「座談集 文士の好物」から

 阿川弘之氏が作家と対談した内容をまとめた「座談集 文士の好物」(新潮社)。対談相手は沢木耕太郎氏、開高健氏、向田邦子氏、井上ひさし氏・・・。おもしろくないはずがない!と読み始めました。ただ「好物」は食には限らないということを忘れていました。食に関しての対談は開高氏と向田氏のみ。期待通りと言えばそうなのですが。
 開高氏との対談タイトルは「ああ 好食大論争」。やっぱり開高氏はスゴイ! どこにでも行き、何でも食べる好奇心と度胸、どんな問いかけにも応えられる知識と思考力。衛生などという観念が皆無と思われる当時の東南アジアの屋台市場の情景は、ほぼすべての日本人の食欲を減退させるのに十分過ぎるし、そんな環境の中でものを食べる行動を“マゾヒスティックな喜び”と表現しているのも開高氏らしい。
 話はどうしても開高氏が食べた下手物に向きます。ベトナムで食べたのは、孵化直前のアヒルの卵を加熱したゆで卵「ホビロン」。ヒナの形ができ上がっているものも、卵に近いものもあったとか。香港では「龍虎鍋」。蛇とネコの鍋料理。“ネコはあまりうまくないね。くどい、しつこいような感じがあるけど、イヌはまだうまいですよ”とは開高氏の弁。開高氏は著書「最後の晩餐」(文藝春秋)の中で、香港のレストランにおいて生きたサルの脳みそを食べたエピソードも記していて、映画「インディ・ジョーンズ/魔宮の伝説」の場面が嫌でも浮かびます。
 一方、向田氏との対談タイトルは「ひじきの二度めし」。リスのふんから採取するベトナムのコンサクコーヒーの話の流れで向田氏が紹介したのは、食べてもほとんど消化されないひじきをもう一度食するという話。その後、興味があると語る下手物は、広東料理の伝説的な超高級珍味「蚊の目玉のスープ」。本文中では、特殊なコウモリが好物の蚊を食べてそれを排泄したものを濾すと蚊の目玉だけ消化せずに残っていると阿川氏が説明していますが、小泉武夫氏著の「奇食珍食」(中央公論新社)によると、コウモリのフンから未消化の小エビの目玉を集めたもの、あるいは小さなエビの目玉を使った料理が転じたとされるようです。いずれも排泄物の再利用。
 美食を突き詰めると下手物に至るとはよく言われること。食の世界は奇妙奇天烈。