“鉄人”道場六三郎氏の料理動画が好きで、よく見ます。齢91歳のユーチューバーは、おだやかで凛としていて、可愛くて。思わずほっこりしてしまいます。
紹介する料理は、家庭でよく作られるもの。それを“道場流”の思いつきと勘で仕上げていきます。ハンバーグのタネに残りご飯を入れたり、ガスパチョにエビ白玉を忍ばせたり、発想はユニーク。ただし、なすの皮にミョウバンをすり込んだり、きゅうりに板ずりをしたり、エビを酒煎りしたりなど、下ごしらえは和食の基本を外しません。そのギャップがおもしろいのかもしれません。
撮影は厨房で行われています。「柑橘あったか」「ちょっと片栗入れてみよう」「蒸し器に入れて1時間置いておく」などなど、食材が何でも揃っていて、弟子たちがさっと手を出してくれて、スチーマーには常に湯気が立っている環境で進んでいく調理は、家庭で手間なく簡単にできますとは言い難く、突っ込みどころだらけなのですが、でも試してみたくなるのは、道場氏の魅力ゆえなのでしょう。
最後は、自ら実食をして自画自賛で終わります。撮影スタッフから、「(このようなアイデアを)いつ思いついたのですか」と訊ねられると「90歳のとき」とお答えになるのが常で、ユーチューバーデビューを決めたときから、店で提供する料理とは異なる発想でアイデアをストックされていらっしゃったのかもしれません。
小さな容器にラップをかける過程で、弟子が差し出したのは大きなサイズ。すかさず、「小さいのはないのか、もったいないだろ、ムダだろう、小さい仕事をするんだからそれが大事なことなんだよ」と強めの口調で弟子を諭す場面は私のお気に入り。「おっしゃる通り!」で胸キュンです。
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加工食品を試食して
休日を利用して加工食品を試食することがよくあります。シリーズものはすべてを一度に作り、比較することが常です。決まり事は、パッケージにあるレシピ記載の材料を揃え、レシピ通りに作ること。アレンジは一切加えません。
例えば、エスニック料理。タイカレーやガパオソースなど簡便性を高めた商品、本国で売られている輸入品などを買い揃え、次々に作って行きます。おもしろいのは、スパイスと調味ソースがキットになっている日本向け商品のほうが、輸入品のペーストなどより、タイ人シェフが腕を振るう東京のタイ料理店の味に近いこと。輸入品のペーストは、本国では超お手軽商品の位置付けなのだろうか。いや、本国ではこちらの味のほうが一般的なのでは。いやいや、本国にはいろいろな味があるのかも。などと想像。タイを旅するときの宿題ができました。
ある会社の調味加工品。先発の中華料理用に続き、洋風料理用を発売しました。コロナ禍で気軽に行けなくなった外食の味を家庭で楽しんでほしいと開発された商品です。シリーズの中から入手できたものをすべて作りました。中華料理用がかなり安定した味なので、こちらも楽しみにしていたのですが、やや期待外れでした。ソースにコクや深みがなく、そのせいでおいしさの落とし所が定まっていないのです。レシピにある副材料が、マイナスに働いているようにも感じました。タイ料理や中華料理は、メイン素材の肉や魚介に調味料やスパイスを合わせればそれなりに仕上がる味が多いのですが、洋風料理、中でもフレンチの煮込み系は、低価格でソースを作り込み、レトルト加工で理想の味わいに仕上げるのに、かなり苦心するのだと思います。
試食後、余った料理は冷凍されて私のランチに。同じような料理のローテーションが始まります。
AIが解析!? 肥満因子と減量因子
太る痩せるのメカニズムは、摂取カロリーと消費カロリーのバランスというのが定説。食べ過ぎれば太るし、運動すれば痩せる。だから食事の量を減らしたり、甘いものを我慢したりして摂取カロリーを抑えることがダイエットの常套手段でした。が、近年は、摂取カロリーを気にしないダイエット法が増えています。
例えば、基礎代謝を上げて太りにくい身体にするためにタンパク質中心の食事をするプロテインダイエット、糖質を極限まで減らし、足りないエネルギーは脂質で補うケトジェニックダイエット、血糖値を上げる食品を避ける、血糖値を上げない食べ方をする低インスリンダイエット、農耕が始まる前の狩猟採集型の食生活を推奨するパレオダイエットなどなど。
信州大学発のベンチャー、ウェルナスは、AI技術による動的データ解析によって個々人が必要な栄養素を特定するサービスを始めます。ユーザーが設定した目標(健康・美容・運動機能・学力など)に関連する体重・血圧・筋肉量などの生体データと、日々摂取する食事に含まれる栄養素データを解析して両者の関係性を明らかにし、生体データを改善するために個別最適化された“栄養最適食”のメニューを提案するという内容です。
この情報の中で私が驚いたのは、人によって生体データに影響する栄養素(関与因子)が異なるということ。例えば、血圧に関与すると言われている“Na(ナトリウム)=塩分”が、血圧上昇因子ではなく、むしろ血圧安定因子として働く人もいるというのです。
肥満因子として働く栄養素と減量因子として働く栄養素。自分にとってのそれが分かれば、最も信じられるダイエット法になるでしょう。
「涼しい街」勝浦と朝市
100年以上、一度も35℃を超える猛暑日になったことがない「涼しい街」として、今夏、突如注目を集めることとなった千葉県勝浦市。“クーラーをつけたことがない”“寝る前には靴下をはく”“寝床には毛布を用意しておく”などなど、連日、体感的には40℃超えを耐えている東京人には羨ましい限りです。“本当かいな?”とばかりお盆休みに行ってみました。
勝浦市と言えば、朝市が有名。ならばと早起きして出かけたのですが、途中、事故渋滞に巻き込まれ、到着したのは10時。朝市は11時までです。朝市通りには、店がポツンポツンとあるだけ。時すでに遅し。
ならば、せめて海の幸でもいただこうと飲食店に目ぼしを付けますが、どの店も開店前から列ができています。仕方なく、近くのアンテナショップ「かつうら商店」でひと休みしがてら、看板娘たちとおしゃべり。彼女たちも、勝浦市が「涼しい街」として話題になっていることに驚き、移住の問い合わせが急増していることを喜んでいました。が反面、朝市が寂しくなってしまっていることをとても嘆いていました。“三大朝市のひとつと言われると、お客様に申し訳なくて”“以前は100店ぐらい出てたけど、後継者がいなくてずいぶん減ったね”と。活気がない朝市の風景に、早く来なかった自分を責めるのは、どうやら的外れだったようです。
「涼しい街」を売り出そうと、即PRに動き出した勝浦市観光協会。観光ポスターを刷新したり、空撮動画を制作したり。そのスピード感を生かして、活気溢れる朝市を取り戻すことに、さらに尽力していただきたいと願います。因みに、勝浦市。日陰に入ると確かに風がひんやりとしていました。
猛暑の影響を受ける農産物
40度に届きそうな猛暑日が続いています。こうなると心配なのが、農畜産物への影響です。強過ぎる日差しで葉が焼けたり、表皮にキズが付いたり、病気が出たり。家畜は暑さで衰弱したり、乳牛は乳が出なくなったり。過去にも猛暑が食卓を直撃しました。
そんな中、Oisixが展開しているのが、猛暑の影響で形が不揃いになったり、見た目が悪くなったりで通常の流通ができなくなった野菜の販売です。例えば、栃木県産のパプリカ。ビニールハウス内の温度があっという間に50度を超えてしまい、パプリカの表面から水分が抜ける蒸散量が一気に増え、表皮にクレーターのようなでこぼこが。また福島県産きゅうりは、生育時に異常な高温と過度な日照が続いたことで、水分が実に十分に行き渡らず、皮が引っ張られるような状態になって大きく曲がってしまっています。茨城県産のかぼちゃは猛暑で生育が進み、大きくなり過ぎて販路の確保が難しく、熊本県産のシャインマスカットは、猛暑で実にかけた袋の中が蒸れてしまい、表面にシミができてしまっています。いずれも味や歯応えは、通常品と変わらないと言います。
農産物が天候の影響を受けるのは避けられないことです。自分で育てたものならキズついていようが、曲がっていようが気になりませんし、大きく育ったらうれしいはずです。道の駅で生産者の方が「わたしが作りました」と売ったら、曲がったきゅうりにも愛着が沸きます。スーパーの店頭では、ついつい選り好みしてしまいますが、野菜の向こうにいる生産者のことを想像して有り難く手に取ろうと思います。
ゴッドファーザーとカンノーリ
7月、米国の俳優ジェームズ・カーン氏が亡くなりました。映画「ゴッドファーザー」でのドン・コルレオーネの長男ソニー役が印象強く、久しぶりに「ゴッドファーザー」を見ました。
映画を見ていてよく思うことは、それが何であるのかを知っているのと知らないのとでは、解釈や感情に大きな違いがあるということ。今回のそれは“カンノーリ”です。カンノーリは、小麦粉で作った生地を筒型に揚げ、クリームをたっぷりと絞り込んだお菓子。「ゴッドファーザー」と「ゴッドファーザーRARTⅢ」に出てきます。
「ゴッドファーザー」では、ドンの部下、クレメンザが広大な麦畑のような場所に車を止めさせて小用を。その間に手下は車内で裏切り者を銃殺。クレメンザは何事もなかったように、車の中に置いてあった、奥さんから買ってくるように頼まれたカンノーリを持ってこさせるのです。せりふは、“Take the cannoli”ですが、字幕は“ケーキを(持って来てくれ)”。1972年の日本では、カンノーリを知っている日本人はほとんどいなかったからでしょう。
「ゴッドファーザーRARTⅢ」では、コルレオーネ家のドンとなったマイケルの妹コニーが、ドン・アルトベッロを毒殺するのにカンノーリを使います。ドン・アルトベッロは観劇中、コニーから誕生日のお祝いにもらったカンノーリを、おいしそうに食べ続けていました。
カンノーリの発祥の地は、イタリアのシチリア島。ドン・コルレオーネはシチリア島のマフィアから逃れて来た移民、アメリカンマフィアの起源はシチリア島にあります。強面のマフィアもメロメロになるのは、故郷のお菓子、マンマの味だからでしょう。それを理解して見ると、ふたつのシーンが一段と残酷さを帯びてくるのです。
甘い麦茶
子どもの頃、母が作る麦茶には砂糖が入っていました。昭和の話です。今は、細かく粉砕された大麦がティーバッグに入っているので水出しも可能ですが、当時は、炒っただけの大麦。大きなやかんでじっくりと煮出します。熱いうちに砂糖を入れて溶かし、冷蔵庫で冷やします。
甘い麦茶が当たり前だったのに、いつの間に甘くない麦茶がフツーになったのか、思い出せません。一方、スタッフの中には、同世代でも一度も甘い麦茶を飲んだことがない人もいます。甘い麦茶は、時代物ではなく、地域物のようです。確かにネットで検索してみると、私の出身地の静岡県、山梨県、栃木県、山形県、新潟県、富山県、四国では香川県あたりではあり、関西と九州はなし、沖縄では一部で砂糖を入れるようです。
なぜ麦茶を甘くするのでしょうか。おそらく、ひとつにはエネルギー補給のため、もうひとつは、甘いものが豊富ではなかった時代、贅沢品だった砂糖を入れてお客様にお出ししたからではないかと思います。事実、私の実家は燃料屋をしていて、プロパンを配達する社員たちがひっきりなしに飲んでいたのを覚えています。トラックにはクーラーがない時代です。体力の消耗も激しかったことでしょう。そして、お客様に氷を入れたグラスで甘い麦茶をお出しするのは私の仕事でした。
当時は、コーヒーにも紅茶にも砂糖を入れるのが当たり前。甘い飲み物は、ちょっと幸せな気分にしてくれたのだと思います。最近は、フルーツの香りを生かした甘い茶飲料が人気です。紅茶に加え、烏龍茶にも甘い商品(サントリー果茶 芳醇な白桃)が登場しています。
2011年、節電の夏の食市場
節電への協力が求められている今夏は、例年以上に暑さ対策が重要になっています。思い出されるのは、東日本大震災が起こった2011年の夏。現在よりもさらに強く節電が求められました。日差し対策にゴーヤーを栽培する生活者が急増したのもこの年。食市場では、さまざまな涼活戦略が展開されました。
食品会社はこぞって、火を使わない、冷たくいただく商品を開発。冷やご飯にふりかけて冷たい水を注ぐだけのフリーズドライ商品や温めなくてもおいしいレトルトカレー、麺と具材をカップに入れて電子レンジで加熱し、水を注いで冷やし、その後水切りして、ジュレ状のソースやだしをかけていただく冷製カップ麺などが発売されました。
外食市場では、涼しくなるドリンクメニューを強化する店舗が増加。冷たいだしをかけて食べる“天ぷら茶漬け”や“冷やし茶漬け風親子丼”、“冷やしおでん”や“冷やしカレー”など、さまざまなヒンヤリメニューが登場しました。
スーパーは、暑くて火を使いたくない生活者の中食需要を見込んだ戦略を展開したほか、冷たいメニューの提案や電子レンジ商品の販促などを積極的に行いました。また売り場においては、お客様に涼しさを体感してもらえるよう、棚に敷くシートの色を従来の暖色系から水色に変え、見た目の涼しさを演出。そうめんなどをアレンジした「涼感メニュー」の提案型売り場を展開したほか、電子レンジで調理する商品を集めたコーナーを売り場ごとに設置しました。一方コンビニ各社は、節電で揚げ物調理を敬遠する生活者が増えていることに着目。スーパーの特売価格と同じ価格のトンカツを発売したり、揚げ物の取り扱い店舗を増強したり。利益率が高い惣菜に力を入れて収益を高めるとともに、スーパーから「おかず需要」を奪う作戦に乗り出しました。
土用の丑の日。蒲焼き風商品はいかが
今夏、土用の丑の日は7/23と8/4の2回です。日本で出回るうなぎのほとんどは、養殖物です。冬から春にかけて捕獲した天然の稚魚、シラスウナギを養殖池で育てます。近年は、2020年をピークに稚魚の捕獲量は年々減少傾向。今年は、18年よりも少なく、うなぎの価格が高騰するのは確実です。
毎年、うなぎの蒲焼きを摸した商品の情報が多くなるのがこの時期です。Mizkanは、「金のつぶ うな重納豆 3P」を発売しました。蒲焼きの風味を生かしたたれが付いている商品です。同社は昨年も同様の商品をエリア限定で発売しています。今年は、北海道、九州、沖縄を除く全国で発売しましたから、昨年の手応えが良かったのでしょう。
岡山のナショナルデパートは、「特濃うなぎバター」の先行予約をECサイトで開始しました。うなぎの蒲焼きのうま味を濃縮した自家製ペーストを国産フレッシュバターに練り込んで成形。山椒バターを重ね、最後にうなぎの蒲焼きをトッピングした食べるバターです。熱々のご飯にのせ、溶け出すバターとのマッチングを楽しむのが一番のおすすめといいます。
大学生協のコンビニの商品開発をお手伝いしていた2018年、ご飯の上に蒲焼きのたれだけをかけた「土用のたれめし198円(税込)」を発売しました。たれをそのままかけたのでは、蒲焼き丼風にはなりません。炭火で焼いた蒲焼きの香りとうま味が浸み込んだようなたれでないと。そんな業務用商品を見つけるのに苦労しました。
ウクライナ料理とロシア料理のこと
ユネスコは7/1、ウクライナを代表する料理「ボルシチ」を無形文化遺産に登録することを決めました。「ボルシチ」はロシアでも広く親しまれている料理ですから、ロシア政府はもちろん反発。ウクライナ国民は、ほんの少しでしょうが、溜飲を下げることができたのではと思います。
「ボルシチ」のように、ロシア料理として日本に紹介され、実はウクライナ発祥かもと思わせる料理が、その名の通り「キエフ風カツレツ」です。
私が、「キエフ風カツレツ」という料理を初めて知ったのは、高校生の頃。プロ向けの料理本です。目の細かなパン粉衣に包まれたラグビーボールのようなそれは、いかにも洋風料理の見た目。しかも、お皿の上で半分にカットされた断面から熱せられたバターが溶け出しているビジュアルは、まさに垂涎モノです。ロシア料理などというものが、身の回りにはもちろん、テレビの中にも存在しない時代でした。
大学生になり、初めて渋谷のロシア料理店「ロゴスキー」を訪れたときは、狂喜乱舞。“赤い料理”をおっかなびっくりいただいた「ボルシチ」、名前の響きがロシアっぽいと思った「ピロシキ」、パンの帽子を被ったマグカップが可愛い「つぼ焼き」、紅茶にジャム?と驚いた「ロシアンティー」。因みに、ウクライナではジャムを紅茶に入れますが、ロシアでは紅茶が冷めるのを嫌ってジャムを舐めながら紅茶を飲むのだそう。ということは、日本の「ロシアンティー」も、ウクライナ発祥ということになりますね。