コロナで変わった2020年の食市場

 2020年は、新型コロナウイルス(以下コロナ)に翻弄された1年でした。今年1月、現在の状況を予想できた人は誰もいないでしょう。
 コロナによって食を取り巻く環境は大きく変わりました。生活者は家で食事をする回数が多くなり、時間に余裕ができたことも手伝って、手作り派が増えました。週末にはちょっと手をかけたこだわりの料理にチャレンジしたり、子どもと料理を楽しんだり、節約を兼ねて野菜作りに挑戦したり。「食」と向き合う生活者が増え、信頼できる生産者から直接野菜を購入するなど、D2Cが農家にまで拡がりました。
 一方、1日3度の食事作りを負担に思う生活者も多く、レンジで加熱してそのまま食べられる簡便食品も売れています。昼はどうしてもご飯や麺料理に偏るため、夕食には野菜を摂りたいというニーズと保存性が高いという点から根菜類が見直され、中でも、何にでも使え、ヘルシー感のある玉ねぎは人気の野菜になっています。免疫力を高めるため腸活に励む生活者が増え、発酵食品、乳酸菌や食物繊維が摂れる食品に再び注目が集まり、ぬか漬けがブームになりました。
 軽減税率導入で、昨年から活発化していた外食の中食化が、コロナによって加速度的に進みました。テイクアウトやデリバリーだけでなく、客席がないゴーストレストラン、シェフが家に来て料理を作ってくれる出張シェフ、厨房に改造したキッチンカーが自宅の駐車場に停車してその場で料理を作ってくれる移動レストラン、レストランから食材が届き、シェフがオンラインで料理を教えてくれるリモートレストランなどなど。一方、冷凍した料理をネットで直接販売する飲食店も登場していて、外食中食内食の垣根が完全に崩壊しました。

シングルモルトのアイラ島。クラフトジンでも注目

 シングルモルトウイスキーにハマった時期がありました。シングルモルトとは、ひとつの蒸溜所で造られたモルトウイスキーだけを瓶詰めしたもの。さまざまな特徴を持つウイスキーをブレンドし、バランスのとれた味や香りを追求しているブレンデッドに対し、蒸溜所の個性やこだわりがそのまま反映されている点が、シングルモルトの唯一無二の魅力です。
 産地は、スコットランド。中でもアイラ島に関しては、行ったこともないのに痩せた泥炭地と暗い海の情景が脳裏に焼き付いていて、それが私の中で、「ボウモア」や「ラフロイグ」といったシングルモルトウイスキーの強烈な個性を増幅させていました。
 そのアイラ島、最近はクラフトジンで注目されています。ジンの名前は、「ザ・ボタニスト(植物学者の意味)」。数あるジンのなかでも、スーパープレミアムジンと称されています。
 ジンの主原料は、大麦、ライ麦、とうもろこしなど。そこにジュニパーベリー(ネズの実)やボタニカルと呼ばれる薬草やハーブを加えて蒸溜するのが特徴です。一般的なジンのボタニカル使用数が5~10種のところ、「ザ・ボタニスト」はそれに加え、アイラ島に自生している野生のボタニカルを22種も使用しています。しかも植物の採取はすべて手で行うというこだわりぶり。
 ピート(泥炭)で燻される無骨なシングルモルトと、ボタニカルで風味が付けられる洗練されたジン。豊かな自然が手つかずで残るアイラ島は、“スコットランドで最も美しい島”と考える人も多く、「ヘブリディーズ諸島の女王」と讃えられているとか。私の寂しく暗いアイラ島のイメージを、クラフトジンが一変させました。

お家クリスマスで気を吐くFFのテイクアウトチキン

例年なら、11月の中頃から少しずつ盛り上がりを見せるクリスマス。今年は、密にならないように恒例のイルミネーシヨンも控え気味。表参道のそれは中止になりました。
外食店からは、おせち料理の紹介を兼ねたクリスマスディナーのお知らせが届いています。レストランはクリスマス、居酒屋は忘年会と12月は外食市場の書き入れ時なのに、未だ新型コロナウイルスの感染者が増え続け、このまま12月が終わってしまうのではないかと、本当に心配になります。
日本トイザらスの調査では、今年のクリスマスの予定は「自宅でディナーを作る・食べる」が59.7%で最多。「テーマパーク」「イルミネーション」「レストランなどでの外食」はいずれも1桁台にとどまりました。そこで気を吐くのはFFのチキン市場。2020年度第2四半期のチェーン売上で375億円と、過去28年間で最高の売上高を叩き出した日本ケンタッキーホールディングス(以下、KFC)と、国内バーガー事業の売上高が同期277億円と右肩上がりのモスフードサービス。両社とも、クリスマスに向けてテレビコマーシャルを例年より早く、大量に投入しています。モスバーガーは「モスチキン」で、持つ部分にしか骨がないから食べやすいこと、お子さまも安心して食べられることをアピール、KFCは例年通り「パーティバーレル」を全面に押し出し、ネット予約誘導に注力。早割を勧めています。
今年は空前の唐揚げブーム。テイクアウト、デリバリー専門店が急増しました。こちらもクリスマスに向けて特別メニューを展開しています。外食市場が不振で鶏の価格は比較的安値で安定しています。が、西日本で鳥インフルエンザが複数の農場で発生しているというニュースも。こちらもウイルスです。

シェア争いが激化!? フードデリバリーサービス

 今年のお正月。ある調査では、帰省しない、決めかねている人を合わせると7割とか。三が日、休業にするスーパーも多いようで。となると都市部では、デリバリーを利用する人が増えると予想されます。東京ではその姿を見ない日はない「ウーバーイーツ」。双璧を成すのが「出前館」です。この2強に割って入ろうというフードデリバリー会社が次々と日本に上陸しています。
 展開時期が早い順から紹介すると。今年3月に始動した「Wolt」。フィンランドの会社で北欧を中心に20ヵ国で展開しています。日本法人を設立後、広島市から活動開始。札幌、仙台と拠点を重ね、10月、東京でサービスを始めました。次に早かったのが、今年9月に、横浜、名古屋、神戸でサービスを始めた「Foodpanda」です。トレードマークはピンクのパンダ。中国の会社と思いきやドイツ・ベルリンが本社です。元は、シンガポールで会社が誕生。同国やお隣のマレーシア、タイにサービス拡大していたのが紆余曲折あって今はドイツのフードデリバリー会社の傘下に入っています。11月からはローソンと提携し、食料品や日用品などのデリバリーサービスも始めています。最後は、「FOODNEKO」。11月にサービスを始めたばかりです。出資会社は、韓国でシェアNo.1のフードデリバリー会社。東京の港区、渋谷区、新宿区からサービスをスタートさせています。AIや自律走行ロボット技術の開発なども行っていて、そのノウハウを生かして日本での展開を図る計画です。
 米国・NYでは、デリバリー会社のシェア争いが激化。40ドルのピザが37ドルで届く事態まで起こっています。新参者が日本のデリバリー市場に嵐を持ち込むのか、はたまた2強が跳ね返すのか。今後を見守りましょう。