食用コオロギの養殖事業を展開するスタートアップCricketFarm(クリケットファーム)が倒産しました。CricketFarm は、2021年8月、長野県岡谷市で設立。長野県の諏訪地域では古くより昆虫を食す文化が根付いていて、養蚕で栄えた岡谷市も蚕のさなぎをタンパク源として食してきた歴史があります。
食用コオロギを食市場のトレンド講演で初めて取り上げたのは、19年。「オルタナフード」というキーワードの中で紹介しました。「オルタナフード」とは、食糧問題、環境問題など食に関わる問題の解決や、食の伝統の保護に繋がる食材のことを言います。
徳島大学発のベンチャー企業グリラスが、コオロギ約30匹分の粉末を練り込んだパン「クリケットブレッド」を開発したり、昆虫食を開発するMNH(エムエヌエイチ)が、カナダ産のコオロギ粉末を国産有機玄米と混ぜ合わせて「スーパーコオロギ玄米スナック」を製造したり。また、埼玉県戸田市のアールオーエヌは、「コオロギ100匹が練りこまれたうどん」を昆虫食の通販サイトで発売しました。一方、熊本市には、食用のカブトムシなどが買える昆虫食品自動販売機がお目見えし、物珍しさからか、毎月数百個と予想以上の売れ行きになりました。因みに、フランスや米国ではかなり以前から昆虫スナックはスーパーなどで販売されていて、自宅で食用の昆虫を飼育する副業をしている人も少なくありません。
CricketFarmの事業が軌道に乗せられなかった最大の理由は、やはりコオロギ食への抵抗を払拭できなかったからでしょう。何もコオロギまで食べなくても。コオロギだけでなく、日本においてプラントベースフード(PBF)が欧米ほど広がらないのは、もともと肉食過多ではないこと、宗教的制約がないことに加え、食に対して保守的な国民性であることも大きいと思います。弊社は今年の食市場のトレンドキーワードに「ハイブリッドPBF」を挙げました。100%植物性ではなく、動物性と掛け合わせることで、おいしさも損なわないし、ハードルも下がります。“なんちゃってヘルシー”“なんとなくSDGs”。日本の食市場において頭の片隅に置くべきキーワードです。