飲食店、90分勝負の戦術

 21日、東京都においては緊急事態宣言が解除され、まん延防止等重点措置に移行しました。飲食店でのお酒の提供が可能になりましたが、営業時間は20時まで、お酒の提供ができるのは11時から19時まで、2人までの人数制限で滞在時間は90分。

 早速ランチ飲みをしに飲食店へ。ビールサーバーの準備ができていなかったのか、ビールが出るのが遅い。ランチビールをこんなに待ち焦がれたことはありませんでした。

 お酒が出せることでやっと営業体制に入れたのが居酒屋やパブ。90分勝負に挑みます。戦略は、何と言ってもスピード感。戦術としては、刺身や作り置き可能な料理などすぐに提供できるメニューのラインアップを増やすことです。客も久しぶりの外飲み。話が弾むと食事そっちのけになってしまうことも。“久しぶり”の高揚感に乗っかって、単価がやや高めの料理を出してみてもいいでしょう。1人客と2人客が主体になるので、盛り合わせの単位も変更して。家庭では味わえない外食ならではの特別感が、今は平常時以上に求められます。“ちょっといいものを少しずついろいろ戦略”が少人数の客には、はまると思います。

 昨年、時短要請が発令される前から、一部のレストランでは“ディナーの時短化”が進んでいました。感染を恐れ、店での滞在時間をなるべく減らそうと、敢えてランチの時間帯を利用したり、ディナーもさっと食べて帰ったりする客が増えたのです。そんな時短ニーズに応え、手頃なボリュームで90分程度で食べ終えられるリーズナブルなコースを期間限定で用意したイタリアンもありました。客にとってはコスパがよく魅力的ですし、一方店側は、3密を避けるために席数を減らしているので回転率を上げたいという事情があり、客と店の双方にメリットがあります。「時短ディナー」は、まさにウィズコロナで生まれたかつてない新しいキーワードになりました。

昭和懐かしハムカツサンド

 渋谷駅で小腹が空いて「渋谷スクランブルスクエア」へ。何かちょっとしたものを買って帰ろうと思い目に付いたのはサンドイッチ専門店のハムカツサンド。「人気2位」とあります。1位は「エビカツサンド」、3位は「カツサンド」。トレンドの“萌え断”分厚いフルーツサンドが並ぶ中、カツが人気のようです。

 ハムカツサンドのフィリングは、卵サラダ、レタス、ハムカツ、ツナマヨ。盛り込み過ぎで、ハムカツの風味が楽しめません。ハムカツがとてもやさしい味なので、余計にです。   

 私好みのハムカツサンドは、昭和の時代、商店街のお肉屋さんが揚げていた分厚いハムカツを、何も塗らない食パンにはさんだもの。プレスハムやチョップドハムで作ったハムカツです。でもそんな昔のハムカツがなかなか探せないのです。今は、ロースハムが主流ですから。そこで、チョップドハムを買って自分でハムカツを作ることにしました。塊のチョップドハムは、ネットで購入します。タイル貼りの壁のような凹凸のある、濃いオレンジ色のビニ―ルに包まれた、アレです。

 因みにチョップドハムとは、塩漬けした豚や牛、馬や羊、ヤギ、ウサギの肉や魚肉に、デンプン、小麦粉、コーンミールなどのつなぎと香辛料や調味料を加えて練り、整形、燻煙、加熱したもの。豚のロースを塊のまま風味付けして乾燥、燻製、加熱したロースハムにはない雑味があり、それが特有のうま味に繋がります。

 高度経済成長初期の日本には、テレビや新幹線など、初めて経験する“感動もの”が次々に登場しました。食品も同様、初めて食べたおいしさの感動が舌に残っているのです。

アップサイクルとホールフード

 最近、“アップサイクル”という言葉がトレンドキーワードに度々登場します。815号の「himeko’s VIEW!」でも取り上げましたからご存知の方も多いと思いますが、“従来は廃棄されていたものに新たな用途や価値を与えて進化させる”という考え方で、2019年に米国企業を中心に設立された「The Upcycled Food Association(アップサイクル食品協会)」は、アップサイクル食品を“本来は人間の食用にされなかった原材料を用い、検証可能なサプライチェーンで調達、生産され、環境によい影響をもたらす食品”と定義しています。

 日本には、古くから“丸ごといただく”食文化があります。米の外皮はぬか床になり、それに野菜やすいかの皮を仕込んで漬け物にしていただく。大豆を絞って豆腐にし、絞りカスは卯の花にしていただく。私は、ごぼうは皮をむきません。そこにごぼうの香りがあるからです。大根の葉は炒めてふりかけにします。ブロッコリーは茎のほうが好きです。これらはまさに、“ホールフード”の実践です。

 では“アップサイクル”との違いは? 例えば、ひよこ豆のゆで汁でビーガンマヨネーズを製造する。これはアップサイクルっぽい。かぼちゃやアボカドの種から油を搾汁する。これはホールフードかな。

 “従来は廃棄されていたもの”“本来は人間の食用にされなかった原材料”の判断がとてもややこしいのです。そもそも食べられる部分か否かは、食文化、食習慣に大きく関わってくること。欧米ではかんきつ類の皮を多用し、東南アジアではパクチーの根っこは欠かせない食材です。

 言葉の認知が高まると存在の必然性が生まれます。“アップサイクル”は、商品開発やメニュー提案の新しいキーワードになり得るかもしれません。なんとなく理解することで安心する日本では余り問題にならないと思いますが、この言葉の定義の解釈はややこしい。

お酒の飲み方の偏差値が上がる機会だったのに

 時間に関係なく、飲食店で酒類が提供されなくなった今、酒好きの私はランチも含めて外食をほとんどしなくなりました。ワインを飲まずにフレンチやイタリアンをいただいて、8時には店を出なくてはならない。そんなゆとりのない食事はしたくないのです。もちろん、お店のためには行くべきなのでしょうが。

 お酒が入ると騒いでしまうから、提供しないように。お酒そのものがいけないのではなく、気が緩んでマスクをかけ忘れたり、密になってしまったり、酔って大声で話したりなど、新型コロナウイルスを感染させてしまう“行動”がいけないということ。ならば、ひとりご飯のときや、バーなどでひとり時間を楽しみたいときは、お酒をいただいても問題ないと思います。一方、レストランやカフェで食事をしながら、しっかり盛り上がっているご婦人グループを見ることも。騒ぐ騒がないは、お酒だけの問題ではありません。

 もちろん、路上飲みで迷惑をかける若者たちも少なからず目にします。でも、「飲める場所を取り上げられたのだから仕方がない」と同情も。まだ子どもなのですから。私も学生なら、いえ20代なら、路上飲みをして盛り上がっていただろうこと想像に難くありません。

 死に至るかもしれないウイルス感染の恐ろしさ、若者も免れられない後遺症の苦しみ、変異を繰り返すウイルスの厄介さ。それらを十二分に理解させ、正しく恐れるよう教育を徹底したうえで、お酒の場での配慮を促せば、世界的に見て決して高いとは言えない日本人のお酒の飲み方における偏差値が上がったのではないかと思います。若者には、大人の嗜みを啓蒙するいい機会になったのではないかと。理想論かもしれませんが、それが残念でなりません。