秋の魚とカニの話

 魚好きの私にとって、初秋のサンマ豊漁の便りは何にも代えがたい喜び。大根のすりおろしも苦ではありません。“慌てる乞食は貰いが少ない”。秋も深まったほうが脂がのって丸々太った・・・。と、時期を見定め意気揚々とスーパーへ。が、期待に反して細くて小ぶりなサンマばかり。期待し過ぎで錯覚を起こしているのかと思いきや。どうやら、8、9月のサンマの水揚げ量は、合計約2万8500トンで、前年同期比2.4倍増。この時期、サンマの群れがたまたま北海道の東寄りを泳いできたからなのだとか。サンマの漁獲高は復活したわけではなく、専門家によれば、今年も決して豊漁ではなく、昨年並みの低水準と予想していたようです。
 11/6、ズワイガニ漁が解禁されました。今年は調査を始めて以来の大漁が見込まれているそう。カニ好きな人にとってはこの上ない朗報です。がしかし、今後は獲れる数が減ってしまう可能性があるといいます。理由は、少子化。小さいカニが少ないことが分かっていて、約3年後にはズワイガニの量が減り始める可能性があるといいます。因みにオオズワイガニは、天敵となるタコが毒性のあるプランクトンの増殖により逃げてしまったとかで、大大豊漁。1パイ千円を切る安さで売られています。
 一方、秋サケの漁獲量は年々減少。国内漁獲量の9割を占める北海道で前年同期比7割減。卸値は同3倍で過去最高値となっています。当然、サケの卵、イクラも最高値。おせち料理を彩り、インバウンドに人気の海鮮丼にはなくてはならない食材だけに、影響は少なくありません。
 海洋環境の変化により、「獲る漁業」は難しくなっていますが「育てる漁業」は養殖技術の研究が奏功し、供給量が年々増加しています。魚種ごとの養殖割合では、うなぎは100%、マダイは80%、クロマグロは70%、ブリは50%。高値で販売できる魚種、育てやすい魚種においては、養殖魚の比率が高まります。一方、サケに関しては、高い海水温や青潮と呼ばれる水質悪化でサケが故郷の川に帰れず、稚魚放流用の卵確保にも苦戦。「育てる漁業」の継続も難しいといいます。

“焼かない”戦略

 9月、“焼かない”うなぎ屋「鰻次郎 神楽坂 UTSUROHI」がオープンしました。うなぎを刺身、炙り、しゃぶ炊きで提供。メインは“鰻しゃぶコース”。〆は“白い鰻丼”。合わせるのは、日本酒と白ワイン。皮の焼き目やたれの香ばしさとは無縁な白いうなぎワールドです。
 6月、“焼かない”サムギョプサルの提供を始めたのは、東京・恵比寿の「SONON」。マリネした豚バラ肉を低温の油でじっくりと火入れするコンフィ調理により、余分な脂が落ち、質感は驚くほどなめらかに仕上がるとか。鉄板焼きのようなギトッとした脂感や焦げたにおいはなく、軽やかな仕上がりでナチュラルワインと絶妙にマッチするとアピールします。
 昨年12月、“焼かない”ハンバーガー“極上生ハンバーガー”の提供を始めたのは、「9Hamburger & Dining Bar」(東京・東田端)。低温調理により適切な温度調節で中心部までじっくりと火入れを行ったパティを、焼かずにサンド。焼かないことで生の肉に近い味わいと食感、噛むほどに広がるうま味が楽しめると言います。
 一方、“焼かない”焼肉で販促をかけたのがエバラ食品工業。今年3月、“豚バラ焼肉ジャーキー”“豚キムチジャーキー”の販売に合わせ、焼肉や豚キムチといった肉料理の味を手軽に楽しめる商品として訴求しています。
 過去をさかのぼると2014年、山崎製パンは「パサつく」「トーストする気にならない」などの理由から、食パンを敬遠する人が多くなる夏に向けて、主力の食パンで“焼かずに食べる”という戦略を展開。通常商品よりも薄い“ロイヤルブレッド 10枚スライス”を発売しました。トーストしなくてもいいようにしっとりとした食感に仕上げた商品で、スーパーの店頭で、唐揚げなどの惣菜をはさんで食べる“ワンハンドサンド”を提案しました。
 通常、焼く料理を“焼かない”、“焼かない”から別のおいしさが・・・の流れは驚きを誘い、興味をかき立てます。そして昨今の夏の酷暑。“焼かない”戦略は、新たなニーズを刺激すること間違いないでしょう。

検索レシピのトレンド?

 クックパッドによると、学校、幼稚園や保育園の給食、外食チェーン店のメニューの再現レシピ検索数が増加しているとのこと。それぞれに理由があります。
 給食の場合は、「今日の給食おいしかった」の声や保育園では食べているのに家では・・・といった子どもの反応がきっかけになるとか。給食がおいしく感じられ、給食なら食べられる理由は、皆で同じものを食べるから、解放感のある時間だから、間食できず空腹だからなど、家庭とは異なる給食ならではの環境が影響していることは十分に想像できます。とは言え、給食の料理や味付けが気になる保護者がいてもおかしくありません。加えて、食品価格の高騰が続く中、栄養面も加味した“やりくり術”を見習いたいという気持ちも。資格を持った栄養教諭の苦心の策を手軽に取り入れられるのですから当然です。因みに、「給食」との組み合わせ検索頻度の上位は、“春雨サラダ”と“わかめごはん”とか。
 一方、外食チェーン店の場合は、外食価格の値上げで、飲食店での食事を控えるようになった生活者が、外食気分を楽しむのが目的のようです。人気のメニューは、ファミリーレストラン「サイゼリヤ」の代名詞とも言える“ミラノ風ドリア”を真似た“ミラノドリア”や、ステーキハウスチェーン「ペッパーランチ」の看板メニュー“ビーフペッパーライス”に似せた“ペッパーランチ風ライス”といったメニューとか。手に入りやすい食材、シンプルな調理工程、子どもも楽しめる分かりやすい味が支持される理由のよう。
 何をか言わん。食は、時代を正確に、しかも端的に映す鏡です。

日本の“木の香”が世界を魅了する日

 ここ数年、私は講演で、日本のヒノキやスギ、ヒバなどの木が、ワサビやユズのように世界にアピールする“和の香り食材”になるかもというお話をしてきました。
 2022年、「羽田ブルワリー」(東京・大田)が、東京の森林をボタニカルに使用したクラフトジン“BathLabGin(バスラブジン) #002奥多摩の香り”を販売。ジュニパーベリーをベースに、メインボタニカルとして東京多摩地域、青梅産のスギやヒノキを採用しています。
 23年、「山伏」(同・目黒)は、全国の里山に眠る植生の可能性の発掘を行うブランド“日本草木研究所”から、世界遺産、高野山の伝説の6つの木の香りが口中に広がる炭酸水“高野六木炭酸”を数量限定で発売。[高野六木]とは、高野山で寺院や伽藍の建築や修繕のため大切に育てられてきたスギ、ヒノキ、コウヤマキ、アカマツ、モミ、ツガの総称で、これら6つの木は、高野山の宗教と自然の密接な繋がりを語るうえで欠かせない象徴として、21年には日本農業遺産に認定されています。同品は、高野山の森深く巡り深呼吸した時のような圧倒的な“森林感”を味わえるのが特徴です。
 24年、新たな食文化を発信する銀座「FARO(ファロ)」のシェフパティシエ、加藤峰子氏は、国土の7割を覆う森林に日本のアイデンティティがあるはずと考え、木の微粒粉を生地に練り込んだスイーツの提供を始めました。
 そして25年、「松葉屋」(同・千代田)は日本の伝統文化である盆栽を世界に発信するブランド“TRADMAN’S BONSAI”から、クラフトジン“TRADMAN’S 松葉ジン”を発売しました。松葉を茶葉として使用する“松葉茶”の香りと効能に着目し、クラフトジンという新しい形態でプロデュース。スッキリとした飲み口の中に、松特有の奥ゆかしく凛とした香りが静かに立ち上がる、盆栽に込める“余白”や“静けさ”の美意識を表現したクラフトジンとアピールしています。
 日本の森林資源が、“香り”や“スパイス”といった新たな分野で世界に発信される日が楽しみで仕方ありません。