記憶の中で“春のうまいもの祭り”

 お彼岸も過ぎて、これからが春真っ盛り。14日、東京では桜の開花宣言が出され、観測史上最も早い春の訪れとなりました。桜下の宴は自粛の今年は、静かなお花見が満喫できそうですね。
 私にとって春は、まさに味覚の季節。静岡県西部で生まれ育った私の春の味覚は、3月の「桜エビ」と「しらす」から始まります。天日干しされた桜エビの濃いピンク色は、色彩が豊かになる季節の到来を教えているようでした。4月は「初ガツオ」。近くの漁港に揚がったカツオを刺身でいただきます。しかも刺身とは思えないほどの大きな切り身で。皮はついたままです。死後硬直する前の身が締まっていないカツオは“もちガツオ”と呼ばれ、つき立てのお餅のよう。ねっとりとした食感は、産地ならではの贅沢です。
 ゴールデンウイークが近くなると、たけのこです。孟宗竹より細い「淡竹(はちく)」という種類で、我が家では“はちこ”と呼んでいました。だしを利かせた煮物に仕上げるのですが、合わせるのは「あらめ」。昆布の一種で厚みがあり、表面は波波です。これが、我が故郷の「山の幸と海の幸の春の出逢い」です。が、女子栄養大学に入学して、「春の出逢い」はたけのことわかめが一般的と知ったときは驚くと共に、あらめに比べるとかなり華奢なわかめが頼りなく思えてなりませんでした。
 そのほか、早春は「紅ほっぺ」という品種の大きな大きないちご、浜名湖のアサリも獲れ立てをよくいただいたものです。
 自粛自粛で楽しめず、不安な日々が続く今、記憶の中で“春のうまいもの祭り”はいかがですか。