「モーニングルーティーン」。カリスマモデルや美容インフルエンサーが、美しさのために毎朝何をし、何を食しているのか。ルーティーンを記録した動画が若い女性たちを惹き付けています。若くない私を惹き付けているのも「モーニングルーティーン」。先輩諸氏の朝食動画です。プログラムは、ジャーナリストの田原総一朗氏(91)、現役バレリーナの雑賀淑子氏(92)、フードスタイリストの石森いづみ氏(77)。見れば元気をいただけること、請け合いです。
田原総一朗氏。“朝まで生テレビ”の印象が強いがゆえ、91歳のプライベートの姿、しかも朝食という余りに無防備な動画を拝見できることは、今の時代ならではと有り難く思います。メニューは、トースト、ポーチドエッグ、手でちぎったレタスにたくさんの飲み物。そして〆は、あんぱん。食にそれほど興味のない“仕事人間”でいらしたことが動画を見れば一目瞭然。山積みの書籍に囲まれたわずかなスペースの食卓は、いかにも氏らしく微笑ましい。
92歳にして未だ現役のバレリーナ、雑賀淑子氏。クロワッサンとカフェオレに、ジャム入りヨーグルトや目玉焼きを添えた朝食を70年間続けているそう。ベースは、20代に渡ったフランス。ダイニングの壁中に貼られた思い出の写真を眺めながら。時折、膝にかけた布ナプキンを口に当てるしぐさも自然です。背筋をまっすぐに伸ばしたその姿には、現役でしか表現できない凛々しさがあります。
フードスタイリストの大御所、石森いづみ氏。今も撮影スタジオを運営し、数々の作品に携わっていらっしゃいます。この日の朝食は、おじや。昆布とだしパックでベースを作り、ねぎとしらす、窓辺で育てた豆苗、削り立てのかつお節を加えて卵でとじます。蕗みそやすぐき漬けなどの常備菜を添えて。食後は、コーヒーに豆乳を入れたカフェオレでゆったり。キッチンも道具も食器も、さすがの石森氏です。
三氏の朝食に共通しているのは、バランスよく、しっかり食べること。そして、それが今日一日を生きるパワーになると教えてくれていることです。
令和のシニア市場は、「Wシニア市場」
「2025年食市場のトレンドキーワード」のひとつに、「Wシニア市場」を挙げました。今後、団塊シニアと新人類シニアの「Wシニア市場」が展開されるという内容です。“新人類”と呼ばれる世代は、1961~70年生まれ。今年55~64歳です。この世代が、いよいよシニアの領域に入ってきます。そしてもうひとつ、キーワードに挙げたのが「ハイシニア向け食品」。介護食ではなく、健康なハイシニアがもっと元気に若々しくありたいがために積極的に食べたいと思える食品です。
国立社会保障・人口問題研究所は、13年後の2038年には、3人に1人が65歳以上と予測。「Wシニア市場」は世代を順送りしながら拡大し続け、それに伴い「ハイシニア向け食品」のニーズが高まることは必至です。求められるのは、身体と脳の健康。シニア向け食品で目立つワードは、「骨密度」「膝」「脚」「血管」「血液」「血圧」「お通じ」「筋力」「認知機能」「栄養バランス」などなど。若いときには、思いもよらない言葉だらけです。
バブル期を謳歌してきた新人類シニアは、消費に対して意欲的。定年後も働き続けたい人が多く、財源が確保されることから、活発な消費傾向は続くと見込まれています。また、団塊シニアと新人類シニアはこれまでのシニア世代とは異なり、SNSを駆使するなど情報収集に積極的で、いわゆる中高齢者意識がないのが特徴。ただ、気持ちが若く過去のシニア層に比べて元気とはいえ、身体と脳の衰えを感じている年代であることは否めません。
“栄養は、サプリメントではなく食事から摂りたい”と考える生活者が多いのが日本人の特性。いつまでも元気で人生を謳歌したいシニアの皆さんは、新たな抗老化食品を熱望しています。
米価高騰と苦肉の策
農林水産省が継続的に備蓄米を放出しているにもかかわらず、米価はなかなか元に戻りません。外食市場では、ご飯の大盛り・お替わりサービスを中止、或いは、ご飯もののメニュー価格を引き上げる飲食店が続出。スーパーや米卸、食品商社は米国や台湾からの輸入米の販売を始めています。
もちろん、米不足は今に始まったことではありません。銀シャリが食べられない、贅沢品と思われた時代は、昭和にも幾度か。戦時中はもちろん、戦後しばらく経った昭和中期でも、健康を第一の目的としない、カサ増しとしての麦の需要はありました。麦に対する認識も、今とは大分異なります。
米が食べられない時代のカサ増し法は、いろいろありますが、中でも世界的に知られているのは、68の国と地域で放送された「おしん」の“大根飯”でしょう。大根と葉を米に混ぜて炊いたもの。“大根飯”でレシピを検索すると、だしで炊く、しょうゆやみりんで味付けする、油揚げを加える、葉は仕上げに入れて彩りよく・・・などいろいろ。でも貧しさゆえの大根飯は、風味もなく、しぼんだ大根の辛味とえぐみが口中に広がる寂しい食だったに違いありません。
大根飯のように、米に芋やかぶ、かぼちゃや豆、山菜や海藻などの食品を混ぜて炊いたご飯を“かて飯”といいます。カサ増しの工夫もいろいろ、そして現代では、そちらのほうが健康的と言われるようにも。
「平成の米騒動」では、タイ米(長粒米)が大量に輸入され、不評を買いました。タイ米をジャポニカ米(短粒米)と同じ米として食すれば、風味も食感も異なりますから“違う”=“まずい”となるのは当然です。でも東南アジアの料理に合わせれば、この上なくおいしくいただけますし、これを機にたくさん輸入されて安くなればいいなと、私は思いました。
クライシスはいろいろ。自然や環境の影響を受ける農水産物には付き物です。でもその度に苦肉の策、画期的な工夫と挑戦、発見を繰り返し、史実、教訓、文化に転換してしまうのが人間の力です。今回の米クライシスは、酷暑消費を追い風に麺市場を賑やかす要因になるでしょう。が一方で、米の楽しみ方を広げ、新しいアイデアを流布し、米食文化を刷新できるのも、食市場に生きる私たちだと思います。
冬のゆでうどんと盛夏の細うどん
清々しい季節を迎え、窓を全開にして風を入れ、暖房機を片付け、衣替えをし、掛け布団を軽くしてと、週末仕事がいろいろ。初夏を迎え、心にも薫風が吹きます。食支度も変わります。温かいお茶をポットに入れて仕事場に持って行くのを止め、煮出したお茶をクーラーポットに移して冷蔵庫に。昼食は熱々の鍋焼きうどんから冷たいフォーに変わります。
この冬は、本当によく鍋焼きうどんを食べました。仕事の合間に作る鍋焼きうどんの具は、ひと口大の鶏肉、ゆでたほうれん草、太めに切ったしいたけ、短冊の油揚げ、卵が基本。卵以外はすべて冷凍しておけるので、あっという間にでき上がります。鍋焼きうどんには、冷凍うどんより、ゆでうどんが合うような。もちもちの食感でちょっと軟らか、やさしくて温まる感じがします。懐かしさも味のうちかな。
昨夏は、本当によくフォーを食べました。細いうどんの乾麺をたくさんいただき、おいしい食べ方を考えてのフォーです。朝、水に顆粒の鶏ガラスープ、鶏モモ肉、長ねぎの青い部分、しょうがの薄切りを入れて火にかけます。水からゆでるのはスープにうま味を出したいから。仕上げに塩とナンプラーを加え、粗熱を取ったら冷蔵庫に入れておきます。昼、麺をゆでたら氷水で〆め、冷やしたスープをかけて。具は、きゅうり、トマト、万能ねぎ、麺と一緒にゆでたもやしにゆで卵。たっぷりの香菜をトッピングしてレモンを添えます。細いうどんのつるつるとした食感となめらかなのど越しが、盛夏のランチにぴったりです。
酷暑が予想される今夏、麺業界では冷活商品の提案が活発化しています。うどんに関しては、レンジ調理品はもちろん、辛いメニューも続々。そんな中、テーブルマークが発売したのは「カトキチ極細さぬきうどん3食」。シリーズ史上、最も細い麺を採用しています。“そうめん”ではなく“細うどん”。夏の昼食で大活躍の予感です。
名前に「豆腐」が付いたいろいろ
豆腐と名が付く食品は、たくさんあります。大豆(豆乳)を原料にするものには、豆腐を凍らせて乾燥させた「高野豆腐・凍み豆腐」、水を多めに抜いて硬く仕上げた沖縄の「島豆腐」、スモークした岐阜の「燻り豆腐」、海藻のいぎすで生大豆粉と野菜などを冷やし固めた「いぎす豆腐」などが。豆腐を加工したものには、豆腐を発酵液につけて熟成させた中国の「臭豆腐」、豆腐を麹などにつけて発酵させた沖縄の「豆腐よう」などが。大豆(豆乳)をまったく使わないものは、「ごま豆腐」「ジーマーミ豆腐」「卵豆腐」など、こちらもいろいろ。加工食品から調味料まで、大豆が食の柱になっている日本ならではの“豆腐名バリエーション”です。
豆腐の材料、豆乳はそのまま飲料にも、プリンやアイス、豆花(トーファ)などのスイーツにも利用されていますし、逆に大豆も豆乳も豆腐も利用していないのに「杏仁豆腐」のように「豆腐」の名前が付いたスイーツもあります。言ってしまえば、「ごま豆腐」はそのままスイーツとしても楽しめますし、「ジーマーミ豆腐」は基本のだし味以外に、黒糖味、紅芋味、チョコ味など甘い味の商品も販売されています。今年3/1、ふじや食品(福井・越前)は不二家の監修を受けて、キャンディ「ミルキー」味を反映させた「milky胡麻どうふ」を発売。同社はこれまでに、チョコミント味やミルクティー味など15種類のスイーツ系ごま豆腐を展開しています。またグリコ乳業(当時)は2012年、発売40周年を迎えた“プッチンプリン”シリーズから、冷ややっこ風に楽しめる甘くないプリン「男のプッチンプリン<おつまみ冷奴風>」を期間限定で発売しました。一方16年、アサヒコ(東京・新宿)が開発したのは、豆腐デザート「SWEETS TOFU“カスタード風味豆腐”“杏仁風味豆腐”」。本当の豆腐なのに「杏仁豆腐」ではなく、“杏仁風味豆腐”のネーミングが愉快です。
食品会社の“長引く夏”対策
初物を食べると“新たな生命力を得ることができる”“75日長生きできる”など、縁起がいいとされる風習からか、日本人は先取りが大好き。食品会社やスーパーマーケットは、そんな生活者に向けて商品を提案し、販促をかけます。
20年前、大手スーパーマーケットの仕事をしていたとき、過去10年間分のチラシを見比べて驚きました。52週マーチャンダイジングに倣ってか、同時期の紙面を賑わしている商品がほぼ同じ、違うのは値段だけです。9月第1週の提案は、“サンマ”と“炊き込みご飯”。暦の上では秋ですが、まだまだ残暑が厳しい。サンマはまだしも、炊き込みご飯を食べたくなるのかは、いささか疑問です。そこで私が提案したのが、“秋の素材を使った涼味”。気候変動の影響で、当時よりさらに過酷な残暑の秋を過ごさなくてはならない昨今。長引く夏に着目したプロジェクトが登場しています。
夏と秋の間の暑い時期を新たに5番目の季節“まだなつ”と命名したのは、味の素。この季節を楽しく、快適に過ごしてもらうため、「五季そうさまプロジェクト」を始めました。プロジェクトサイトでは、「ほんだし」を使った “まだなつレシピ”を提案。まだなつの時期に出回る秋食材を、暑い日でも作りやすく・食べやすく調理したレシピや、マンネリ化しやすいそうめんなどの夏の定番メニューのアレンジレシピなどを紹介しています。
明星食品も、“春夏夏”のキーワードを掲げ、暑くて長い夏向け商品のラインアップを充実させています。「明星 汁なし麺拡大戦略」として、「チャルメラ」ブランドの袋麺から、第4のフレーバー、「油そば」を新たに導入。また販売実績が今期7割増と好調な「ぶぶか油そば」は、各種プロモーションなどを実施してさらなる販路の拡大を図ります。
緑茶の新たな価値創造!?
立春から数えて88日め、新茶の季節を告げる八十八夜。今年は5/1です。急須で淹れる緑茶の消費量が減少する中、飲料メーカーの緑茶展開には新たな傾向が見られます。
伊藤園が「お~いお茶」ブランドから3/17に発売した若者向け「PURE」シリーズが、20~30代の若者や女性にウケて絶好調のよう。同シリーズは、“お茶の常識、すてましょう。”を合言葉に香りや甘みを楽しむ日本茶の新たなスタイルを提案。すっきりとした後味と爽やかな香りにこだわり、じっくりと抽出することで緑茶の甘みを引き出した「PURE GREEN」と、レモンの爽やかな香りが楽しめる「LEMON GREEN」の2種が揃います。
一方、サントリーが提案するのは、ティーパウダーの「いちりんか」。お茶の研究を続けてきた同社が、まったく新しいおいしさを追い求め、“香り”にこだわって11年かけて作り上げた商品。新緑の森のように爽やかな香りの「香りふくよか」、蜜を想わせる甘い香りの「香りうっとり」など、気分やシーンに合わせて選べる6種類がラインアップされています。日本茶の繊細な香りを最大限に引き出し、さらに香味をパウダーに封じ込める新技術をゼロから開発。日本茶の複雑で豊かな香りを五感で楽しめる、“ネオ・ティーパウダー”と謳います。
今年のスーパーマーケットトレードショーでは、フレーバーティーの提案がとても多かった印象があります。世界的にも、伝統的な茶文化と現代的なフレーバーの融合がトレンド。「PURE」シリーズの「LEMON GREEN」は、まさにそこを狙った商品です。一方「いちりんか」はあくまでも緑茶の豊かな香りにこだわった商品。そのこだわりを、現代の生活にマッチさせるため粉末に加工する過程において、かなりの技術と時間を費やしたことでしょう。6種類6本のトライアルセットは、1480円(税込)。1杯(100ml)およそ246円です。
緑茶は、用途と好みで使い分ける嗜好品。おいしい緑茶を淹れていただいたときの有難さを思えば、高くはないのかもしれないし、粉末茶でそれが可能なのかとも思うし。とても試してみたい商品です。
タイパ志向でリバイバル? ワンハンドフード
早く速くが求められている今、歩きながらでもさっと食べられる、ワンハンドフードがちょっとしたトレンドになっています。
セブンイレブンは外出機会が増える春休みシーズンに合わせて3/25、片手で食べられる冷凍食品2品を数量限定で発売しました。皿にのせるのが“常識”のお好み焼きを片手でパクッと食べられるようにしたり、温めて食べるのが“常識”の今川焼きを電子レンジで冷たく仕上げる設計にしたり、“冷凍食品の常識を覆そう”をテーマに掲げています。
一方、Hotto Mottoが提供するのは、人気のお弁当をワンハンドで手軽に味わえる“BENTOバーガー”シリーズ。“のり弁バーガー”は、おかか昆布の上に海苔をのせ、白身魚のフライ、ちくわの天ぷらを盛り付け、ソースで味付け。ひと口で海苔弁のおいしさを堪能できるといいます。
大阪・関西万博に出展する飲食店では、会場を巡りながら食べられるワンハンドメニューを提供する動きも見られます。「ほっかほっか亭 MADE by HURXLEY」は、十六穀米を使ったご飯でおかずをサンドした“ワンハンドBENTO”を提供していますし、不二家は、“気軽に、好きなタイミングで楽しめる新たなスタイル”として“ワンハンドショートケーキ”を提案しています。
2007年のトレンドにも、【ウォーキングフード】というキーワードでワンハンドフードが取り上げられています。丸く固めて焼いたラーメンの麺をパンに見立て、ハンバーグの代わりにチャーシューをはさんだ“麺バーガー”。スティックケーキやモチクリームなど、ワンハンドで食べられるひと口スイーツも流行りました。当時、北米で250店をチェーン展開していた、ピタパンを使ったサンドイッチ店「ピタピット」の日本1号店が、東京・千代田にオープン。ピタパンに、たっぷりの野菜、チキンやローストビーフなどを詰めて巻き込むように包むため、片手でも中身やソースがこぼれずに食べやすいうえ、栄養のバランスもよいと人気になりました。
ツンとした刺激が懐かしい
ここ数年、積極的に酢飲料を飲む生活者が増えています。中でも人気なのは、健康によいイメージが定着している黒酢と果実酢。黒酢商品では、タマノイ酢のロングセラー「はちみつ黒酢ダイエット」や、果実酢では100%果実発酵酢から作られたCJジャパンの「美酢(ミチョ)」など、長く人気を誇る商品が多く、Mizkanやキユーピー醸造も、業務用を含めてさまざまな酢飲料を販売しています。
今年3/25、Mizkanは30~40代男女をターゲットに、“気になるカラダまとめて対策飲料”と謳う機能性表示食品のビネガードリンク「NEW酢SHOT(ニュウスショット)」を発売しました。同社史上最大レベルの酢酸を配合したこの商品。酢酸には、血圧が高めの人の血圧を下げる機能、日常生活で生じる運動程度の一時的な疲労感を軽減する機能、肥満気味の人の内臓脂肪を減少させる機能があることが報告されています。酢愛好者が、性別、年代に関係なくどんどん広がっているようです。
Mizkanが2009年に発売した「やさしいお酢」は、“ツンとこない”酢を目指して作られた酢調味料。鶏肉の煮物や魚の照り焼きに使うなど、今までの酢にはないレシピを提案し、酢を料理に使うことが少なかったターゲットの掘り起こしに成功。酢が苦手な人にも受け入れられてヒットしました。続いて登場した既存商品をリニューアルした「カンタン酢」は、今やMizkanの稼ぎ頭。20年には飲食店向けに「ぽん酢」を使ったアルコールドリンク“ぽん酢サワー”を提案するなど、酢の利用範囲も広げています。元々、日本古来の発酵食品であり、身体によいと言い伝えられてきた酢。ツンとしなければ万人受けするのは当然です。
“子どもと男性は酢が苦手”。なんとなくそう思っている人も多いのでは。確かに、昭和時代の酢には、吸い込むとむせるような、ツンとした角がありました。まろやかな酢味もいいのですが、時には、キリッとした強い刺激が懐かしくなります。
日本の代替タンパク源? コオロギとカイコ
プロテインクライシス(タンパク質危機)とは、地球人口に対してタンパク質の需要と供給のバランスが崩れること。2050年には、タンパク質の供給量が足りなくなる可能性があると予想されています。肉はもとより肥育のための飼料、植物性タンパク源の大豆など、その供給を一定以上輸入に頼る日本において、代替タンパク源の研究開発と安定供給は、まさに焦眉の急とされる課題です。
動物性タンパク質に替わるものとしては、大豆などの豆類、きのこの菌糸体、藻類などがありますが、日本で一時、注目されたのは昆虫食。徳島大学発のベンチャー会社「グリラス」がコオロギの食用化に取り組み、パンやスナック菓子などさまざまな食品にコオロギを添加。ファミリーマートと共同で商品開発をするほどの勢いがあったのですが、24年11月、SNSの炎上が原因でクライアントが離れ、自己破産を申請しました。
とはいえ、代替タンパク源としての昆虫利用は、そうそう簡単に諦められるものではありません。17の大学・研究機関が参画する「昆虫利用型食料生産コンソーシアム」を中心に、昆虫の機能性を軸とした循環型食料生産システムの研究が進んでいます。コオロギの雑食性を生かし、廃棄される農作物など未利用資源をエサにする研究が進行。大きく成長させ、食用としてよりおいしいコオロギを育てる研究も始まっています。
そしてもうひとつ、良質なタンパク質を作り出すことが知られてきたのがカイコ。新たな技術でバイオや食品産業に転用する動きが広がりつつあります。「Morus(モルス)」は、カイコの幼虫を粉末状にし、代替タンパク源として東南アジアのレストランやジムに販売。昨年、シンガポールに販売拠点を作りました。愛媛県で養蚕産業を展開する「ユナイテッドシルク」は、繭の抽出成分を事業化。粉状にして微量をパンに混ぜればしっとり感が増し、麺類に配合すればコシのある食感に仕上がるといいます。