増えてきた?“子どもに魚を”のアプローチ

 家庭料理における魚離れが進む一方、SNSの功罪なのか、栄養的価値の認知度は確実に上がっているようです。この1年、魚に関するトレンド情報の中で特に目立つのは、食品メーカーが子ども向けのアプローチをしていること。
 Umios(ウミオス)は昨年6月、「TABETARA」ブランドを立ち上げ、 “魚を食べたら、いいことがある。”をコンセプトに、子ども向けに手軽に魚由来のタンパク質を摂取できる「おさかなごはんバー」などの商品を展開しています。また、赤ちゃんからの食育をサポートするブランド「the kindest(カインデスト)」を展開するMiL(ミル)は昨年12月、国産魚を使用した新シリーズ「魚のまんま」「おさかなほぐほぐ」の2種7商品を発売しました。テーマは、“食材との出合い”“将来の食習慣”“サステナブルな選択”に着目した“離乳期からの切れ目のない魚体験”です。
 無添加冷凍離乳食・幼児食「mom’s(マムズ)」を手掛けるDelights(デライツ)が今年4月に提案したのは、害魚や規格外魚などの未利用魚を活用した「瀬戸内おさかな幼児食『せとと』」。“良質な魚メニューを増やしてほしい”との声を受け、栄養価や鮮度がより高い食材を求め、東京から香川・高松へ製造拠点を移して開発しました。日本最大級の子ども向け魚食推進イベント「さかな文化祭2025」に参加した際、“いりこのフリット”は即完売する人気ぶりだったといいます。
 そして敷島製パン(Pasco)が6/30からテスト販売するのは、“手づかみ食べ”に着目したベビーフードブランド「にぎぱくフレンズ」の第1弾「さんまのハンバーグ」です。起案者であり2児の母でもある社員の育児経験をきっかけに生まれた商品です。
 価格的に高い印象がある魚。調理が面倒そうだし、そもそも魚料理を知らないという生活者が増える中、それでも“食育的観点”において魚を外せないと思っている生活者もしっかりと存在していることも、また事実のよう。日本人と魚の縁の深さをSNSが気付かせてくれているのかもしれません。

拡大する「フェムテック市場」

 [2026年 食市場のトレンド]講演で挙げたキーワードに、「リカバリー市場」があります。睡眠の質をよくする飲料、一時的な疲労感を除去してくれる食品に加え、疲れを取ってくれるウェア、睡眠の質を測ってくれるマットレス、コリをほぐしてくれるマッサージチェアなどなど、市場には実にさまざまな商品が登場しています。日本リカバリー協会は、25年のリカバリー市場は推計約7兆6000億円と24年比で27%伸長。30年は約14.3兆円、35年は21.1兆円に成長すると予測しています。
 商品だけではありません。ターゲットも広がりを見せています。その中のひとつが、フェムテック市場です。「フェムテック」とは、女性(female/フィーメイル)と技術(technology/テクノロジー)を組み合わせた造語で、生理や妊娠・出産、更年期障害、性の問題などの悩みをテクノロジーやアイデアで解決し、女性の生活を応援する商品やサービスのことです。25年の市場規模は前年比5.2%増の61億円。「健康管理支援サービス」「簡易検査サービス」、オンラインでの診察や相談、ピルを処方する「オンライン医療ソリューション」などなど、幅広い商品やサービスが用意されています。対象は、働く世代だけでなく、小中学生から更年期を迎える中高齢者まで。幅広くフォローするサービスも誕生しています。
 「フェムテック」を初めてキーワードに挙げたのは、22年。それから4年で認知度が高まり、市場は急速に拡大しました。女性の活躍推進や働き方改革に伴い、生理・妊娠・更年期など女性特有の健康課題による経済損失が可視化された結果です。
 女性の性にまつわることが秘するべきことではなくなっている傾向は喜ばしいことですが、女性同士といえども、思いやりの態度や言葉はときとしてハラスメントにもなりかねないのが世情です。市場の理解が“生きやすさ”にスムーズに繋がることの難しさと、それが自然に当たり前になるまでにかかる時間は、市場拡大ほど容易ではなく、速くはないのかもしれません。

桑茶と富岡製糸場とおっきりこみとねぎ

 今、“桑茶”が注目されています。山梨で桑の栽培と加工を手掛ける桑郷(くわのさと)は、色も味も抹茶にそっくりなパウダー状の“水に溶かして飲む桑茶”を開発。桑の葉は、生活習慣病の予防や進行を抑えるのに効果があるとされ、健康志向を背景に販売が好調です。加えて、欧米での人気を受けて品薄の抹茶の代替品として桑茶が注目され、輸出しないかとの提案も来ているといいます。
 桑の葉は言わずと知れた“お蚕様の食事”。桑の栽培が盛んで広い土地があり、水源が豊富だったという理由で、1872年、群馬県富岡市に富岡製糸場は造られました。明治時代、国力を高めるために外貨が必要だった日本にとって、最大の輸出品“生糸”の生産は最重要課題。フランスから多くの知恵と技術を、人とともに輸入しています。そうして建設された、木で枠を造り、レンガをフランス式で積み上げた製糸工場は、国宝に指定されています。旗を振ったのは、かの渋沢栄一氏。出身地の深谷で職人を集め、富岡でレンガを焼かせ。地元に戻った職人たちによって、深谷はレンガの一大産地になりました。
 富岡市のグルメは、“おっきりこみ”。選んだ店は「三代目 小澤家」です。上州地粉を手打ち、手切りしている、今では県内唯一の店なのだそう。煮干しだしにみそ味。具材は、鴨肉、ねぎ、芋がら、里芋、かぶ、ごぼうなどなど。戦後、カツオ節が手に入らず、煮干しでだしを取るようになったとのこと。もったいないのでだしを取ったそれを別皿で提供するのが流儀だとか。ただ店主は、疑う地元客に対して煮干しをたっぷり使っている証として出していたのだとおっしゃっていましたが。ねぎは、地元の高級ブランド“下仁田ねぎ”です。もうひとつ、この店の名物が“鶏の炊き飯し“。これまた配給の貴重なザラメでひね鶏を皮ごと炊いた、地元では寄り合いに欠かせないお祝い料理だったとか。
 レンガ焼きが、富岡から深谷なら、ねぎも下仁田から深谷?と確信的ストーリーを構築したのですが、あにはからんや。下仁田ねぎは、下仁田町周辺の特有の気候、土壌でのみ育つ固有の“品種”。深谷ねぎは品種名ではなく、埼玉県深谷市周辺で栽培された高品質なねぎの“地域ブランド名(総称)”なのだそう。

単身世帯の弁当事情

 節約志向が強まる中、首都圏において単身生活者の“マイ弁化”が進んでいるといいます。新型コロナ禍で自炊に挑戦する生活者が増え、“それなり”に“できる”ようになったからのよう。とはいえ、ライフスケープマーケティング(東京・千代田)の調査によると、品数は男女共1品が最多。メニューで多いのは、男性の1位が「ご飯(白飯)」で、「野菜炒め」「カレーライス」「焼きそば」が続きます。女性は「おにぎり」「玄米・雑穀ご飯」「丼」「炒飯」などがランクインしています。最近、女性がランチジャーにご飯ものだけを詰めた弁当を食べている光景を複数の場所で見ていたため、この情報に興味を持った次第です。
 タニタが2024年12月に実施した「令和ビジネスパーソンのランチ事情に関する調査」では、ランチ1回にかける金額の平均は603円。それから1年半、ワンコイン(500円)以内で抑えるのはさらに難しくなっています。
 私は、13年の「食市場のトレンド講演」で[スープ人気]というキーワードを挙げました。この年、“弁当男子”が増加。自作の弁当だけでは栄養的に不安のようで、具だくさんのスープや野菜のポタージュで栄養バランスを取ろうと、スープを買い求める男性が増えました。スープストックトーキョーでは、既存店売上高が前年比で約1割増。それまで利用客の大半は女性だったのが男性比率が約15%に高まりました。ファミリーマートが発売した“1/2日分の野菜が摂れるスープ”の購入者は、6割が男性に。永谷園のカップ入りスープ“冷え知らずさんの生姜”シリーズも、07年の発売時は9割以上が女性客だったのが13年には男性が2割を占め、スープ専門店の「チャウダーズ」が当時通販で扱っていた冷凍スープは、男性客の利用率が前年の2倍に増加。家で解凍して携帯容器に詰め、職場で食べる人が多いとのことでした。
 現在に比べれば、出費をしてでも栄養バランスを大切にする余裕があった時代。“昔はよかった”が常態化しないことを祈りたいですね。

セイボリーとしてのヨーグルト

 食のトレンド情報(Excel版1067号・Web版5/18)で取り上げたキーワードのひとつ「セイボリー(食事系)ヨーグルト」。ヨーグルト好きのためのコミュニティ連動型Webメディア“みんなのヨーグルトアカデミー”が発表した“みんなでつくるヨーグルト白書2026”の中で注目トレンドとして挙げられたのが、「セイボリーヨーグルト」です。韓国で人気のグリークヨーグルトをローストビーフやサラダに添えたセイボリー系メニューが人気を集めているとか。「セイボリー」という言葉が懐かしく、思わず目を留めました。「セイボリー」とは、甘くない塩気のある食べ物のこと。スイーツが甘味から転じて塩味になったり、スイーツの中に敢えて食事系の食品が加わったりすると「セイボリー」という名称で区別したりします。
 [ご褒美ウェルビーイング]消費で、スイーツ要素が強いデザートヨーグルトが売れている一方、節約志向で定番のプレーンヨーグルトも売れていて、ヨーグルト市場は二極化が進んでいます。プレーンヨーグルトは、フルーツと合わせたり、ジャムやはちみつを加えたり甘味を足していただくことが多く、塩を加える食べ方は日本では珍しいでしょう。もちろん、ヨーグルトはスイーツだけでなく、料理に使われることもあります。カレーに入れたり、水気を切ってサワークリームやカッテージチーズの代用品にしたり、生クリームやマヨネーズの代わりに使ってカロリーを抑えたり、肉を漬けて軟らかくしたり。でも「セイボリー」というスイーツの派生型としての位置付けは、ヨーグルトに新しいイメージを与えると思います。それは2007年にトレンドキーワードに挙がった[塩スイーツ]でも[甘じょっぱ系]でもない、ヨーグルトが本来持っていた余白です。味香り戦略研究所(東京・中央)によると、少量の塩を加えると初めに感じる酸味が緩和されるため、まろやかな印象になるとか。夏の猛暑対策飲料として “塩ヨーグルトドリンク”が広がる可能性もあります。ヨーグルトの余白価値が新たな市場を作るのか否か。これからが楽しみです。