付き合いが長い年齢が近い料理人

 先週、久しぶりに六本木の和食店「菱沼」に行きました。前回訪れたのは、新型コロナウイルス感染防止のための自粛要請が出た前夜でした。
 店主の菱沼孝之さんとは30年来のお付き合い。お店が三田にあったときからよく通わせていただきました。料理に合わせてフランスワインを勧めてくれるのですが、それが当時は珍しく。しかも菱沼さんのワインのセレクトが絶妙で、ただでさえおいしい和食がワインによってさらに華開くような印象を受けました。
 「菱沼」のメニューは基本、店主におまかせのコース料理。この日は、かぼちゃのムースにトリュフを散らした先付、海老しんじょの蒸し物などの料理に続き、メインの松茸の土瓶蒸しが供されました。土瓶の中に、大きな松茸がいくつも。とても贅沢なひと品です。「香り松茸、味しめじ」。無粋な私は松茸を口にするとき、いつもこの言葉を思い出し、よく言ったものだと感心します。そして「味は、しめじじゃなくて椎茸だなぁ」などと思うのです。松茸様に大変失礼な話です。その後は定番の和風ステーキと松茸ご飯でした。
 菱沼さんは私より少しお兄さんです。お互いに30代のときは、いつ終わるのかと思うほど、料理が次々に出されました。作る方もエネルギッシュなら食べる方も熱量高めです。が、近年は、ほどほどにちょうどよい量になりました。「料理人と年齢が近い店に行くといい」。それは本当です。そして長く付き合える店を持つことです。齢を重ねれば、味の好みも食べる量も変わっていきますが、いつもジャストなおもてなしをしてくれます。