カーボンニュートラルとScope

 2020年10月、政府は50年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする「カーボンニュートラル」を目指すことを宣言しました。「カーボンニュートラル」とは、温室効果ガスの排出量と吸収量を均衡させることを意味します。CO2をはじめとする温室効果ガスの“排出量” から、植林、森林管理などによる“吸収量” を差し引いて、合計を実質的にゼロにするということです。
 旗を振るのは、農林水産省。今年1~3月、加工食品の「カーボンフットプリント(以下CFP)」の算定実証を実施しました。CFPとは、商品・サービスの原材料調達から廃棄・リサイクルに至るまでの間に排出される温室効果ガスをCO2に換算したものと定義されていて、CFPの可視化においては、サプライチェーン全体におけるCO2排出量が重視されています。つまり商品・サービスを提供する企業単体のCO2排出量だけでなく、関連する取引先や消費者など広い範囲のCO2排出量をカバーする必要があるということです。
 そこで登場する言葉が「Scope(スコープ)」です。Scope1は“事業者自らによる温室効果ガスの直接排出”、Scope2は“他社から供給された電気、熱・蒸気の使用に伴う間接排出”、Scope3は、Scope1とScope2以外の間接排出。自社を挟んだ上流(原材料の製造や配送など)と下流(製品の輸送や廃棄など)を合わせたサプライチェーン全体におけるCO2排出量がScope3に当たり、これらを含めた施策が必要になります。
 農林水産省は、実証実験で問題点を洗い出したのち、本年度中には共通算定ルールを策定し、広範囲な加工食品への適用を確認。CFP削減に繋げた場合は、その旨をパッケージ上に併記する方針で、それが生活者の購買行動に影響を及ぼすことを期待しています。実は、食品のCFP表示は以前、試行段階で頓挫した経験があり、今回は、カーボンニュートラルの達成が急務となる中での定着へ向けた再挑戦。果たして思惑通りに市場を動かせるのか。企業の協力と消費者教育の両輪で進ませることが肝要です。

ミニストップの新店は“FFもある小型スーパー”?

 ミニストップが5/20にオープンした “ニューコンボストア”のフラッグシップ店「ミニストップ神田錦町1丁目店」(東京)に立ち寄りました。ファストフード(FF)と食品スーパー型品揃えで“ショートタイム・ワンストップショッピングを実現”したとのこと。
 この店舗については「食のトレンド情報」でも取り上げています。要約すると、①FFは、専門店品質の商品を一番おいしいでき立ての状態で届ける②生鮮食品や冷凍食品の品揃えを拡大③キャッシュレス化を推進。セルフレジ、モバイルオーダーと共に、買い回りしやすいレイアウトでショートタイムショッピングの提供を目指す④オンラインサービスとの融合も計画。
 売り場で目立つのは、②。イオンのPB「トップバリュ」をからめた冷凍食品やチルド惣菜の品揃えは、かなり充実しています。ほかに目に留まったのは、コスメ系グッズの雑貨屋風落とし込みと、たばこの壁一面売り場です。
  ミニストップは、創業当初よりコンビニエンスストア(CVS)と店内加工FFを組み合わせた“コンボストア”という独自のスタイルで差別化を図っています。CVSの機能性、ソフトクリームやハロハロなどのFF、店内厨房で調理されるおにぎり・弁当・惣菜、ほぼ全店で配置されているイートインコーナー。これらが1店舗に凝縮されていることが“コンボストア”たる所以です。かつて、他CVSチェーンとの差別化を強化するために、厨房の面積を削ってイートインコーナーを拡げた実験店を開設しました。このときも、“ニューコンボストア”と称していました。今回の“ニューコンボストア”は、“FFもある小型スーパー”でしょうか。“ショートタイム・ワンストップショッピングの実現”は、小型スーパーそのもの。そこにFFの魅力をどう付けられるのか。コールドスイーツ以外に目玉となるFFがないことが、ここにきてまたも課題として浮かび上がります

むくみ軽減機能性表示食品。“顔vs.脚”

 ポッカサッポロフード&ビバレッジの「キレートレモン MUKUMI」の売り上げが急上昇しているそう。この商品、昨年の食市場のトレンド講演で、【ヘルシー志向】に繋がるキーワード【Re活】の中で取り上げました。
 “withコロナ”の生活が浸透し、外出気分が一気に高まった2023年。海外旅行も視野に我慢していた旅行を計画したり、今まで見合わせていたイベントに参加したり。再び活動を活発化させる【Re活】が増えていました。そうなると気になるのが、巣ごもり中、手を抜いてしまったダイエットや美容、生活リズムのリセットによる体調の変化です。新型コロナ禍初期に注目されたのは、免疫力を高める食品でしたが、外出機会が増えるにつれ、脂肪対策商品や美容に関わる商品へとニーズが変化。そんなトレンドにぴたりとはまると思われた商品です。
 本品は、レモン由来モノグルコシルヘスペリジンの働きで、“一時的に自覚する顔のむくみ感を軽減する機能”を謳う、機能性表示食品の炭酸飲料。同社は、20~30代女性の約3人に1人がむくみに悩んでいるといわれ、“withコロナ”でマスクを外す機会が増える可能性もあり、“顔のむくみ”に関する悩みは増えていくのではと予測、発売したそうです。“顔のむくみ”という女性に響くトラブルそのものを商品名にしている点は、高評価。ネーミングのインパクトで思わず手に取り、一度は試したくなる商品だと思いました。
 発売当初は、顔のマッサージやストレッチよりも手軽に“小顔”になれるとの期待から。そこに女性K-POPアイドルが飲用していることがSNSなどで広がり、人気が加速。さらに“推し活”をする人の間で、「“推し”に会う前に」という飲用シーンが広がったとか。
 「キレートレモン MUKUMI」発売から1ヵ月遅れで、森永製菓は、コロナ禍の在宅ワークで足のむくみを感じる女性に向けて“脚のむくみを軽減”と謳う初の機能性表示食品「inゼリークリア ゆずレモン味」を発売しました。成分は同じ、レモン由来モノグルコシルヘスペリジン。顔と脚。“やっぱり顔!”かな?

減塩食もおいしくいただける?!「エレキソルト スプーン」

 キリンホールディングスは、明治大学総合数理学部先端メディアサイエンス学科の宮下芳明研究室との共同研究によって開発した、電気の力で減塩食品の塩味やうま味を増強する食器型デバイス「エレキソルト スプーン」の予約・抽選販売を、5/20より公式オンラインストアで開始しました。初回は200台限定。6月からは、ハンズの一部店舗でも数量限定で販売します。
 この情報のタネは、「2022年 食市場のトレンド」講演でお話ししました。【X-Tech(クロステック)】に繋がる【五感テック】のキーワードの中において。【X-Tech】は、既存の業界のビジネスと、AIやビッグデータ、IoTといった先進的なテクノロジーを結びつけて生まれた新たな製品やサービス、またはその取り組みを指します。そして【五感テック】は、視覚・聴覚・触覚・嗅覚・味覚といった五感に代表される、人間の感覚全体を情報通信の対象にするものとして提案。この実現により、従来の音声や画像に加え、触感や味、においなどの感覚を相手との間で交換、共有することが可能になり、遠く離れた人とも、食を媒介にして対面と同じような、より自然で現実感のあるコミュニケーションが可能になると考察しました。
 同社が22年4月に公表した画像では、スプーンではなく、手首に電源装置を装着する箸型のデバイスでしたが、9月にはスプーン型に変更されています。当時、同社が減塩中の30~69歳男女に行った調査で、濃い味で食べたいメニューの1位はラーメン、2位はみそ汁だったことから、ラーメンや汁物に使うことが多いスプーンに変更したようです。因みに椀型のデバイスも開発しています。
 この情報と併せて紹介したのが、宮下教授が開発を急いでいた、ディスプレーに繋いだ機器に舌を当てると、画面に表示された食べ物の味を瞬時に感じることができる試作機。テレビに機器を内蔵すれば、グルメ番組を見ながら味見をすることも可能になるデバイスで、企業との連携を模索して30年頃の実用化を目指しています。