キッチンは、私にとっては心落ち着く場。そして、ここに集う調理器具や食器は、みんな自分と縁を紡いだ旧友たちです。
最も長い付き合いの鍋は46年前、学生時代に購入した【アルミの片手鍋】と【ソトワール(外輪鍋)】、【アルミの大きな両手鍋】。片手鍋はよく使ったので底が膨らんでいますが、ソース作りや煮込み料理に大活躍ですし、ソトワールは肉のソース煮や煮魚に。両手鍋は、麺や青菜をゆでるときに欠かせません。たっぷりの熱湯でゆでると再沸騰までの時間が短くなり、おいしくゆであがるから。学生時代に染みついたこの鉄則が頭から離れません。確かに、昨今のほうれん草はえぐみ(シュウ酸)が少ないので、ラップに包んで電子レンジでもいいのでしょうが、それができないのだから、私という人間は面倒臭い。
高くても一生モノと、若い頃になけなしのお金で買った【打ち出しの雪平】。筑前煮や含め煮を作ると、“和の世界”にほっこりします。一緒に求めた【木製の落とし蓋】との息もぴったりです。ル・クルーゼの【マルチファンクション】。30数年前、会社を辞めたスタッフからお世話になったといただきました。使う度にイタリアに渡った彼女のことを思い出します。食材がくっ付きにくい【フッ素加工のミルクパン】。今は成人した息子を、バギーに乗せて保育園帰りに通ったスーパー。棚に並べられた“見切り品”に飛び付きました。
学生時代から使い込んできた木製の【スパチュラ】。少しずつ削られてはいますが、鍋隅までしっかりかけます。シリコン製の誘惑もありますが、今まで作ってきた料理の味が地層のように染み込んでいそうで別れられません。母から受け継いだのが【カツオ節削り】。みそ汁のだしに、納豆ご飯のうま味付けに、毎朝シュッシュッ。カツオ節の燻製香は、愛飲しているスモーキーなバーボンとの相性も抜群で、毎夜シュッシュッ。
忘れてはいけないのが、学生時代から使っている【砥石】。職人のように水をかけながら研ぎたくて。引っ越しをする度に流しの奥行きにぴったりの下駄を作り、そこに砥石を置いて研ぎます。これがすごくいい。友人たちに「作ってあげる!」と勧めますが、未だ受注は一件もありません。