味を決め、記憶に残す。[香り活用]

 2026年食市場のトレンドキーワードのひとつに挙げた[香り活用]。香りは、人間の感情や情緒を豊かにし、時にはコントロールするほどの力を持っています。それは、嗅覚情報が脳の感情や記憶を司る領域に直接伝わるという、他の感覚とは異なる特別な神経経路を持つためです。これを利用して、顧客の記憶に深く刻み込むことも可能で、よい印象を与えられれば好感度が高まるなど、大きな販促効果が期待できます。実は、香りを含めた[五感消費]および香りに特化したキーワードは、07年からなんと11回登場しています。[癒やしニーズ]が強まったときに多く登場し、香りが精神の安定に強く結びついていることが分かります。
 今年、[香り活用]を戦略として展開しているのが丸美屋食品工業です。香りにこだわった新ブランド「香りを楽しむふりかけ」を立ち上げ、今年2月、「スモークサーモン風」「牛トリュフ甘辛醤油味」の2種を発売しました。“香り”に特徴を持たせた新感覚のふりかけで、スモークサーモンの香りを付けたオイルを最後に回しかける“香り後がけ製法”や、フレーバーオイルを乳化、乾燥させて直径数ミクロン程度の小さな粒に閉じ込める“香り閉じ込め製法”などを採用。香りを際立たせるさまざまな工夫をし、商品に新たな価値を与えています。さらに8/6、新ブランド「香る炊き込み」シリーズから「山椒香る炊き込みごはんの素」「柚子香る同」を発売しました。上品で心安らぐ和の香りを手軽に楽しめる、“香り”を主役にした新しい切り口の商品として開発。香りと味のバランスを追求して何度も試作を重ねたといいます。
 一方、味の素は8/22、中華合わせ調味料「Cook Do(クックドゥ) 極(プレミアム)」シリーズから「華辣(ホアラー)麻婆豆腐用」を発売します。購入者の調査で、鮮烈な辛さやシビレによる高揚感だけでなく、落ち着いて香りに包まれながら満たされたいというニーズも分かったことから、華やかな香りと奥深いコクが特徴の“華辣”を提案します。
 おいしさの8割は嗅覚由来と言われ、特に食べ物や飲み物を味わうとき、のどの奥から鼻腔へと抜ける香り“レトロネーザルアロマ”が大きく関係します。味を決め、記憶に残す“香り”の魅力は、食市場でもっと生かされていいのではないかと思います。

日本オリジナル!? 菊形のマドレーヌ

 最近、お菓子作りを再び始めました。実家じまいをしたときに持ち帰った製菓道具は、小学生から高校生にかけて、一時期はそれこそ寝食を忘れて夢中になっていたときに使っていたものです。
 パイやケーキの型に残る焼き焦げやキズが、当時を思い起こさせます。中でも20個ほどある鉄製のマドレーヌ型は、お菓子作りを始めたばかりの頃によく使っていたもの。グラシン紙をかぶせて生地を流し込んで焼きます。グラシン紙には欧文の古い書体で“madeleine”と印刷されていて、フランスもイタリアも、何なら米国も一緒くたのイメージしか持てなかった頃、その文字が飛び切りおしゃれに感じたものです。今では、マドレーヌと言えば貝殻の形が一般的ですが、昭和の時代は周りが波になっている丸い菊の形に象徴されていました。デパートや町のケーキ屋さんで売られていたマドレーヌも、皆同じ形です。
 なぜ今は貝殻形で昭和は菊形なのでしょう。AIによると、聖ヤコブの象徴であるホタテ貝の形を、巡礼者を労うお菓子に用いたという「巡礼者のシンボル説」や、考案者とされる少女マドレーヌが、厨房にあった本物の貝殻に生地を流して焼いたという「本物の貝殻を使った説」など諸説ある中、最も有力なのは、中世にキリスト教の聖地を目指す巡礼者たちが道中でホタテ貝をお守りや食器として持ち歩いていたことや、発祥地ロレーヌ地方が巡礼路の途中だったためホタテ貝を模して作られたという説。ではなぜ、昭和は菊形だったのか。アーモンドを使うフランスの焼き菓子「パン・ド・ジェーヌ」が日本に伝わった際、形や生地が似ていたマドレーヌと混同され、もともと日本にあった菊形の木型や金属型がマドレーヌを焼く型としても使われるようになったからとか。「パン・ド・ジェーヌ」は、周囲に波形の溝があるマンケ型で作るそうです(一社 日本洋菓子協会連合会HPより)。とはいえ、私は今だかつて「パン・ド・ジェーヌ」なるものを、食べたことも見たこともありません。この説、本当かしら?
 菊は天皇家の紋章。菊の形は、和菓子の型や和食器にも広く用いられています。因みに、菊形のマドレーヌは日本オリジナルとか。昭和の日本人である私は、鉄製の菊型でマドレーヌを焼き続けようと思います。

2019年軽減税率導入時の外食・中食事情

 2027年4月から2年間、食料品の消費税率を1%に引き下げる基本方針が閣議決定されました。思い起こせば19年。消費税率が8%から10%へ引き上げられた際、軽減税率が導入されました。外食店は、テイクアウトやデリバリーに活路を探り、さまざまな取り組みが展開されました。弊社は、[外食の中食化]というキーワードでそれらを紹介しています。
 当時、早々にデリバリー市場に参入した外食店の中には、売り上げの9割以上をデリバリーで占めるほどになった店も。成功例の多くは、家では作れない本格的な料理、冷めてもおいしい料理、サラダなどもともと冷たい料理を提供していた業態。精肉と野菜をアソートして“おうち焼肉”をサポートする焼肉店のサービスも人気になりました。
 中食市場のトレンドとして忘れてはならないのが、外食企業によるテイクアウト専門への参入激化。中でも、ワタミの「から揚げの天才」や吉野家ホールディングスの「からから家」、串カツ田中ホールディングスの初のテイクアウト店などなど、揚げ物専門店の進出が止まりませんでした。そのほか、今では地方にまで広がった“キッチントラック”、ウーバーイーツや出前館といった“食の宅配代行サービス”、実店舗も自前の配達システムも持たない“ゴーストレストラン”なども、軽減税率導入と翌年の新型コロナウイルス禍を追い風に急拡大したビジネスです。
 食料品の消費税1%が生活者に与える店内飲食の割高感は19年の比ではなく、[外食の中食化]が進むことは確実でしょう。すかいらーくグループなど大手外食企業は、既に中食強化の動きを始めています。因みに19年当時、すかいらーくグループは宅配の新システムを導入。過去の注文履歴をAIで分析し宅配需要を10分単位で予測するほか、配達ルートを最適化して配達時間の短縮化を図りました。過去の経験を踏まえたうえでの先手必勝戦略。メニュー開発も含めた27年の挑戦に今から期待しています。

サプリメント。錠剤ではなく食品から摂りたい日本人

 2015年4月に発売されたUHA味覚糖の「UHAグミサプリ」が10年越しのヒットを遂げているそうです。“美容と健康のサポート”“機能性表示食品”など 3カテゴリーから成り、26年5月時点で上市されている商品は29種類。美容や健康に関心があるものの、サプリメントを手に取るまでには至らない“ズボラ”な若年層に刺さったようです。私が講演でいつもお話しするのは、「日本人は栄養を食品や飲み物から摂りたいという意識が強い」ということ。サプリメント大国、米国のように錠剤で済ましたほうがラクなようにも思えますが、そうはいかないのが日本人です。
 例えば、コーヒーに機能性を付加した商品が多いこともその一例。ダイドードリンコが発売した機能性表示食品のスティック型インスタントコーヒー「スマートブラック」は、腹部の脂肪、食後血糖値、コレステロール対策という3つの効果が特徴。MEJ(東京・港)の機能性表示食品「C COFFEE PREMIUM」は、脂肪の分解を高めて肥満気味な人の体重や腹部脂肪を減らすのを助ける機能と、便通改善効果が報告されています。一方、サプリメントは「続けるのが難しい」「飲み忘れる」といった声があるのも事実。加齢によりぼやけた視界をくっきり改善し、低下する記憶力の精度向上をサポートすると謳う、ユメミル(福岡・福岡)の機能性表示食品「ひろがるコーヒー」は、コーヒーなら毎日欠かさず飲んでいる人が多いことから開発されました。
 今年トレンドキーワードに挙げた、[サプリウオーター]も同様の理由で注目すべきカテゴリーです。中でも、サントリービバレッジ&フードがトクホ茶ブランド「特茶」から発売した機能性表示食品「特水」は、トクホ・機能性表示食品がほとんど存在していない水カテゴリーにおいて、内臓脂肪の低減といった新たな価値を提案。特茶ブランドは40~50代の男性層がメインターゲットですが、特水は若い世代や女性にもよく飲まれているとか。
 ターゲットとニーズを分析するマーケティング力と、機能性成分を付加してもおいしく作り上げる技術力。両輪があってこその成功を象徴する話です。

常温で物流、保存、冷凍していただく食品

 7/13に発生したロシア系のハッカー集団によるサイバー攻撃を原因とするニチレイの大規模なシステム障害。ニチレイの冷凍食品が買えなくなるだけでなく、傘下の低温物流企業の影響が、日本KFCやくら寿司、多くのスーパーやコンビニ、生活協同組合の宅配サービスや学校給食にまで及んだことで、徹底した温度管理が求められる低温物流に頼っている食市場の現状と、その管理をコンピューターシステムが一括している危うさを初めて知った生活者も多いことでしょう。そんな中、これから注目されるかもしれないのが、常温で運び、常温で保存し、喫食時に冷凍する食品です。
 例えば、2020年、コロッケ(北海道・札幌)が発売した袋入りフルーツアイス「Pocco(ぽっこ)」は、完全無添加でフルーツを常温保存する技術を導入したことで、商品のポスト投函が可能に。冷凍庫で凍らせればアイスが楽しめます。友桝飲料(佐賀・小城)が24年に販売したのは、“凍らせて食べる”をコンセプトにしたゼリー状の清涼飲料水「凍らせる果実アイス」。冷凍車のチャーター代が高騰する中、常温で流通、保管できるアイスを作れないかとの思いから、購入した顧客自身が家庭の冷凍庫で凍らせて食べる商品を考案しました。今年3月には、一般社団法人瀬戸内麦推進協議会(香川・坂出)が瀬戸内産の“はだか麦”を使用したデザート「畑のジェラート」を発売。常温で保存でき、冷蔵庫で冷やせばムースのようななめらかな食感に、冷凍庫で凍らせればジェラートのようなシャリッとした食感になるとか。また7/20に上市されたのは、ドールがロッテと共同開発したパウチ入りフルーツアイス「Dole ムギュっとフルーツ」。常温で保存、冷凍庫で8時間凍らせればジェラートのようななめらかな口当たりのアイスとして味わえます。
 「食のトレンド情報Web」を覗くと、このほかにもさまざまな商品が挙がってきます。常温で物流、保存、食べたいときに冷凍。こんなに使い勝手がいいのに、なぜか注目されてこなかった商品の数々。日和見的と言われそうですが、試してみたいと思いませんか。