

 「モーニングルーティーン」。カリスマモデルや美容インフルエンサーが、美しさのために毎朝何をし、何を食しているのか。ルーティーンを記録した動画が若い女性たちを惹き付けています。若くない私を惹き付けているのも「モーニングルーティーン」。先輩諸氏の朝食動画です。プログラムは、ジャーナリストの田原総一朗氏(91)、現役バレリーナの雑賀淑子氏(92)、フードスタイリストの石森いづみ氏(77)。見れば元気をいただけること、請け合いです。
 田原総一朗氏。“朝まで生テレビ”の印象が強いがゆえ、91歳のプライベートの姿、しかも朝食という余りに無防備な動画を拝見できることは、今の時代ならではと有り難く思います。メニューは、トースト、ポーチドエッグ、手でちぎったレタスにたくさんの飲み物。そして〆は、あんぱん。食にそれほど興味のない“仕事人間”でいらしたことが動画を見れば一目瞭然。山積みの書籍に囲まれたわずかなスペースの食卓は、いかにも氏らしく微笑ましい。
 92歳にして未だ現役のバレリーナ、雑賀淑子氏。クロワッサンとカフェオレに、ジャム入りヨーグルトや目玉焼きを添えた朝食を70年間続けているそう。ベースは、20代に渡ったフランス。ダイニングの壁中に貼られた思い出の写真を眺めながら。時折、膝にかけた布ナプキンを口に当てるしぐさも自然です。背筋をまっすぐに伸ばしたその姿には、現役でしか表現できない凛々しさがあります。
 フードスタイリストの大御所、石森いづみ氏。今も撮影スタジオを運営し、数々の作品に携わっていらっしゃいます。この日の朝食は、おじや。昆布とだしパックでベースを作り、ねぎとしらす、窓辺で育てた豆苗、削り立てのかつお節を加えて卵でとじます。蕗みそやすぐき漬けなどの常備菜を添えて。食後は、コーヒーに豆乳を入れたカフェオレでゆったり。キッチンも道具も食器も、さすがの石森氏です。
 三氏の朝食に共通しているのは、バランスよく、しっかり食べること。そして、それが今日一日を生きるパワーになると教えてくれていることです。

令和のシニア市場は、「Wシニア市場」

 「2025年食市場のトレンドキーワード」のひとつに、「Wシニア市場」を挙げました。今後、団塊シニアと新人類シニアの「Wシニア市場」が展開されるという内容です。“新人類”と呼ばれる世代は、1961~70年生まれ。今年55~64歳です。この世代が、いよいよシニアの領域に入ってきます。そしてもうひとつ、キーワードに挙げたのが「ハイシニア向け食品」。介護食ではなく、健康なハイシニアがもっと元気に若々しくありたいがために積極的に食べたいと思える食品です。
 国立社会保障・人口問題研究所は、13年後の2038年には、3人に1人が65歳以上と予測。「Wシニア市場」は世代を順送りしながら拡大し続け、それに伴い「ハイシニア向け食品」のニーズが高まることは必至です。求められるのは、身体と脳の健康。シニア向け食品で目立つワードは、「骨密度」「膝」「脚」「血管」「血液」「血圧」「お通じ」「筋力」「認知機能」「栄養バランス」などなど。若いときには、思いもよらない言葉だらけです。
 バブル期を謳歌してきた新人類シニアは、消費に対して意欲的。定年後も働き続けたい人が多く、財源が確保されることから、活発な消費傾向は続くと見込まれています。また、団塊シニアと新人類シニアはこれまでのシニア世代とは異なり、SNSを駆使するなど情報収集に積極的で、いわゆる中高齢者意識がないのが特徴。ただ、気持ちが若く過去のシニア層に比べて元気とはいえ、身体と脳の衰えを感じている年代であることは否めません。
 “栄養は、サプリメントではなく食事から摂りたい”と考える生活者が多いのが日本人の特性。いつまでも元気で人生を謳歌したいシニアの皆さんは、新たな抗老化食品を熱望しています。