「生娘をシャブ漬け」。発言内容よりも気になること

 吉野家の常務取締役企画本部長の「生娘をシャブ漬け戦略」の発言。驚きと共に、さもありなんとも思いました。
 ネットの報道では、“シャブ”という反社に繋がる名称を使ったこと、女性に対する人権侵害と性差別的な発言に当たること、牛丼を中毒性のある食べ物のように表現したことなど、さまざまな批判の声が挙がっていますし、吉野家も発言内容について謝罪をしています。お客様に対してはそれでいいでしょう。でも、この問題で私が最も気になったことは、発言内容そのものではなく、そのような発言が飛び出した理由です。
 私は長らく、食品会社や外食会社など食関連企業の方と一緒に仕事をしてきました。ときどきその中に、食に興味がない、食の仕事が好きではない、食をモノとして扱う、人(顧客)を愛していないと感じる方がいます。あくまで私感ですが、そのような方は、市場や人を見るより、数字のマーケティングがお好きな傾向にあるような。
 私は、「食」と「人(顧客)」に対して愛情を持つことが、食に携わる人間に求められる最低限の条件だと思っています。食は人を健康にし、笑顔にし、心を満たし、育てます。加えて、地球環境や人権、経済、文化、歴史、宗教などとも深く関わっています。そのぐらい広く深い存在です。愛情がなくてはできません。
 マーケティングの現場では、顧客の「囲い込み」という言葉が頻繁に発せられます。この時点で既に、人(顧客)に対する強制が肯定されているような気がして仕方ありません。

飲食店の値上がりと安い外食の限界

 食料品の値上がりが止まりません。食用油と小麦粉の価格が上がれば、ほとんどの加工食品と飲食店のメニューが値上がりするのも無理はありません。
 弊社近くの、青山骨董通りの行きつけの飲食店も値上げラッシュです。
 カジュアルイタリアンの「YPSILON Aoyama(イプシロンアオヤマ)」のランチは、1200円から1350円に。台湾家庭料理の「ふーみん」のランチも、平日は10~50円、土曜日は10~100円の幅で値上げされました。「蕎麦青乃」は、かつ丼や親子丼、しらす丼など丼物とそばまたはうどんのセットが100円程度値上がりしたほか、私のお気に入り“鍋焼きうどん”はエビ天1本の“並”と2本の“上”があったのに、エビ天が大エビ天1本になり、“並”はなくなりました。上の金額への大きな引き上げです。
 致し方ありません。店側も苦渋の選択です。この時世においては、客側も充分に理解ができることです。が、感情的には厳しくなるもの。再来店客の口コミなどを見ると、この値段でこの料理なら再々来はないといった内容のものもあります。値上げは料理の現状維持のためであり、値上げ分は食材費に吸収されます。値上げをした分、料理の質や量がアップできるわけでも、店側が儲けているわけでもありません。
 私たちは、日本人の正直さと勤勉さとやさしさと器用さが生み出す安全でおいしい外食を、どの先進国と比べても比較的安くいただける幸せを当たり前のように享受してきました。しかし日本人力だけではどうしようもない現実が来ていることを、東欧で起きている惨状と苦難、それが及ぼすさまざまな影響に重ねるカタチで、思い知らされているように感じるのです。

春先の気分は軽やかに。食もファッションも雑貨も同じ

 20℃超えで「日中は半袖で」とお天気お姉さんに言われた翌日は、10℃を下回り北風が吹いて真冬並みの寒さに。まさに今春は「三寒四温」でした。
 この時期思うのは、いつ衣替えをしようかということ。せっかちな質なので、ちょっとでも温かくなると衣替えに手を付け、何でも一回で済ませたい質なので、コートから徐々にとはいかず。結局、毎年春先に風邪をひきます。今年は、せっかちな私を思い留まらせるのに十分な「三寒四温」ぶりでした。
 もうひとつ冬から春へと中身替えをするのが、冷蔵庫と食品庫です。この冬は「食のトレンド情報Web」の立ち上げで忙しく、また寒かったこともあり、昼食は持参していました。定番は、「白菜とれんこん入り鶏つくねのしょうが煮」。白菜半分がペロッと食べられ、しょうがのお陰で身体がポカポカになります。つくねを作り置きして、鶏肉や豚肉を買い置きしておけば、白菜と合わせるだけで温かい煮物が即できます。まさしく白菜は、冬を代表する野菜です。
 で、春キャベツが店頭に並び始めると、白菜はお役御免とばかりにフェイドアウト。キャベツ料理に取って代わります。白菜同様、煮物にするにしても、だしからコンソメに、しょうゆから塩に、和風から洋風に料理が移り、見た目も華やかになります。不思議なもので、豚汁に筑前煮にと大活躍してくれた根菜類も重くて。もういいかなと感じるのです。
 明るめの色の服を着たくなるように、春先は軽やかな気分でいたいもの。そんな心の移り変わり、私だけではないはずです。生活者の気分が求めるものは、食もファッションも雑貨も同じ。菜の花、グリンピースもいいけれど、もっともっと生活者、とくに女性の気持ちに敏感な店内装飾と販売促進をしてはいかがでしょう。スーパーの社長殿。

2022年にも通じる2007年のキーワード「楽食」

 4/1からさまざまな食品や日用雑貨が値上げされました。今年も消費は、ますます保守的な傾向になりそうです。その反動のように高まっているのが、食で楽しみたいというニーズです。今年のトレンドキーワードのひとつに「Fun Foods」を挙げました。
 遡ること15年前。2007年最初の食のトレンド情報vol.107 「山下智子の先週の注目記事とトレンド分析」のテーマは、“2007年。今年の食市場キーワードは「進化する楽食」です”。2007年は、楽しい食、楽(ラク)な食が、ますます求められる時代になると予想。楽しい食の中には、食べること自体の楽しみのほかに、選べる自由さ、食を介して人と触れ合う喜びなどの「楽」も含まれていること。またラクな食は、そのものずばり、ラクチンな食、ただ今までの簡便食とは一線を画するラク食で、ラクなだけでなく、ラクで楽しい、ラクだから楽しい要素が求められる食と記しています。
 まさに「Fun Foods」にも通じる「楽食」です。新型コロナウイルス禍で私たちは、食を介して人と接することの楽しさ、思いのままに外食をする自由さを懐かしく思い、それらを強く求めました。家で料理をすることが増え、初めは凝った料理に挑戦していた生活者にも自炊疲れが。冷凍食品など簡便食が売れましたが、単に簡便なだけでなくプラス「0.5手間」のアレンジが可能で、その0.5手間に個性を表現できる余地、楽しめる要素のあるラクな食が求められています。
 「進化する楽食」で紹介しているのは、“イチゴ用パウダー”や“目玉焼き専用たれ”など。身近な食材や簡単な料理を、ラクしておいしくしてくれる商品であり、どう楽しむかを提案してくれる商品です。
 「食のトレンド情報Web」には過去の情報も満載です。当時流行った食品や開発コンセプトがおもしろい商品、生活者のニーズなど、現在に役立つ発見もいっぱいです。これからも過去の情報を紹介しながら、繰り返すトレンド、深化するトレンドのお話をしたいと思います。