外出自粛の中、人で溢れるスーパー

 コロナウイルス拡散防止のため、この週末は日本各地の自治体で「不要不急の外出自粛」が呼び掛けられました。会社のある青山も人通りはまばら。幹線道路を走る車も極端に少なく感じられました。
 そんな中、人混みができていたのが、スーパーです。家の近くのスーパーの土曜日の様子です。10時のオープン時には、すでに人でいっぱい。30分後には、レジに長蛇の列ができました。まさに、小池都知事が避けて欲しいと訴えている「3つの密」状態です。商品は、生鮮食品を始め、ほぼ揃っています。ないのは、マスク。そしてパスタとトマトの水煮缶。たまたまなのか。レトルトのパスタソースはあるのに、不思議です。すぐに売り切れてしまったのは、トイレットペーパーとティッシュペーパー。即席麺とカップ麺も少なくなっていました。特徴的なのは、売り切れている商品と残っている商品の差が激しいこと。「ヘンなのしか残ってない!」。そんな客の話し声を何度か耳にしました。日清のシーフードヌードルやどん兵衛は、立派に売れ筋商品だと思うのですが、大量に残っていると“ヘンなの”扱いされてしまうようです。
 商品は倉庫に十分にある、物流は滞っていないと報道されているのに、なぜ人は買い占めに走るのか。その気はなくても、商品が並んでいない棚を見ると、欲しいときにないかもしれないと心配するのが人情です。で、今必要でなくても買ってしまう。その連鎖でしょう。どの国でも同じようなことが起こっています。コロナウイルスの感染拡大が広がる米国では、略奪に備えて銃が売れているといいます。これも連鎖だと思います。

記憶の中で“春のうまいもの祭り”

 お彼岸も過ぎて、これからが春真っ盛り。14日、東京では桜の開花宣言が出され、観測史上最も早い春の訪れとなりました。桜下の宴は自粛の今年は、静かなお花見が満喫できそうですね。
 私にとって春は、まさに味覚の季節。静岡県西部で生まれ育った私の春の味覚は、3月の「桜エビ」と「しらす」から始まります。天日干しされた桜エビの濃いピンク色は、色彩が豊かになる季節の到来を教えているようでした。4月は「初ガツオ」。近くの漁港に揚がったカツオを刺身でいただきます。しかも刺身とは思えないほどの大きな切り身で。皮はついたままです。死後硬直する前の身が締まっていないカツオは“もちガツオ”と呼ばれ、つき立てのお餅のよう。ねっとりとした食感は、産地ならではの贅沢です。
 ゴールデンウイークが近くなると、たけのこです。孟宗竹より細い「淡竹(はちく)」という種類で、我が家では“はちこ”と呼んでいました。だしを利かせた煮物に仕上げるのですが、合わせるのは「あらめ」。昆布の一種で厚みがあり、表面は波波です。これが、我が故郷の「山の幸と海の幸の春の出逢い」です。が、女子栄養大学に入学して、「春の出逢い」はたけのことわかめが一般的と知ったときは驚くと共に、あらめに比べるとかなり華奢なわかめが頼りなく思えてなりませんでした。
 そのほか、早春は「紅ほっぺ」という品種の大きな大きないちご、浜名湖のアサリも獲れ立てをよくいただいたものです。
 自粛自粛で楽しめず、不安な日々が続く今、記憶の中で“春のうまいもの祭り”はいかがですか。

一日も早く、すべての食市場が元気になりますように

 コロナウイルス感染拡大の影響が食市場に広がっています。
 外食を自ら控える人、勤め先から会食を控えるよう指示が出ている人、そもそもテレワークで家から一歩も出ない人もいて、外食市場は冷え込んでいます。中・高価格帯飲食店の予約サービス「テーブルチェック」では、通常9%程度の予約キャンセル率が2月には20%を超えたといいます。高級料理店で提供される和牛や国産マグロ、結婚式などの宴会需要が多いマスクメロンは値下がり始めていますし、業務用食品の売り上げは減少、外食卸も大打撃を受けています。
 一方、家ナカ消費でスーパーは堅調です。子どもの昼食用にと冷凍食品やカレールウ、惣菜が売れています。また納豆やヨーグルトなどは、免疫力を高めるという理由で求める生活者が多く、供給が間に合わないといいます。1度や2度、納豆菌や乳酸菌を体内に取り込んでも、そんなに早く免疫力は向上しないと思いますが、消費者心理とは不思議なものです。
 比較的安価で持ち帰りができるファストフードは余り影響を受けていませんし、そうそう手作りもしていられないでしょうから、デリバリーも人気です。
 よく、“食”は固いと言われます。人は食べなくては生きられません。食べる場所と食べ物の調達方法が変わるだけだからです。働き方改革で食の外部化が進み、消費増税、軽減税率で中食市場が活気づき、コロナウイルスで内食需要が高まる―。でも、“外”“中”“内”、すべての市場が元気でないと、食業界全体が盛り上がらないこともまた事実です。

休校で困っている生活者を支援する食企業

 新型コロナウイルスの感染を防ぐため、ほとんどの小中高校や特別支援学校は休校。低学年の子どもを持つ保護者は、子どもたちの昼食に頭を悩ませています。そんな保護者と子どもたちの食を救おうと、企業の取り組みが始まっています。
 外食店や宅配食を展開するワタミは、注文した家庭にお弁当を届けるサービスを始めました。お弁当は、ご飯と4種類のお惣菜のセット「まごころ御膳」と5種類のお惣菜セット「まごころおかず」の2種。商品代金は無料ですが、配送料として1食あたり200円がかかります。またローソンは、学童保育の昼食用にとおにぎりを用意。毎週1万個、合計3万個を、希望する全国の学童保育施設に無償で提供すると発表しましたが、予想をはるかに上回る10倍以上の32万個の応募があり、ローソンはそのすべてに配布すると公表しています。
 デリバリーサービスを手掛ける「出前館」と、出前館のグループ会社の「日本フードデリバリー」は、児童養護施設や子ども食堂・学童保育施設を対象に、各地域の飲食店が作ったお弁当を、申し込み先着3000食無償で提供すると表明。一方、レシピサイトのクックパッドは、「このような状況下でも前向きな気持ちで過ごせる人をひとりでも多く増やすために」と、プレミアムサービス会員向け機能「人気順検索」を3月15日まで無料開放しています。
 困っている生活者や団体にとって、とてもうれしい取り組みです。企業側にとっても、自社の商品やサービスを知ってもらう、しかも平時の無料キャンペーンとは異なり、有り難いという気持ちで利用してもらえることは、かなりのメリットです。もちろん、そんな思惑はないのでしょうが。ただ少なくとも、好意を持って利用してもらえることは間違いないと思います。

新型コロナで冷え込む市場。起こるか家族団結消費

 新型コロナウイルスの影響が止まりません。
 食関連では、3月10日から13日まで幕張メッセで予定されていた「FOODEX JAPAN 2020」が開催中止に。イベントや宴会など人が集まる場はことごとく、延期または中止になっています。卒業記念パーティ、送別会、歓迎会など春はさまざまな宴会や飲み会があるとき、ホテルや飲食店は大変です。加えて政府からの「不要不急の外出は控えましょう」とのお達し。今週末、外食やショッピングを控える人が多く、百貨店はがらがらでした。一方、人気なのはデリバリーやネットスーパー。急遽、本日(3月2日)から学校が休みになったため、子どもの昼食にと冷凍食品やレトルト食品を買い求めるお母さんたちも多かったようです。
 ただでさえ先行き不安な世情、東京五輪になんとか光明を見出そうと前向きになりかけていた矢先の自粛要請。今後の日本の経済はもちろん心配ですが、何より生活者の消費意欲の低下が避けられない状態になることを恐れます。
 2011年3月11日、東日本大震災後が起こりました。自粛ムードに加え、福島第一原発事故による放射性物質の拡散と農産物に対する不安、節電とサマータイムの導入によって在宅時間が長くなったお父さんたち。理由は違いますが、今とよく似ています。当時は、「家族回帰」が起こり、「三世代消費」というキーワードが登場しました。精神的にも経済的にも不安なときは、家族一致団結して乗り越えていこうという気持ちの表れです。