料理を堪能するなら「マスク飲食」

 神奈川県の黒岩知事や大阪府の吉村知事が一時積極的に進めていた「マスク飲食」。神奈川県のホームページによると「マスク飲食」のやり方は、【料理が来るまでマスク → 食べる時は黙食 → 会話する時は再びマスク】。ポスターの写真が居酒屋設定だったため、ハードルがちょっと高いなという印象を受けました。

 が、改めて振り返ると、私の外食は案外「マスク飲食」可能でした。おいしいものをおいしく食べたいからです。飲食店の料理は、提供されたときがおいしさの頂点。熱い料理は熱いうちに、冷たい料理は冷たいうちに味わいたい。最初のひと口から最後のひと口まで存分に楽しみたいから、料理には真摯に向き合います。おしゃべりをするのは、もっぱら皿と皿の間。もちろん料理を口に運びながら、「おいしいね」とか「これは何?」など一言二言は話しますが、それ以上の会話はありません。食べるとしゃべるを同時にしないのです。

 私はかつて「カルヴァドス」というフランス・ノルマンディ地方のりんごから作る蒸留酒の日本大使の任を仰せつかっておりました。年に4回ほどフレンチレストランでパーティを催します。会員は皆さん、食とお酒が大好きな方々。料理が運ばれたテーブルから順に静かになり、食べ終わると次の皿までおしゃべりが続く。そんな感じでした。

 いつだったか、学者気質の建築家と食事をしたことがあります。おしゃべりが大好きで話題も豊富な人でしたが、食に対しての興味は余り。フォークに刺した肉を持ち上げたまま、5分以上話し続けているのです。私の視線は、どんどん冷めて乾いていく肉にくぎ付け。“早く口に運んで!”そればかりが気になって彼の話はまったく耳に入りませんでした。