ちょっと懐かしい街、西荻窪

 週末、何かしら用事があって馴染みのない街に行くことがあります。商店街を歩いて珍しい店に入ったり、公園でひと休みしがてら本を読んだり。フラフラと心の赴くままです。
 先週、アンティーク時計の修理をお願いしに西荻窪に行きました。西荻窪は、ちょっと懐かしい場所で、1993年、今で言う“スーパー銭湯”の走りのような温浴施設に併設するレストランのプロデュースをしていたときは、毎週のように通っていました。記憶を辿ってその場所を探し歩くのですが、見つからない。調べてみると、2009年に閉店したようで、その場所には住宅が建っていました。30年ぶりに訪ねた西荻窪。住宅街ですから、街並自体が大きく変わるということはないのでしょうが、新築の住宅が増えただけでも印象は変わりますし、私の記憶もすっかり飛んでいます。通っていたときに現場の近くで買い求めたソルト&ペッパーミルを使う度に思い出す光景が、今はもうないという事実で上書きされたようで、ちょっと寂しくなりました。
 街歩きの〆は、やはり食事。何が食べたいのか、どんな雰囲気で食べたいのか、そのときの気分で探します。今回伺ったのは、「チルハナ」。理由はランチメニューに、“お肉のプレート”“お魚のプレート”と並んで、“子羊のラザニアプレート”があったから。“パスタのプレート”ではなく“ラザニア”。しかもSNS上での評判もいい。店内写真には、小さな店には珍しく食後酒やウイスキーと並んで、リキュールの数々が。ここにも興味を持ちました。
 オーダーは、もちろん“ラザニア”。ディナーメニューを拝見すると、パテ・ド・カンパーニュやリエット、コンフィや煮込みなど、ワンオペでサービス可能なメニューに絞り込まれています。だからの、“ラザニア”です。店主に聞くと、西麻布のバーで働いていたとのこと。だからの、お酒のラインアップです。独立して西荻窪にこの店を開いたのが8ヵ月前。飲食店の経営は、金銭的にも体力的にも想像以上に大変でと語る店主の笑顔に、エールを贈るつもりで、食後にシャルトリューズを

今夏も続々“冷やしカレー”

 気象庁が7~9月の3ヵ月予報を発表。今夏も危険な暑さが予想されています。言われなくても既に心構えはできています。冷たい食品に心惹かれながら、ひたすら耐えるだけ。
 今年もまた、“冷やしカレー”の情報が上がっています。「無印良品」を展開する良品計画は、“冷やして食べるカレー”シリーズに“レモンクリームチキンカレー”を投入しました。昨年発売した“チキンジンジャーカレー”“えびとトマトのカレー”が好評だったからとのこと。ハウス食品は、期間限定で“冷製カレーうどんの素”を発売。同社は2011年には“冷やしカレーうどんの素”を上市しています。
 外食市場では、丸亀製麺が“豆乳仕立ての冷やしトマたまカレーうどん”の提供を始めました。21年に発売した“トマたまカレーうどん”を応用した初めての冷やしバージョンで、氷水で締めたうどんに冷えた“トマたまカレー”をかけ、豆乳クリームとカツオ粉をトッピングします。香辛料の刺激的な香りとカツオ粉の香ばしい香りがミックスした、うどん店ならではの仕立てです。
 石川県に拠点を置くチャンピオンカレーは、夏季限定メニュー“冷やしカレー”の販売を23店舗で展開します。昨年までは、開発担当者が手作りしていたため「野々市本店」(石川)でしか提供できなかったのですが、想像以上の反響に、フランチャイズ店でも販売できるよう工場での大量生産を検討。3年をかけて研究開発しました。合わせるライスは酢飯。酢飯でカレーといえば、くら寿司が15年に発売した“すしやのシャリカレー”が記憶にあるところ。確かに、冷やしたルウと酢飯の相性はよさそうです。
 食のトレンド情報に、初めて「冷やしカレー」のキーワードが上がったのは、05年。外食市場では、冷凍庫でカッチカチに凍らせたルウをクラッシャーで一気に粉砕してご飯に添えるメニューが話題になりました。

過去のコラムにみる「異常気象と食料供給の深刻化」

気象庁は6/9、「エルニーニョ現象」が発生しているとみられると発表しました。「エルニーニョ現象」が起きると日本では冷夏になると思われていますが、地球温暖化に加え、今冬の「ラニーニャ現象」の影響で日本付近は暖かい空気に覆われやすいことから、今夏は高温傾向が続き、降水量の見通しも平年並みとみています。
 日本で「エルニーニョ現象」が発生するのは、2018年秋~19年春に観測されて以来。当時の「himeko’s COLUMN」を読み返すと、18年9/25のコラムでは、9月に入り曇りや雨の日が多くなり、野菜が高くなるのではと心配し、前年、秋の長雨と台風の影響で葉野菜の価格が高騰。リンガーハットが“ちゃんぽん”を値上げ、サラダクラブも品薄状態で値上げせざるを得ない状況であったこと。一昨年も、同様であったため、“異常気象と野菜の価格高騰の常態化”を嘆いています。同年12/17のコラムでは、秋に入り気温が高い日が続いたため野菜の成長が早く、鍋野菜の価格は安くなっていたのに、12月に入っていきなり気温が下がり、一転、低温と大雪による鍋野菜の高騰を懸念しています。
 その前は、14年春~16年春。14年5/26のコラムでは、「メニュー提案、販促案に【季節×気候×経済】の方程式を」のタイトルで、5年前、09年8/10のコラムを紹介。天候不順で、卸値が倍以上になっている野菜もあること。折しも、前年秋にはリーマンショックが発生。高騰した鍋野菜には手を出しづらく、節約志向が充満した家庭の食卓には、価格が安定している根菜を使った「カレー鍋」や「トマト鍋」が上ったとあります。〆の文章は、“【季節×気候×経済】の(中略)考え方は、気候変動が年々激しくなり、加えて食料連鎖も経済状態も国家間の関係を無視しては成り立たない今、ますます重要なのではないでしょうか”。
 このときから14年。線状降水帯発生による大雨や、すぐに巨大化する台風やハリケーンによる洪水。干ばつや熱波とそれによって発生する山火事、寒波による大雪被害などの気象現象に加え、ウクライナ危機がもたらした食品価格の高騰、アジア各国の経済発展よる食料の争奪戦などなど。食の供給を取り巻く環境はますます深刻化しています。

豆の話

 最近、週末は朝から豆を煮込むことが多くなりました。レッドキドニー、白いんげん豆、青えんどう豆、ひよこ豆など、前日の夜、料理に使う豆をたっぷりの水に漬けて置きます。翌朝には二回りも三回りも大きく膨らんでいて、“さあ煮込むぞ”と思わせてくれます。
 ゆでた豆の缶詰もありますが、乾燥豆を戻すところから始めるのは、豆をゆでていると甘くてほくほくとした香りがキッチンいっぱいに広がり、幸せな気分になれるから。もうひとつの理由は、“絶対においしい料理がいただける”という期待感を高めてくれるからです。 
 合わせるのは、牛肉や豚肉、鶏肉や鴨肉と、ハムやベーコン、ソーセージやウインナーなどの畜肉加工品の中から。たっぷりの野菜と合わせてイタリアンなスープにしたり、玉ねぎやにんにくなどの香味野菜と合わせて豆とソーセージが主役のフレンチ風のスープにしたり。牛肉と合わせてメキシコ料理の「チリコンカン」を作ったり、鴨やラム、生ソーセージなどを贅沢に使ってフランス南西部の郷土料理「カスレ」に挑戦したり。肉や畜肉加工品のうま味と塩味、香りと脂がたっぷりとスープに溶け出し、それを豆がお腹いっぱいに吸い込んで。おいしくならない理由が見つかりません。フレンチ風のスープは、仕上げにレンズ豆を加えると、ポテッとした煮込み料理にもなります。
 豆料理は世界中に広がっていて、穫れる豆によって料理が異なり、加工の仕方もさまざまです。例えば、北南米や欧州には煮込んだ料理が多い一方、中近東やアフリカでは豆を潰してコロッケのように揚げた「ファラフェル」が有名です。東アジアでは豆から豆腐や納豆、みそやしょうゆを製造し、豆腐は水分を抜いて豆腐干や高野豆腐に加工。もちろん煮豆は日本の伝統食ですし、北陸や東北には大豆を潰して平たくし乾燥させた保存食「打ち豆」もあります。
 豆はタンパク質と食物繊維が豊富で、ビタミンやミネラルをバランスよく含む栄養的に優れた食品。卵が命の元のように、豆は植物の種子、発芽の元です。“食べれば絶対にパワーをいただける”。そんな気になれるのも豆の魅力です。

“チップ”という商習慣

 今年のゴールデンウイークは、海外に行く人よりも国内旅行や身近なレジャーを楽しむ人が多かったようです。でも夏休みは、4年ぶりの海外旅行を計画している人が増えるでしょう。友人がゴールデンウイークにハワイに行ったそうで、日本人が少ない分、本土から旅行に来ている米国人が目立ったと話していました。そしてもちろん円安の洗礼も受けたようで、ただでさえ高いハワイの外食費がさらに高くなり、そこに州税とチップが加わった金額に驚愕したと。
 チップという日本にはない商習慣は、慣れていない私たちにとっては面倒で、やっぱり損した気分になることは否めません。レシート下部の「サービス料」、頼んでもいない「お通し代」、仲居さんへの「心付け」など、日本にも同様のものはあるのですが。
 初めて米国に滞在したとき、タクシーでもホテルでもレストランでも、どこでもチップが必要で常に1ドル札を用意していないと困ってしまう毎日に、なんて面倒で損する“きまり”なんだろうと思っていました。特に、当時はビンボー旅行。チップがサービス業で働く人たちの大切な収入源だということは理解していましたが、上乗せされる金額に素直に納得できなかったのは、やはり日本にはない商習慣だからでしょう。
 しかも当時は、ウェイトレスがガムを噛みながらテーブルにやって来て、腰に手を当てながら“早く決めなさいよ”という態度(に見えた)で注文を取り、サーブしながら同僚と大声で無駄話をし、注文を間違っても言い訳しかせず・・・。そんなことが珍しくなかったような。そして最後は決まって笑顔で「エンジョイ?」。“エンジョイできるか!”と心の中で叫んでいました。それでもチップは払うのです。“おまえのサービスはチップに値しない!”という内容をスマートに表現できる忍耐力も語学力も勇気も持ち合わせていません。
 当時のチップは10%程度だったと記憶していますが、現在の米国では飲食店のランクによって15~25%のようです。円安の今、“旅行の醍醐味は大盤振る舞い”を常に心で唱えていないと、小心者の私は心身症になってしまいそうです。

憧れのスーパー、逗子のスズキヤさん

 先週の金曜日5/26、4年ぶりに「逗子海岸花火大会」が開催されました。弊社は花火大会に合わせ、スーパーマーケットの「スズキヤ」さんにご協力をお願いして、ある海外の食品会社のブランディングを目的としたキャンペーンを行いました。花火大会会場の逗子海岸やそこまでの道筋に展開する惣菜販売コーナーに、スズキヤさんの商品と一緒に並べていただいたり、アピールのための、のぼりやパネルを設置させていただいたり、スズキヤさんとのダブルネームで製作したうちわを配らせていただいたり。私は、逗子駅前店でうちわを配るお役目です。
 スズキヤさんは、お手本にしたいスーパーとして業界でも有名です。中村会長が社長時代から日本中を周って見つけ出し、交渉をして店頭に並べた、他店にはない魅力的な商品と出合えることが、スズキヤさんの魅力です。生鮮も同様です。こんなものが欲しいなと思うものがちゃんとあって、おかしな偏りがないのです。また“ブイヤベースの素”など、自力では生かしきれない憧れの素材をレストランレベルの料理に仕上げてくれるオリジナル商品も開発しています。もちろん、お惣菜もピカイチ。“国内産活鰻うなぎ”は、活鰻を裂くところから自社で行っています。
 お客様は高齢の女性が多く、皆さん地元の方のようです。うちわを受け取りながら、いろいろなお話をしてくださる方もいらっしゃって。スズキヤさんでの買い物が、ちょっとウキウキするようなエッセンスとして、日々の生活に溶け込んでいることが伝わってきます。だからでしょう。店内で働いている方々が、元気で楽しそうなのです。常に何かすべきことがないかを探し、よりよくしていこうという前向きな気持ちが、どなたからも伝わって来ます。
 スーパーの「ひまわり市場」が好きだからという理由で、退職を機に、山梨県北杜市に移住した友人がいます。私も逗子に住みたくなりました。

鳥インフルエンザとアニマルウェルフェア

 卵不足の状況が続く中、キユーピーは業務用として販売する卵をブラジルから輸入することを決めました。ヨーロッパ、ロシア、北米、南米の西側、インド、アジアと広がっている高病原性鳥インフルエンザ。ブラジルではまだ発生していないようで、世界各国から卵の注文が殺到。取引価格は、現在の日本の卵の1.5倍になっています。卵の価格はいつ元に戻るのでしょうか。鶏舎を消毒し、ひなを卵が産めるようになるまで育てる間は現状が続くでしょうし、海外に依存している飼料の価格が下がらなければ、卵の価格は高値定着のままかもしれません。
 鳥インフルエンザは、渡り鳥やねずみ、家禽やペット、時には人間が媒介になって鶏に感染します。世界的に広がっている養鶏に関するアニマルウェルフェアへの対応に日本が消極的なのは、そこにも理由があります。鶏をケージに入れず平飼いにすれば、感染リスクが高まると思われるからです。
 新型コロナウイルス感染を予防するためには「3つの密(密閉・密集・密接)」を回避することが求められました。ケージで飼育されている状態は、まさに3密。窓がない鶏舎もあるようでウイルス感染予防に効果的な換気は、換気扇に頼るしかありません。また高齢者や持病がある人は重症化しやすい一方、抵抗力が強い若者は感染しても軽度な症状で済んでしまうことも知りました。狭いゲージで運動もしない鶏は、抵抗力も弱いでしょうし、太陽の光を浴びなければ、ウイルスに対抗するビタミンも体内で生成できないでしょう。
 鳥インフルエンザは、卵を工場生産品のように、効率と安定供給を優先し、大量生産をしてきたツケなのかもしれません。1羽が感染したらすべての鶏を殺処分しなくてはならない現状は、命と向き合っているとは言いかねます。卵の価格が下がることは喜ばしいことですが、そろそろ日本も、アニマルウェルフェアについて業界を上げて積極的に取り組む姿勢が必要なのではないかと思います。

賑わいが戻ったゴールデンウイーク

 新型コロナウイルス感染症の感染症法上の位置付けが季節性インフルエンザと同じ“5類”に移行する5/8を控えた今年のゴールデンウイーク(GW)。行動制限がないのは、2019年から4年ぶりです。
 私はGW中、映画を見に渋谷へ、美術展を見に竹橋から丸の内界隈、銀座、新橋へ、食事をしに六本木、青山へと、数日、繁華街をぐるりと自転車で回っていました。連休中は道が空いていて、官庁街など5車線を独り占めです。
 何処も人でいっぱい。もちろん美術館は入場規制があり、予約をしていても列に並ぶところから始まりますし、人気の飲食店はオープン前から行列。丸の内と銀座の歩行者優先道路は、初夏の日差しの中、ウインドウショッピングを楽しんだり、ガーデンチェアで寛いだりする人々でいっぱいです。屋外を歩く人の中にはマスクをしていない人も多く、コロナ前に戻ったような光景でした。
 この賑わいは、外食企業、飲食店、食品卸、食品・飲料会社、業務用資材屋などなど、外食関連業者の皆さんにとって待ちに待った場景だったでしょうし、その喜びに思いを馳せると、とてもうれしくなりました。
 楽しい楽しいGWでしたが、悲しい出来事がひとつ。中日の平日、東京・恵比寿で75年続く老舗の居酒屋「さいき」に伺ったところ、店の入り口に“閉店のお知らせ”の貼り紙が。5/31を以て諸般の事情により閉店する旨が書かれていました。昭和感溢れるたたずまいの中、一升瓶ごと凍らせた“凍結酒”、外はカリッと中はふわふわな“海老しんじょう”、肉厚ビッグな“アジフライ”、洋食屋もびっくりの“カニクリームコロッケ”、私が大好きな“〆小肌”、そのほか、“クジラ刺”や“のどぐろ干”“豚バラ酒盗焼”、春にはふきやタラの芽の天ぷらも堪能できます。「孤独のグルメ Season4 最終話」にも登場。新規顧客が増えたようで、開店時間の5時前から列ができる日も珍しくありませんでした。店主の齢、建物の老朽化、コロナ禍での思いなど、さまざまな理由が推察されますが、またひとつ名店がなくなることだけは事実です。

究極のレンチンパスタ「パキット」

 発売前から話題になっていた永谷園の簡便パスタソース「パキット」。パスタをパキッと半分に折って袋に入れ、レンジで加熱した後、蒸らすだけでパスタ料理ができ上がるという画期的な商品です。従来のパスタ関連商品では解決できなかった“パスタをゆでる”という作業をカット。ゆで湯も鍋を洗う水も節約できるうえ、ガスを使わないから、CO2排出量を70%削減できるといいます。時短、簡便、環境配慮といった要素が支持され、発売前から多くの量販店で導入が決まっていたようです。
 SNSでは、フライパンの中でパスタをソースやだしで加熱する「ワンパンパスタ」が流行っています。ワンフライパンでできる手軽さと、ソースやだしがパスタに浸み込んだ意外なおいしさが、人気の理由のようです。そんな中、永谷園が放った「レンチンパスタ料理」。早速、「ボロネーゼ」「ペペロンチーノ」「カルボナーラ」の3種を作ってみました。
 本商品のように“蒸気抜き機能”が付いたパウチを使ったレンジ調理商品は、開発の過程で、加熱と水分のベストなバランスを模索する試作を繰り返します。パキットの場合、加える水の量は3種とも160ml。しっかり量ることを促されます。そのほか注意点として、出力と加熱時間、蒸らし時間は指定通りにすること、蒸らした後かき混ぜること、700w以上の出力で加熱しないこと、2個以上同時に加熱しないこと。何より、パスタは1.6mm(1.4~1.7mm)のものを100gと決められています。これらは、水分の蒸発量とパスタの加熱加減に大きく影響するからです。確かに、1.8mmの輸入パスタを使った場合と、1.6mmの国産品を使った場合では、後者のほうがパスタの硬さがちょうどよく、ソースもしっかり馴染んでいました。
 希望小売価格300円の手間なしパスタソースは、ひとり暮らしのパスタ好きに歓迎されるでしょう。パスタを折ることを邪道とするパスタ好きも少なからずいる中、敢えて「パキット」という商品名にすることで、折ることに肯定感を与えている点もおもしろいと思います。

旅の楽しみ「宿の食事」

 旅の大きな楽しみのひとつに、宿で出される食事があります。お任せで提供される料理は、何がいただけるのか期待でいっぱい。中でも会席料理は、お品書きに目を通すところから、おいしい時間が始まります。
 先日お世話になった飛騨地方の宿の会席料理も、その土地ならではの食材がふんだんに使われていてとても楽しめました。食事は、「酒菜」と書かれた数々の料理から始まります。酒菜とは、のちに「肴」と呼ばれるようになる「酒と一緒に食べる菜(料理)」のこと。地酒と合わせていただきます。蒸し物、お造りと続き、台物は卓上の七輪で焼く飛騨牛。米は「飛騨こしひかり」の新米、止椀は「八丁みそ仕立て」。ご飯とみそ汁という食べ慣れた食がいつもと違う味で楽しめることも、旅の食事の醍醐味です。朝食は、七輪で焼きながらいただく朴葉みそと天然アマゴの塩焼き。清流に恵まれた山間の郷ならではの食のもてなしです。
 近年、和食の朝食は、小皿で提供するスタイルが増えたような。以前宿泊した佐賀・唐津の宿の朝食。テーブルいっぱいに縦4列横7列に並べられた小皿の景色は圧巻でした。“おいしいものを少しずついろいろ食べたい”。そんな宿泊客のニーズに応えてのことでしょう。ただ私は、あまりにちまちましていて好きではありません。仕事柄、すべてが業務用食材に見えてくるのもやっかいです。盛り付けが簡単、数量が読めるからムダがない、メニューの変更がしやすい、何より手間がかからないと、小皿料理の都合の良さばかりが頭に浮かんでしまいます。
 別の宿での朝食時。毎度のように業務用食材を無意識のうちに選別していたときのこと。“ウチの板長はすべて手作りするから、私たちも大変なんですよ”という仲居さんの何気ない一言に、なんと無駄で浅はかなことをしているのだろうと恥じ入った次第です。