食品会社の“長引く夏”対策

 初物を食べると“新たな生命力を得ることができる”“75日長生きできる”など、縁起がいいとされる風習からか、日本人は先取りが大好き。食品会社やスーパーマーケットは、そんな生活者に向けて商品を提案し、販促をかけます。
 20年前、大手スーパーマーケットの仕事をしていたとき、過去10年間分のチラシを見比べて驚きました。52週マーチャンダイジングに倣ってか、同時期の紙面を賑わしている商品がほぼ同じ、違うのは値段だけです。9月第1週の提案は、“サンマ”と“炊き込みご飯”。暦の上では秋ですが、まだまだ残暑が厳しい。サンマはまだしも、炊き込みご飯を食べたくなるのかは、いささか疑問です。そこで私が提案したのが、“秋の素材を使った涼味”。気候変動の影響で、当時よりさらに過酷な残暑の秋を過ごさなくてはならない昨今。長引く夏に着目したプロジェクトが登場しています。
 夏と秋の間の暑い時期を新たに5番目の季節“まだなつ”と命名したのは、味の素。この季節を楽しく、快適に過ごしてもらうため、「五季そうさまプロジェクト」を始めました。プロジェクトサイトでは、「ほんだし」を使った “まだなつレシピ”を提案。まだなつの時期に出回る秋食材を、暑い日でも作りやすく・食べやすく調理したレシピや、マンネリ化しやすいそうめんなどの夏の定番メニューのアレンジレシピなどを紹介しています。
 明星食品も、“春夏夏”のキーワードを掲げ、暑くて長い夏向け商品のラインアップを充実させています。「明星 汁なし麺拡大戦略」として、「チャルメラ」ブランドの袋麺から、第4のフレーバー、「油そば」を新たに導入。また販売実績が今期7割増と好調な「ぶぶか油そば」は、各種プロモーションなどを実施してさらなる販路の拡大を図ります。

緑茶の新たな価値創造!?

 立春から数えて88日め、新茶の季節を告げる八十八夜。今年は5/1です。急須で淹れる緑茶の消費量が減少する中、飲料メーカーの緑茶展開には新たな傾向が見られます。
 伊藤園が「お~いお茶」ブランドから3/17に発売した若者向け「PURE」シリーズが、20~30代の若者や女性にウケて絶好調のよう。同シリーズは、“お茶の常識、すてましょう。”を合言葉に香りや甘みを楽しむ日本茶の新たなスタイルを提案。すっきりとした後味と爽やかな香りにこだわり、じっくりと抽出することで緑茶の甘みを引き出した「PURE GREEN」と、レモンの爽やかな香りが楽しめる「LEMON GREEN」の2種が揃います。
 一方、サントリーが提案するのは、ティーパウダーの「いちりんか」。お茶の研究を続けてきた同社が、まったく新しいおいしさを追い求め、“香り”にこだわって11年かけて作り上げた商品。新緑の森のように爽やかな香りの「香りふくよか」、蜜を想わせる甘い香りの「香りうっとり」など、気分やシーンに合わせて選べる6種類がラインアップされています。日本茶の繊細な香りを最大限に引き出し、さらに香味をパウダーに封じ込める新技術をゼロから開発。日本茶の複雑で豊かな香りを五感で楽しめる、“ネオ・ティーパウダー”と謳います。
 今年のスーパーマーケットトレードショーでは、フレーバーティーの提案がとても多かった印象があります。世界的にも、伝統的な茶文化と現代的なフレーバーの融合がトレンド。「PURE」シリーズの「LEMON GREEN」は、まさにそこを狙った商品です。一方「いちりんか」はあくまでも緑茶の豊かな香りにこだわった商品。そのこだわりを、現代の生活にマッチさせるため粉末に加工する過程において、かなりの技術と時間を費やしたことでしょう。6種類6本のトライアルセットは、1480円(税込)。1杯(100ml)およそ246円です。
 緑茶は、用途と好みで使い分ける嗜好品。おいしい緑茶を淹れていただいたときの有難さを思えば、高くはないのかもしれないし、粉末茶でそれが可能なのかとも思うし。とても試してみたい商品です。

タイパ志向でリバイバル? ワンハンドフード

 早く速くが求められている今、歩きながらでもさっと食べられる、ワンハンドフードがちょっとしたトレンドになっています。
 セブンイレブンは外出機会が増える春休みシーズンに合わせて3/25、片手で食べられる冷凍食品2品を数量限定で発売しました。皿にのせるのが“常識”のお好み焼きを片手でパクッと食べられるようにしたり、温めて食べるのが“常識”の今川焼きを電子レンジで冷たく仕上げる設計にしたり、“冷凍食品の常識を覆そう”をテーマに掲げています。
 一方、Hotto Mottoが提供するのは、人気のお弁当をワンハンドで手軽に味わえる“BENTOバーガー”シリーズ。“のり弁バーガー”は、おかか昆布の上に海苔をのせ、白身魚のフライ、ちくわの天ぷらを盛り付け、ソースで味付け。ひと口で海苔弁のおいしさを堪能できるといいます。
 大阪・関西万博に出展する飲食店では、会場を巡りながら食べられるワンハンドメニューを提供する動きも見られます。「ほっかほっか亭 MADE by HURXLEY」は、十六穀米を使ったご飯でおかずをサンドした“ワンハンドBENTO”を提供していますし、不二家は、“気軽に、好きなタイミングで楽しめる新たなスタイル”として“ワンハンドショートケーキ”を提案しています。
 2007年のトレンドにも、【ウォーキングフード】というキーワードでワンハンドフードが取り上げられています。丸く固めて焼いたラーメンの麺をパンに見立て、ハンバーグの代わりにチャーシューをはさんだ“麺バーガー”。スティックケーキやモチクリームなど、ワンハンドで食べられるひと口スイーツも流行りました。当時、北米で250店をチェーン展開していた、ピタパンを使ったサンドイッチ店「ピタピット」の日本1号店が、東京・千代田にオープン。ピタパンに、たっぷりの野菜、チキンやローストビーフなどを詰めて巻き込むように包むため、片手でも中身やソースがこぼれずに食べやすいうえ、栄養のバランスもよいと人気になりました。

ツンとした刺激が懐かしい

 ここ数年、積極的に酢飲料を飲む生活者が増えています。中でも人気なのは、健康によいイメージが定着している黒酢と果実酢。黒酢商品では、タマノイ酢のロングセラー「はちみつ黒酢ダイエット」や、果実酢では100%果実発酵酢から作られたCJジャパンの「美酢(ミチョ)」など、長く人気を誇る商品が多く、Mizkanやキユーピー醸造も、業務用を含めてさまざまな酢飲料を販売しています。
 今年3/25、Mizkanは30~40代男女をターゲットに、“気になるカラダまとめて対策飲料”と謳う機能性表示食品のビネガードリンク「NEW酢SHOT(ニュウスショット)」を発売しました。同社史上最大レベルの酢酸を配合したこの商品。酢酸には、血圧が高めの人の血圧を下げる機能、日常生活で生じる運動程度の一時的な疲労感を軽減する機能、肥満気味の人の内臓脂肪を減少させる機能があることが報告されています。酢愛好者が、性別、年代に関係なくどんどん広がっているようです。
 Mizkanが2009年に発売した「やさしいお酢」は、“ツンとこない”酢を目指して作られた酢調味料。鶏肉の煮物や魚の照り焼きに使うなど、今までの酢にはないレシピを提案し、酢を料理に使うことが少なかったターゲットの掘り起こしに成功。酢が苦手な人にも受け入れられてヒットしました。続いて登場した既存商品をリニューアルした「カンタン酢」は、今やMizkanの稼ぎ頭。20年には飲食店向けに「ぽん酢」を使ったアルコールドリンク“ぽん酢サワー”を提案するなど、酢の利用範囲も広げています。元々、日本古来の発酵食品であり、身体によいと言い伝えられてきた酢。ツンとしなければ万人受けするのは当然です。
 “子どもと男性は酢が苦手”。なんとなくそう思っている人も多いのでは。確かに、昭和時代の酢には、吸い込むとむせるような、ツンとした角がありました。まろやかな酢味もいいのですが、時には、キリッとした強い刺激が懐かしくなります。