ワクチン争奪戦と食料価格の高騰

 世界中で食料価格の高騰が起こっています。

 まずは穀物。3月時点で、とうもろこしや大豆は60%以上、小麦は12%も上がっています。ということは、穀物が飼料となる牛の肉も。3月の卸売価格は、1ヵ月前に比べて2割以上も上昇しました。新型コロナウイルス下でも、換気をウリにがんばってきた“焼肉店”、テイクアウトを武器に健闘してきた“牛丼チェーン”にとっては、やっと光明が見えた矢先の大打撃です。

 理由は、米国や中国などコロナ禍から一足先に抜け出した国々の需要が一気に爆発したため。我慢してきただけに反動も大きく、供給が追い付いていないのです。加えて、長らく豚肉が中心だった中国の食肉消費の傾向が、中間所得層が拡大するのに比例して牛肉にシフト。世界第2位の牛肉輸入国になっているのです。中国政府は、牛肉の自給率を上げるために、そばから大豆に転作することを奨励しています。日本のそばの75%は中国産。冷たいそばがおいしい季節を待たずして、こちらの価格も上がるでしょう。大豆の価格が高騰すれば、食用油の価格も上がります。節約志向の中、かつてないほど大きなブームになっている“唐揚げ市場”を直撃しています。

 中国の転作政策でもうひとつ価格が上がっているのが、小豆です。取引価格が、20年ぶりの高値になりました。2020年、とうもろこしなどへの転作が進んだからです。一方、百貨店の営業自粛や移動制限によるおみやげ市場の縮小で、国産小豆を使う高級和菓子の需要は低迷していて、国産小豆の価格は下がっています。これからは、スーパーやコンビニの和菓子で、高級なあんこが楽しめるかもしれません。

 にしても、ワクチン争奪戦で後塵を拝したツケは、大きく大きく膨らんで、長く長く私たちの生活を苦しめそうです。

飲食店、90分勝負の戦術

 21日、東京都においては緊急事態宣言が解除され、まん延防止等重点措置に移行しました。飲食店でのお酒の提供が可能になりましたが、営業時間は20時まで、お酒の提供ができるのは11時から19時まで、2人までの人数制限で滞在時間は90分。

 早速ランチ飲みをしに飲食店へ。ビールサーバーの準備ができていなかったのか、ビールが出るのが遅い。ランチビールをこんなに待ち焦がれたことはありませんでした。

 お酒が出せることでやっと営業体制に入れたのが居酒屋やパブ。90分勝負に挑みます。戦略は、何と言ってもスピード感。戦術としては、刺身や作り置き可能な料理などすぐに提供できるメニューのラインアップを増やすことです。客も久しぶりの外飲み。話が弾むと食事そっちのけになってしまうことも。“久しぶり”の高揚感に乗っかって、単価がやや高めの料理を出してみてもいいでしょう。1人客と2人客が主体になるので、盛り合わせの単位も変更して。家庭では味わえない外食ならではの特別感が、今は平常時以上に求められます。“ちょっといいものを少しずついろいろ戦略”が少人数の客には、はまると思います。

 昨年、時短要請が発令される前から、一部のレストランでは“ディナーの時短化”が進んでいました。感染を恐れ、店での滞在時間をなるべく減らそうと、敢えてランチの時間帯を利用したり、ディナーもさっと食べて帰ったりする客が増えたのです。そんな時短ニーズに応え、手頃なボリュームで90分程度で食べ終えられるリーズナブルなコースを期間限定で用意したイタリアンもありました。客にとってはコスパがよく魅力的ですし、一方店側は、3密を避けるために席数を減らしているので回転率を上げたいという事情があり、客と店の双方にメリットがあります。「時短ディナー」は、まさにウィズコロナで生まれたかつてない新しいキーワードになりました。

昭和懐かしハムカツサンド

 渋谷駅で小腹が空いて「渋谷スクランブルスクエア」へ。何かちょっとしたものを買って帰ろうと思い目に付いたのはサンドイッチ専門店のハムカツサンド。「人気2位」とあります。1位は「エビカツサンド」、3位は「カツサンド」。トレンドの“萌え断”分厚いフルーツサンドが並ぶ中、カツが人気のようです。

 ハムカツサンドのフィリングは、卵サラダ、レタス、ハムカツ、ツナマヨ。盛り込み過ぎで、ハムカツの風味が楽しめません。ハムカツがとてもやさしい味なので、余計にです。   

 私好みのハムカツサンドは、昭和の時代、商店街のお肉屋さんが揚げていた分厚いハムカツを、何も塗らない食パンにはさんだもの。プレスハムやチョップドハムで作ったハムカツです。でもそんな昔のハムカツがなかなか探せないのです。今は、ロースハムが主流ですから。そこで、チョップドハムを買って自分でハムカツを作ることにしました。塊のチョップドハムは、ネットで購入します。タイル貼りの壁のような凹凸のある、濃いオレンジ色のビニ―ルに包まれた、アレです。

 因みにチョップドハムとは、塩漬けした豚や牛、馬や羊、ヤギ、ウサギの肉や魚肉に、デンプン、小麦粉、コーンミールなどのつなぎと香辛料や調味料を加えて練り、整形、燻煙、加熱したもの。豚のロースを塊のまま風味付けして乾燥、燻製、加熱したロースハムにはない雑味があり、それが特有のうま味に繋がります。

 高度経済成長初期の日本には、テレビや新幹線など、初めて経験する“感動もの”が次々に登場しました。食品も同様、初めて食べたおいしさの感動が舌に残っているのです。

アップサイクルとホールフード

 最近、“アップサイクル”という言葉がトレンドキーワードに度々登場します。815号の「himeko’s VIEW!」でも取り上げましたからご存知の方も多いと思いますが、“従来は廃棄されていたものに新たな用途や価値を与えて進化させる”という考え方で、2019年に米国企業を中心に設立された「The Upcycled Food Association(アップサイクル食品協会)」は、アップサイクル食品を“本来は人間の食用にされなかった原材料を用い、検証可能なサプライチェーンで調達、生産され、環境によい影響をもたらす食品”と定義しています。

 日本には、古くから“丸ごといただく”食文化があります。米の外皮はぬか床になり、それに野菜やすいかの皮を仕込んで漬け物にしていただく。大豆を絞って豆腐にし、絞りカスは卯の花にしていただく。私は、ごぼうは皮をむきません。そこにごぼうの香りがあるからです。大根の葉は炒めてふりかけにします。ブロッコリーは茎のほうが好きです。これらはまさに、“ホールフード”の実践です。

 では“アップサイクル”との違いは? 例えば、ひよこ豆のゆで汁でビーガンマヨネーズを製造する。これはアップサイクルっぽい。かぼちゃやアボカドの種から油を搾汁する。これはホールフードかな。

 “従来は廃棄されていたもの”“本来は人間の食用にされなかった原材料”の判断がとてもややこしいのです。そもそも食べられる部分か否かは、食文化、食習慣に大きく関わってくること。欧米ではかんきつ類の皮を多用し、東南アジアではパクチーの根っこは欠かせない食材です。

 言葉の認知が高まると存在の必然性が生まれます。“アップサイクル”は、商品開発やメニュー提案の新しいキーワードになり得るかもしれません。なんとなく理解することで安心する日本では余り問題にならないと思いますが、この言葉の定義の解釈はややこしい。

お酒の飲み方の偏差値が上がる機会だったのに

 時間に関係なく、飲食店で酒類が提供されなくなった今、酒好きの私はランチも含めて外食をほとんどしなくなりました。ワインを飲まずにフレンチやイタリアンをいただいて、8時には店を出なくてはならない。そんなゆとりのない食事はしたくないのです。もちろん、お店のためには行くべきなのでしょうが。

 お酒が入ると騒いでしまうから、提供しないように。お酒そのものがいけないのではなく、気が緩んでマスクをかけ忘れたり、密になってしまったり、酔って大声で話したりなど、新型コロナウイルスを感染させてしまう“行動”がいけないということ。ならば、ひとりご飯のときや、バーなどでひとり時間を楽しみたいときは、お酒をいただいても問題ないと思います。一方、レストランやカフェで食事をしながら、しっかり盛り上がっているご婦人グループを見ることも。騒ぐ騒がないは、お酒だけの問題ではありません。

 もちろん、路上飲みで迷惑をかける若者たちも少なからず目にします。でも、「飲める場所を取り上げられたのだから仕方がない」と同情も。まだ子どもなのですから。私も学生なら、いえ20代なら、路上飲みをして盛り上がっていただろうこと想像に難くありません。

 死に至るかもしれないウイルス感染の恐ろしさ、若者も免れられない後遺症の苦しみ、変異を繰り返すウイルスの厄介さ。それらを十二分に理解させ、正しく恐れるよう教育を徹底したうえで、お酒の場での配慮を促せば、世界的に見て決して高いとは言えない日本人のお酒の飲み方における偏差値が上がったのではないかと思います。若者には、大人の嗜みを啓蒙するいい機会になったのではないかと。理想論かもしれませんが、それが残念でなりません。

ヘルシー志向で、馬肉人気が再燃

 新型コロナウイルス禍でヘルシー志向が強まる中、赤身のヘルシー肉として馬肉が注目されています。

 回転寿司チェーン「スシロー」は4/7から、期間限定で“馬刺し食べ比べ”を提供しました。さっぱりとしながらも馬肉のうま味が感じられる“赤身”、脂のり抜群な“とろ”、卵黄じょうゆを加えてコク深く仕上げた“ねぎとろ”を食べ比べできる贅沢なひと皿です。馬肉のユッケをのせた寿司“ユッケ寿司”もブームになりつつあります。東京・新大久保などの飲食店で提供されていて、長さが50cmもある見た目が特徴的。人気ユーチューバーが配信したことから人気に火が付きました。

 日本初の「馬刺し冷凍自動販売機」も登場しています。馬刺し・馬肉製品の老舗「若丸」が長野県飯島町の本社工場敷地内に設置したもので、“馬刺し赤身(300g3000円、200g2500円)”のほか、“焼き肉用タレもみ馬肉”“馬タテガミと赤身のセット”など5アイテムが揃い、24時間購入できます。メディアに取り上げられると県内外から購入客が殺到。ゴールデンウイークの6日間で、例年5月1ヵ月分の約8倍の販売額を記録したといいます。

 予約困難な会員制馬肉専門店「ROAST HORSE」(東京・広尾)と、プロアスリートを食で支えるブランド「ベルメシ」が、最高ランクの馬肉のみを贅沢に使ったレトルトカレー“SPICY HORSE CURRY”を開発。「R&Oフードカンパニー」が予約販売を始めています。

 因みに、新型コロナウイルスで巣ごもり生活が長引く中、JRAの年間売り上げは9年連続で最高額を記録しているとか。私は、こちらの方ではかなり貢献しています。

不景気に流行る内臓料理とマイブーム

 新型コロナウイルス禍の生活が続き、不景気感も強まっています。そんなときに流行るのが、内臓料理です。

 バブル崩壊後の1990年前半、東京では繁華街のあちらこちらに、「もつ鍋1990円」の幟が立ちました。リーマンショック翌年の2009年にも全国的もつブームが到来。網でさっと焼いてから煮込む「炙りもつ鍋」や、脂が乗ったこってり味のもつをさっぱりといただく「酢だれもつ」など進化系のもつ料理が登場。女性たちの間では、もつ鍋や焼きもつをシャンパンといただく「もつシャン」も流行りました。さてさて、第三次もつブームは来るのでしょうか。

 私も今、ちょっとした内臓料理ブームの中にいます。ひとつはレバー。鉄分補給のためにレバーを日常的に食べたいと思っているのですが、毎日スーパーに行けるわけでもなく、ランチタイムに、「レバニラ炒め」のある店を選んだりするほかなかったのです。が、ある日突然「そうだレバーペーストを作ろう!」と思い立ったのです。バターを入れるのでカロリーは少し高くなりますが、大量に食べるものではありません。まとめて作って小さなココットに小分けにし、冷凍庫で保存すれば、解凍していつでも食べられます。おいしいパンとワインがあれば、毎夜リッチな外食気分です。

 もうひとつが、トリッパ。牛の2番目の胃袋です。ハチノス(蜂の巣)と呼ばれる通り、六角形が並んだような凹凸のある表面で、それゆえ独特の歯応えがあり、そこが魅力です。そのままでは硬くて臭みも強いので、ゆでて皮をむき、さらに長時間ゆでて臭みを取るのですが、最近は下処理済みのものをネットで購入することができ、とてもラクになりました。トリッパを香味野菜やハーブと一緒にトマトソースで煮込んだり、ピリッと辛いアラビアータに入れたり、いろいろ楽しめます。

フラメンコとシェリーと「エル・ロシオの巡礼」

 5月21~24日は、昨年は新型コロナウイルスまん延防止のため中止になった、スペイン最大の巡礼祭「エル・ロシオの巡礼」です。

 スペイン南部アンダルシア州ウエルバ県に位置する集落エル・ロシオにある礼拝堂で毎年行われるお祭りで、人々は、年に一度だけ目にすることができるマリア像に会うために、数日をかけてエル・ロシオを目指します。ウエルバやセビージャ、カディスなど街ごとに花で飾られた馬車や荷車に乗って向かう人、それを囲むように歩いて向かう人人人。女性は皆、色鮮やかなフラメンコの衣装を着ます。衣装は数枚用意するのが普通。テントで眠る日々ですが、おしゃれも旅の大切な楽しみです。

 ゆっくりと進む長い行列は、時に木陰で休み、食事をし、そして日本の盆踊りに例えられるフラメンコのセビジャーナスを歌い踊り、酒精強化ワインのシェリーを飲みます。酒精強化ワインとは、醸造過程でアルコールを添加してアルコール度数を高めたワイン。日本では、ヘレス・デ・ラ・フロンテーラで作られるティオ・ペペ (ペペ叔父さん) が有名です。ヘレスにあるボデガ(貯蔵熟成庫)には、皇太子時代の徳仁天皇がサインをした樽もあります。

 サンルーカル・デ・バラメダの巡礼者たちが飲むのは、シェリーの1種、マンサニージャ。パロミノ種のぶどうを使い、サンルーカルで作られたシェリーのみが、マンサニージャと呼ばれます。

 マリア像に会える喜びを胸に、飲み、歌い、踊る日々。その行程のすべてが、アンダルシアの人々が待ち焦がれる、年に一度のお祭りなのです。フラメンコとシェリーを愛する私が、いつか必ず参加したいお祭りです

餃子と呼びずらい餃子

 家で料理をする頻度が増え、“簡単”“便利”に対するニーズが高まる中、そこに、“新しさ”、もっと言えば“斬新さ”のある商品が登場しています。切り口が斬新だと、“手間要らず”の簡便商品というやや後ろめたさを伴う商品に、興味と楽しさが生まれ、マイナスの部分が払拭されることがあります。

 昭和産業が3/1に発売した、挽き肉と野菜を混ぜて焼くだけで、外側がパリッとした新感覚の餃子が作れる『もう包まない!混ぜ餃子の素』。家庭で人気が高い一方、作るのが面倒なメニューの代表格“餃子”をアレンジした、“混ぜ餃子”を提案しています。粉を水で溶き、別に用意した挽き肉やキャベツ、にらといった具を混ぜて焼くだけです。米粉やデンプンなど、粉の絶妙な配合により、皮がないのに外側はパリッとした食感に仕上がるといいます。こしょうやにんにくなどの調味料があらかじめ配合されているため、たねに下味を付ける必要もありません。大きく焼いて切り分けながら食べるのもおすすめだといい、パッケージでは調理例の写真の周りに大量の謳い文句を配置し、斬新さをアピールしています。

 敢えて「混ぜ餃子」としていますが、包まない餃子は、はたして餃子と言えるのでしょうか。社内試食会の場で、“焼き役”の私は「お好み焼き、もう少しで焼けます」と“お好み焼き”を連発。スタッフからその都度「餃子!」と訂正を入れられていました。どう見ても“お好み焼き”は、“餃子”と呼ぶのが難しかった。

 フリーの料理編集者だったとき、料理研究家の故小林カツ代先生が、挽き肉の具をワンタンの皮で包まず、挽き肉団子とワンタンの皮を一緒にスープで煮た料理を“我が道を行くワンタン”と名付けて料理本に掲載しました。カツ代先生曰く、「皮で包むなんて、家庭でそんな面倒なことしなくていいのよ。口に入れれば一緒なんだから」。駆け出しの私は、これはそもそも“ワンタン”と名乗っていい料理なのかと悩みましたが、豪快なカツ代先生のおっしゃる通りにいたしました。そんな昔の出来事を彷彿とさせる商品です。

小袋の話

 ハンバーガー店でポテトをオーダーするとき、日本では「ケチャップください」と言わなければ、トマトケチャップは付いてきません。私は、“フライドポテトにはケチャップ派”なので必ず、しかも2つお願いしますが、米国では何も言わなくても付けてくれます。しかも一掴み。

 その米国で今、トマトケチャップの小袋が品薄になっているとか。新型コロナウイルス禍で持ち帰りやデリバリーの需要が急増したためで、トマトケチャップ最大手のクラフト・ハインツは、急遽増産に乗り出したそうです。トマトケチャップは彼の地を代表する調味料。フライドポテトにつけるだけでなく、ハンバーガーに“追いケチャップ”をする人も珍しくなく、使用量も日本とは比較になりません。

 日本では、しょうがの小袋が足りなくなっているそうです。牛丼に付いてくる紅しょうが、寿司に付いてくるガリなどです。理由は米国と同じ。ただこちらの場合は、小規模の工場で製造されているため、増産のための設備をすぐに整えることもできず、かつコロナ後を見据えると設備投資すべきか否かは悩むところです。

 小袋と言えば、最近疑問に思っていることがひとつ。セブンイレブンの場合、チルドの「もっちり自家製焼き餃子」には「酢醬油」と「ラー油」が付いているのに、同じくチルドの「焼売」には何も付いてきません。なぜでしょう。焼売にはしょうゆと辛子をつけたいので、会社にミニサイズのしょうゆを保管し、納豆に付いている辛子の小袋を集めています。納豆と言えば、私は“納豆に付いているたれは使わない派”。生活圏にたれが付いていない納豆を売っている店がなく、捨てられないたれの小袋が冷蔵庫の中で山になっています。