生活水準を的確に表せなくなった日本のエンゲル係数

 近年、エンゲル係数が上昇しているのをご存知ですか。エンゲル係数とは、消費支出に占める食費の割合を示したもので、生活水準の目安となる数値です。戦後下がり続けてきた数値は、2005年の22.9%を底に上昇。昨年は25%を超えました。
 なぜ近年、急ピッチで上昇しているのでしょうか。大きな流れとしては、共働き世帯と単身世帯、高齢者世帯の増加があります。食の内製化が減少。代わりに惣菜の購入や外食の利用が増えています。さらに、高くても安全で健康にいいもの、おいしいものを食べたいという安全・健康・グルメ志向もエンゲル係数を押し上げる要因になっています。短期的な理由としては、収入の伸び悩み、消費増税による可処分所得の減少、円安による輸入食品や飼料の価格高騰などが考えられるでしょう。
 ただ、エンゲル係数が生活水準を的確に表すとは言い難い側面もあります。例えば、バブル崩壊後の1993~2004年。生活水準は確実に低下していたのに、エンゲル係数は約3ポイント下がりました。なぜなのか。実はこの時期、パソコンや携帯電話などの情報通信機器の利用が一気に広がったのです。それまで通信機器と言えば、電話とファックス程度だったのが、インターネットやメールで情報のやり取りを行い、外出時でも電話で用件を伝えられるようになりました。
食費に使うはずだった費用が、通信費に回されたのです。今でも家計調査をすると、節約したい支出として食費、外食費が必ず上位に並ぶ一方、節約したいができない支出として通信費が挙がります。
 ところで、今年の調査では、支出を「増やしてもいい項目」でも「抑えたい項目」でも「食品」は3位に入りました。節約志向が続く中、生活者はどんな食を節約し、どんな食にお金を使うのか。まさに二極化する市場において、ポジショニングの見極めがますます重要になっています。