食市場のトレンドは“キャンセル界隈”の集合体?

 “キャンセル界隈”。ある行動を意図的にしない人たち、またはその行動やそれに関連する話題を指すネットスラングだそう。最近、話題になったのはお風呂に入らない“風呂キャンセル界隈”。ほかにも、“外出キャンセル界隈”“ご飯キャンセル界隈”“睡眠キャンセル界隈”などいろいろ発生しています。“界隈”を付けることで眉をひそめられそうな“〇○キャンセル”に関してある一定以上の仲間が存在していることを匂わし、自己肯定しているように感じられます。
 最近よく聞かれるのが、“コンロキャンセル界隈”。コンロがあっても使わず、電子レンジや電気ポットなどの調理家電のみで料理を済ませる人たちのこと。汚れるのがイヤ、掃除が面倒という理由でコンロがあっても使わない一人暮らしの若者が増えている実態は、2009年のトレンド講演でも[レンジ調理]というキーワードの中で紹介しています。[お手軽志向]が広がる中、電子レンジでカンタンに料理ができる加工食品が次々と開発され、人気になりました。その中には、電子レンジはあっても、鍋ややかんはないという一人暮らしの若者をターゲットにした商品も登場しています。
 日清食品は08年秋、電子レンジで調理する「カップヌードルレンジ」シリーズを発売しました。水を注ぎ、電子レンジで5分半温めるだけで食べられます。当時の“コンロキャンセル界隈”は、電子レンジで水を温めてカップ麺を作っていましたから、電子レンジで加熱できる商品は、さぞ画期的だったことでしょう。
 コンロの設置場所を収納スペースに転換した賃貸住宅や、取り外し可能なバスタブを備えたバスルームの提案など、住宅市場は“キャンセル界隈”対応を急ぎます。食市場にも、“キャンセル界隈”は過去から現在に至るまで、次々に誕生しています。今年のキーワードを例にとるなら[調理休活] →“調理キャンセル界隈 = 調理を休みたくなるときはいつだって誰にだってある!”。[背徳ウェルビーイング] →“ヘルシーキャンセル界隈 = 背徳しているけれどそれは心の解放!”。そんな眉をひそめられそうな生活者の“心の叫び界隈”で成り立っているのが、食市場なのかもしれません。