2011年、東日本大震災の夏。食市場の酷暑対策―小売り業界

 2011年東日本大震災の夏、節電が叫ばれた食市場の酷暑対策。今回は小売り業界を取り上げます。
 イトーヨーカ堂は消費電力を減らしながらお客様に涼しさを体感してもらえるよう、視覚や嗅覚など「五感」に訴える節電マーケティングに知恵を絞りました。例えば、惣菜類の棚に敷くシートの色を、従来の暖色系から水色に変えて見た目の涼しさを演出。SDGsが求められる今も、生かせる知恵です。いなげやは、午前中の涼しい時間帯に買い物を済ませたい生活者が増えると予測。約90店舗で開店時間を30分~1時間早めています。またマルエツは、そうめんなどをアレンジした“涼感メニュー”に特化した売り場を展開したほか、見た目も涼しく飲み口も軽やかで需要が見込めるとして、ワイン売り場で“オンザロック”の飲み方を提案しました。さらに東急ストアは、暑くて火を使いたくないという生活者の“中食”需要が高まると見て、サラダなど惣菜類の販売を強化。その他のスーパーでも、電子レンジで調理する商品を集めたコーナーを売り場ごとに設置したり、きゅうりやなすなど身体を冷やす野菜や果物を特売したりするなど、さまざまな戦略が繰り広げられました。
 一方、コンビニチェーン各社はこの機を逃さず、利益率が高い惣菜に力を入れて収益を高めるとともに、スーパーからおかず需要を奪う作戦に乗り出しました。揚げ物調理を敬遠する生活者が増えることに着目したのは、セブンイレブンとローソン。前者はイトーヨーカ堂の特売価格と同じ、1枚298円のトンカツを提供。電話予約にも応じ、“でき立て”を武器に、スーパーの惣菜との違いを打ち出す戦法に。後者は、揚げ物の取り扱い店を1万店に増やし、需要に応えました。方やサークルKサンクス(当時)は、ホットプレートを使い、たれをかけて焼き上げる焼鳥に挑戦。今思えば、なかなか大胆な戦術です。
 因みに店舗に音楽配信をしているUSENは、大手スーパーや外食チェーンからの要請に応え、店舗向けの有線放送に新チャンネンルを開設。日本人が涼しさを感じる風鈴の音色や川のせせらぎ音とボサノバを組み合わせたBGMを急遽作成し、リクエストに備えたといいます。

2011年、東日本大震災の夏。食市場の酷暑対策―加工食品と外食業界

 昨年に続き、酷暑が予想された今夏。食市場には、さまざまな酷暑対策商品が登場しています。凍らせてシャリシャリ食感を楽しむ麺つゆや、ワンパターンになりがちな冷たい麺料理にバリエーションを持たせる加工食品、 本来は熱々でいただく鍋用スープを“冷やしても旨い!”と記載した夏限定パッケージで展開するなど、戦略的な提案も多々見られます。そこで思い出したのは、2011年東日本大震災の夏です。節電が叫ばれ、エアコンの設定温度を高めにした暑い室内を想定した、火を使わない料理、冷やしていただく食品、冷蔵庫に負担をかけ過ぎない商品が相次いで上市されました。当時は、今ほどの酷暑ではありませんでしたが、「震災+節電」という不安が暑苦しさを助長したのだと思います。今回と次回のhimeko’s COLUMNは、そんな2011年夏の事例を紹介したいと思います。
 加工食品では、ご飯にかけて冷たい水やお茶を注ぐだけで“冷しぶっかけご飯”ができ上がるフリーズドライ商品や温めなくてもおいしい “キーマカレー”、冷たく〆たうどんといただく“冷やしカレーうどんの素”や“カレーつけ麺だれ”など、ご飯や麺を冷製にアレンジできるレトルト食品が大人気に。溶かして作る粉末タイプのつけ麺用つゆなど、満杯になりがちな夏の冷蔵庫に配慮した商品も登場しました。そのほか、電子レンジで加熱、水を注いで冷やして作る“冷製カップ麺”なども発売されています。
 一方、外食業界では、冷たいメニューの開発が急ピッチに行われました。居酒屋チェーンは“冷やしおでん”や“マッコリフロート”などを提供。和風ファストフード店は天丼や親子丼に冷たいだしをかける食べ方を提案したり、冷たいルウを温かいご飯にかける“冷やしカレー“をメニュー化したり。「築地銀だこ」を運営するホットランドは、“かち割りソーダ”を発売。飲み口にジッパーが付いたスタンディング容器に、炭酸氷とレモンをたっぷりと入れた爽快ドリンクで、飲んで楽しむだけでなく、首筋やほおを冷やせるとアピールして好評でした。今夏、“氷嚢になる水筒”が爆売れとか。起源は銀だこ?

アラ煮とみそ煮

 タイミングが合うとスーパーで魚のアラを買うことができます。自宅に最も近い都心型スーパーではほとんど見かけませんが、百貨店や駅ビルの魚専門店、魚に力を入れているスーパー、高級スーパーなど、バックヤードで丸魚をさばいている小売店では、良質なアラが入手できます。切り身の1/3~1/4程度の価格でおいしさはもちろん、魚の栄養が摂れるアラに、私は今、はまっています。
 静岡県の海沿いの町で生まれ育った私にとって、アラといえばカツオかマグロでした。遠州灘で水揚げされた新鮮なカツオやマグロのアラは、血合いがたっぷりで鉄分の宝庫。うま味が強く、煮付けにすると絶品です。しょうゆとみりんに酒、たっぷりのしょうがが味付けの定番。赤身にしょうゆ味だから色は濃~い茶色。身はやや硬めでパサついています。翌日はさらに硬くなってパサパサ。因みに、残った刺身を漬けにし焼いたものが翌日の弁当のおかずで登場するのですが、これはまたさらに硬くパサついていて閉口したものです。
 今通っているスーパーのアラは、ほとんどが鯛の頭。マグロのアラ煮で育った私にとって鯛の兜煮はなんと上品なことか。身は軟らかでしっとり、骨は透けて蝋細工のよう、目玉の周りのプルプルとしたゼラチン質の食感は、二度と味わえない代物だとしたらまさに寄味というよりほかはありません。
 魚繋がりでもうひとつ、「サバのみそ煮」。愛知県三河地方に近いためか、サバのみそ煮は赤みそと決まっていたような。みそ汁には合わせみそを使いますが、サバのみそ煮は必ず赤みそ。うま味が強く、コク深い味わいがサバの臭みを中和させてくれるからでしょう。東京に来て初めて淡い色合いのサバのみそ煮を見たとき、これは何という料理なのかと思いました。
 海に囲まれた日本。獲れる魚も違えば、調味料の味わいもいろいろ。九州のしょうゆが甘いのは、地元で獲れる白身魚やイカなど繊細で淡白な味わいに合うからという話はよく知られていること。豊洲には日本中の魚が集まって来るとか。旅をすれば珍しい魚料理に出会え、ネットで未利用魚も楽しめる時代。魚食の奥深さは果てしない。

子どもの弁当。手作りを装う必要は?ない?

 子どもがいる家庭において、弁当作りはかなりの負担。私立の場合は小中高で12年、公立でも地域によっては中高で6年、高校だけでも3年は作り続けなくてはいけません。大学生になっても弁当がいいとリクエストされたり、小学生でも塾に通うようになったりすると弁当を作る期間はさらに長くなります。単身者や子どもがいない世帯においても、外食費が高騰し続ける今、弁当持参は生活防衛の手段になっています。
 そんな現状を鑑みてか、みんラン(東京・千代田)は、中高生の弁当向け自然解凍冷凍おかず「みんなのランチBOX」をクラウドファンディングサイト「Makuake(マクアケ)」で開始しました。主菜1品と副菜2品の組み合わせで、ハンバーグや唐揚げなどの人気メニューを中心に10種類を展開し、栄養バランスにも配慮しています。室温20℃約4時間で食べ頃になるので、レンジ解凍の必要はありません。今までも、弁当用冷凍食材はありました。味の素冷凍食品が昨年発売した「おべんとPON」シリーズは、ひと口サイズのトンカツや唐揚げなどが揃います。室温20℃約2時間で解凍。冷凍庫のスキマに“シュッ!”と収納でき、弁当箱に直接“ポンッ!”と盛り付けができ、捨てるときは丸めて“ポイッ!”と捨てられる点が高い評価を受けました。どちらも、食品自体が保冷剤の役割を果たしてくれるので、夏場は衛生面でも安心です。
 「Makuake」の情報によると、そのままランチクロスに包んで持参することが前提のようですが、弁当箱に盛り替えてもいいとしています。“そのまま”vs“盛り替え”。果たして、どちらが多いのでしょうか。私の興味はそれ一点。
 思い出したのが、20数年前のこと。“無菌ごま”が開発され、コンビニ弁当に使ったところ、“ご飯にごまを振らないでくれ”というクレームが。コンビニ弁当をそのまま弁当箱に盛り替える際、ごまがご飯に混ざってしまい手作りでないことがバレてしまうというのが理由です。子どもの弁当にも、手作りを装う必要すらないとしたら、中食の提案にも新たな展開が求められます。そんなことを考えると、ますます興味深い。