昭和の洋菓子。今と異なる「見た目」の印象

 食べ物の思い出は、味もさることながら「見た目」の印象がとても強く残っているものだと思います。
 昭和の高度経済成長の波に乗って育った私は、豊かさとともに大衆化した新しい食べ物に次々に触れて育ちました。特にスイーツ、中でも洋菓子は、“ゆとり”の象徴のような存在で、憧れの食べ物でした。
 料理好きの母は、洋菓子をよく作ってくれました。例えば、プリン。オーブンで蒸し焼きにしたプリンはどっしりとしていて、表面にいくつもの小さな窪みがあり、ゼラチンで冷やし固めたり、プリンの素で作るプリンのような軽やかさはなく、ツルンとした滑らかな見た目ではありません。バースデーケーキは、生クリームが手に入りづらかったため、バタークリームを塗ったホールケーキです。色粉でピンクやグリーンに色付けし、バラや葉っぱの形に絞り出したもので飾られています。真っ白なショートケーキとは異なり、黄色っぽいのが特徴。高級バター人気を受けて、今密かにブームになっているようです。お菓子を作り始めた頃よく作ったのが、マドレーヌ。型と敷き紙を使うと、売り物と同じ見た目になるのが自慢でした。クッキーもよく焼きました。ドーナツ型で抜いてドレンチェリーやアンゼリカをのせ、「泉屋」の“リングターツ”を真似ます。秋は、モンブラン。家庭ではもちろん、ケーキ屋でもさつま芋で作っていましたから、クリームは黄色っぽく、麺状に絞り出した見た目がお約束。昨今のように栗をふんだんに使った茶色のモンブランは、私にとっては“贅沢”の象徴のような存在です。しかも角錐や円錐に整形されたものも多く、昭和のそれとは大分印象が異なります。