過去にも登場した今年のトレンドキーワード-3[和 味]-4

(前号に続く)

 その国の食は、地理・地形、気候、歴史、宗教、経済など人間を取り巻くすべての要素から形成される広義の風土と、それに大きく影響される人間の心情によって形成されます。[和味]は、言い換えれば日本の風土と日本人そのもの。それを表したキーワードが、2022、23年に登場した[日本テロワール]です。
 テロワールとは、もともとは“土地”を意味するフランス語から派生した、ワインやコーヒー、お茶などの品種における、生育地の地理、地勢、気候による特徴を指す言葉で、ワインを表現するときによく使われます。同じ地域の農地は、土壌、気候、地形、農業技術が共通するため、作物にその土地特有の性格を与えるという意味もあります。
 22年、サステナブルへの関心が高まり、産地や生育環境などを明確にした商品が増えました。作り手のこだわりや技術、産地の特性をより濃く表現したことで、地ビールがクラフトビールへと深化したように、その土地が醸す空気感、土壌の特徴、生活文化といったそれぞれの個性に重きが置かれ、単に「国産」と表示されたものとは異なるストーリーが、生活者の心に響きました。「日比谷OKUROJI」には、“新しい日本のカクテル文化の確立”を目指すバー「FOLKLORE」がオープン。“日本のカクテル”とは、日本の酒と生産地の土壌や文化を指す“テロワール”をカクテルに反映したものではないかと考え、日本酒や焼酎、国産スピリッツのほか、日本のお茶や器を採用し、各地のテロワールを取り入れながら、洋酒とブレンドするなどした新たなカクテルの提供を始めました。
 23年、ウクライナ危機を契機に、食品だけでなく肥料や飼料までもが海外に依存していることの危うさを、日本国民の誰もが身を以って感じたこの年、国産品を育成し、増やしていこうという機運が高まり、[日本テロワール]は、国産主義のひとつの動きとして多方面で盛り上がりを見せました。
 今回、[和味]に関連するトレンドキーワードを振り返り、それが、20年を超える時の流れを感じさせないほどみずみずしく、生っぽいことに、私自身、驚いています。日本の食の原点が、風土と国民性に大きく根ざしている証かもしれません。ともあれ、[和味]はさまざまな適応性を見せながら、これからも世界中に拡散し、浸透していくのかもしれませんね。

過去にも登場した今年のトレンドキーワード-3[和 味]-3

(前号に続く)

 今年のトレンドキーワードのひとつ、[和味]。その魅力は時に、海外から教えられることも少なくありません。
 「寿司・刺身」「天ぷら」「うなぎ」「焼鳥」など、今では世界スタンダードになっている和食。2014年、日本酒や和菓子はもちろん、“弁当”というスタイルまでもが海外において独自に進化。いずれ日本に逆輸入されるかもしれない和味を、[新和食]というキーワードで紹介しています。例えば、米国・NYでは、ユダヤの伝統料理に和食の要素を加えた斬新な創作料理店がオープン。ユダヤ人シェフと日本人シェフが作る創作料理と日本酒の組み合わせが人気になりました。フランス・パリの高級ホテルでは、前菜、主菜、デザートのコース料理を重箱のような黒い弁当箱スタイルで提供。パリっ子たちの評判を呼びました。15年、世界的[和食人気]は深化を伴いながら拡散。料理そのものではなく、日本の食の繊細さ、芸術性、理に適った奥深さに惹かれる外国人が増え、和食に対する評価はゆるぎないものになったのです。
 この2年間で印象深いのは、14年に[UMAMI]、15年に[だしブーム]というキーワードが登場したことです。ヘルシー志向を受けてバターやクリームの使用を控えるムードが料理界で高まる中、ジョエル・ロブションやフェラン・アドリアなど先鋭的なシェフが鰹節や昆布のうま味で素材の持ち味を引き出す調理法を探求。だしとうま味の存在が、世界で認知され始めました。
 そして日本では。鰹節ならぬ“鴨節”や“鶏節“、貝だしなど新しいだしの世界が広がり、若者の間でだしが注目されました。冷えただしをつまみに日本酒を味わうバーや、昆布だしがベースのスープが楽しめるスープスタンドが登場。顆粒タイプのだしの味で育った若者にとって、丁寧に引かれただしの味は生まれて初めて出合う驚きの味だったようで、若者が日本伝統のだしのおいしさを再発見したことがブームの源泉になっていました。(次号に続く)

過去にも登場した今年のトレンドキーワード-3[和 味]-2

(前号に続く)

 今年の[和味]スイーツの特徴は、なぜか“みたらし”。チーズタルトやマドレーヌ、フィナンシェなどフランス菓子にみたらしを合わせた“和洋折衷スイーツ”が目立ちます。
 洋のスイーツに、酢やしょうゆ、みそといった和の調味料が使われ始めたのは、2000年代中頃から。私は、煮物に調味料を加える順番“さ(砂糖)、し(塩)、す(酢)、せ(しょうゆ)、そ(みそ)”になぞえて[さしすせそイーツ]というキーワードを付けました。04~05年にかけて酢ブームが起こったとき、酢を使ったスイーツ[酢イーツ]が登場。07年には塩ブームが起こり、スイーツに塩をアレンジした“塩キャラメル”“塩プリン”など[甘じょっぱ系スイーツ]が人気になりました。08~09年にかけては、しょうゆを使ったスイーツが続々と登場。そして09年には、みそやウスターソースを使ったスイーツが現われました。10年は、酒粕を使ったケーキやトリュフチョコレート、ベーグルなどが誕生し、ちょっとした“酒粕スイーツ”ブームが来ています。
 因みに、08年は若い男性の“甘党化”が進んだ年。私は[甘党オトコ]というキーワードを付けました。“男が、甘いもの?癒やされたい?”の昭和の固定観念が一変。職場で菓子を食べることに抵抗がなくなり、ボトル入りのチョコで疲れを癒やしたり、リッチなプリンを自分ご褒美にしたりする若年層の男性が急増。コンビニ各社も、男性向けスイーツ商品の開発に力を入れました。10年になると、昼休みや仕事帰りに、デパ地下で和菓子を買い求めるビジネスマンの姿が目立つように。コンビニでも、帰宅途中に和菓子を購入する若い男性客が増え、[和菓子回帰]が起こります。理由は、[保守消費]。“パティシエ・バブル”がはじけ、おしゃれで分かりづらい高価なスイーツよりも、団子や饅頭といった昔ながらの分かりやすくて安価な和菓子がいいとなったのです。
 そして東日本大震災の翌12年。[癒やしニーズ]が一層強くなり、[neo和菓子ブーム]がキーワードに。定番の和菓子に加え、そこに洋風のアレンジが加えられたり、定番同士を掛け合わせて新しい和菓子が提案されたり。安価な和菓子に“意外性と驚き”という要素が求められ、“定番+α”の[neo和菓子]が注目されました。(次号に続く)

過去にも登場した今年のトレンドキーワード-3[和 味]-1

 3回目は[和味]。弊社のトレンド相関図では、これに関連するキーワードが2003年から登場しています。日本の風土に根付き、海外での評価も高まる一方の“和の世界”。4回にわたり紹介したいと思います。奥深いが故のことと、ご容赦ください。
 和の要素がポイントになり魅力が増す“折衷料理”や、和の味そのものを深化させた料理など、日本の食の伝統的な文化や風味、日本テロワールを感じさせる[和味]の世界が広がっています。最近では、ペルーで日系人の飲食店が提供してきた、みそやうま味調味料といった隠し味、高い調理技術が評価され、「ニッケイ料理」への関心が高まっています。米国では、ごま油や、みそなどの発酵食品を使った“UMAMIカクテル”が人気に。フランスでは、パリ・ブレストやモンブランのような見た目の“進化系どら焼き”が登場しています。
 一方、日本においては、だしや和の調味料を加えたカレーや麻辣湯の専門店がオープンしたり、ホテルのレストランが、発酵、乾燥、塩蔵といった伝統的な技法で生まれた日本の保存食を米国の料理に組み合わせたディナーコース“UMAMI FUSION”を企画したり。チーズタルトやマドレーヌ、フィナンシェなどフランス菓子に“みたらし”を合わせた、“和洋折衷スイーツ”も目立ちます。
 洋のスイーツに[和味]を加えたデザートを[創作和スイーツ]というキーワードで最初に紹介したのは03年。背景には、[和カフェ]ブームがありました。抹茶や煎茶と一緒に提供されたのが、栗の甘露煮を添えた“和風パンナコッタ”や“和風クリームブリュレ”。京都ロイヤルホテル(当時)では、伏見の銘酒と西京みそを使ったムースに丹波産の小豆をトッピングした洋菓子“京三昧”が顧客を惹き付けました。
 次は07年、キーワードは[和テイスト]。日本ケンタッキー・フライド・チキンが、焼き海苔とごまをまぶし、しょうがじょうゆで味付けした“香り揚げ醤油チキン”や“湯葉と野菜のスープ”を、ロッテリアが“もみじおろしバーガー”を、ベッカーズ(当時)が“つくねバーガー”を発売するなど、ファストフード各社は和の味わいを生かしたメニューを強化しました。またタリーズコーヒージャパンが、抹茶系ドリンクと相性がよい和デニッシュを導入。有名パティスリーでは、山椒風味のパンナコッタやわさびを入れたほろ苦い抹茶ムースが、片や老舗の和菓子店では、梅酒や八ツ橋を加えたソフトクリームが人気でした。(次号に続く)