新幹線から消えたもの

 JR東海が東海道新幹線の「のぞみ」と「ひかり」の車内ワゴン販売を2023年10月末で終了することを発表しました。またひとつ昭和の名残りが消えていくようで寂しく思います。
 静岡県西部で生まれ育った私が初めて東海道新幹線に乗ったのは、おそらく1970年の「大阪万博」に行ったとき。車内で撮った写真が残っているのですから、さぞや貴重な初体験だったのでしょう。当時、洗面所付近には冷水器が設置されていて、平たい小さな封筒型の紙コップが付いていました。これを開いて中に冷水器の水を注ぐのですが、今より揺れる車内。こぼさずに的中させるのは子どもには難しかったような。
 食堂車もありました。真っ白なテーブルクロスが掛けられ、銀色の一輪挿しに花が活けられていて、特別感と贅沢感が漂っていました。最後に利用したのは、90年代の終わり。2000年3月のダイヤ改正ですべての車両から姿を消したようです。
 冷水器が消えた理由は、ペットボトル入りの水を買う人が増えたから、食堂車がなくなったのは乗客が増え客席の確保が必要になったから、車内販売がなくなるのはコンビニ弁当を買って乗車する客が多くなったから。コンビニ弁当に比べると明らかに割高な駅弁。その点が敬遠されたのでしょうが、消費期限が長いコンビニ弁当にはない魅力が駅弁にはたくさんあります。現在、「こだま」では車内販売は行われていません。でも、各駅に止まり、ときに「のぞみ」や「ひかり」の通過待ちで数分間停車することも珍しくない「こだま」こそ、停車駅ごとに名物の駅弁を積み込んで車内販売すれば新幹線の旅がもっと楽しくなるし、そもそも、そこにこそ駅弁の価値があるのだと思います。