高齢化社会に向けて注目が集まる「ブレインフード」

 高齢者向けに記憶力維持を謳った食品が、相次いで発売され、人気です。弊社は、2016年、脳の活性に役立つ食品を「ブレインフード」というキーワードで紹介しました。ここにきて、いよいよ生活者の認知度が高まってきたと言えます。
 ロッテが発売した「歯につきにくいガム<記憶力を維持するタイプ>」は、脳機能の改善効果があるとされる‟イチョウ葉フラボノイド配糖体”や‟テルペンラクトン”を配合した、中高年層をターゲットにしたガム。認知症予防などの効果を期待して手に取る姿が目立ちます。店頭想定価格は140円前後と標準品に比べて4~5割高いにもかかわらず、発売後2ヵ月で当初の販売目標の1.4倍を売り上げました。
 また日本水産やマルハニチロからは、‟エイコサペンタエン酸(EPA)”や‟ドコサヘキサエン酸(DHA)”を含む冷凍惣菜やレトルトのスープが発売されていますし、不二製油は、記憶力を高めるという‟大豆由来セリルチロシン”をプラスした粉末飲料「ペプチドメンテ」の開発を進めています。今年に入り、ファンケルや森下仁丹も、イチョウ葉の成分を使った商品を機能性表示食品として届け出ています。
 さらには、キリンは3/19、ホップ由来のビールの苦味成分が健常時の記憶力を向上させることを世界で初めて解明。森永乳業は、「ビフィズス菌A1」が軽度の認知障害の疑いがある人の認知機能を改善する可能性があることを確認しました。
 認知症が社会課題となっている中、防止と改善を期待できる成分の発見と開発、効果検証にますます注目が集まっています。

成城石井「トリエ京王調布店」のグローサラント展開

 小売各社が、日本式グローサラントの形を模索する中、成城石井が昨年9月、初めてのグローサラント業態店「トリエ京王調布店」をオープン。月次で当初販売計画の2倍を売り上げていると聞き、行ってみました。
 何を以て“グローサラント”と言うのか未だ明確ではありませんが、スーパーなどが食品の販売促進のために販売している商品を材料に使った料理を外食スタイルで提供。家で作りたいと思ったお客様に、食品を購入していただくという循環を狙った業態という概念が、今のところ広がっていると思います。
 レストランでは、黒毛和牛100%のバティを2枚使った‟フレッシュアボカドチーズバーガー”(税抜き990円)が一番人気なのだそう。黒毛和牛100%というバリューと、口に入るかしらと心配になるほどのボリュームが魅力なのだと思います。
 フランス産全粒粉使用したバンズは、ベーカリーコーナーで販売されていて、月間600パックが売れたこともあったといいます。これをして、グローサラントの成功を謳う声もありますが、ちょっと性急なのではと思います。なぜなら、バンズと一緒に買いたいクオリティ満点のパティは販売されていないのです。さらには、レストランで使用している食材の9割超は店内で販売している食品だというのですが、レストランにおいて、食品売り場への積極的誘導をしているとは、私には感じられませんでした。
 ただ、料理はおいしく、お得感もあり、何よりランチメニューにはプラス100円(税抜き)でソフトドリンクが付き、さらにプラス100円(同)でビールやワインに替えられます。一人客も多く、気軽においしい料理を楽しみたいとき、軽く飲んで帰りたいときなど、とても利用しやすいお店だと思いました。

カタチを変えることで機会創出を狙う基本調味料

 みそ・惣菜メーカーのヤマク食品(徳島)が、真空乾燥したみそを粗く砕いた「くだき味噌」を発売しました。料理に、みその香りや風味を付けるトッピング素材として開発。ソフトクリームやサラダ、パスタ料理や焼き魚にふりかけることを提案しています。
 みそ、しようゆ、酢、みりんなどの基本調味料の場合、販売量を増やすためには、合わせ調味料や簡便調理食品などの原料として使われるか、家庭においてそのまま利用される機会を増やすことが求められます。中でもみそは、家庭での消費量が減る一方。昨今の料理離れが拍車をかけています。そこで開発したのが、調味料ではなくフレーバー食品としてのみそ商品だったのでしょう。
 しょうゆをいち早くフレーク状に加工したのは、老舗しょうゆ蔵のかめびし屋(香川)です。17代目岡田社長は、西洋料理にもしょうゆを使ってもらいたくていろいろなシェフを訪ねたそうです。が、液体だからソースなどの味付けにしか使えないが色が悪くなる。固形ならトッピングに使え、黒い色もアクセントになると言われ、「シーズニングソイソルト」を思い付いたそうです。現在は、すり卸しながらふりかけるキューブ型のソイソルトも開発されています。また山川醸造(岐阜)からは、ムース状のしょうゆ「もこもこ泡醤油」が発売されています。ムービージェニックなだけでなく、泡が食材にしっかりとからむため減塩にも最適だといいます。
 使用頻度を上げるための働きかけは、用途を広げることが主流でした。レシピ提案がそれです。基本調味料は、カタチを変えることで機会創出を狙っています。

自社の強みを生かした、良品計画の食品スーパー

 生活雑貨を手掛ける良品計画が、「無印良品 イオンモール堺北花田」(大阪府堺市)をリニューアル。同社初の「食」をテーマとした店舗として、3/20にオープンさせました。
 店舗面積は、4300㎡と従来店の10倍。無印良品の店舗としては、世界最大で、その半分を食品売り場に充てています。中でも注力しているのは、生鮮食品。野菜は産地にこだわり、鮮魚は産地直送、マグロの解体ショーも行います。精肉は、平積みのパック商品と対面販売のブランド肉の両方を販売。注目のグローサラント機能としては、季節の野菜を使った惣菜やサラダ、焼き立てのパン、デザートなど約30種類を、90分1300円の食べ放題スタイルで提供する「Cafe & Meal MUJI」と、ローストビーフ丼やジビエカレー、海鮮丼、店内で製造したヨーグルトやミックスジュースなどが楽しめる48席のフードコートを用意。対面販売型のカウンターも導入し、担当者が店内で販売している食材のアレンジ調理法なども教えています。
 良品生活が食品スーパー、特にハードルの高い、生鮮食品分野に積極的に乗り出しているのは、顧客の固定化と来店頻度の停滞という課題があるためです。現状、無印良品の雑貨やファッションが好きな層しか来店しないし、しかも来店頻度は月に1、2度が限界です。でも食品を販売すれば、客層は拡がり、生鮮食品や惣菜を強化すれば毎日でも来店してもらえます。
 残念ながら私はまだ行ってはいませんが、ネットの写真を見る限りでは、店内は無印良品らしいシンプルなおしゃれ感で統一されているようようです。ブランド構築の上手さと、無駄を省くことで商品の価値を上げた手法が、今のところ、食品販売にも生かされているのだと思います。

日本人が朝型に。24時間営業に転機が

日本人が‟早寝早起き”になっています。
NHK放送文化研究所の「国民生活時間調査」によると、1970年から一貫して減少傾向だった平日の睡眠時間は、2015年に下げ止まり、10年との比較では、平日の午前5時~7時15分に寝ている人が減った一方、午後10時~午前0時に寝ている人は増加しています。
 2008年、「朝市場」というキーワードが初めて登場しました。朝、出勤前の時間を利用してスポーツジムや英会話教室に通ったり、異業種交流会などに参加して人脈づくりに役立てたり、朝活に励む生活者が増えました。今後、働き方改革で残業がなくなり、かつ、個々の能力が問われる評価体系が推進されれば、‟朝型”へのシフトはさらに強まるかもしれません。
 人手不足や人件費の高騰から、コンビニエンスストアや外食店は、24時間営業を見直しています。生活者が朝型になっているのですから、当然です。すかいらーくは、24時間営業を中止しても売り上げが落ち込まなかったといいます。この結果を受けて、今まで、なんとムダなことをしていたのかと思ったのではないでしょうか。一方、急激に市場を拡大させている小規模のフィットネスジムは、24時間営業が基本です。深夜、起きている人の夜の過ごし方が、明らかに変わっています。それに気が付かず、チャンスロスばかりを恐れていたとしたら、失策といわれても仕方ありません。

天候不順で拡大する冷凍野菜市場

 少しずつ寒さも緩み、暖かい日が増えてきました。が、白菜やキャベツなど野菜の高値はまだまだ続きそうです。それに対応すべく、食品スーパーは、冷凍野菜の調達先や売り場を広げています。
 「いなげや」が新たに仕入れたのは、ペルー産のグリーンアスパラガスや中国産のほうれん草といった海外産の冷凍野菜。「サミット」も、国産の冷凍野菜が品不足になっているため、中国産のほうれん草と小松菜の冷凍品販売に着手しました。「ライフコーポレーション」は、ほうれん草や人参、キャベツなど約20品を冷凍ケースに入れて販売。「いなげや」も改装店2店舗で、青果売り場に平台の冷凍ケースを設置しました。冷凍野菜、特にほうれん草やブロッコリーなどは、柔らか過ぎて水っぽいと敬遠されることも多かったのですが、ここにきて、野菜の高値をきっかけに利用を始め、利便性や保存性に惹き付けられている生活者は少なくないでしょう。
 一方、野菜の種も改良が進んでいます。種苗大手サカタが開発したのは、葉が厚く寒さに強い白菜「冬月90」。カネコ種苗の白菜「おもむき」も、温度変化に対応しやすく、低温でも葉が枯れにくいという特性を持ちます。このほか、根が太く強風でも倒れにくいとうもろこし「ゴールドラッシュ90」や、暑さに強いトマト「麗月」、高温でもきれいな球体になるレタス「タフV」など、天候不順に対抗できる品種が相次いで登場しています。
 天候に関係なく野菜が安価に入手できる環境が整った時、生活者は冷凍野菜を選ばなくなるのでしょうか。

集客効果を狙って食市場でも広がる定額制

 スマホや音楽配信では当たり前になっている定額制。それが最近、食の分野にも広がっています。
 ガッツリ系ラーメンで若者に人気の「野郎ラーメン」。18~38歳の“野郎”世代限定という年齢制限はありますが、月額8,600円で3種類のラーメンから好みのものを1日1杯食べられます。月12杯で元が取れるので、3日に1度以上行けばお得です。西新宿のカフェ「コーヒーマフィア」は月額3,000円で、通常1杯300円のラージサイズコーヒーを無料で楽しめます、1日何杯オーダーしてもいいので、コーヒー好きの人なら、あっという間に元が取れます。フレンチレストランで定額制を導入しているのが、六本木の「プロヴィジョン」です。1名利用なら月額15,000円で、料理とワインなどのお酒を好きなだけ楽しめます。月に何度でも利用可能です。4名まで利用可能な月額30,000円コースもあります。利用回数が多ければかなりお得ですし、毎回会計をする手間が省けるので、接待が多い営業マンや部下とのコミュニケーションを大切にする経営者などには、人気のようです。月額性のフードシェアリングサービスも登場しています。「Reduce Go」は、月額1,980円で1日2回まで飲食店や小売店の余った食品を処分価格で購入することが可能です。
 客は、元が取れると思っているから定額制を選択します。一件、店側に損のように思われますが、一度来るか来ないかの客が、何度も足を運んでくれるようになるのですから、決して損だけではありません。客がいない店ほど寂しいものはありません。客が客を呼び、集客に弾みが付くこともあるでしょう。定額制は、生き残りをかけた外食店の集客の手段。それがファン化に繋がればという切望が、導入に向けて背中を押します。

フィギュアスケート選手と食事制限

 韓国平昌で行われていた冬季オリンピックが終わりました。日本中の在宅婦人は、心配半分、うっとり半分で男子フィギュアスケートを見たのではないでしょうか。
 スポーツ選手にとって、食事はとても大切です。体重の変動がパフォ―マンスを左右するという意味では、冬季オリンピックの競技の中でも、フィギュアスケートが圧倒的に食事に神経を使う競技でしょう。
 2010年のバンクーバー冬季オリンピックで3位に輝いた高橋大輔選手が、海外遠征時、お腹が空いたときは食事管理を依頼している日本の栄養士にその都度電話をすると言っていました。小さなおにぎり1個なら食べていいなど指示を受けるのだそうです。少しでも体重が増えると、回転のバランスが崩れ、動きの切れも悪くなるのだとか。といって、体重を減らせば体力が落ちる原因にもなり、ベストなバランス状態を維持することはとても難しいのだと思います。
 ソチ冬季オリンピックに出場した、キャンドル・スピンで有名なロシアの女子フィギュアスケーター、リプニツカヤは摂食障害を患い、平昌前の昨年秋、19歳で引退しました。同じくソチに出場した女子フィギュアスケーターの鈴木明子選手も、摂食障害だった過去を公表しています。厳しい練習と自由の少ない生活だけでも若い女性にはストレスなのに、それを発散させる手段のひとつでもある食を制限されるとなると、その辛さは容易に想像できます。
 生活のすべてを競技にかけてきて4年に1度があるから、私たちはこんなにハラハラドキドキして、涙が出るほど感動するのだと改めて思った2週間でした。

ネットと実店舗の融合を急ぐ楽天とヤフー

米国アマゾンはホールフーズ・マーケットを買収、中国のアリババ集団は生鮮食品スーパー「盒馬鮮生」を傘下において、それぞれ実店舗の展開を急いでいます。
一方、日本においても同様の動きが活発化しています。
楽天は、ウォールマート・ストアーズ傘下の西友と共同出資会社を設立。新サービス「楽天西友ネットスーパー」を始めます。西友の店舗から商品を届ける仕組みはそのまま。別に、ネットスーパー専用の物流拠点を設けます。楽天サイトですでに扱っている地方の産品や加工食品なども、ネットスーパーで買えるようになります。
またヤフーは、ソフトバンク、イオンと、ネットと実店舗の双方の店舗運営や商品販売で提携します。イオンは、通販サイト「イオンドットコム」や「イオンネットスーパー」を展開していますが、商品アイテムでは、ネット通販専門会社には到底敵いません。一方、ヤフーは「ヤフーショッピング」で多くの種類の商品を扱っていますが、大手メーカーの定番商品の価格などについては、大量に仕入れて販売するアマゾンに分があります。お互いに弱いところを補完するのが狙いです。
セブン&アイホールディングスは、アスクルと組んで、すでに生鮮食品の宅配を始めています。
アマゾンの脅威に対抗するために、実店舗の活用を急ぐ、楽天とヤフー。日本では実店舗を持たないアマゾンが展開する「アマゾンフレッシュ」は、配送料、配送までの時間に関しては、ネットスーパーのほうが断然利便性が高く、ネット通販での強みは見られません。品揃え、価格、利便性。3拍子揃うのはどこなのか。この先が楽しみです。

ネットと実店舗の融合を急ぐ盒馬鮮生と米アマゾン

 米アマゾンは、実店舗の展開を加速させています。昨年6月、「米ホールフーズ・マーケット」を137億ドル(約1.5兆円)で買収すると発表。いよいよネットと実店舗の融合が始まるのかと楽しみに思いました。
 でも、もっと先を行く企業があります。中国のネット通販最大手アリババ集団です。すでに傘下に生鮮食品スーパー「盒馬鮮生」を抱え、ネットと実店舗を融合したスーパーを展開しています。現在は、上海を中心に26店舗を運営していますが、今後は北京をはじめ、内陸部や南部の都市にも出店を広げる計画です。盒馬鮮生のすごいところは、店舗から半径3㎞までの範囲なら、ネットで購入した商品を30分以内に届けるシステムを構築している点。近隣の店舗で選任のスタッフが注文された食材をピッキング。専用バッグに入れて売場の端にあるクレーンに載せると、天井に張り巡らされたレールで運ばれ、バッグヤードの配送スタッフに届きます。ピッキングとチェック、発送係の分業が、配送時間30分というサービスを可能にしているのです。因みに配送料は、どんなに安い商品でも無料です。
 日本でもアマゾンフレッシュがネットスーパーを始めています。実店舗はなく、送料は1回の注文が4,000円未満だと500円。配送は2時間ごとの時間帯から選べますが、商品があれば最短で4時間、普通は翌日配送のようです。
 日本の場合、家庭の支出の1/4は食費。食市場は、やはり大きくて確実な巨大マーケットです。ネットスーパーが苦戦する中、アマゾンフレッシュは顧客獲得ができるのか。米アマゾン、盒馬鮮生と合わせて、今後も注目していきたいと思います。