オーバーツーリズム禍で進む“泊食分離”

 食事を提供しない宿泊施設が増えています。ビジネスホテルならいざ知らず、老舗の宿も、その土地ならではの食事の提供を次々に止めているとか。例えば京都でも、素泊まりのみのプランを用意したり、朝食のみを提供したり。京都に来たら和食を堪能したい、お風呂にゆっくり浸かって、日本酒をいただきながら懐石料理に舌鼓を打つ。朝は朝で、炊き立てのご飯や粥に、湯葉や焼き魚、香の物などが並ぶ静かな朝食の光景が浮かび、“いい旅を”と伝えたい気分です。が、そうではないよう。
 オーバーツーリズムが問題になるほどインバウンドが活況の京都でなぜ今、料理の提供を止めるのでしょうか。その理由のひとつは、選択肢がいろいろあるから。日本に来て楽しみたい食べ物は、懐石料理や寿司、和牛以外にも、ラーメンやカレーライス、コンビニ商品などなど多岐に渡ります。滞在期間中にいろいろな日本食を楽しみたいと思えば、懐石料理は1度や2度で充分という気持ちも分かります。加えて、昨今の調理人不足。老舗ほど板長が老齢化。人選は混迷を極めます。さらには、突然“食事はいらない”というインバウンドの気まぐれやわがままに対応し切れないという理由もあるよう。
 そんな中、京都の飲食店は、朝食を外食したいインバウンドの集客を狙っています。お盆いっぱいに18種類もの点心の小鉢が並ぶ香港粥店、注文を受けるたびに器から蒸して仕上げる薬膳スープを提供するモダンスタイルのタイ料理店、北イタリア・ロマーニャ地方の薄く焼いた生地に生ハムやベビーリーフをはさんだ“ピアディーナ”を提案するイタリアンバールなど、早朝から賑わっているといいます。東京でも築地場外市場エリアで、精肉のプロが和牛の魅力を込めた“肉屋の朝食御膳”を朝8時から提供しています。
 宿泊と食事を分けて楽しむ“泊食分離”の傾向が強まる中、宿泊・外食市場においては、インバウンド施策がさまざまな展開を見せています。