ロシアのウクライナ侵攻から1年

 2/24、ロシアによるウクライナへのミサイル攻撃や空爆が始まって1年が経ちました。当初は、ここまで長引き、ここまで影響が大きいとは思いもしませんでした。身近なことでその影響を実感するのは、やはり食品の値上げラッシュでしょう。
 まずは小麦。ウクライナ侵攻以前から小麦の国際価格は高値が続いていたのですが、ウクライナ情勢がそれに拍車をかけ、その後の小麦製品の値上げラッシュに繋がります。3月には、ロシアに対する制裁により、タラバガニやボタンエビ、ウニなどの調達に関して先行き不透明感が増し、新たな調達先の模索が始まります。次いで、輸入鶏肉と豚肉の国内卸値が上がりました。日本の鶏肉の主な輸入国は米国やブラジルなどですが、ウクライナは世界有数の鶏肉の輸出国。世界に調達懸念が広がったことによる価格上昇です。4月に入り、ノルウェー産の「生サーモン」が、ロシア上空を飛行できないため迂回することで輸送コストが上がって値上げ、空輸されることが多いチコリやリーキといった西洋野菜の卸値も3月上旬比で5~7割上昇しました。さらに、ロシアによる黒海の封鎖で、ウクライナの穀物輸出量が前月の4分の1に急減。穀物の高止まりを決定付けました。
 以上のことは、2~4月のほんの3ヵ月間で明らかになった食品の値上げです。“ウクライナが戦場になっているから小麦粉価格が上がる”。食糧危機がそんな単純なものではないことが、この戦争でよく分かりました。ウクライナから輸入していなくても、品薄になれば取り合いになり、ロシアへの制裁国に加われば、ロシア産の海産物は輸入できなくなる。ロシアが制裁に対抗すれば空輸コストが上がり、港を閉鎖すれば輸入作物の先行きは見えなくなる。漁業に関しても、ロシアとの交渉が進まなければ出漁できません。
 自給率が低い日本の食糧を支えている「輸入」という手段の脆弱さを思い知らされた1年でした。

今、企業に求められる「authenticity」

 「2022年 食市場のトレンド相関図」に「実感マーケティング」というキーワードを入れました。購入したもの、利用したものに対して、謳い文句は本当なのか、期待通りの効果はあるのか、社会の役に立っているのかなど、生活者の中で、“実証して欲しい”“実感したい”というニーズが高まっているのです。そして今年は、「authenticity(オーセンティシティ)」という言葉が注目されています。直訳すると、「信頼性や真正であること」といった意味で、嘘がない、本物であることが求められる時代になっているということです。
 企業に対し、サステナブルな取り組みが求められる中、実体が伴わない環境対策をアピールする“グリーンウォッシュ”の問題も広がっていて、企業には生活者への説明責任を問われています。
 加えて、かつては厨房におけるアルバイトの、最近では回転寿司店における客の、不適切な行為による深刻なネット炎上で明らかになったように、行為をしたアルバイトや客が非難されると同時に、店側のずさんな衛生状態や労働環境の劣悪さ、企業の顧客に対する広告の嘘など、企業自体の問題も同時にネット上に“告発”されることになります。
 たれの瓶の中で虫が動いている動画がSNSに掲載された「餃子の王将」のケースは、店側の衛生管理に問題があるのか、悪意のある行為があったのか分かりません。が、前者もあり得ると客が思えるのであれば、それは企業側の責任です。
 企業側の不都合がバレやすくなっている時代だからこそ、オーセンティシティがより重要になっていると言えます。逆に言えば、企業や従業員の“神対応”が、顧客やファンの感動を呼び、それが大きな話題になることもあり得ます。SNS時代は、“正直者が馬鹿を見る”のではなく、“正直にやっていなければ取り返しがつかなくなる時代”なのです。

節電と常温保存が可能な加工食品

 今冬、関東以北の地域では電気代の急激な値上がりが、生活者を悩ませています。昨年と打って変わって今年はしっかり寒い冬。暖を取る電気は、節電しようにも限界があります。では、食は?
 himeko’s COLUMNで半年前の夏に振り返った、東日本大震災の影響で計画停電が実施された2011年。エアコンの電力消費量を減らすため火を使わない料理が求められ、加熱しなくてもいただける商品が次々に登場しました。でも、今は冬。やっぱり温かい料理が食べたい。節電料理のアイデアを過去に学べるかと調べたところ、ありました。ベターホーム協会が提案している、加熱調理後の鍋をバスタオルや新聞紙で包み、余熱を利用することで加熱時間を短くする“保温調理”です。ビジュアルは、昭和感満載ですが、二重構造の鍋と同じ発想です。
 この年、常温で長期保存ができる缶詰やレトルト食品が売れました。もちろん、防災の意識が高まったこともありますが、節電の意図もありました。ご存知の通り、食品の詰め過ぎは冷蔵庫の消費電力量を増加させます。庫内を少しでもすっきりさせたいとき、常温保存ができる商品はそれだけで価値が高まります。
 当時、熱湯で溶かして作る粉末タイプのつけ麺用つゆが発売されています。夏の冷蔵庫の常連と言えば、液体の麺つゆ。常温保存が可能な粉末なら、冷蔵庫に入れる必要がありません。メーカーは、魚介系と辛みそ系の2種類を用意し、「ワンパターンになりがちな麺類の新しい食べ方を提案したい」との意向でしたが、節電が叫ばれているときなら、常温保存が可能な粉末であることを、もっとアピールしたほうがいいのにと思ったことを覚えています。

家計の救世主“もやし”の話

 あれもこれもと値上がりし、物価の優等生と言われてきた卵の価格すらも高騰している食市場において、変わらずに低価格で販売されているのがもやし。近隣のスーパーでは「緑豆もやし1袋200g」が29円(税抜)です。
 節約志向が強くなると、低価格の食材をおいしく食べさせてくれる調味料や加工食品が発売され、人気になります。この秋冬商品の中で話題になったのが、もやしを主役にする商品。「久原醤油」の鍋つゆ“塩とんこつ もやしのうま鍋”です。“野菜を美味しく食べる鍋”をテーマにした“うま鍋”シリーズの中でも特に売れた商品で、2月を待たずして終売になってしまいました。同じくもやしに注目したのが、「明星食品」の袋麺“明星 チャルメラ もやしが超絶うまいまぜそば ニンニクしょうゆ味”です。新型コロナウイルス禍で、もやしのアレンジメニューが増えていることに着目して2021年に発売された商品。好評なため、今年4月に麺ににんにくを練り込むことで、にんにくのガツンとくるうま味と香りをアップさせたリニューアル商品を発売する予定です。
 物価高の中、もやしはまさに救世主のような食材ですが、原料である緑豆種子の価格は高騰しています。一方、小売価格は横ばいか下落していて、もやし生産者は窮地に追い込まれているのも事実。そんな中、もやしの高い栄養価に着目し、“安いだけ”食材から“栄養リッチ”食材へ、イメージの刷新を図るためのブランディング活動、もやしの価値向上を目指す「MOYASHI SMILE PROJECT」が始動しています。