令和の“お犬様市場”

 公園の中や近くにあるカフェやレストラン、自然を楽しむ観光地の飲食店で増えているのが【ペット可】の文字。犬と常に行動を共にする愛犬家が増えましたね。
 [食のトレンド情報]でも最近、犬用の食品に関する話題が増えています。森永製菓が3/3に展開を始めたのが、人と愛犬が同じおやつを一緒に楽しむ食体験を可能にした焼き菓子やゼリー、氷菓など全7品を揃える「withドッグ」シリーズ。専門知見を持つパートナーと連携し、人と愛犬の双方が安心して食べられるように設計しています。東京のBread&Dogs(ブレッドアンドドッグズ)が、 4/3~6に開催されるペット業界向け国際見本市で展示予定なのが、人と愛犬が一緒に食べられる安全安心な減塩パン。既にラグジュアリーホテル、カフェやレストランなどで導入されているそうで、今後、小麦アレルギーの人や犬でも食べられるグルテンフリーパンなどの開発も進めるといいます。
 一方、犬の健康に配慮した食品を開発する会社も。兵庫のペッツバリューは3/9、業界初と謳う犬由来の乳酸菌を採用した犬向けガムを発売しました。健常犬の腸内から分離、培養された、犬と相性のよい特許乳酸菌を配合した商品で、“噛む”ことにより歯垢を除去し、同時に、乳酸菌が口腔内に行き渡るといいます。おはぎやおやきを製造するサザエ食品が1/27に発売したのは、犬用の腸活あんこ。人間のための腸活スイーツとして販売しているものを犬用にアレンジしています。
 2024年の犬と猫の飼育数は計約1595万匹と、15歳未満の子ども(約1383万人)を上回り、23年度のペット関連市場は1兆8629億円で、過去10年間で約1.3倍に増加。このまま成長が続けば、27年ごろに市場規模は2兆円を超えると試算されています。加えて、犬や猫の飼育はウェルビーイングにプラスと評価されているほか、犬を飼う高齢者は認知症の発症リスクが約4割、心身の機能が衰えるフレイルのリスクが約2割低かったなどの研究結果も。
 人と同じ生活環境、食事、ケアが求められている令和の“お犬様市場”。住宅関連、生活雑貨、食品、医療関連などなど、さまざまな業界が無視できなくなっているのかもしれません。

せり人気

 買いたくてもなかなか買えない野菜のひとつに“せり”があります。家の近くの無粋なスーパーにはなく、と言ってデパ地下の八百屋や高級スーパーで手に入れてもうれしくない。それが“せり”です。
 せりは水菜、三つ葉と仲間のように語られることが多いような。昔はそうだったのかもしれませんが、今はまったくの別物という感じ。水菜はサラダに鍋料理にと年中、たっぷりと使え、あるときは量増しに、またあるときは彩りに、そしてまたあるときは歯応え野菜にと大活躍。三つ葉はほんのり香る香草として、吸い口や、煮物、丼の天盛りに。一方せりは、野性味溢れるくせのある香りが身上。鴨鍋やお浸し、天ぷらなどシンプルな料理に合います。
 そのせりが今、人気なのだとか。背景にあるのは韓流。韓国では、“ミナリ(せり)”ブームが起こっています。きっかけは、2021年公開の映画「ミナリ」。せりは一度根付くと、特別な世話をしなくても水辺で力強く成長する植物。その「たくましい生命力」が物語のテーマである移民として米国で生きる韓国家族の姿と重なるため、このタイトルが付いたといいます。
 都内の韓国料理店では、せりの香味で豚肉の脂をさっぱりと食べられる“ミナリサムギョプサル”や、せりをたっぷりのせた“ミナリユッケビビンパ”や“ミナリサムゲタン”を提供するなど、せりは肉料理と相性がよく、緑が映える見た目も人気。韓国料理以外でも、せりをラーメンにトッピングしたところ、女性客が増えたという店もあり、パスタや炒飯などにせりを使う飲食店も登場しています。 クックパッドの検索データサービス“たべみる”によると、25年のせりの検索頻度は24年比で2割増えたとか。
 私は「2026年食市場のトレンドキーワード」に「香り活用」を挙げました。加工食品市場では13年にブームだった“燻製香”が、今再び人気です。食に変化を求める生活者のニーズが、“クセのある香り”に向かっています。

過去にも登場した今年のトレンドキーワード-6[トキ消費]

 物を持つよりもその場の体験や瞬間を楽しむ、近年話題の“リキッド消費”。その流れを受けて、“その場限り”の体験をウリにする[トキ消費]が食の世界でも広がりを見せています。“賞味期限5秒”“加熱時間1分”など時間のライブ感を前面に打ち出す食品、短い期間しかオープンしない店舗など、時間を限定することで興味をかき立てる手法がウケているようです。
 2017年、[速食ニーズ]というキーワードが挙がりました。生活者は調理に手軽さと時短を求め、SNSの世界では瞬間をウリにした食べ物が絶好のネタになり、一方、食べることに時間を取られたくない若者は超手軽な完全栄養食を求め—。そのいずれにも「速食」というコンセプトが存在していました。
 この年、家庭用カレー商品市場において、レトルトカレーがカレールウの販売金額を初めて逆転しました。お湯を注ぐだけのフリーズドライタイプやぺーストタイプのインスタントカレーも登場。早く溶けて時短に役立つと好評でした。
 賞味期限が非常に短い「瞬食グルメ」も話題になりました。賞味期限が10分の“10分モンブラン”、 賞味期限58秒のしょうゆ煎餅‟ゆげたち”、賞味期限30秒の“エスプレッソ・ゼリー”などなど、でき立ての食感と風味を最高の瞬間で味わうことに価値を置き、その体験をSNSで伝えたい若者たちに注目されました。
 “食べることは面倒で不経済”と考える若者に向けて開発されたのが、それだけを食べていれば、ほかに何も食べなくても生きていける。そんな夢のような食品、“完全栄養食”です。完全栄養飲料「COMP」や、世界初のパスタタイプの完全栄養食品「ベースパスタ」が発売されたのもこの年。当時は、異次元の話のように感じましたが、同様の商品が今では、コンビニでも販売されています。
 17年は、[ファストマーケティング][時短家電][1分料理動画]などもキーワードに挙がるほど、[時短ニーズ]が強かった年。それから9年。今年も、手軽に栄養を摂りたい[コスパ栄養]や食事の代わりにもなる[おやつ食]など、タイパとコスパの両得ニーズは相変わらずです。が一方で、[逆タイパ志向]も。ゆっくりじっくり時間を楽しみたいニーズも確実に大きくなっています。

過去にも登場した今年のトレンドキーワード-5[プチ贅沢消費]

 生活者の先行き不安感は、年々大きくなる一方。生活防衛を続ける中、節約疲れによる反動で、高付加価値商品が売れています。市場は、安価な商品と手頃なプチプレミアム商品の二極化が進んでいて、強まる[癒やしニーズ]を背景に[プチ贅沢消費]が好調です。
 東日本大震災が起こった2011年。自粛ムードが広がり、消費意欲が落ち込む一方かと思われましたが、ストレスを忘れて非日常的な気持ちになりたい「ハレ志向」が日を追うごとに強まり、“ちょっとした贅沢を楽しみたい”という生活者の気持ちが景気を刺激する要因に。[プチハレ消費]というキーワードを付けました。続く12年のキーワードは[たまハレ消費]と[小ぶリッチ]。自分が最も大切だと思うもの、価値があると判断したものに対しては、しっかりお金を使おう、たまのハレ感を味わおうという[たまハレ消費]が活発になりました。また、容量やサイズを単に小さくしただけでなく、その分、満足度を高めた[小ぶリッチ]な商品が目立ちました。
 15年には、[プチリッチ志向]が明確に。おしゃれでプチリッチなサラダが人気の「クリスプサラダワークス」の1号店が前年12月にオープン、デパ地下はもちろん、スーパーの惣菜売り場でも、サラダのプチリッチ化が進みました。NYで人気の“メイソンジャーサラダ”が上陸したのもこの年。サラダランチ手作り派の圧倒的な支持を得ました。さらには、“体によいものなら、多少高くても”“いや高いものの方が効く気がする”という[ヘルシー志向]と[プチリッチ志向]を受けて、ココナッツ、ぶどうやかぼちゃ、アマニやえごまの種子から採った[高付加価値オイル]が売れ、外食市場では値下げ競争から一転、顧客離れのリスクを抱えながら成長を目指す値上げ競争が始まり、[プレミアムFF]がキーワードになりました。
 21年には、新型コロナ禍で外食の機会が減り、家でプチ贅沢を楽しむ人が増えました。自分が価値を認めたものは少し割高でも購入する傾向が顕著になり、食飲料メーカー、コンビニや外食チェーンが相次ぎ“プチ贅沢”需要を刺激する商品を投入。[プチプラ(イス)プレミアム]がキーワードに。さらに、満足感が得られるプチリッチなテイストとして「濃い系」商品が人気を集めました。

過去にも登場した今年のトレンドキーワード-4[香り活用]

 香りを商品の魅力にしたり、販売促進やブランディングに利用したり。香りを活用する動きがどんどん広がっています。過去のトレンドキーワードでは、食感、色、温度、香り、音、それぞれに特徴を持たせた商品を求める傾向を[五感消費]というキーワードで紹介。また[香感食品][香楽食品]など香りに特化したキーワードを挙げた年もあり、両方を合わせると、2007年からなんと11回登場しています。[癒やしニーズ]が強まったときに多く、香りが精神の安定に強く結びついていることが分かります。
 過去のトレンドキーワードを見返して興味深かったのは、10年の講演内容。次のような話しをしています。「香りの演出が、商品の販促やブランドの印象付けに有効であることに気付き、積極的に利用している企業が増えています。商品やサービスを売り込むには味や機能性だけでなく、感性や感情に訴える戦略も必要で、香りは有効な手段になります」とし、杏林大学医学部の古賀義彦教授の“嗅覚中枢は、記憶や情緒をつかさどる部位と同じ場所に存在するため、印象に残りやすい”という解説と、本屋に行くとトイレに行きたくなる人が多いこと、かつて付き合った人と同じ匂いを嗅ぐと、その人のことを鮮明に思い出すことなどの例を挙げています。また[香り活用]が広がる背景について、米P&G社の柔軟剤ダウニーが、日本においてあっという間に市場を広げた例を挙げ、「日本人はもともと、強いにおいが苦手な人が多かったのが、近年は、快適なにおいなら進んで求める人が増え、特に若い世代に、従来よりも強い香りが好まれる傾向がある」とし、「感覚の中でも嗅覚は味覚への影響が大きく、今後、メニュー開発や商品開発の重要なファクターになると考えられます」と締めくくっています。
 20年には、味わいや風味の8割は香り、しかも鼻から吸い込む香りではなく、のどの奥から鼻に抜ける香り“レトロネーザル(口腔香気)”によるところが大きいと言われ始め、香りと味覚の関係性に着目。香りを楽しむことをコンセプトにした商品開発やメニュー開発が増えました。