世界が欲しがる日本の食品

 2022年の1~10月の農林水産物と食品の輸出総額が1兆1千億円になり、2年連続で1兆円を超えました。理由は円安。今なら、2割引程度の安さで買うことができます。
 売れているもののトップ3は、ホタテ貝、ウイスキー、牛肉。ホタテ貝の主要輸出国は中国。殻を外すなどの加工をし、その多くは米国に輸出され、ステーキ店や鉄板焼き店で提供されます。日本産のホタテ貝は品質がよく、おいしいと評判なのだとか。
 ウイスキーも、海外での評価が高い商品。加えて、海外進出に積極的に取り組んでいる酒蔵たちの努力が奏功して、日本酒も人気。アルコールとしてくくるとかなりの金額になると思います。牛肉は、言わずと知れた「wagyu」のこと。今や世界共通語になるほど、ブランド力は強いです。
 そのほか、輸出量を伸ばしているのが、鶏卵。19年比で3倍以上です。主な輸出先は香港。香港ではここ数年、「たまごかけご飯」が注目されていて、「Tamago-EN」というカフェスタイルのチェーン店では、メレンゲにしたふわふわの白身の上に黄身を落とした「究極のTKG」が、インスタ映えすると女性たちに大人気なのだそう。香港に限らず、ほとんどの国では、卵を生で食べる習慣はありません。それは、卵にサルモネラ菌が付着している可能性が高いから。日本の場合、独自の衛生管理体制が整っているため、心配なく生卵が食べられます。
 米や緑茶、イチゴなどの農産物も、和食ブームや品質の良さを理由に輸出量を確実に伸ばしています。日本の食文化の奥深さ、農産物や食加工品の秀逸さ、安全性は、広く世界に認められています。小さな国だからこそ、その価値を守りたいと願います。

タジン鍋とクスクス料理

 およそ1ヵ月間に渡って開催されたサッカーのワールドカップが、深夜、アルゼンチンの優勝で幕を閉じました。日本同様、“ジャイアントキラー”と呼ばれたモロッコは残念ながら準決勝で敗退しましたが、その対戦相手フランスは、奇しくも植民地支配をした国でした。
 モロッコの料理と言えば、とんがり帽子のような蓋が付いたタジン鍋が有名。水が貴重な砂漠で素材の水分を逃がさないように、蓋内の上部に上がった蒸気が冷やされ、鍋の中に戻る仕組みです。このタジン鍋、カロリーを抑えられ、しかも栄養素を逃さない蒸し料理ができるとあって、かつて日本でも大流行。過去の「食のトレンド情報」には、2006年3月にその情報が登場していて、ル・クルーゼから、ステンレス製の土台にカラフルなセラミック製の蓋を組み合わせたおしゃれなタジン鍋が発売されたとあります。その後、タジン鍋は日本風に進化。電子レンジで加熱する安価なシリコン製が発売され、一気に拡がりました。
 フランス料理には、モロッコ料理の影響を色濃く受けているものがあります。そのひとつが、デュラム小麦に水を含ませて粒状に丸めたクスクス。私はクスクスが好きで、煮込んだ肉や野菜をクスクスと一緒にいただく「ビダヴィ」や、細かく刻んだ生野菜とクスクスを合わせたサラダ「タブレ」をよく作ります。「ビダヴィ」を初めていただいたのは、かつて渋谷にあったフレンチの名店ヴァンセーヌ。酒井一之シェフのそれは感動的なおいしさでした。今は、銀座の「コックアジル」で名誉料理長をなさっているとか。「クスクス食べたい!」と電話をしたら、作ってくださるのかなぁ。

元気をいただける先輩女史

 12/3、洋菓子・料理研究家の小菅陽子先生が上梓された「ウィーン菓子図鑑」の出版記念パーティに伺いました。ずっとずっと以前、編集者としてお仕事をさせていただいて以来の再会です。
 本書は、単なる洋菓子のレシピ本ではありません。ウィーン菓子ひとつひとつについて、その由来をオーストリアの催事や風習、歴史や文化と合わせて紹介しています。参考文献リストも多く、情報の正確性を担保するための作業は、さぞや大変だったのではないかと思います。その甲斐あって、図鑑としても、読み物としても秀逸な作品に仕上がっています。
 小菅先生の師、日本の洋菓子研究の祖、今田美奈子先生もご列席されていて、スピーチをなさいました。御年87歳の女史のお話は興味深く、やさしさに溢れ、しかも明朗快活。そのすべてに感激しました。中でも、「(食事は生命のためのもの。一方)デザートは、音楽や絵画と同じ、人を豊かにする芸術であり、夢である」という主旨のお言葉。毎日のように母と一緒にお菓子を作っていた子どもの頃の思い出が、キッチンに立ち込める焼き菓子の香りとともに甦りました。
 私のテーブルには、フリーの編集者時代にお世話になった先輩の方々。こちらの女史たちも、今田先生に劣らず頭脳明晰で元気いっぱい。前向きで探求心に溢れています。
 女性が社会で活躍をするには、まだまだたくさんの障害があった昭和の時代。先達者の存在は、当時も、そして今も、私を励まし、元気付けてくれます。

ロイホのパンケーキ

 11/26に放送されたTBSのバラエティ番組「ジョブチューン」は、ロイヤルホストのメニューを7名のシェフがジャッジするという内容。「パンケーキ」にコメントをしたシェフに対してネット上では批判が起こり、波紋が広がりました。
 「フライパンは進化しているから家でも焼ける」という言葉に反応している人が多く、あのシェフ酷い、ロイホに失礼といった炎上派、星付きレストランとファミレスは違う、自分がおいしいと思えばそれでいいといった悟り派、ロイホのパンケーキ変えないでほしいといった擁護派までさまざま。シェフのレストランのサイトには、多くの誹謗中傷の書き込みがされたといいます。
 このパンケーキ。創業者の製法を守り続け、発売から40年を経た看板メニュー。担当者は、焼き方をマスターするのに5年かかったと言います。それだけに、合格1、不合格6のジャッジにショックを隠し切れない様子でした。
 ファミリーレストランやコンビニのお手伝いを長年してきた私は、システムやオペレーション、開発の苦労などを知っているだけに感情移入してしまい、切なくなります。だからこそ、厳しくてもいいから今後のためになる評価をしていただきたいと願いながら、シェフたちも、どの視点で評価すればいいのか迷うこともあるのだろうとも思い、複雑な気持ちになるのです。大量調理の具を機械が握るコンビニのおむすびだから・・・となれば評価の意味はなくなります。一方、大手ならではの仕入れ力だからできると唸ることもあります。事実、「シーフードドリア」に関しては、価格が高騰しているオマールエビを使ったアメリケーヌソースを高く評価しています。
 3段にしている意味はあるのか、最近のパンケーキのトレンドと違うなど、いろいろな意見が出ましたが、“3段重ね、ホイップマーガリンにシロップがロイホのパンケーキ”という信奉者がたくさんいることも事実。どうする?ロイホ。