東京は梅雨に入りました。料理雑誌には、梅漬けや新しょうが、らっきょうなど漬け物のレシピが登場し、初夏の訪れを色彩で教えてくれます。梅はフレッシュなグリーン、新しょうがもらっきょうも赤ちゃんのようにふっくらとしていてみずみずしくて真っ白です。梅は、一晩水につけてアクを抜き、タオルでやさしく水けを拭いて、ひとつずつ竹串でヘタを取って・・・と、時間をかけた丁寧な仕事が続きます。この作業は、よく「梅仕事」とよばれます。
秋、空気が乾燥してくると、私は部屋に物干し竿を渡し、着物を干し始めます。いわゆる、虫干しです。また着物は、秋から春までは袷(あわせ)を、初夏から夏は上布や紗、絽などの薄物を着ます。ですから、衣替えの時に半襟を洗って付け替えたり、ほつれがあれば繕ったりします。そんな作業を、私は「着物仕事」とよび、その時間をとても大切にしています。
かつての日本においては、梅漬けもらっきょう漬けも、着物の虫干しも繕いも、すべて女性の“せねばならない仕事”だったはずです。それが今は、しなくてもいい趣味的作業に近くなっています。季節を楽しみながら丁寧な時間を過ごした昔の人の豊かさ――。そこに憧れがあるから、「仕事」という言葉を寄せたくなるのかな、なんて思うのです。
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老若男女等しく家事能力が必要な時代です
経済力より家事・育児能力を重視する――。女性が結婚相手に求める条件を日本経済新聞が調査した結果、41.7%の女性がそう答え、初めて、経済力重視派を約4ポイント上回りました。「共働きなので経済力は求めない。自分が稼げる環境を整えるには相手の家事・育児能力の方が重要」とか、「家事・育児において自立心がない人とは共働きは不可能と感じる」といった声が多く寄せられたそうです。
一方、国立社会保障・人口問題研究所の出生動向基本調査によると、男性が結婚相手の条件として重視する項目でも「家事・育児の能力」は「人柄」に次いで2位になっています。結婚を望むなら、男女ともに家事・育児能力は身に付けておくべき重要事項のようです。
男性の回答からは、女性だから家事ができるとは限らないと思っていることが読み取れます。それを裏付けるように、大手料理教室には、結婚を控えた男女が料理を習いに来るケースが増えたと言います。
定年退職を迎えた夫婦が、離婚しないで別々の生き方を選択する卒婚。夫は田舎暮らしと畑仕事に憧れ、妻は友だちと趣味を優先させるため、別居する夫婦も多いとか。夢の実現のためには、家事能力が必要になります。
老若男女に等しく家事能力が求められる時代の到来です。
サラダブームを追い風に豆が人気です
健康志向を追い風に、豆に注目が集まっています。
追い風は、やはりボウルサラダのブーム。豆は、トッピング具材として人気のアイテムです。豆を加えることで食べ応えが出て、キドニービーンズや枝豆は彩りにも一役買います。大豆や黒豆など和の煮物の印象が強い豆も、サラダのトッピングに使われるようになってイメージが変わりました。特に、野菜や鶏肉などの具材を細かくカットしたチョップドサラダには豆がなじみやすく、大きさもちょうどよかったことが、豆がトッピング具材として急浮上した理由だと思います。
もうひとつ、最近身近になったのが、ひよこ豆です。ゆでてすりつぶしたものに、練りごま、オリーブオイル、にんにくやスパイスを混ぜ合わせた“フムス”や、同様にゆでてすりつぶしたものに小麦粉とスパイスを混ぜ合わせて団子状にして揚げた“ファラフェル”は、今まで遠い存在だった中近東の料理をいきなり身近にしました。今年2月には、東京・六本木に、ファラフェルを使ったボリュームたっぷりのサンドイッチを販売する「ファラフェル・ブラザーズ」が、4月には、同・新宿に、フムス専門店「ベジ スタンド」が開店しました。
肉よりも低カロリーで満腹感が味わえるうえ、食物繊維がたっぷりでタンパク質も期待できる豆。今ドキの女性たちが求める要素がいっぱいです。アサイーやチアシードなどのスーパーフードも、ヘンプシードオイルやアボカドオイルなどのコスメオイルも、日本人にはほとんど縁がないものでした。それが、ヘルシー&ビューティの旗印の下、一気に食市場を席捲しました。女性たちの探求心は、今後も、食の未知なる世界を次々に切り拓いていくことでしょう。
食卓においても市民権を得た“左利き”
私が子供の頃、右利きが当たり前でした。左利きは1クラスに1人いるかいないか。特に女子は、幼少期に右利きに矯正されるのが当たり前だったように思います。
ハサミも包丁も右利き仕様。洋包丁は両刃なので問題ありませんが、和包丁は片刃なので左利きでは使えません。また食卓では、右利きの人と左利きの人が並んで食事をすると肘がぶつかることもあります。皆一緒、横並びを良しとしてきた日本において、それは異様な光景に映りました。
かつて料理雑誌の編集をしていた頃、料理に添える箸は右利き仕様が鉄則でした。万が一、箸先を右にして撮影しようものなら、大目玉をくらって再撮を命じられました。左利きは正しくないという不文律が、日本人の中に明らかに存在していたのです。
ところが最近は、そうでもないようです。象徴的なのは、左利きのタレントをテレビで見る機会が増えたこと。例えば、テレビ東京で土曜日に放送されている「男子ごはん」のメインキャスター、TOKIOの国分太一氏、コマーシャルでは、味の素「ほんだし」の小栗旬氏、同「Cook Do 今日の大皿」の小池栄子氏、かつて西武鉄道のコマーシャルで、吉高由里子氏は旅館の夕食シーンで左手に箸を持っていました。因みに、元AKBの前田敦子氏は、丸美屋「のっけるふりかけ」のコマーシャルで、左利きを封印したそうです。グルメ番組のレポーターにも左利きのタレントが採用されていますし、料理雑誌もデザイン的に処理された構図では、箸が左から出ているものもよく見ます。
私は、左利きをまったく否定していません。それはマナー違反ではないから。が正直、左手で箸を持つ姿に未だ違和感が拭えません。そのうち、慣れるのでしょうか。
心地良いサービスができる人材の育成を
先日出席したパーティでのこと。メインディッシュの皿に残ったソースをパンで拭おうとした矢先、皿を持って行かれそうになりました。しかも2回も。もちろんナイフとフォークのサインは「まだ終わっていません」を意味しています。シェフが料理説明で、「自慢のソースです。残ったらパンに付けてお召し上がりください」とおっしゃっていたのに。その前から気になっていたのですが、サービス担当者は、食べ終わったお客様の皿をどんどん下げていきます。同じテーブルの中に、食べ終わった人とそうでない人がいたら、全員食べ終わったのを確認してから皿を下げ始めるのがマナーです。
食べ終わった皿は、さっさと片づけること。それが、機敏でスマートなサービスであると教えられているのでしょうか。テーブル数が少ないビュッフェスタイルのパーティならまだしも、着席でのコース料理。その必要がありますか? “もてなしを受けている”という心地良さは一切なく、“早く片付けたいこなし仕事の対象”になった気分でした。
私はある大学で、フードビジネスについての講義をしています。学生たちは後々、ホテル・ウエディング業界への就職を希望しています。彼らの行動を見ていて確信できます。私が不快だと思うことを、おそらく彼らの大半は、そう感じないでしょう。体験し、心で感じ、考えないことが、自然に身に付くことはないと思います。ホテルやウエディング、レストランなどサービス業を生業としていらっしゃる方々には、今まで以上の本気度でサービスパーソンの教育に取り組んでいただきたいと願います。
強まる節約志向。小売り各社はメリハリ消費に期待
安倍政権が目指すデフレ脱却。遅遅として進まないばかりか、小売各社は一部商品で値下げを断行。他方、高価格帯商品の開発にも注力。生活者のメリハリ消費への対応を急いでいます。
イオンは2016年11月から順次、PB「トップバリュ」で、売り上げ規模が大きい主力30品目を5〜30%程度値下げしました。一方、素材・環境配慮型のPB「トップバリュグリーンアイ」を刷新。国際的なオーガニック認証を取得した商品「オーガニック」、抗生物質や成長ホルモンを使用せずに育てた家畜の肉や平飼い鶏の卵などの生鮮食品「ナチュラル」、合成着色料や合成保存料、合成甘味料などを使用しない加工食品「フリーフロム」の3つを新設しました。
またセブン-イレブン・ジャパンは、4月、洗剤や歯磨き粉などNBの日用品61品目の値下げに踏み切りました。値下げは、8年ぶり。値下げ幅は平均5%、最大で20%です。生活者の節約志向が一段と強まる中、販売価格をスーパーやドラッグストアなどの実勢価格に近づけて対応したい考えです。一方、PB「セブンプレミアム」は、生鮮食品を加えるなど全面的に刷新。PBは品質にこだわることで利益を確保、NBは値下げに踏み切って値頃感をアピールします。
モノの値段が下がることは、経済全体を考えたとき、決して喜ばしいことではありません。両社の高価格帯PBが生活者の心を動かす商品であり、市場を活性化させてくれることを期待します。
低脂肪、高タンパクの肉人気。オージーがアツい!
低脂肪、高タンパクの肉が人気の昨今。オーストラリア産の動物の肉が、密かに人気のようです。
その筆頭は、カンガルーの肉、ルーミート。低脂肪、高タンパク、低コレステロールに加え、体脂肪燃焼と筋肉増強の効果が期待できる共役リノール酸が豊富に含まれています。加えてルーミートは飼育肉ではなく、オーストラリアの大自然で育った野生カンガルーを捕獲し、近代的な専門工場で精肉されているため、完全なフリーフロム。科学的な負荷がありません。濃厚な風味があり、食感は軟らかなのだそうです。
お次は、アリゲーター、ワニの肉。低脂肪、高タンパク。さらに、上質なコラーゲンが含まれています。こちらは養殖が主体で、ワニたちは、自由に動き回れる環境の中、薬品などを使用せず育てられているとか。肉質は、ジューシーで軟らかく、若鶏のような味わいといいます。
その他、砂漠で放牧されているラクダや、ダチョウ、エミュー、ワラビーなども、ヘルシーミートとしてオーストラリアでは食用肉として利用されています。
これらの肉のいくつかは、日本でもネット通販で購入可能ですし、横浜・桜木町には、「珍獣屋」という、変わった肉をウリにしている外食店もあります。ワニの手羽肉は、手と爪まで付いていて、なかなかグロテスクです。
私たちが普段食している肉、牛、豚、鶏も、十分にヘルシーミートです。そこに、牛肉にはうま味を増すためにサシを入れ、豚肉にはおいしい脂身を付加させることに注力してきた過去があります。何の手も下さない自然界の肉が、ヒトにとって最も健康な肉であり、それが注目されている現実は、食に求められる“享楽”と“健康”というふたつの面を見せています。
無料のトッピングを大量にかける“かけすぎ部”
飲食店で、調味料やチーズ、紅しょうがやねぎなどの無料のトッピングを大量にかけて食べる人たちが増えているといいます。彼らが所属するのが、“あればあるだけかけちゃう、かけすぎ部”。現在部員は1万人。創設者は歌手のスガシカオ氏です。今年1月に放送されたバラエティ番組「アウト×デラックス」にゲスト出演したスガ氏が、その“かけすぎる”食のこだわりについて語ったため広く知られるようになり、ネット上で話題になりました。
スガ氏は粉チーズが大好きで、パスタが見えなくなるほどかけるとか。あるお店で会計時に「トッピング代30円いただきます」と言われ、スガ氏は「書いてねえだろ!」と拒否したそうです。部員の活動報告も驚きです。「丸亀製麺」では、うどんに大量のねぎをトッピングしているにも関わらず、小皿にもねぎを取り、なくなったら‟追いねぎ”をする。「スパゲッティーのパンチョ」では、大量の粉チーズをかけながらナポリタンを食べる。「吉野家」では、牛丼に山盛りの紅しょうがを載せるなどなど。もはや、どっちがメインか分かりません。
もちろん、メニューの価格にはトッピングの食材費も入っています。でも、常識の範囲の量の価格です。客側にしてみれば“卓上に置かれた無料のもの”であっても、店側にすれば原価がかかっている立派な商品なのです。
北海道新幹線が開業した2016年3月から函館市で実施されていた傘の無料貸し出しサービスが、今年3月末で廃止されました。用意した2300本のビニール傘のうち200本しか返却されなかったためです。サービスは享受する側にマナーがなければ続きません。「紅しょうが有料ですけど付けますか?」と言われるようになりたいのでしょうか。
こだわりのレモン酎ハイが人気です
ここ1年ほど、酎ハイが人気です。居酒屋やバルでは、女性を中心にレモン酎ハイが売れています。
女性がレモン酎ハイを選ぶ理由の第一は、料理に合うこと。甘過ぎず、酒の香りも弱く、爽やかな炭酸飲料のように飲めます。唐揚げなど、油が気になる料理の後口をすっきりとさせてくれるのもうれしいところです。第二の理由は、美容と体調管理に良さそうだから。レモンに多く含まれるビタミンCは、美白の栄養素として周知のとおり。風邪予防にも効果があり、かつ疲労回復にも役立ち、なんと肝臓の働きをサポートしてくれます。居酒屋で絞ったレモンの皮を積み上げた画像を投稿することが、SNS上で流行っています。
ブームを生んだもうひとつの背景は、店側の盛り上がりです。‟檸檬酎盃研究所”を謳う「おじんじょ」(東京・恵比寿)は、広島の瀬戸田産レモンにこだわり、‟いつもの生レモン酎”、レモンリキュールを加える‟レモンチェッロで酎”などのほか、期間限定レモン酎も用意しています。東京・新宿ゴールデン街にオープンしたレモンサワー専門店の「オープンブック」は、黒糖焼酎をレモンピールで香り付けした後、“ランドル”と呼ばれる特殊なフィルターを使ってレモンの風味を重ね付けした、まるでレモンを丸齧りしているようなレモンサワーを提供しています。また「素揚げや 小岩店」(東京・小岩)は、氷の代わりに凍らせたレモンを入れた“最強レモンサワー”がおいしいと評判です。
一方男性に売れているのは、缶酎ハイ。1缶100円台とビールより安く、しかもアルコール度数はビールより高い7~9度。安く酔えるのが、人気の理由です。
ヘルシースナッキング市場が拡大する中、湖池屋の提案は“中間食スナック”
1日3食より多くの回数に分けて食べる方が、総摂取カロリー量が減り、太りにくくなる―。そんな発想から生まれた“ヘルシースナッキング”。手軽で、しかも間食OKのダイエット法への関心は、一気に高まっています。
すでに森永製菓は、ヘルシースナッキングをテーマに、チョコレートやクッキーなどのお菓子を開発していますし、キユーピーも、“正しい間食は、罪じゃない”と謳うバータイプのスナック「野菜ぎっしりバー」を発売しています。コンビニ各社も、売り場にヘルシースナッキングのコーナーを展開するなど、販売に力を入れています。
そんな中、湖池屋が立ち上げたのが、‟おつまみ以上お食事未満”をコンセプトに‟中間食スナック”を謳う「ひとくちDELI」シリーズです。スナック菓子ですが、位置付けは、‟新・惣菜の候補”。前出の商品が小腹を満たすための間食(おやつ)という立ち位置なら、こちらは、あくまでも食事(料理)の視点から開発されていて、パッケージも惣菜を意識したデザインが施されています。と言っても、商品は、ピザ味のトルティアチップス。今までなかったかと言えば、そんなことはありません。ただ切り口を変えているのです。
どんなものでも小腹解消商品になります。シリアルバーも、チョコレートも、おにぎりも、サラダも、カップ麺も。それは食べる側の意図によって位置付けられます。さらに、それが食事なのか間食なのかもです。
ヘルシースナッキングという言葉が拡散している今、敢えて‟中間食スナック”を謳ったのは、ヘルシー感が欠如しているからでしょう。でも発想は間違っていません。1日3食の食生活が崩れている今、食事とおやつの区別はないのですから。