マグロ、完全養殖から短期養殖へ

 今年2/2、日本経済新聞の見出しに驚きました。「マグロ完全養殖 ほぼ消滅」。完全養殖によるクロマグロの商業生産がほぼ消滅する見通しという内容です。マルハニチロが2025年度の生産量を前年度比8割減らすほか、ニッスイは一旦停止、極洋は完全養殖の子会社が債務超過に陥り24年に解散しました。
 トレンド情報でも講演でも取り上げた「近大マグロ」。近畿大学が32年の歳月をかけ、02年に世界で初めて完全養殖に成功したクロマグロ食べたさに、グランフロント大阪にオープンしたばかりの「近畿大学水産研究所」に馳せ参じたことを思い出します。
 完全養殖とは、人工ふ化させた卵から親魚を育て、その卵を再び人工ふ化して育てる持続可能な養殖法。天然の稚魚を捕獲する必要がなく、マグロ資源の減少を防ぐことができます。海外での寿司ブームを背景にマグロの価格が上がり、他国による乱獲や日本の買い負けが危惧されていたタイミングでの完全養殖成功の話。夢の技術として投資が活発化し、おいしいマグロが安定した価格でいただけると市場は大歓迎ムードでした。
 それがほぼ消滅とは。理由は、資源量が回復していることに加え、エサ代や人件費など生産原価が高騰しているため。そして昨今、完全養殖に代わる方法として注目されているのが、短期養殖です。天然の成魚を捕獲し、“数カ月”だけいけすで太らせて出荷する養殖法で、通常のマグロ養殖の場合、天然の稚魚を出荷できるまでに成長させる期間は3~4年。卵からふ化させる完全養殖では5年かかりますから、養殖期間が少ない分、コストが抑えられます。
 とはいえ、またいつマグロが獲れなくなるやも知れず。マルハニチロは「完全養殖は絶対にやめない」と言います。一度撤退すれば再開に10年はかかるから。一方、近畿大学は、成長が早い稚魚の研究、早く成長させ、天然資源に依存しないエサの開発、成魚の生残率の向上と魚体の変形防止への対策など、完全養殖の課題解決に向けた研究を強化しています。マダイやヒラメ、シマアジ、サーモンの養殖では、完全養殖が主流だとか。目の前に流れる寿司ネタの事情を少しでも知ると、愛着がわくから不思議です。