シロップをかけただけ。シンプルなかき氷が大好きです

 気温が30℃を超えると氷菓やかき氷が売れるようになると言われています。日本各地が酷暑に見舞われた6月最終週。例年より早めに、かき氷をメニューに掲げる飲食店が増えると思います。
 私も、かき氷大好きです。子どもの頃、夏のおこづかいはほぼ、駄菓子屋のかき氷に消えました。大きなかき氷機に氷屋から仕入れた四角い透明な氷を載せ、大きな歯車を勢いよく回します。シャッ、シャッという氷が削られる音を聞いているだけで涼しくなったような気がしたものです。シロップは、いちごとレモンとメロン。練乳や小豆、ましてやアイスクリームやフルーツといったトッピングなどありません。ただシロップをかけただけのシンプルなかき氷。私は、それが一番好きです。
 が、東京のど真ん中には、そのようなかき氷を食べさせてくれる店はありません。シロップではなく果肉たっぷりのフルーツソース、練乳はエスプーマ仕立てと凝りに凝っています。贅沢にフルーツをのせたり、マスカロポーネのソースをかけたり。天然水で作られた氷や自然の寒さだけで作られた天然氷のやわらかで繊細な舌触りは、若い女性たちを魅了しています。当然値段は800円以上。ランチより高いカフェもあります。
 駄菓子屋のかき氷には、遊びながら食べられる工夫がありました。削られていく氷を小ぶりな皿で受け、山になったら真ん中に割り箸をのせ、その上に再び氷を削ります。山になったかき氷を、同じ大きさの皿で上からぎゅうっと押すと・・・。でき上がるのは、かき氷のペロペロキャンディ。「いちごとレモン」と2面の味をオーダーすると、おばさんがシロップをかけてくれます。 “ワンハンドかき氷”。駄菓子屋のおばさんは敏腕マーケターです。

水上レストラン「ジャンボ」が沈没。またひとつ、“あの香港”が消えました

 先週、香港の水上レストラン「ジャンボキングダム」が沈没したというニュースが入りました(その後、転覆はしたが沈没はしていないなど、情報が錯綜していますが)。香港に行ったことがある、特に団体旅行でなら、「ジャンボ」で食事をした経験のある人は多いと思います。その名の通り、“大きな王国”は豪華絢爛な中国風の建築様式。内装からテーブル、椅子、調度品、チャイナドレスのウエイトレスまで、観光客が喜びそうな、つまりは中国人以外の観光客が思い描く“中国”を裏切らない中国が、完璧に演出されていて、それはまるで中国宮廷をコンセプトにしたテーマパークのようでした。乗船しなくても、アバディーン湾に浮かぶその姿を見るだけでも、香港に来たんだと感動するほどの迫力がありました。
 私が初めて香港を旅したのは、1976年の初夏。「ジャンボ」が再建されたのが同年10月とのことなので、そのときには見ていません。その後、何度か訪ねる機会がありましたが、「ジャンボ」に乗船したのは1度きり。香港のダウンタウンや屋台に惹かれる一方、「ジャンボ」は1度で十分と思っていました。
 初訪港で覚えている景色は、奇妙奇天烈なオブジェに度肝を抜かれた「タイガーバームガーデン」と母が異常に興奮していた「慕情の丘(と呼ばれている場所)」。両方とも今はありません。最後に香港を訪れたのは、中国に返還されて大分経った2014年。都会化が進んだ一方、ダウンタウンの活気がいまひとつと感じたのは、気のせいでしょうか。その後の香港が辿った道筋は知っての通り。もうあの香港は存在しないのだと思うと、寂しくて仕方ありません。
 ノスタルジーというものは、深く美しく演出されるようです。私の場合のそれは、「Love Is a Many-Splendored Thing」をバックに慕情の丘を駆け上がるジェニファー・ジョーンズの映像と、暗闇にまばゆい光を放つ「ジャンボ」の雄姿です。

価格の優等生も値上げ。PBは6月末まで価格据え置き

 食品や外食の価格が次々に高騰する中、年内に値上げが予定されている食品の数が、1万品目を突破することが分かりました。
 物価の優等生と言われている卵も然り。鶏のエサは、とうもろこしや大豆の搾りかすなどで、そのほとんどを輸入に頼っていますから、円安が直撃します。卵の包材は石油から作られるプラスチック製品。輸送にも石油が使われていますから、値上がりするのも当然です。
 同じく価格が余り変動しないバナナ。6/8に駐日フィリピン大使が緊急記者会見を開き、「バナナを値上げして適切な価格で販売して欲しい」と訴えました。燃料代や肥料代が値上がりし、加えて経済水準が上がっているため人件費は倍近くに跳ね上がっているとのこと。バナナ農家は大変なのだとか。日本との長年に渡る取引関係を考えると、値上げ交渉は簡単ではないと推測され、苦悩した末の大使の発言だったのでしょう。
 一方、値上げラッシュの中、踏み留まっているのが、プライベートブランド(以下PB)です。イオンは、6月末までPB「トップバリュ」商品約5000品目で価格を上げない「価格凍結」を宣言。西友も、PB「みなさまのお墨付き」の全商品約1200品目の価格を、イオンと同様、6月末まで据え置くと公表しました。もちろん、内容量を減らすステルス値上げもしないといいます。マヨネーズやレトルトカレー、冷凍餃子など、商品によってはメーカー商品の半額近いものもあり、売り上げは好調です。
 6月末までとのことなので在庫で賄えるでしょうが、売れている勢いに乗って価格据え置きを続けるようであれば、今度は、PBの製造会社にしわ寄せが行くことに。バナナ農家の苦境と被ります。

ワールドカップに向けて盛り上がれ!食市場

 今年は、4年に1度のサッカーFIFAワールドカップ(以下WC)開催年。開催国カタールで11/21から始まります。新型コロナウイルス対策の規制が緩和されたままであれば、再びあの熱狂が繰り広げられ、食市場も盛り上がるでしょう。
 弊社が提供している「食のトレンド情報Web」のアーカイブでは、2004年からの情報を順次アップしています。現在2010年半ばまでアップされていますが、そこで“ワールドカップ”と検索すると、2006年ドイツWCが開催されたときのトレンド情報が挙がってきます。
 前年の2005年は、日本における「ドイツ年」。日本代表のドイツWC出場も決まり、ドイツ熱が高まった年です。日比谷公園や神宮外苑など首都圏5ヵ所で、ドイツ各地の地ビールやソーセージ、ザワークラウトといったドイツフードが楽しめる「東京オクトーバーフェスト」が開催されたり、札幌の岩田醸造が「ドイツワインの試飲展示会」を行ったり、ドイツワイン基金駐日代表部が、チョコレートにドイツのアイスワインを組み合わせるギフトを提案してバレンタイン商戦に参入したり。ネットのお取り寄せでは、通常のクロワッサンよりも層が多く、よりサクサクした歯応えが特徴のドイツ生まれのクロワッサン「ギッフェリ」が話題になりました。ドイツに限らず、欧州に対する関心が高まり、輸入ビールの人気が徐々に高まった年でもあります。
 奇しくも、カタールWCの日本の初戦の相手は、ドイツ。WC熱が高まりを見せる中、食市場ではどんな提案や仕掛けが展開されるのか楽しみです。
 ドイツWCを最後に引退した中田英寿氏。東京・青山でカフェをプロデュースしたり、東ハトの執行役員になって商品開発に参画したり。そんな話題も食市場を賑わせました。

「味覚が合わない人」付き合える?

 女性ファッション誌「CanCam」の調査【「他の全部が合うけど味覚が合わない人」付き合える?】。[余裕です12%][付き合えないこともない57%][無理です31%]という結果に。
 [余裕派]からは「自分が合わせる」「それぞれの好きなものを食べればいい」「こだわらない」「気にしない」「食に興味がない」。[付き合えないこともない派]からは「付き合うだけなら問題ない」「違って当たり前」「それぞれの好きなものを食べればいい」。[無理派]からは「食事を楽しめない」「疲れる」「ストレスを感じる」「家庭を想像したときにつらい」といった意見がそれぞれ出ています。
 本人が食にこだわりがなければ余裕、こだわりがある場合は無理。付き合うだけならいいが、結婚は無理。というのが大方の意見のようです。
 私は、絶対に[無理派]です。自分がおいしいと思うものは一緒に食事をする人にもおいしいと思ってほしいし、私がおいしいと思うものは、絶対においしいはずだと確信しているからです。もちろん、育った土地の味が好みになる場合が多いので、みそやしょうゆの種類、料理の素材や味付けが違うのは仕方ありません。が、違いを問うより、どちらもおいしいと思えることのほうが楽しいと思います。
 味覚が合う合わない以外にも、食べることに興味がない、おいしそうに食べない、楽しく食事をしない、料理を残す、好き嫌いが激しい、余りに無作法、食べ方が汚いなどなど、[無理]な理由は盛りだくさん。加えて、私が食べられない分をきれいにさらってくれることも欠かせない条件。海外旅行で、思いがけずボリューミーな料理が出されたとき、残したくないから困るのです。私のパートナーはすべてをクリアして、夫になりました。

“なくてもいいですか”と、ザワつくコメント

 情報提供番組で料理を紹介する場面がよくあります。見ていて気になるのは、出演者の“なくてもいいですか”発言。先日も、ペルー料理店のシェフがスタジオで調理を披露。オレガノを使うシーンでオレガノが家にあるかないかの話題になり、“なくてもいいですか”がまたも飛び出したのです。南米料理でハーブやスパイスを省くなんてありえません。
 学生の時、女子栄養大学主催の「子ども料理教室」でお手伝いをしていました。揚げ物の衣で薄力粉に片栗粉を合わせる段になったとき、保護者から“片栗粉なくてもいいですか”の質問が。先生はきっぱりと“高いものではありません。買ってください”とおっしゃいました。その通りだと思います。せっかく子どもに、安全で、失敗しない、おいしい料理の作り方を教えているのに、なぜそんなところではしょるのでしょうか。
 NHKエデュケーショナルの「みんなのきょうの料理」。作った人のコメント欄を読むと頻繁にザワッとします。“○○がなかったので、××を使いました”“△△がなかったので入れませんでした”“麺つゆで味付けしました”などなど。実に自由奔放。もはや別の料理でしょと突っ込みたくなる投稿も少なくありません。“おいしかったから今回はちょっとアレンジを加えてみました”とか、“塩味が我が家にはやや強かったので塩を減らしました”とかなら理解できるのですが、端から前向きとは言い難いアレンジを加えるのはいかがなものか。せっかくプロが研究を重ねたレシピを伝授してくれているのです。できるだけその通りに作って、思いがけない食材の組み合わせに驚いたり、味わったことのないおいしさを体験したりしたほうが得です。調理の世界が拡がる機会を無にしているようで、もったいないと思うのです。

ゴールデンウイークの食事報告

  ゴールデンウイーク。長いお休み、我が家では、何をしようかと何を食べようかとは、同じくらい大切なテーマです。朝はぐっと軽めにして昼下がりから夕食飲みを始めるのが今年のトレンドでした。
 初日は、朝から「栄大ちらし」を仕込みました。以前にもコラムで書きましたが、「初心忘るべからず」の思いで、年に1度、必ず春に作る母校に伝わる料理です。朝、包丁を研ぎ、大鍋いっぱいにだしを取ります。寿司桶を納戸から持ち出し、しゃもじと布巾を揃え、大きな団扇を用意します。かんぴょう、しいたけ、れんこん、人参、アナゴ、そぼろ、錦糸卵、芝エビ、さやえんどう、甘酢しょうが、三つ葉の調理が済んだら、刻み海苔と桜の花の塩漬けを用意して、ベランダの山椒の葉を摘みます。が、時すでに遅し。「木の芽」から成長し「木の葉」になりかけていましたが、仕方ありません。
 2日めは、10年前、何かのきっかけで購入した「トルティーヤプレス」をデビューさせたい一心での「手巻きトルティーヤ」。とうもろこしの粉に水を加えて生地を作り、丸めて、トルティーヤプレスで円形に押し広げます。麺棒で広げるよりもきれいな円になり、何枚かプレスしていくうちにコツがつかめます。といっても、この作業は夫の担当ですが。巻く具材は、スパイシーな味付けのビーフとポーク、ひよこ豆とレンズ豆のサラダ、ワカモーレ、トマトのサラダとレタス&ハーブです。
 3日めは、ステーキの食べ比べ。神戸牛、宮崎牛、佐賀牛、但馬牛など6種類の牛肉の食べ比べセットをいただいたのです。自分で焼きながら食べ比べても“おいしいね”しか出て来ず。加えて連休中で気が緩んでいるから、仕事のテイスティングのような真剣さはありません。
 そんな風にして日は過ぎ、最後は、手打ちのそばとうどんをはしごしました。

新宿の「ガルロチ」。ショーレストランとして再開

 新型コロナウイルスの影響で、多くの飲食店が休業や廃業に追い込まれました。ショーレストランも同様です。
 新宿伊勢丹会館の6階に、フラメンコのショーを見ながら食事ができるタブラオがあります。おそらく東京で最も面積が広く、歴史あるタブラオです。前身は「エル・フラメンコ」。1967年開業です。私は大学生のときに知人に連れられ、初めて本場のフラメンコをここで見ました。その後、フラメンコを習うことになる最初のきっかけです。
 「エル・フラメンコ」は2016年、フラメンコを愛するファンに惜しまれつつ閉店。その後、「タブラオ・フラメンコ・ガルロチ」と名前を変えて再スタートしたのですが、コロナ禍で2020年に営業を終了してしまいます。何とか、日本におけるフラメンコの老舗を守りたいと立ち上がった現オーナーがクラウドファンディングで資金を集め、フラメンコだけでなくさまざまなエンターテインメントが楽しめる場として「ガルロチ」と改名。5/3に再開を果たしたのです。
 その日私は「ガルロチ」に行き、スペインから招聘されたアーティストたちの華やかで楽しいフラメンコを堪能しました。
 日本は、本場スペインに次いでフラメンコ愛好者が多い国です。とはいえ、絶頂期の3分の1にまでその数は減少しています。「ガルロチ」をタブラオではなくショーレストランとして再開した意図も充分に理解できます。決してラクではないショーレストランを再開してくれた方々に感謝すると共に、一(いち)フラメンコファンとして、タブラオの火を消さないよう、「ガルロチ」にもせっせと通わなくてはと思う次第です。

“カタカナスシ”と“客が育てるセカンドライン”

 最近の寿司市場。流行りは、“カタカナスシ”と称されるカジュアルな寿司酒場と、“客が育てる”高級店のセカンドラインです。
 先日、前者の先駆けとも言える「スシエビス 恵比寿本店」にふらりと立ち寄りました。風変りなメニューがウリとの話は聞いていました。カウンターに座ると、目の前には大きな蒸し器。ちょっと変わった“小籠包”が人気だとか。おすすめは、“名物!エビ・カニ合戦”。カニの甲羅に叩いたエビとズワイガニ、イクラとうずら卵が盛り付けてあり、それをよくかき混ぜて甲羅の下に並べられたカニ味噌の細巻きにかけていただきます。“とろける鰻バター”は、うなぎの握りの上に、スタッフがバターを削りながらたっぷりかけてくれる、動画向きの一品。まさにSNS映えと気軽さがウリの「寿司居酒屋」です。接客も明るくて親切なのですが、オ―ダーは完全スマホ経由。カウンターに座っても、板さんとのやり取りはありません。
 後者の代表格は、4/23にオープンした立ち食い寿司店「鮨 銀座おのでら 登龍門」です。「銀座おのでら」が、“お客様に育てていただく鮨店”をコンセプトに立ち上げた店。ポストコロナのさらなる世界展開に向けて、実力のある寿司職人を育てていくことが目的です。ネタは総本店と同じものを使用しながら、価格は若手職人の“勉強代”としてよりリーズナブルに設定していると言います。
 これに先立ち昨年10月にオープンした「廻転鮨 銀座おのでら本店」(東京・表参道)。「銀座おのでら」でも提供されている「やま幸」の本マグロを目当てに出掛けました。その時付いてくれた板さんに「どのくらいお寿司握ってるの?」と聞いたら、「6ヵ月です」とのこと。このプロジェクト、その時既に始まっていたのですね。

「生娘をシャブ漬け」。発言内容よりも気になること

 吉野家の常務取締役企画本部長の「生娘をシャブ漬け戦略」の発言。驚きと共に、さもありなんとも思いました。
 ネットの報道では、“シャブ”という反社に繋がる名称を使ったこと、女性に対する人権侵害と性差別的な発言に当たること、牛丼を中毒性のある食べ物のように表現したことなど、さまざまな批判の声が挙がっていますし、吉野家も発言内容について謝罪をしています。お客様に対してはそれでいいでしょう。でも、この問題で私が最も気になったことは、発言内容そのものではなく、そのような発言が飛び出した理由です。
 私は長らく、食品会社や外食会社など食関連企業の方と一緒に仕事をしてきました。ときどきその中に、食に興味がない、食の仕事が好きではない、食をモノとして扱う、人(顧客)を愛していないと感じる方がいます。あくまで私感ですが、そのような方は、市場や人を見るより、数字のマーケティングがお好きな傾向にあるような。
 私は、「食」と「人(顧客)」に対して愛情を持つことが、食に携わる人間に求められる最低限の条件だと思っています。食は人を健康にし、笑顔にし、心を満たし、育てます。加えて、地球環境や人権、経済、文化、歴史、宗教などとも深く関わっています。そのぐらい広く深い存在です。愛情がなくてはできません。
 マーケティングの現場では、顧客の「囲い込み」という言葉が頻繁に発せられます。この時点で既に、人(顧客)に対する強制が肯定されているような気がして仕方ありません。