旅の大きな楽しみのひとつに、宿で出される食事があります。お任せで提供される料理は、何がいただけるのか期待でいっぱい。中でも会席料理は、お品書きに目を通すところから、おいしい時間が始まります。
先日お世話になった飛騨地方の宿の会席料理も、その土地ならではの食材がふんだんに使われていてとても楽しめました。食事は、「酒菜」と書かれた数々の料理から始まります。酒菜とは、のちに「肴」と呼ばれるようになる「酒と一緒に食べる菜(料理)」のこと。地酒と合わせていただきます。蒸し物、お造りと続き、台物は卓上の七輪で焼く飛騨牛。米は「飛騨こしひかり」の新米、止椀は「八丁みそ仕立て」。ご飯とみそ汁という食べ慣れた食がいつもと違う味で楽しめることも、旅の食事の醍醐味です。朝食は、七輪で焼きながらいただく朴葉みそと天然アマゴの塩焼き。清流に恵まれた山間の郷ならではの食のもてなしです。
近年、和食の朝食は、小皿で提供するスタイルが増えたような。以前宿泊した佐賀・唐津の宿の朝食。テーブルいっぱいに縦4列横7列に並べられた小皿の景色は圧巻でした。“おいしいものを少しずついろいろ食べたい”。そんな宿泊客のニーズに応えてのことでしょう。ただ私は、あまりにちまちましていて好きではありません。仕事柄、すべてが業務用食材に見えてくるのもやっかいです。盛り付けが簡単、数量が読めるからムダがない、メニューの変更がしやすい、何より手間がかからないと、小皿料理の都合の良さばかりが頭に浮かんでしまいます。
別の宿での朝食時。毎度のように業務用食材を無意識のうちに選別していたときのこと。“ウチの板長はすべて手作りするから、私たちも大変なんですよ”という仲居さんの何気ない一言に、なんと無駄で浅はかなことをしているのだろうと恥じ入った次第です。