春満喫「銀座 慈生」

 女子栄養大学の恩師・高橋敦子先生にお誘いいただき、「銀座 慈生」に伺いました。会員制の日本料理店で、女将は大学の後輩。女将も含め、ご一緒した面々は、“栄大教・香川綾(栄大創立者)宗・高橋派”の教授や元教授。栄大今昔物語から栄大の在るべき姿、少子化時代の大学経営などなど、話題は多岐にわたり、栄大愛が溢れる刺激的な時間でした。
 慈生の4月のテーマは、行草書五言句の「坐しては看る雲の起こる時」。ゆったりと座って雲が湧き上がるのを無心に眺めるという意味で、ハマグリとそら豆の真薯椀からは雲のような白煙の演出も。
 こちらでは、最初にお酒とご飯が出されます。この日は、たけのこご飯。大きな皮の帽子をかぶせての提供です。このご飯のおいしいこと。ひと品目なのに、“もう十分です”と思わず感謝の言葉で食事を締めくくりたくなるほどです。聞けば、たけのこは、京都・物集女(もずめ)のもの。よい土で作られたたけのこは、えぐみがなく軟らかだと言います。焼き物も香り高い焼きたけのこ。こちらは太い青竹の中に鎮座しております。向付は石鯛と平貝とヤリイカ。石鯛はこの時期が最もおいしいとか。揚げ物はふきみそあんの飛竜頭。強肴はわらび餅をまとったバフンウニとふきとわらび。“花吹雪”と名付けられたお菓子は、白小豆あんを橙色の皮で巻き、桜の塩漬けをあしらったもの。お料理はもちろん、しつらえから女将の着物まで春満載です。
 おみやげに、たけのこご飯と二番だしをいただきました。そのおいしさを思い出すと冷蔵庫に入れるのも忍びなく、すぐにパクリで、香りにまたまたうっとり。残り香が惜しくて容器も捨てられず。冷蔵庫で保管し、香りがなくなるまで鼻で楽しもうという卑しさ。二番だしは何に使おう。悩んだ挙句、大好きな茶わん蒸しを高橋先生の師、故・上田フサ先生のレシピで丁寧に作りました。

たばこの次は“禁・お酒”?

 2/19、厚生労働省は、酒類の適正な摂取量などを示す【健康に配慮した飲酒に関するガイドライン】を発表しました。それを受け、飲食店に役立つサービスを提供する“飲食店ドットコム”を運営するシンクロ・フード(東京・渋谷)は、飲食店ドットコム会員(飲食店経営者・運営者)404人を対象に、3/8~18、ノンアルコール・低アルコール飲料の提供についてアンケート調査を実施しました。
 それによると、飲食店で注文されるアルコールの量や内容を発表前と比べると、87.3%が「特に変化はない」と答え、「変化があった」は1.3%にとどまることが分かりました(N=386)。【飲酒に関するガイドライン】の発表からわずか1ヵ月。情報番組で取り上げられてはいたものの、認知も関心も低いようです。一方、ノンアル・低アル飲料の直近1年間の注文量は、「変わらない」が74.9%と多く、「増えた」も22.8%と一定数あり、ノンアル・低アル飲料の需要は確実に定着しています(N=334)。
 2023年、アサヒビールは筑波大学との共同研究で、ノンアルコール飲料がアルコール飲料に置き換わる可能性があることを世界で初めて実証しました。飲酒量が多い123人に対し、54人にノンアル飲料を12週間提供し、残り69人には提供しませんでした。結果、前者は約30%飲酒量が減少。しかも、その効果が提供8週間後も持続していることも分かりました。ノンアル飲料摂取量の増加と飲酒量の減少とに相関関係が見られたといいます。
 国が推進する「健康増進・医療費削減」。たばこの次に槍玉に挙がっているのがお酒です。酒類メーカーも、健康的な飲酒を推奨。ノンアル・低アル飲料に比重を移しています。
 「酒は百薬の長」。これは、新王朝の皇帝・王莽(おうもう・紀元前45~23年)が発した、“酒は素晴らしくて重要だから政府の専売事業とする”という詔の中の一節だとか。政府で利権を独占する酒をもっともっと飲むようにと民に発した宣伝文句ではないかと曲解することもできます。にしても、お酒を「百薬の長」にするのはとても難しい。

春が来た!

 桜の開花宣言が列島を駆け上り、やっと春本番です。料理上手な女性にお呼ばれしたディナーは、新玉ねぎのポタージュ、グリンピースのソテー・エルブドプロバンス風味、キャロットラペ、グリーンアスパラガスのサラダ、メインのミラノ風カツレツにルッコラがたっぷり。私からのお返しは、バルサミコのシロップをからませたイチゴとオレンジを添えたアイスクリームです。早春の料理を堪能しました。
 春野菜は、料理をしている最中から心弾みます。新玉ねぎは、レンチンしてカツオ節とぽん酢しょうゆでいただきます。スライスして生のままいただくのもいいのですが、加熱すると甘みがぐんと増します。新じゃが芋は、小粒のものなら皮付きのまま塩ゆでするのが一番。春キャベツが出回ったら「春キャベツとアンチョビのパスタ」が定番、グリーンアスパラガスは、ゆでてチーズをふり、卵をのせてオーブンで焼きます。グリンピースはバターソテーか、スープにすることが多いかな。青豆ご飯を炊くと学生時代を思い出します。ふきはだしを利かせた薄味に。歯応えと香りを楽しみます。次の楽しみはたけのこ。両親が他界してから、朝堀りのたけのこが送られてくることもなくなり、いつもちょっと寂しい気持ちになります。
 テラスのぶどうや山椒から新芽が出てきました。作家の小川糸氏のエッセイに、「山椒鍋」の話がありました。山椒が大好きな私は、「山椒鍋」を作りたくて。でも文面から読み取れる情報では、我が家の盆栽のような木で採れる量ではどうも足りなさそう。もう少し待って安くなったら爆買いです。でも、“いざ、山椒鍋!”と意気込む頃には、気温はぐんぐん上がって初夏の陽気になっているのかも。恨めしや温暖化。

脱脂粉乳と学校給食

  

 大人になってたまに話題に上るのが学校給食。つい先日も高校時代の同級生と「脱脂粉乳」の話で盛り上がりました。“おいしくなかった”“あれで給食が嫌いになった”という発言は定番。次のテーマは必ず、いつ牛乳に切り替わったか。全員、違う小学校に通っていたから、この話題はかなり盛り上がる。“小学校の所在地が街中から郊外へと外れていくほど脱脂粉乳の飲用期間は長くなる”というのが私の持論で、小さな街の小学校に通っていた私の場合4年生で、仲間内では最長です。因みに、生まれも育ちも東京で脱脂粉乳を飲んだことがある同年代の人を私は知りません。
 (一社)日本乳業協会によると、脱脂粉乳の給食が始まったのは、1946年(昭和21)。米国の民間団体の援助によるララ物資と呼ばれた救援物資のひとつとして東京、神奈川、千葉の小学生に提供されたそう。58年(昭和33)には、一部地域で脱脂粉乳が国産牛乳に代わり、64年(昭和39)には1年を通して国産牛乳が提供されたとあります。ならば、私は飲んでいないはず。おそらく、脱脂粉乳の在庫処分の役割が地方の小さな街に回ってきたのでしょう。
 戦後、米国から送られた脱脂粉乳は子どもたちを栄養失調から救ってくれました。そして今、経済的に不安定な家庭に育つ「貧困状態の子ども」たちが9人に1人いると言われている日本において、学校給食が唯一の食事で栄養源という子どもたちがいます。一方で、食品価格の高騰や給食費の未払い世帯の増加などを理由に、給食を一時停止する自治体も出てきて、学校給食を取り巻く環境は悪化しています。
 2025年から「大学無償化制度」という何とも中途半端な支援制度が始まります。急速な少子化に歯止めをかけることも、子どもたちの教育を受ける権利を守り、機会の平等を保つことも、もちろん大切です。が、何事も“衣食足りて”。「給食費の無償化」を急ぐべきだと考えます。