6年ぶりのアメリカ視察。訪れる度に思うことは、「ホント変わらない」。人も街も、知っているアメリカそのままの姿でいつも迎えてくれます。その変わらなさぶりは、空港に降り立つとすぐに実感できます。縦にも横にも大きな身体の空港職員の働きぶりは、決して褒められたものではなく、手荷物検査所での対応に至っては、入国早々、アメリカ映画の囚人役を仰せつかったのではないかと錯覚するほどの横柄かつ威圧的な洗礼を受けます。
今回の旅の計画はふたつ。ミズーリ州のカンザスシティからセントルイスへ向かってルート66を走り、地元の人々が行きつけのスーパーや飲食店を訪ねること。マンハッタンではキッチン付きのホテルに滞在し、スーパーで食品や惣菜を購入して料理をし、試食をすること。
まずはドライブ。田舎町の幹線道路沿いに建つのが、「Walmart Supercenter (ウォルマート・スーパーセンター)」。スーパーセンターの売り場面積は、1~2万㎡。倉庫のような空間の中に、生活に必要なおよそ10万品目の商品が並び、地域住民の胃袋を満たし、生活を支えています。特に加工食品は、1カテゴリーが多品種で、ケース陳列の商品が多く、圧倒されます。そしてすべてがビッグサイズ。野菜も肉もピザも何もかも。“ファミリーサイズ”と謳うバターの容量は1.9kg。「何人家族?」と思わず笑ってしまいます。日本のものより華奢なのは、しょうがぐらいでしょうか。
エントランスには、装甲車のようなショッピングカート。大きな身体をもたせかけて前進するには、かなり強靭でないと。客は、その大きなカートに食品を入れるわ入れるわ。「そんなに食べ切れるの?」と思いますが、広大な緑の大地に、ときどきポツンポツンと家が建っているような環境。超特大冷蔵庫と冷凍専用庫に、入るだけの食料を貯蔵するのでしょう。
店がどんな商品に重点を置き、客が何をカートに入れているのか。それを見れば家庭の食は推測できます。カロリーや栄養バランス云々はさておき、一言で表現すれば「過多」と「豊か」です。田舎町の住民の食に対するおおらかさは何も変わっていません。ピックアップトラックが似合う風景も、これまた変わっていません。
月: 2024年7月
祭りの屋台メニューあれやこれや
夏本番、いよいよ日本のお祭りの季節が始まります。参道に屋台が立ち並ぶ光景は、いくつになっても、ちょっとワクワクします。
屋台の食べ物を外国人に説明するのは、なかなか難解です。例えば、“たい焼き”。なぜスイーツなのに魚?の疑問には、「この形は鯛を表わしていて、鯛は日本ではめでたい魚だから」と説明します。では“たこ焼き”は?「たこの形じゃない」との疑問には、「たこが入っているから」と答えます。“イカ焼き”は、説明不要です。“焼き”は、前に付くことも。“焼きとうもろこし”“焼きそば”“焼鳥”。「素材+調理法」「調理法+素材」のメニュー名は、万国共通。例外として、“唐揚げ”が、両立系として“牛串”と“串カツ”があります。
“たこ焼き”が分かれば、薄いえび煎餅にたこ焼きをはさんだ“たこせん”が想像できます。たこ焼きの代わりに目玉焼きをはさめば“たません”です。“たこせん”は大阪で、“たません”は愛知でわりとメジャーのよう。
一時、“横須賀ハンバーガー”の屋台が目立ったように、トレンドを取り入れたメニューが登場するのも屋台のおもしろいところです。近年は、何といっても“フルーツ飴”。元は女の子向け屋台スイーツだった“りんご飴”は、東京のおしゃれな街に専門店が登場。大人になった女子たちが列を作りました。りんごは、食べやすい小さな姫りんごになり、イチゴやシャインマスカットの飴がけは屋台でも人気です。
定番のお好み焼き”は、“モダン焼き”“広島焼き”とのれん替えをする屋台が増えたような。作り方は、広島焼きを簡略化したレシピのようで、水で溶いた小麦粉を鉄板の上で薄く伸ばし、焼きそばの麺をのせてキャベツのせん切りを山のように重ねる。この作り方のほうが火の通りが早く、前を歩く客に、ヘルシー感とボリューム感が伝わりやすいのでしょう。因みに“お好み焼き”を割り箸に巻いた“はしまき”は、九州・四国では定番屋台グルメなのだそう。祭りに最適な、ワンハンドフードに変身です。
“グルメバーガー”。都市部と地方の格差
節約志向が強まる中、ハンバーガーチェーンの高価格帯商品の売上が好調。各チェーン、リッチな商品の品揃えを増やしています。
「マクドナルド」は、4月に期間限定で発売した“サムライマック・炙り醤油風トリプルビーフ”(税込780円~) を顧客のアンコールに応えて6/14から12日間限定で復活、「モスバーガー」は、国産牛100%使用パティの“新とびきりチーズ~北海道チーズ~”(同690円)を4年ぶりの定番商品として発売しました。「ウェンディーズ・ファーストキッチン」は高級バーガーの第2弾として、10枚近いローストビーフをビーフパティと一緒にはさんだ“ローストビーフバーガー”(同2090円)を期間・店舗限定で4/18から販売しています。
「シェイク・シャック」や「ウマミバーガー」、古くは「クア・アイナ」など、米国発の“グルメバーガー”と称される高級ハンバーガーの広がりによって、今や日本人経営のグルメバーガーショップも珍しくはありません。それは都市部においても地方においても。が、しかしここに来て、食材費の高騰と人手不足による人件費の上昇は、またも都市部と地方での格差を生んでいます。地方で人気のグルメバーガーショップの場合、財布のひもを固くする顧客に向けて食材費の高騰をそのまま価格に反映することができません。加えて、バイト代を上げなければ人を雇えない状態。自ずと、ワンオペ経営が続き、閉店という選択肢しか残らなくなります。
ハンバーガーショップひとつを見ても、都市部と地方の格差は歴然です。が、ここで注意すべきことは、分母です。都市部は、分母が多いから高価格帯のグルメバーガーを購入する分子が多いということ。逆もまた真なりです。都市部なら、高くても売れるというわけではなく、地方だから安ければいいというものでもない。分母と分子の鉄則は、いつの時代もどこにでも当てはまるものだと思います。
プロテインクライシスの解決になるのか“納豆菌粉”
代替タンパク質源として、慶應義塾大学発スタートアップ、フェルメクテス(山形・鶴岡)が開発した新素材“納豆菌粉”。納豆菌を大量培養して乾燥粉末にしたもので、主成分は100gあたり70g以上がタンパク質です。カロリーがほぼ同じ小麦粉に比べてタンパク質を効率的に摂取できるうえ、もちもち感を高めるなど食品の物性を改善する効果もあるといいます。
大きな特徴は、生産効率が極めて高いこと。約60分で2倍量になるとか。スプーン1杯(1g)の納豆菌が24時間後には1600万倍の16トンになる計算です。必要なのは、大きなタンクとバイオマス由来の培養液のみ。バイオマスとは、再生可能な生物由来の有機性資源で、石油や石炭などの化石資源を除いたもの。麦わらやもみ殻、サトウキビやとうもろこし、菜種などで、食品廃棄物や台風で倒れた樹木も含まれます。
人口に対してタンパク質の需要と供給のバランスが崩れる“プロテインクライシス”が起こると予想される2050年。インドやアフリカの一部の国々では、人口が急増すると言われています。そのような地域において、未利用だったり、廃棄されたりしていた資源を使ってタンパク質源として納豆菌粉を生産することが可能です。フェルメクテスは今後、その土地その土地の納豆菌粉が作れるよう、培地に応じて納豆菌をカスタマイズしていくことを目指します。
日本では、植物性のタンパク質源として、大豆を原料に納豆やプラントベースフードが作られています。が、知っての通り、大豆は9割を輸入に頼っているのが現状。台湾有事とシーレーン封鎖の危険性が否定できない今、改めて食糧自給率の低さが大きな問題になっている我が国においても、納豆菌粉は救世主になり得るのかもしれません。
渋谷区の“路上飲酒禁止”条例で思うこと
東京都渋谷区議会は6/17、渋谷駅周辺での夜間の路上飲酒を通年禁止にする改正条例を全会一致で可決しました。施行は2024年10/1からです。渋谷区によると、禁止時間帯は午後6時から翌朝午前5時まで、区域は現行よりもさらに広げる方針。ただし、違反者への罰則はありません。渋谷区は19年、ハロウィンや年末年始に渋谷駅周辺での路上飲酒を禁じ、コンビニなどに酒類の販売自粛を求める条例を制定。昨年は「ハロウィン目的で街に来ないで」と強いメッセージを打ち出し、そのためか、新宿歌舞伎町に仮装した人々が詰め掛けました。渋谷区の方針を受け、新宿区でもハロウィンの期間などに限って新宿駅周辺での路上飲酒を禁止する条例を制定する方針を明らかにしています。
確かに渋谷では、平日の夜でも、訪日観光客とおぼしき方々が路上飲みをしている光景をよく見掛けます。週末ともなれば、日本人の若者たちも。訪日観光客にとって、屋外で自由に飲酒ができる環境は、自国ではできない特別な開放的な体験なのでしょう。
1980年代のNY。歩きながらの飲酒ができないと聞いたときは、違和感がありました。「何でもアリと思っていたこの国で?」と思ったのです。余談ですが、罪の軽重は国によって大分違うようです。車でないと行かれない田舎町のバーでは、パスポートの提示を必ず要求されました。未成年者の飲酒に対しては、飲酒運転よりも厳しいようです。70年代のシンガポールで、ゴミやたばこをポイ捨てすると罰金が科せられると聞いて驚いたことも。昭和の日本では、吸い殻は路上に捨てるのが当たり前でしたから。
かつては、表参道や公園通りを会場に、商店街や企業が協賛したハロウィンイベントが積極的に展開されていました。が、今となっては「来ないで」とアピールすることに。規制によって行動制限をされることに慣れていない日本人は、近年、節度を保つことで自由を維持することの難しさを学ぶ機会が増えていると強く感じます。