“注文の多い料理店”。言わずと知れた宮沢賢治の童話ですが、そんなタイトルが浮かぶような話題が、この夏SNSをちょっと賑わせていました。
“ラーメン二郎府中店”が、X(エックス)に[最近、極端にゆっくり食べている方が増えまして、ロット乱れたりお店としても困っています。お食事は「最大」で20分以内にお願いします](原文ママ)というコメントを、[御食事は20分以内で、御願い申し上げます。](原文ママ)と書かれた貼り紙の画像と併せて投稿したのです。これに対し、「高圧的」「威圧的」「そもそも量が多くて食べきれない」など二郎系の特殊なマナー(ルール)を非難する意見と、「店にも客を選ぶ権利がある」「イヤなら行かなければいい」と擁護する意見が対立しました。
このような店、少ないとは思いますが、私も経験しています。例えば先日伺った、フレンチ出身のシェフが店主のラーメン店。冷水ポットには[飲み切れる量を注ぐ]、店内には[食事中に歩く子どもはご遠慮したい]など張り紙だらけ。サービスの女性も、店主もぶっきらぼう。ネットの口コミには、「子どものささいな行動に嫌な顔をされた」「貼り紙の内容に気分を害した」などアンチの意見も少なくありません。また、その土地で人気のラーメン店は、グルメサイトに掲載された客の意見に対して堂々と反論。「そのような意見もあるよね」「そうも言いたくなるだろう」という内容に対しても、「来ていただかなくて結構」、さらには「あんたには魂胆がある」とまで。私も、麺の一部が固まっていて食べられず、サービス担当の方にその旨を伝えましたが、少なくともその場では、調理担当の店主には伝えられていませんでした。
以前、それとは知らずに二郎系に入り、“麺少なめ”でも食べきれず、何とか野菜とチャーシューだけは完食。「申し訳ありません」とお詫びをし、すごすごと退散した経験があります。ラーメン店に限らず、飲食店に暗黙のルールがあることは珍しくありません。それを肯定して守れる人、肯定しないまでも、それでも食べたい人が客になればいいというのが私の考えです。ただルールを強制する店側が不機嫌なのはどうかと。表情と態度で客をコントロールするのだけは止めていただきたいと思うのです。
月: 2025年9月
ダチョウ肉人気再々々々燃?-2
(ダチョウ肉人気再々々々燃?-1に続く)
2006年のトレンドキーワード【ローファットミート】の中では、ダチョウやカンガルー、ワニ、イノシシなど約10種類の珍しい動物の肉をイタリアンにアレンジした料理が人気の飲食店を紹介。低カロリーで鉄分が豊富な“ダチョウのカルパッチョ”が美容と健康に関心が高い女性に好評でした。07年には、大阪のフード屋台「近江商人Jr.」が、玄米入りのバンズでダチョウ肉のハンバーグをはさんだ“ダチョウバーガー”を提供したり、東京農業大学内で販売された、エミューの卵で作った生どら焼きが名物菓子になったり。08年には、牧場並木屋(埼玉・新座)がダチョウの卵でシャーベットを作り、09年には、北海道・芽室のダチョウ観光牧場が、ダチョウの卵を使った口溶けのよい生キャラメル“ダチョウ卵生キャラメル”を発売しました。
14年、東京や大阪のフレンチやイタリアンのメニューにダチョウ肉が採用され、国産ダチョウ肉が品薄状態に。翌15年、愛知・犬山のテーマパーク「野外民族博物館リトルワールド」で開催された、世界各国の珍しいスイーツを揃えたイベント“スイーツEXPO”で、ダチョウの卵の殻を器に使った “ダチョウの卵プリン”が販売され、何とか手に入れようという人々で“ダチョウダッシュ”なる現象が起きました。19年には、ダチョウの卵黄に含まれる免疫力を強化する成分を配合した、キャンディとグミが発売されています。
飛んで24年。「吉野家」は、ダチョウ関連の事業を本格的に開始。“オーストリッチ丼〜スープ添え〜”を一部店舗で限定販売。子会社の茨城県にある牧場で育てたダチョウ肉のロースト、保湿効果のある脂を利用した美容オイル・クリームなどのオンラインでの提供を開始しました。25年に入り、ダチョウ料理を全面に押し出す日本料理店が東京・赤坂にオープンしています。
ダチョウ肉は、赤身でヘルシー、しかもうま味が強いのが特徴。骨からはだしがとれ、羽も皮も脂も無駄なく活用でき、飼育するうえでの環境負荷も低い、まさにサステナブルな食肉。加えて、飼育についても研究が進み、育成率が9割近くまで向上したとか。一方、羊肉は、肥育が難しいうえに繁殖能力が低く、自給率は未だ1%未満。第4の肉の主役は、ダチョウ肉なのかもしれません。
ダチョウ肉人気再々々々燃?-1
ダチョウ肉が再び脚光を浴びているとか。もう何度めかのプチブームです。今回と次回の2回に渡り、ダチョウ肉を含めたヘルシーミートのブームについて、過去の情報を振り返ってみましょう。
【食のトレンドキーワードの相関図】を紐解くと、2005年、【ヘルシー志向】から派生するキーワード【羊肉】の中でダチョウ肉が登場しています。当時ダチョウ肉は、鶏肉、豚肉、牛肉に続く第4の肉として羊肉、馬肉とともに注目されました。情報番組は、ダイエットに最も効果的なのは筋肉を付けることだと紹介し、男性だけでなく、女性にも筋肉志向が広がり始めました。佐賀県伊万里市では、クジラと似た食感から“鳥くじら”と呼ばれ、ダチョウ肉の刺身“鳥くじらの刺身”を提供する飲食店が話題になり、南信ネットワーク協同組合(長野・飯田)が運営するネット通販サイト“チョッとお寄りて南信州”でも、オーストラリアやニュージーランド産のダチョウ肉「オーストリッチミート」が人気でした。残念ながら前者はメニューから消え、後者はサイトがなくなり現状は分かりません。
翌06年には【ローファットミート】というキーワードに。脂が少ないヘルシーな肉は、「アスリートミート」とも呼ばれました。ボディビルダーにとって余分な脂肪は無用。質のいい筋肉だけを求めて鶏のササミやノンファットのツナなど脂が少ないタンパク源を積極的に摂取するため、そう呼ばれていたのです。当時すでにポスト羊肉として、ダチョウ肉や馬肉、カモ肉も国産品の売り上げを伸ばし、ダチョウ飼育業者の道下建設飛騨高山オーストリッチ(岐阜・高山)には、問い合わせが急増。ダチョウ肉を取り入れる飲食店が増え、注目度は着実に高まっていました。さらに北海道網走支庁は、海産物と並ぶ知床の名産品にしようと東京農大と協力。オーストラリア原産のダチョウに似た鳥“エミュー”の売り込みに取り組んでいました。エミューはダチョウに次ぐ世界で2番目に大きな鳥で、生命力が強く、寒暖の差に強いため北海道での飼育が可能です。この事業は、現在も肉や卵、オイルなどの活用に関する研究が継続されています。
この間、第4の肉が注目された背景には、鶏インフルエンザや豚コレラ、BSE問題など食肉に対する不安感、牛肉偽装といった食肉加工業界への不信感が、間違いなくありました。
オーバーツーリズム禍で進む“泊食分離”
食事を提供しない宿泊施設が増えています。ビジネスホテルならいざ知らず、老舗の宿も、その土地ならではの食事の提供を次々に止めているとか。例えば京都でも、素泊まりのみのプランを用意したり、朝食のみを提供したり。京都に来たら和食を堪能したい、お風呂にゆっくり浸かって、日本酒をいただきながら懐石料理に舌鼓を打つ。朝は朝で、炊き立てのご飯や粥に、湯葉や焼き魚、香の物などが並ぶ静かな朝食の光景が浮かび、“いい旅を”と伝えたい気分です。が、そうではないよう。
オーバーツーリズムが問題になるほどインバウンドが活況の京都でなぜ今、料理の提供を止めるのでしょうか。その理由のひとつは、選択肢がいろいろあるから。日本に来て楽しみたい食べ物は、懐石料理や寿司、和牛以外にも、ラーメンやカレーライス、コンビニ商品などなど多岐に渡ります。滞在期間中にいろいろな日本食を楽しみたいと思えば、懐石料理は1度や2度で充分という気持ちも分かります。加えて、昨今の調理人不足。老舗ほど板長が老齢化。人選は混迷を極めます。さらには、突然“食事はいらない”というインバウンドの気まぐれやわがままに対応し切れないという理由もあるよう。
そんな中、京都の飲食店は、朝食を外食したいインバウンドの集客を狙っています。お盆いっぱいに18種類もの点心の小鉢が並ぶ香港粥店、注文を受けるたびに器から蒸して仕上げる薬膳スープを提供するモダンスタイルのタイ料理店、北イタリア・ロマーニャ地方の薄く焼いた生地に生ハムやベビーリーフをはさんだ“ピアディーナ”を提案するイタリアンバールなど、早朝から賑わっているといいます。東京でも築地場外市場エリアで、精肉のプロが和牛の魅力を込めた“肉屋の朝食御膳”を朝8時から提供しています。
宿泊と食事を分けて楽しむ“泊食分離”の傾向が強まる中、宿泊・外食市場においては、インバウンド施策がさまざまな展開を見せています。