香川 綾氏と栄大イズム

 3/25、26に二夜連続で放映されたテレビ朝日のドラマ「キッチン革命」。ご覧になった方も多いと思います。ドラマの主人公、香美綾子のモデルは、女子栄養大学の創立者「香川 綾氏」です。
 ドラマでは、香美氏が母親の早世を機に医師を志し、医師になったのち予防医学の大切さを痛感し栄養学に興味を持ち、日本国民が家庭において栄養豊かな食事が摂れるよう、料理カード(レシピ)作りに奔走する姿が描かれていました。今では当たり前に使っている大さじ小さじと計量カップ。これを考案したのも香川 綾氏です。
 それまで主婦はもちろん、プロの料理人も、経験と勘で料理を作っていました。ずっと昔、祖母に“魚の煮付け”の作り方を聞いたとき、「砂糖はこのお茶碗に半分くらい」などと教えられ、困惑したものです。私は既に、量りやスプーンで計量することが当たり前になっていたからです。
 また当時、ビタミンB1不足が原因で患者が慢性的に増加した脚気の対処方法として、ビタミンB1が多く含まれている米の胚芽に注目。胚芽米を普及させることで、脚気を予防することに尽力しました。加えて、バランスよく栄養を摂取するために、食材を栄養的特徴から4群に分類。食材のエネルギーを80kcal=1点として1日20点を目安にし、第1~3群からそれぞれ3点以上、残りを第4群で摂取する「4群点数法」を考案しました。私が在学していた頃の栄大は、寮でも学食でも主食は胚芽米。「4群点数法」は今でも身体に沁み付いています。
 香川 綾氏は“栄養学”を、だれもが理解できるよう簡明化し、さまざまな料理に具現化し、計量することで再現性を高めるなど、日々実践すべき学問に昇華させました。胚芽米のおいしい炊き方を研究したり、多くの料理カードを作成したり、計量スプーンを開発したりしたのも、そのためです。そこに“栄大イズム”があると私は信じています。

大好きな卵の話

 春は卵の旬。「歳時記」には、「鳥の卵」は春の季語として定められています。原種に近い鶏は、春の時季にしか卵を産まなかったからなのだそうです。現在でも、陽気がいい春に生まれた卵はおいしいとされています。
 卵は、必須アミノ酸をバランスよく含む完全栄養食品。具材にもソースにもなるし、単独でも一品になり、どんな食材とも相性抜群。加熱によって固まる技には、料理界における「食材栄誉賞」ものの価値があります。
 私は卵が大好きです。最後の晩餐には“卵かけご飯”をお願いするつもりだし、晩酌のつまみは“ゆで卵”2個と決まっています。たまにキャベツのせん切りに焼き立て熱々の半熟“目玉焼き”をのせ、しょうゆをかけて黄身を崩しながら食べたくなります。先日、宿泊したホテルでの朝食ビュッフェ。無性に食べたくなってプレートにキャベツを盛ってオムレツを焼いてくれるコーナーに。「目玉焼きできますか?」。料理人は一言「できません」。そうですよね~、卵液でスタンバっているのですから。
 忘れられない卵料理があります。20代の頃住んでいたアメリカのダイナーの“朝食”です。当時マンハッタンには、ガラス窓に「Breakfast$1.99」の文字が大きく書かれている古いダイナーが点在していました。鉄板で焼くスクランブルエッグ、ベーコンやソーセージ、ハッシュブラウンやグリルドポテト、カリカリトーストに、おかわり自由の薄~いアメリカン。この組み合わせがサイコーのおいしさで。ビンボーな私には贅沢な朝食ですが、かなりのボリュームなのでランチ代を節約できました。
 今、卵の価格が急騰しています。一部スーパーでは、品切れも起きているようです。ところが通勤路にあるローソンでは、1パック(10個)179円(税抜)のまま。驚きを通り越してもはやミステリーです。

駄菓子屋のお好み焼き ≒「遠州焼き」

 中高生時代に通った浜松の居酒屋で「遠州焼き」なるものをいただきました。初めて知った料理名ですが、メニューの写真を見て昔懐かしい「お好み焼き」だと分かりました。子どもの頃、駄菓子屋には鉄板テーブルがあり、おばちゃんがお好み焼きや焼きそばを焼いて売っていました。これに冬はおでん、夏はかき氷が、駄菓子屋の定番。コンビニで言うところのFFです。
 駄菓子屋のお好み焼きは、お小遣いで買えるおやつ。とても質素だったと記憶しています。肉や魚介などは一切なく、小麦粉を溶いた生地に天かすとねぎ、紅しょうが、おかかを振りかけておしまいのような。ソースも、濃厚なトンカツソースではなく、ウスターソースか、ひょっとしたらしょうゆだったような記憶もあります。
 「遠州焼き」を調べてみたら、特徴的なのはたくあんを入れること。そう言えば入っていたかも。ソースではなく、しょうゆ。おかかではなく、サバやアジの削り粉のよう。記憶よりチープな感じだから正しいのでしょう。
 懐かしくなってレシピを探し、作ってみました。そうそう、もうひとつ忘れてはならないことが。丸く焼いた後、両端を折りたたんで真ん中で重ね合わせるのです。駄菓子屋ではそれを、横長の発泡スチロールの皿に載せてくれました。薄いからできる提供方法です。
 食には貧乏くさいほうがおいしいものがたくさんあります。「遠州焼き」のポイントは、たくあん。古漬けの酸っぱいものとあります。確かに、昔食べていたたくあんは、酸っぱかった。が、近くのスーパーでは見つけられず。
 懐かしの味なのかと言われれば、そうのような。違うと言われればちょっと違うような。舌の記憶が曖昧なうえ、古漬けではない。なんとも、中途半端なノスタルジーに浸った休日でした。

人間だけじゃない。猫・犬も食費上昇

 2/22は、「にゃんにゃんにゃん」の語呂合わせで「猫の日」です。猫の飼育にかかる費用が5年でおよそ1.3倍に増えたというニュースを耳にしました。
 ペットフード協会によると、飼い猫にかける毎月の支出は2017年からの5年で5777円から1.26倍の7286円に増え、このうち市販の主食用、おやつ用のキャットフードに支出した額(食費)が1.25倍になったとのこと。では犬は?と思い、同じくペットフード協会の資料を見ると、17年が9543円、22年が1万3904円で1.46倍。食費は1.34倍です。犬の場合、小型犬以上に絞ると、さらに増えています。キャット・ドッグフードの高級化や物価高などが背景にあるとのことです。
 先週の「食のトレンド情報」にも「プレミアムドッグフード」と「猫と楽しむホテル」の話題がありました。ファンケルが2/1に発売した、愛犬の体調に合わせて4つの味を組み合わせて摂取する“フードローテーション”が可能なドッグフード「GOODISH」は、すべての食事をこれに切り替えると月額4万円を超えるとか。
 一方、「ハイアット リージェンシー 大阪」は、愛猫と泊まれる客室の提供を2/1に開始。ルームサービスでは、“大仙鶏のつくね”“鹿肉のポトフ”“フィッシュ&ベジタブル”といった猫向けの食事を揃えています。
 猫・犬の食事を手作りする飼い主のためのレシピ本、猫・犬の体質の改善をサポートするフードのデリバリーなど、猫・犬を対象にした食のサービスはたくさんあります。病気にならないように食事に気を配り、おかしいと思えばすぐに獣医にかかる。そんな環境で育てられる猫・犬は平均寿命も延びていて、21年の調査では、猫は15.66歳で10年前と比べて+1.3歳、犬は14.65歳で10年前と比べて+0.78歳です。
 玄関先に繋がれ、ベコベコになったアルマイトの桶に入った“ねこまんま”を夢中で平らげる犬は、日本にまだいるのでしょうか。私には、“ねこまんま”のほうが、カリカリしたドッグフードよりおいしそうに見えるのですが。