清々しい季節を迎え、窓を全開にして風を入れ、暖房機を片付け、衣替えをし、掛け布団を軽くしてと、週末仕事がいろいろ。初夏を迎え、心にも薫風が吹きます。食支度も変わります。温かいお茶をポットに入れて仕事場に持って行くのを止め、煮出したお茶をクーラーポットに移して冷蔵庫に。昼食は熱々の鍋焼きうどんから冷たいフォーに変わります。
この冬は、本当によく鍋焼きうどんを食べました。仕事の合間に作る鍋焼きうどんの具は、ひと口大の鶏肉、ゆでたほうれん草、太めに切ったしいたけ、短冊の油揚げ、卵が基本。卵以外はすべて冷凍しておけるので、あっという間にでき上がります。鍋焼きうどんには、冷凍うどんより、ゆでうどんが合うような。もちもちの食感でちょっと軟らか、やさしくて温まる感じがします。懐かしさも味のうちかな。
昨夏は、本当によくフォーを食べました。細いうどんの乾麺をたくさんいただき、おいしい食べ方を考えてのフォーです。朝、水に顆粒の鶏ガラスープ、鶏モモ肉、長ねぎの青い部分、しょうがの薄切りを入れて火にかけます。水からゆでるのはスープにうま味を出したいから。仕上げに塩とナンプラーを加え、粗熱を取ったら冷蔵庫に入れておきます。昼、麺をゆでたら氷水で〆め、冷やしたスープをかけて。具は、きゅうり、トマト、万能ねぎ、麺と一緒にゆでたもやしにゆで卵。たっぷりの香菜をトッピングしてレモンを添えます。細いうどんのつるつるとした食感となめらかなのど越しが、盛夏のランチにぴったりです。
酷暑が予想される今夏、麺業界では冷活商品の提案が活発化しています。うどんに関しては、レンジ調理品はもちろん、辛いメニューも続々。そんな中、テーブルマークが発売したのは「カトキチ極細さぬきうどん3食」。シリーズ史上、最も細い麺を採用しています。“そうめん”ではなく“細うどん”。夏の昼食で大活躍の予感です。
カテゴリー: 食のトレンド
名前に「豆腐」が付いたいろいろ
豆腐と名が付く食品は、たくさんあります。大豆(豆乳)を原料にするものには、豆腐を凍らせて乾燥させた「高野豆腐・凍み豆腐」、水を多めに抜いて硬く仕上げた沖縄の「島豆腐」、スモークした岐阜の「燻り豆腐」、海藻のいぎすで生大豆粉と野菜などを冷やし固めた「いぎす豆腐」などが。豆腐を加工したものには、豆腐を発酵液につけて熟成させた中国の「臭豆腐」、豆腐を麹などにつけて発酵させた沖縄の「豆腐よう」などが。大豆(豆乳)をまったく使わないものは、「ごま豆腐」「ジーマーミ豆腐」「卵豆腐」など、こちらもいろいろ。加工食品から調味料まで、大豆が食の柱になっている日本ならではの“豆腐名バリエーション”です。
豆腐の材料、豆乳はそのまま飲料にも、プリンやアイス、豆花(トーファ)などのスイーツにも利用されていますし、逆に大豆も豆乳も豆腐も利用していないのに「杏仁豆腐」のように「豆腐」の名前が付いたスイーツもあります。言ってしまえば、「ごま豆腐」はそのままスイーツとしても楽しめますし、「ジーマーミ豆腐」は基本のだし味以外に、黒糖味、紅芋味、チョコ味など甘い味の商品も販売されています。今年3/1、ふじや食品(福井・越前)は不二家の監修を受けて、キャンディ「ミルキー」味を反映させた「milky胡麻どうふ」を発売。同社はこれまでに、チョコミント味やミルクティー味など15種類のスイーツ系ごま豆腐を展開しています。またグリコ乳業(当時)は2012年、発売40周年を迎えた“プッチンプリン”シリーズから、冷ややっこ風に楽しめる甘くないプリン「男のプッチンプリン<おつまみ冷奴風>」を期間限定で発売しました。一方16年、アサヒコ(東京・新宿)が開発したのは、豆腐デザート「SWEETS TOFU“カスタード風味豆腐”“杏仁風味豆腐”」。本当の豆腐なのに「杏仁豆腐」ではなく、“杏仁風味豆腐”のネーミングが愉快です。
食品会社の“長引く夏”対策
初物を食べると“新たな生命力を得ることができる”“75日長生きできる”など、縁起がいいとされる風習からか、日本人は先取りが大好き。食品会社やスーパーマーケットは、そんな生活者に向けて商品を提案し、販促をかけます。
20年前、大手スーパーマーケットの仕事をしていたとき、過去10年間分のチラシを見比べて驚きました。52週マーチャンダイジングに倣ってか、同時期の紙面を賑わしている商品がほぼ同じ、違うのは値段だけです。9月第1週の提案は、“サンマ”と“炊き込みご飯”。暦の上では秋ですが、まだまだ残暑が厳しい。サンマはまだしも、炊き込みご飯を食べたくなるのかは、いささか疑問です。そこで私が提案したのが、“秋の素材を使った涼味”。気候変動の影響で、当時よりさらに過酷な残暑の秋を過ごさなくてはならない昨今。長引く夏に着目したプロジェクトが登場しています。
夏と秋の間の暑い時期を新たに5番目の季節“まだなつ”と命名したのは、味の素。この季節を楽しく、快適に過ごしてもらうため、「五季そうさまプロジェクト」を始めました。プロジェクトサイトでは、「ほんだし」を使った “まだなつレシピ”を提案。まだなつの時期に出回る秋食材を、暑い日でも作りやすく・食べやすく調理したレシピや、マンネリ化しやすいそうめんなどの夏の定番メニューのアレンジレシピなどを紹介しています。
明星食品も、“春夏夏”のキーワードを掲げ、暑くて長い夏向け商品のラインアップを充実させています。「明星 汁なし麺拡大戦略」として、「チャルメラ」ブランドの袋麺から、第4のフレーバー、「油そば」を新たに導入。また販売実績が今期7割増と好調な「ぶぶか油そば」は、各種プロモーションなどを実施してさらなる販路の拡大を図ります。
緑茶の新たな価値創造!?
立春から数えて88日め、新茶の季節を告げる八十八夜。今年は5/1です。急須で淹れる緑茶の消費量が減少する中、飲料メーカーの緑茶展開には新たな傾向が見られます。
伊藤園が「お~いお茶」ブランドから3/17に発売した若者向け「PURE」シリーズが、20~30代の若者や女性にウケて絶好調のよう。同シリーズは、“お茶の常識、すてましょう。”を合言葉に香りや甘みを楽しむ日本茶の新たなスタイルを提案。すっきりとした後味と爽やかな香りにこだわり、じっくりと抽出することで緑茶の甘みを引き出した「PURE GREEN」と、レモンの爽やかな香りが楽しめる「LEMON GREEN」の2種が揃います。
一方、サントリーが提案するのは、ティーパウダーの「いちりんか」。お茶の研究を続けてきた同社が、まったく新しいおいしさを追い求め、“香り”にこだわって11年かけて作り上げた商品。新緑の森のように爽やかな香りの「香りふくよか」、蜜を想わせる甘い香りの「香りうっとり」など、気分やシーンに合わせて選べる6種類がラインアップされています。日本茶の繊細な香りを最大限に引き出し、さらに香味をパウダーに封じ込める新技術をゼロから開発。日本茶の複雑で豊かな香りを五感で楽しめる、“ネオ・ティーパウダー”と謳います。
今年のスーパーマーケットトレードショーでは、フレーバーティーの提案がとても多かった印象があります。世界的にも、伝統的な茶文化と現代的なフレーバーの融合がトレンド。「PURE」シリーズの「LEMON GREEN」は、まさにそこを狙った商品です。一方「いちりんか」はあくまでも緑茶の豊かな香りにこだわった商品。そのこだわりを、現代の生活にマッチさせるため粉末に加工する過程において、かなりの技術と時間を費やしたことでしょう。6種類6本のトライアルセットは、1480円(税込)。1杯(100ml)およそ246円です。
緑茶は、用途と好みで使い分ける嗜好品。おいしい緑茶を淹れていただいたときの有難さを思えば、高くはないのかもしれないし、粉末茶でそれが可能なのかとも思うし。とても試してみたい商品です。
タイパ志向でリバイバル? ワンハンドフード
早く速くが求められている今、歩きながらでもさっと食べられる、ワンハンドフードがちょっとしたトレンドになっています。
セブンイレブンは外出機会が増える春休みシーズンに合わせて3/25、片手で食べられる冷凍食品2品を数量限定で発売しました。皿にのせるのが“常識”のお好み焼きを片手でパクッと食べられるようにしたり、温めて食べるのが“常識”の今川焼きを電子レンジで冷たく仕上げる設計にしたり、“冷凍食品の常識を覆そう”をテーマに掲げています。
一方、Hotto Mottoが提供するのは、人気のお弁当をワンハンドで手軽に味わえる“BENTOバーガー”シリーズ。“のり弁バーガー”は、おかか昆布の上に海苔をのせ、白身魚のフライ、ちくわの天ぷらを盛り付け、ソースで味付け。ひと口で海苔弁のおいしさを堪能できるといいます。
大阪・関西万博に出展する飲食店では、会場を巡りながら食べられるワンハンドメニューを提供する動きも見られます。「ほっかほっか亭 MADE by HURXLEY」は、十六穀米を使ったご飯でおかずをサンドした“ワンハンドBENTO”を提供していますし、不二家は、“気軽に、好きなタイミングで楽しめる新たなスタイル”として“ワンハンドショートケーキ”を提案しています。
2007年のトレンドにも、【ウォーキングフード】というキーワードでワンハンドフードが取り上げられています。丸く固めて焼いたラーメンの麺をパンに見立て、ハンバーグの代わりにチャーシューをはさんだ“麺バーガー”。スティックケーキやモチクリームなど、ワンハンドで食べられるひと口スイーツも流行りました。当時、北米で250店をチェーン展開していた、ピタパンを使ったサンドイッチ店「ピタピット」の日本1号店が、東京・千代田にオープン。ピタパンに、たっぷりの野菜、チキンやローストビーフなどを詰めて巻き込むように包むため、片手でも中身やソースがこぼれずに食べやすいうえ、栄養のバランスもよいと人気になりました。
ツンとした刺激が懐かしい
ここ数年、積極的に酢飲料を飲む生活者が増えています。中でも人気なのは、健康によいイメージが定着している黒酢と果実酢。黒酢商品では、タマノイ酢のロングセラー「はちみつ黒酢ダイエット」や、果実酢では100%果実発酵酢から作られたCJジャパンの「美酢(ミチョ)」など、長く人気を誇る商品が多く、Mizkanやキユーピー醸造も、業務用を含めてさまざまな酢飲料を販売しています。
今年3/25、Mizkanは30~40代男女をターゲットに、“気になるカラダまとめて対策飲料”と謳う機能性表示食品のビネガードリンク「NEW酢SHOT(ニュウスショット)」を発売しました。同社史上最大レベルの酢酸を配合したこの商品。酢酸には、血圧が高めの人の血圧を下げる機能、日常生活で生じる運動程度の一時的な疲労感を軽減する機能、肥満気味の人の内臓脂肪を減少させる機能があることが報告されています。酢愛好者が、性別、年代に関係なくどんどん広がっているようです。
Mizkanが2009年に発売した「やさしいお酢」は、“ツンとこない”酢を目指して作られた酢調味料。鶏肉の煮物や魚の照り焼きに使うなど、今までの酢にはないレシピを提案し、酢を料理に使うことが少なかったターゲットの掘り起こしに成功。酢が苦手な人にも受け入れられてヒットしました。続いて登場した既存商品をリニューアルした「カンタン酢」は、今やMizkanの稼ぎ頭。20年には飲食店向けに「ぽん酢」を使ったアルコールドリンク“ぽん酢サワー”を提案するなど、酢の利用範囲も広げています。元々、日本古来の発酵食品であり、身体によいと言い伝えられてきた酢。ツンとしなければ万人受けするのは当然です。
“子どもと男性は酢が苦手”。なんとなくそう思っている人も多いのでは。確かに、昭和時代の酢には、吸い込むとむせるような、ツンとした角がありました。まろやかな酢味もいいのですが、時には、キリッとした強い刺激が懐かしくなります。
日本の代替タンパク源? コオロギとカイコ
プロテインクライシス(タンパク質危機)とは、地球人口に対してタンパク質の需要と供給のバランスが崩れること。2050年には、タンパク質の供給量が足りなくなる可能性があると予想されています。肉はもとより肥育のための飼料、植物性タンパク源の大豆など、その供給を一定以上輸入に頼る日本において、代替タンパク源の研究開発と安定供給は、まさに焦眉の急とされる課題です。
動物性タンパク質に替わるものとしては、大豆などの豆類、きのこの菌糸体、藻類などがありますが、日本で一時、注目されたのは昆虫食。徳島大学発のベンチャー会社「グリラス」がコオロギの食用化に取り組み、パンやスナック菓子などさまざまな食品にコオロギを添加。ファミリーマートと共同で商品開発をするほどの勢いがあったのですが、24年11月、SNSの炎上が原因でクライアントが離れ、自己破産を申請しました。
とはいえ、代替タンパク源としての昆虫利用は、そうそう簡単に諦められるものではありません。17の大学・研究機関が参画する「昆虫利用型食料生産コンソーシアム」を中心に、昆虫の機能性を軸とした循環型食料生産システムの研究が進んでいます。コオロギの雑食性を生かし、廃棄される農作物など未利用資源をエサにする研究が進行。大きく成長させ、食用としてよりおいしいコオロギを育てる研究も始まっています。
そしてもうひとつ、良質なタンパク質を作り出すことが知られてきたのがカイコ。新たな技術でバイオや食品産業に転用する動きが広がりつつあります。「Morus(モルス)」は、カイコの幼虫を粉末状にし、代替タンパク源として東南アジアのレストランやジムに販売。昨年、シンガポールに販売拠点を作りました。愛媛県で養蚕産業を展開する「ユナイテッドシルク」は、繭の抽出成分を事業化。粉状にして微量をパンに混ぜればしっとり感が増し、麺類に配合すればコシのある食感に仕上がるといいます。
“米料亭”で炊き立てご飯
「銀座米料亭 八代目儀兵衛」でランチをいただきました。“五ツ星お米マイスター”を取得し、2009年京都に「京の米料亭 八代目儀兵衛」を、13年に同店をオープンさせています。
インバウンド需要を追い風に、1時間おきの予約は連日ほぼいっぱい。ランチメニューは、すき焼きやひつまぶし、お茶漬けなどもありますが、一番人気はやはり、お造りや焼き魚、天ぷらなどがセットになった“満開御膳”。ご飯の風味を存分に楽しみたいなら、これ一択です。予約時間の15分前までに店頭へ、入店するとすぐに料理が提供され、食事時間は30分ほど。次々に客の入れ替えが行われ、回転はムダなく進みます。
ご飯にはおこげが添えられ、特製の塩かごま塩をかけていただきます。米菓のような食感と香ばしさ。ご飯は、風味が立ち、ほんのり甘くて、適度に温かく。炊き上がってから10分以上経過したご飯は出さないと言います。
ウチでもおいしいご飯を炊きたくて、オリジナルブレンド米“翁霞”を購入。“おいしい炊き方”の指南書には、炊飯器の早炊きがお勧めとありましたが、土鍋派の私は我が家の炊飯釜で。悔しくも、店の味には敵わず。店で使われている炊飯釜は、佐賀有田の窯元と3年半をかけて開発した“Bamboo!!”とか。買わずにおれるか!でサイトに行くと売り切れ。
「八代目儀兵衛」の米をメニューのウリにしている飲食店も多く、ミシュランの星付きレストランから機内食向けに航空会社にまで米を卸していますし、23年には、セブン-イレブン・ジャパンのおにぎりの米の監修も始めています。またさまざまな企業が、「八代目儀兵衛」の米をギフトやノベルティに利用しています。確かに、お墨付きのブレンド米をいただいて困る人はいないでしょうから、贈り物には最適です。
米不足で、初めて日本の米事情を知った生活者も多いことでしょう。塩やしょうゆ、みそがあれば、ご飯をおいしくいただけるのが瑞穂の国の民。米作政策について改めて考えさせられたランチでした。
「水炒め」と「水淹れコーヒー」
言い方を変えれば別物? 最近目にして驚いたのは、「水炒め」。NHK「きょうの料理」で、料理研究家の脇 雅世氏が紹介していた料理法です。きっかけは“油を控えたい”という夫の一言からとか。油の代わりに少量の水を熱して素材に火を通す手法で、くっつかないフライパンを使い、水分の蒸発が速いようなら途中で水を足すなどして仕上げます。<炒め物には油>という固定概念があれば、<水で炒める>は新鮮です。でも手順を見ると、これは<炒め蒸し>または<蒸し煮>。ただ水の量は大さじ1杯など少なく、あたかも<油を水に置き換えたヘルシーな新しい料理法>という伝わり方をするだろうことは容易に推測できます。
今春、UCC上島珈琲がアイスコーヒーの新定番として提案しているのは、「水淹れコーヒー」です。年間を通してアイスコーヒーを楽しむ生活者が多いという調査結果を得て、雑味が少なく、すっきりまろやかな味わいで香り豊かな「水淹れコーヒー」に注目。ひと晩水に漬けておくだけで手軽に「水淹れコーヒー」が楽しめる家庭用のバッグタイプ製品を発売しました。「水淹れコーヒー」。これ、いわゆるコールドブリュー、「水出しコーヒー」です。今後、ペットボトルやリキャップ缶製品を投入するほか、外食店でのメニュー導入を提案する予定です。“水出しは知っているけれど、水淹れって?”。<未知の淹れ方のコーヒー>として興味を持つ生活者は多いだろうことは容易に推測できます。
関西の「水炊き」は、まさに水で食材を炊く(煮る)し、「水煮」は魚や野菜の保存方法。例えば「水揚げ」と表現する新手法はあるのかと考えても、「(水から)ゆでる」と同じだからあり得ず。「水焼き」は料理法としては見当たりませんが、シャープが“ウォーターオーブンヘルシオ”の説明で、100℃以上の高温状態にした“過熱水蒸気”で食品に大量の熱を伝えることを「水で焼く」と表現しています。
マグロ、完全養殖から短期養殖へ
今年2/2、日本経済新聞の見出しに驚きました。「マグロ完全養殖 ほぼ消滅」。完全養殖によるクロマグロの商業生産がほぼ消滅する見通しという内容です。マルハニチロが2025年度の生産量を前年度比8割減らすほか、ニッスイは一旦停止、極洋は完全養殖の子会社が債務超過に陥り24年に解散しました。
トレンド情報でも講演でも取り上げた「近大マグロ」。近畿大学が32年の歳月をかけ、02年に世界で初めて完全養殖に成功したクロマグロ食べたさに、グランフロント大阪にオープンしたばかりの「近畿大学水産研究所」に馳せ参じたことを思い出します。
完全養殖とは、人工ふ化させた卵から親魚を育て、その卵を再び人工ふ化して育てる持続可能な養殖法。天然の稚魚を捕獲する必要がなく、マグロ資源の減少を防ぐことができます。海外での寿司ブームを背景にマグロの価格が上がり、他国による乱獲や日本の買い負けが危惧されていたタイミングでの完全養殖成功の話。夢の技術として投資が活発化し、おいしいマグロが安定した価格でいただけると市場は大歓迎ムードでした。
それがほぼ消滅とは。理由は、資源量が回復していることに加え、エサ代や人件費など生産原価が高騰しているため。そして昨今、完全養殖に代わる方法として注目されているのが、短期養殖です。天然の成魚を捕獲し、“数カ月”だけいけすで太らせて出荷する養殖法で、通常のマグロ養殖の場合、天然の稚魚を出荷できるまでに成長させる期間は3~4年。卵からふ化させる完全養殖では5年かかりますから、養殖期間が少ない分、コストが抑えられます。
とはいえ、またいつマグロが獲れなくなるやも知れず。マルハニチロは「完全養殖は絶対にやめない」と言います。一度撤退すれば再開に10年はかかるから。一方、近畿大学は、成長が早い稚魚の研究、早く成長させ、天然資源に依存しないエサの開発、成魚の生残率の向上と魚体の変形防止への対策など、完全養殖の課題解決に向けた研究を強化しています。マダイやヒラメ、シマアジ、サーモンの養殖では、完全養殖が主流だとか。目の前に流れる寿司ネタの事情を少しでも知ると、愛着がわくから不思議です。