新型コロナで冷え込む市場。起こるか家族団結消費

 新型コロナウイルスの影響が止まりません。
 食関連では、3月10日から13日まで幕張メッセで予定されていた「FOODEX JAPAN 2020」が開催中止に。イベントや宴会など人が集まる場はことごとく、延期または中止になっています。卒業記念パーティ、送別会、歓迎会など春はさまざまな宴会や飲み会があるとき、ホテルや飲食店は大変です。加えて政府からの「不要不急の外出は控えましょう」とのお達し。今週末、外食やショッピングを控える人が多く、百貨店はがらがらでした。一方、人気なのはデリバリーやネットスーパー。急遽、本日(3月2日)から学校が休みになったため、子どもの昼食にと冷凍食品やレトルト食品を買い求めるお母さんたちも多かったようです。
 ただでさえ先行き不安な世情、東京五輪になんとか光明を見出そうと前向きになりかけていた矢先の自粛要請。今後の日本の経済はもちろん心配ですが、何より生活者の消費意欲の低下が避けられない状態になることを恐れます。
 2011年3月11日、東日本大震災後が起こりました。自粛ムードに加え、福島第一原発事故による放射性物質の拡散と農産物に対する不安、節電とサマータイムの導入によって在宅時間が長くなったお父さんたち。理由は違いますが、今とよく似ています。当時は、「家族回帰」が起こり、「三世代消費」というキーワードが登場しました。精神的にも経済的にも不安なときは、家族一致団結して乗り越えていこうという気持ちの表れです。

中国で進む食品の情報開示の徹底化

 テクノロジーが進展し、ネットでどんな情報も取れる時代。食品の情報開示は提供する側の責務になっています。ただその範疇は、消費する側の求めに応じてというのが日本の現状でしょう。
 一方中国では今、開示する情報の範疇が驚くほど広がっています。農作物の場合を例にすると、産地、育てた人、育て方、肥料や農薬、収穫日時、収穫した人、運搬日、運搬した人(トラックの運転手名)、店に着いた日時、店頭に並べられた日時、並べた人・・・。商品のQRコードにスマホをかざせば、これらの情報がすべて分かります。なぜここまで知りたがるのか。その理由はやはり、中国において誤魔化しや偽りがまだまだ横行しているからです。例えば、名産地の“陽澄湖”産としてネットで販売されている上海ガニの99%がニセモノだったという調査結果があります。一事が万事。中国の生活者は人を介する食に対して、かなり神経質になっているものと思われます。
 日本でも2000年に入ってから、数々の食品偽装が明るみになりました。産地偽装、原材料偽装、消費期限・賞味期限偽装などなど。その度に、報道番組が先導するカタチで大騒ぎになりましたが、すぐに終息して不信感も風化しました。やった人は悪いが、それは稀有なこと。日本の食市場はほぼ安全、信じるに足るという結論にいつも落ち着きます。あれやこれやと突いて不安になるより、漠然とした安全に包まれていたい―。日本人の本心です。

マクドナルド。再びご飯メニューに挑戦!

 マクドナルドが2月5日、バンズの代わりに成型したご飯で具材をはさんだ「ごはんバーガー」の販売を、“夜マック”で始めました。メニューは、“てりやき”“ベーコンレタス”“チキンフィレオ”の3品。バーガーで人気の定番具材です。
 マクドナルドが「ごはんバーガー」の販売を始めたのは、「夕食にはパンではなくご飯が食べたい」という意見が届くようになったからとか。メインターゲットは30~40代。「このくらいの年代になると、夕食の主食は『ごはん派』という人が多くなる。そういった層にも訴求できるようにする狙いがある」と広報担当者は話します。
 マクドナルドは、以前にもご飯メニューに挑戦しています。1991年に、炒飯と焼売などのおかずがセットになった中華弁当「マックチャオ」を発売。92年には、都内の4店舗でカツカレーのテスト販売をしています。理由はやはり夕食需要を獲得したい、幅広い客層を狙いたいというものです。が、いずれも長続きはしませんでした。
 3度目の正直(?)。今回はどうでしょう。ご飯のバンズといえば、想起されるのはやはりモスバーガーの「ライスバーガー」。発売当初、きんぴらやつくねなどご飯との相性を意識した具材が新鮮でした。SNS上には、「ごはんバーガー」を「モスライスバーガー」と比較する声も多く、総体的に評価は高いとは言えません。
 夜、ご飯を食べたいという人は、「ごはんバーガー」があればマクドナルドに行くのでしょうか。多くのお客様に来店してもらいたいという理由で「お好み食堂」になり、結果、お客様に選ばれる価値を失った飲食チェーンは数知れずです。
 マクドナルドが敢えて具材を和に寄せなかったのは、プライドとモラルからでしょうか。ご飯路線を続けるのなら、マクドナルドらしい画期的で魅力的な商品を期待します。

拡がる外食店のおひとりさま戦略

 外食各社が、‟おひとりさま”の取り込みに本腰を入れています。
 「ガスト」は2018年から、席の両側についたてを配置し、電源を備えた1人席を拡大。作業や休憩といった食事以外にも使いやすい空間にすることで、来店機会を増やしてもらう狙いです。「大戸屋ごはん処」は昨年6月、1人用席を約2倍に増やした新型店を開業。ロングテーブルは座る位置や高さをずらし、正面に座っても視線が合わないよう工夫しています。結果、女性などの1人客が増え、客数は1割超伸びたといいます。ひとり焼肉が楽しめる「焼肉ライク」も人気で、1号店オープンからわずか1年余りで25店舗に拡大。「松屋フーズホールディングス」も昨年3月、店内の23席がすべてカウンター席のステーキ店「ステーキ屋」をオープンさせました。また「エー・ピーカンパニー」が渋谷スクランブルスクエアに昨年11月オープンさせた新業態、一人一鍋スタイルの「しゃぶしゃぶ つかだ」が、早くも人気店になっています。滞在時間はランチが30分、ディナーでも60分と回転率がよく、客単価は4500円と高めにもかかわらず、1日の客数が300人に及ぶこともあるといいます。今年2月からは、すき焼きをしゃぶしゃぶ風にアレンジしたメニューの提供も始めています。
 単身世帯の増加が続く中、従来はファミリー層の利用が多かった外食店でも、‟おひとりさま”の取り込みが急務になっています。単身世帯は、中食や外食を利用する機会が多く、その1人当たりの支出は2人以上の世帯の1.5倍になるといいます。ファミリー客やグループ客と比べて注文数は少なく、その分を回転率で補うためには、おひとりさま席の拡充は当然の戦略です。因みに、私の行きつけ「やよい軒青山オーバルビル店」も、例に漏れずおひとりさま仕様にリニューアルされました。私もおひとりさまなのに、なぜか居心地が悪くなって足は遠のいています。

進化系料理キット「ちゃんとOisix」

 生活者が、日々の料理作りで最も困るのは、献立を考えること、次に、いつも同じ料理になってしまうこと、食材を余らせてしまうこと。そんな生活者の悩みを解決すべくOisixが始めたのが、カットされていない食材とレシピをセットにした“献立セット”が届く新サービス「ちゃんとOisix」です。3日もしくは5日分の食材とレシピがセットになっていて、レシピ通りに調理すれば、1食3品のメニューを30分以内で作ることができ、食材はきっちり使い切れます。
 献立を考える必要がなく、レシピを検索する必要がなく、買い物をする必要がなく、食材の使い回しに頭を使う必要がないこの料理キットに私はとても興味を持ち、通常の半額で購入できるお試しセットを注文しました。
 いよいよ食材が届きました。どれもオイシックスが自信を持って集めた元気のいい食材たちです。レシピは3品同時進行で作れるよう工夫されていますから、手順を考える必要もありません。
 調理開始。本当に30分で作れるのか、計りたくなるのが人情です。主菜とサラダとスープが22分で完成しました。レシピはとても簡単で、例えばガパオはシンプルな味付けですが、それなりにおいしくいただけます。
 自慢するわけではありませんが、料理ができる私が作れば30分以内は可能でしょう。ならば、料理の技術も経験も十分ではない人が作ったらと思い、2日めは夫が担当しました。かかった時間は44分。この結果に納得できない夫は、次の日も挑戦。34分でした。このタイムにますます奮起した夫は、次の日も。結局4日間、夫が作りました。「ちゃんとOisix」、私にとっては間違いなく最高の料理キットでした。

ブランド米の下剋上。第二幕始まる

 近頃、噛み応えのある粒感を重視した‟しっかり系”の米が多くなっているといいます。例えば、昨年10月に発売された鳥取産のブランド米「星空舞」は、表面が硬く、噛むと跳ね返るような弾力が特徴。開発担当者は「若い層を中心にしっかり系の米が好まれている」と話します。
 2015年秋、「ブランド米の下剋上」をトレンドで取り上げました。かつて米の高級ブランドの双璧を成したコシヒカリとササニシキの人気が急落。さまざまなブランド米が登場し、米市場が戦国時代に突入したのです。
 当時人気だったのは、特Aを取得した北海道の「ゆめぴりか」や山形県の「つや姫」。両方とも、豊かな甘みと粘り、もっちりとした食味が特徴です。人気の理由は、日本人がしっかり噛まなくなったから。ご飯をよく噛むと唾液が出ます。唾液に含まれるアミラーゼがご飯のデンプンを分解し、マルトースという甘味成分に変えます。だからご飯はほんのり甘く、それがおいしさに繋がるのです。噛まなければ、ご飯は軟らかくなりませんし、甘くもなりません。そこで、初めから甘くて、もっちりと軟らかい食感のお米が好まれたのです。
 ではなぜ今、しっかりとした食感の形が崩れにくい米が求められるのでしょう。食事時間が年々少なくなっている日本人が、しっかり噛んでゆっくり食事をするようになったとは思えません。考えられる理由は、1食完結料理が増えたから。共働きで忙しい現代人の食卓に、料理が簡単で短時間で食べられるカレーや牛丼など、ご飯に料理や汁物をかけるメニューが増えたからではないでしょうか。これらのメニューには、硬めのご飯がよく合います。
 ブランド米の下剋上は第二幕へ突入しました。次の第三幕は、生活者の食生活のどんな変化が、新しいブランド米を勝者にするのでしょう。

トマト加工品。よく使う水煮缶、使わなくなったペースト

 先日、高校時代の友人から次のような内容のLINEが届きました。彼女は、カレーを作るときに必ずトマトペーストを加えるのだそう。いつものようにトマトペーストを買いに馴染みのチェーンストアに行ったところ、トマトペーストがなくなっている。店員に聞くと「売れないから全店で扱いを止めた」とのこと。「私のカレーはもうあの味にならない」という嘆きで終わっていました。
 粉砕して裏ごししたトマトを煮詰めたのがトマトピューレ、それをさらに煮詰めて濃縮したのがトマトペーストです。トマトにはうま味成分のグルタミン酸が含まれていますから、濃縮したトマトペーストは、正にうま味調味料。ナポリタンなどトマトケチャップだけだと甘さばかりが目立ちますが、トマトペーストを少し加えると味に奥行きが出て、大人のナポリタンになります。
 以前は瓶入りしかなく、大量に使うものではないのでいつも余らせていましたが、今はミニパックがありますから、使い勝手もぐんと良くなっています。でも売れない。確かに、私のキッチンにも賞味期限が迫ったトマトペーストのミニパックが残っています。そういえば、近年、トマトペーストは使わなくなりました。トマト加工品で頻繁に利用するのはトマト水煮缶です。因みに、“クックパッド”で材料検索すると「トマトの水煮」を使うレシピは5万2千点以上あるのに対して、「トマトペースト」は270点程度。プロの料理人や料理研究家のレシピが集まるNHKの“みんなの今日の料理”でも、「トマトの水煮」が3千以上に対して、「トマトペースト」は40点以下です。
 新米主婦の皆さんは、トマトペーストなど知らないかもしれません。料理レシピにも流行があるのですね。

ランチ難民の救世主、フードトラック

 東京は今、再開発ラッシュ。渋谷の商業施設だけでなく、虎ノ門ヒルズ駅周辺などオフィスビルが今後次々に完成します。そこで必ず問題になるのは、ランチ需要への対応です。昼どき、外食店には長蛇の列、コンビニのレジもなかなか進みません。ただでさえ短い昼休みの大半が、休息や食べることより並ぶことに費やされます。
 そんなランチ難民を救っているのが、フードトラック(キッチンカー)です。近年、大規模開発を行う場合、“公開空地“を設けることが義務化されたため、ビジネス街には広場や庭、広い通路などが増えたことで、違法駐車をせずに営業ができるようになったことも、フードトラックが増えている理由です。
 フードトラックは基本的に個人経営。「TLUNCH」など配車サービスの会社と契約して営業する場所を提供してもらいます。配車サービス会社は、テクノロジーを駆使し、それぞれの提供場所の客層や売れ行きに応じて契約車を‟最適配車”します。これが、フードトラックの最大の魅力です。
 ビジネスマンのランチの不満1位は「飽きること」。毎日、違うフードトラックが複数車配車されれば、飽きずに利用できます。価格も600円程度からで、コンビニ弁当よりは高めですが、外食よりは抑えられます。
 因みに、弊社の近くにもフードトラックが来ます。月曜日から金曜日まで2台ずつ。その顔触れは、ほとんど変わりません。毎日2択のローテーションに、はっきり言って飽きています。

日本人にも拡がるビーガン・ベジタリアン

 2020年が幕を開けました。今年のメインイベントは何と言っても「東京オリンピック・パラリンピック」。海外からの注目が集まり、インバウンドも飛躍的に増加。しかも今まで渡日経験の少ない国からのお客様もたくさん訪日することでしょう。その期待が、食市場にさまざまな変化を起こしています。
 そのひとつが、ビーガン・ベジタリアン対応です。海外から来るビーガン・ベジタリアンに向けてメニュー開発を進める外食店、それに対応すべく、食品会社は動物性食品を含まない業務用商品の種類を着実に増やしています。加えて、ビーガン・ベジタリアンメニューを提供する飲食店を探せるアプリや、商品棚を撮影するとそれぞれの商品を瞬時に認識してデータベースと照合し、ベジタリアンやムスリムの人が食べられるか否かを判定してくれるアプリも開発されていて、海外からのお客様も迷うことなく日本の食を楽しめると思います。
 ビーガン・ベジタリアンの信奉者、実践者は、欧米やインド、台湾では以前から多く、それらの国では、彼らをターゲットにしたメニューや食品は珍しくありません。が、日本においてはストイックなイメージが先行したためか、拡がる可能性は低いと見られていました。ところがここに来て、若者を中心に、ビーガン・ベジタリアンに興味を持つ生活者が増加。週末のみ菜食を実行する「ゆるベジ」、肉をなるべく食べないように心掛ける「フレキシタリアン」などを含めると、ビーガン・ベジタリアン傾向の食生活を実践する人は、5~10%に達するのではないかと推測されています。インバウンドのみの需要ではなくなっていることが、ビーガン・ベジタリアン対応を急ぐ飲食店や食品会社の背中を押しているのです。

渋谷の複合施設。食のトレンド発信地になれる?

 今年後半は、渋谷が大きく変化した1年でした。渋谷スクランブルスクエアが11月1日に、渋谷パルコが11月22日に、東急プラザが入る複合ビル渋谷フクラスが12月5日に、オープンしました。
 かつては、東京に新しい複合施設が誕生すると、必ず、グルメ情報がテレビや雑誌などのメディアを大きく賑わしたものです。2003年六本木ヒルズが、07年東京ミッドタウンがオープンしたとき、“ラトリエ ドゥ ジョエル・ロブション”や“ル・ショコラ・ドゥ・アッシュ”など、話題の店が次々に登場。新ビルは、「日本初上陸」「東京初出店」「新業態」などのコピーが付いたグルメな話題に事欠かない食のトレンドの発信地となりました。
 が、それに比べると近年は、新しい複合施設がオープンしても、話題になるのはその前後数日のみ。かつてほど大きな話題にはなりません。
 渋谷スクランブルスクエアの場合も、パリの二ツ星レストランの総料理長であるティエリー・マルクス氏監修のベーカリー「ティエリー マルクス ラ ブーランジェリー」や、台湾の創作レストラン「参和院(サンワイン)」、ハワイで人気のカフェ「ピース カフェ ハワイ」など日本初上陸の店や、デリカテッセン「パリヤ」や天ぷらと天むすの「金子半之助」などデパ地下初出店の店が数回ワイドショーで紹介されただけで、今は、すっかり落ち着いています。渋谷パルコは、「近代的なカオティック(混とんとしている)」をテーマにデザインされた地下1階のフードコートが、パルコらしいちょっと尖ったショップが並んでいることで注目されましたが、やはりオープン時のみの話題で終わっています。
 「日本初上陸」も「初出店」も、令和の今、それほど魅力のあるコピーではないのか、グルメ情報に浮かれるほど景気がよくないのか。常に人で溢れている渋谷の喧騒に、華やかさが感じられないのは、私だけでしょうか。