ここ数年、私は講演で、日本のヒノキやスギ、ヒバなどの木が、ワサビやユズのように世界にアピールする“和の香り食材”になるかもというお話をしてきました。
2022年、「羽田ブルワリー」(東京・大田)が、東京の森林をボタニカルに使用したクラフトジン“BathLabGin(バスラブジン) #002奥多摩の香り”を販売。ジュニパーベリーをベースに、メインボタニカルとして東京多摩地域、青梅産のスギやヒノキを採用しています。
23年、「山伏」(同・目黒)は、全国の里山に眠る植生の可能性の発掘を行うブランド“日本草木研究所”から、世界遺産、高野山の伝説の6つの木の香りが口中に広がる炭酸水“高野六木炭酸”を数量限定で発売。[高野六木]とは、高野山で寺院や伽藍の建築や修繕のため大切に育てられてきたスギ、ヒノキ、コウヤマキ、アカマツ、モミ、ツガの総称で、これら6つの木は、高野山の宗教と自然の密接な繋がりを語るうえで欠かせない象徴として、21年には日本農業遺産に認定されています。同品は、高野山の森深く巡り深呼吸した時のような圧倒的な“森林感”を味わえるのが特徴です。
24年、新たな食文化を発信する銀座「FARO(ファロ)」のシェフパティシエ、加藤峰子氏は、国土の7割を覆う森林に日本のアイデンティティがあるはずと考え、木の微粒粉を生地に練り込んだスイーツの提供を始めました。
そして25年、「松葉屋」(同・千代田)は日本の伝統文化である盆栽を世界に発信するブランド“TRADMAN’S BONSAI”から、クラフトジン“TRADMAN’S 松葉ジン”を発売しました。松葉を茶葉として使用する“松葉茶”の香りと効能に着目し、クラフトジンという新しい形態でプロデュース。スッキリとした飲み口の中に、松特有の奥ゆかしく凛とした香りが静かに立ち上がる、盆栽に込める“余白”や“静けさ”の美意識を表現したクラフトジンとアピールしています。
日本の森林資源が、“香り”や“スパイス”といった新たな分野で世界に発信される日が楽しみで仕方ありません。