追い着けない地球沸騰化のスピード

 7月の世界の平均気温が、観測史上最高になる見通しが明らかになり、国連のグテーレス事務総長は「地球温暖化の時代は終わった。地球沸騰化の時代が到来した」と警鐘を鳴らしました(米・NY 7/27)。日本では、“災害級”と装飾されるようになった猛暑。農作物の被害も甚大です。
 きゅうりやピーマンは水不足と高温で発育不足、葉物野菜は強過ぎる日差しで葉焼けを起こし、ぶどうはしわしわでレーズンのよう。設定以上に高温になってしまう温室のメロンは、発育途中なのに既に中が熟れてしまっています。
 梅雨さ中から急激に厳しくなった暑さに、人間同様、農作物も付いて行けない状況なのでしょう。酷暑がもたらす農作物への被害は、例年のこと。今後、沸騰化が収まるどころか、沸点がどんどん高まると予想されるのなら、暑さに強い作物の研究に期待が高まりますが、温暖化の速度に研究スピードが追い付いていかないのでしょうね。
 当初温暖化は、今ほど悪者扱いではなかったような。例えば、ぶどう栽培の北限が上がって長野県でおいしいワインができ、北海道では、長年にわたる寒さに強い品種の研究成果を温暖化が後押し。人気のブランド米が生産できるようになりました。最近では、東北が北限とされていたさつま芋の産地としても注目され、伝染病が広がった九州の主要産地の代わりに、“焼き芋ブーム”が到来している東南アジアに甘みの強いさつま芋を輸出しています。
 とはいえ、何事もほどほどであることが前提。歴史的産地が気温上昇が原因で不作になり、産地が北上(南半球では南下)したとしても、おそらく温暖化は、そのスピードをはるかに超えて進むのでしょう。ずっと昔からそこにあり、泰然としたおおらかさで何も変わらないように見えていたのは自然の一部で、もっと大きなところで地球を一変させてしまう危機的変化が急激に起きていることを、感じずにはいられない過酷な夏になりました。

瓜の話

 夏は瓜の季節。きゅうり、ゴーヤー、ズッキーニ、すいか、メロン、冬瓜、かぼちゃなどなど。冬の瓜と書くのに夏野菜?と思いますよね。夏に穫れたものを冬まで貯蔵できるからというのがその理由。冬至と関連付けられるかぼちゃも冬野菜のイメージが強いのですが、収穫のピークは夏。収穫後2~3ヵ月保管すると水分が抜けて甘みが増し、ホクホクのかぼちゃに。これを楽しめるのが秋からということです。
 子どもの頃、黄色い皮の黄金マクワウリをよく食べました。ほんのり甘いすっきりとした味わいで、私はマスクメロンより好きでした。でも何といっても一番好きなのはすいか。もちろんマスクメロンより好きで、「安くできている」とよく言われたものです。毎日のように学校帰りにすいかを買い、太る心配がないことをいいことに、むさぼるように食べていました。当時のすいかは、そんなに甘くなかったから。今は当時のすいかより、きっとカロリーが高いんだろうなと思いながら食べ過ぎないように注意しています。すいかの欠点は、冷蔵庫で幅を利かすことと、存在感のある生ごみに変身すること。スーパーではカットすいかが人気のようですが、私はやっぱり切り立て皮付きを楽しみたいのです。
 ゴーヤーとズッキーニは大人になってから知った野菜です。ゴーヤーの好きな食べ方は、やっぱりチャンプルー。たまに無性に食べたくなるのは、豚肉、豆腐、卵とほろ苦いゴーヤーの組み合わせが絶妙だから。ランチョンミートやカツオ節を加えるとうま味の集合体が完成、箸が止まりません。東日本大震災が起こった年の夏。節電のためにゴーヤーを育てて日除けにする家庭が急増しました。たわわに実ったゴーヤーをどう消費するのか。チャンプルー以外のおいしい食べ方が求められました。
 ズッキーニは、ラタトゥイユに使います。トマトやパプリカ、なすなどの果菜をたっぷり使ったラタトゥイユは、まさに夏の煮込み料理。しっかり冷やして氷水で〆たスパゲティにかければ、冷製パスタのでき上がりです。

脱サプリメント? ブレイン料理

 米国・NYで、“脳の健康にいい食事”がコンセプトのレストラン「Honeybrains(ハニーブレインズ)」が話題になっています。オーナーは元連邦検事。多くの犯罪事例に触れるうち、脳の機能を高める健全な食が社会には必要であると考えてオープンしたといいます。メニューは、ボウル、サンドイッチ、サラダなど約40品。すべて神経科学に基づいて開発、設計されています。素材は、脳の機能を高め、認知症などを防ぐ効果があるという豆類、オメガ3脂肪酸、果物、野菜、全粒穀類など。加工された砂糖の代わりに、栄養豊富な未加熱のはちみつを使っているのも特徴で、それが店名にもなっています。
 脳に栄養を与える「ブレインフード」。日本でも時々話題になり、弊社が毎年公表する相関図のトレンドキーワードにも、2016年と21年の2回上がっています。日本の場合、やはりサプリメントとしての商品化が主流。成分は、脳のエネルギー源としてブドウ糖、思考する時間をサポートすると謳う“熟成ホップエキス”、記憶力や集中力を上げるとされる“ポリフェノール”“α-リノレン酸”、記憶の精度を高める効果が期待されているイチョウの葉由来の“フラボノイド配糖体”“テルペンラクトン”、アルツハイマー型認知症などによる記憶力の低下を抑制する効果があるといわれている“中鎖脂肪酸”、アルツハイマー型認知症の発症リスクを抑えるとされる“ペプチド”“フェルラ酸”“トリゴネリン”などです。
 一方、2015年、早稲田大学の矢澤一良研究院教授は、“機能性食品”だけでなく、“機能性惣菜”の需要が拡大すると予想。「単に食物繊維が多いというだけではなく、ビタミンやミネラル、ポリフェノール、カロテノイドといった機能性成分の充足を目的とした惣菜が市場で提案されるべきだ」と主張していて、ターゲットに「ブレインフード」を挙げています。おいしい料理をいただきながら、脳活性も期待できる―。8年経ちましたが、まだ気配すらありません。栄養素や成分に期待される効能が生活者レベルで認知されていないと、機能性で惣菜を販売することはかなりハードルが高いと思われます。

ひめカン編“食のトレンド情報アーカイブ”【2015.8.14-8.20/機能性惣菜】

繰り返すトレンドキーワード「漢方・薬膳」

 漢方を利用する若者が増えているようです。売れているのは、ストレス対策や免疫力アップが期待できる漢方薬。ドラッグストアを中心に販売するブランド「漢方セラピー」では、ストレスカテゴリーの売り上げが2017年から5年間で2倍以上に拡大したといいます。
 トレンドキーワードの相関図に初めて「薬膳」が登場したのは、03年。05年には「漢方・薬膳」がキーワードに挙がり、東京・青山にあった人気の中華カフェ「糖朝」では、白きくらげやナツメが入った薬膳デザートスープが人気に。「御茶ノ水 小川軒」や「日比谷松本楼」も薬膳カレーを提供しました。
 再び、「漢方・薬膳」が登場するのは、13年。“どうせ飲むなら、体によいほうがいい”と、アルコールにもヘルシー感を求める若者が増加。雑誌「Hanako」は、クコや桂皮などの生薬にりんごやオレンジなどのフルーツ、ワインや紹興酒を加えて作る“薬膳サングリア”を紹介しています。ロート製薬は同年4/26に開業した複合施設「グランフロント大阪 ナレッジキャピタル」内に、フランス料理と薬膳を組み合わせたレストラン「旬穀旬菜」を開店させました。東京では、若者に人気の街、三軒茶屋や吉祥寺に、漢方を使った薬膳酒を提供する“漢方バー”も出現。クックパッドは、漢方・薬膳の総合ポータルサイト「漢方デスク」を本格稼働。家庭の食事に取り入れやすい漢方・薬膳レシピや体質改善アドバイスの提供を始めました。
 次は、新型コロナウイルス発生後の21年。日々の食事で身体の内側から改善して真の健康を手に入れたいと考える生活者が注目したのが、漢方・薬膳でした。ドラッグストアで買える市販の漢方薬の売り上げは2桁以上伸長。ホテルのレストランは漢方・薬膳メニューを打ち出して集客を図り、薬膳料理専門の飲食店やテイクアウト・デリバリーに特化した薬膳スープ専門店がオープンしました。

脳に快楽を与える「超加工食品」と甘味料

 Newsweek日本版の2/1号の表紙は、大きなハンバーガーの画像と、“あぶない超加工食品”の見出し。思わず手に取ってしまいました。Newsweekは、時に食市場に警鐘を鳴らします。しかも過激気味に。こと、食に関しては極端に横ブレする米国の週刊誌らしい切り口の情報が、日本語で読むことができます。
 筆者の意図と多少なりとも齟齬があることを恐れずに概要を申し上げれば、「超加工食品」とは、食品を、それらを構成する化学物質のレベルまで分解。その化学物質に手を加えてから再び合成するという工程を経た食品を指し、それらは人間の脳の“弱み”に付け込むように作られている。脳に快楽という刺激を与えるため、継続的に多食化する。米国の肥満率が高いのはそのせいである。加えて砂糖(甘味料)も同様でコカイン並みに依存性が強く、米国のスーパーで売られている食品の66%に甘味料が加えられている。問題なのは、ヨーグルトやスパゲティソースなど昔は甘くなかった食品にも含まれていること。こんな感じです。
 この見解。ひとつひとつ頷けます。加工食品は日々進歩していますし、利用する生活者はますます増えています。糖分はクセになり、その常習性については広く知られているところです。日本でも、高級な食パンは甘くなっていますし、「甘じょっぱ系」の味は定着しつつあります。隠し味に甘みを加えるのは近年よくある手法ですし、外食店の料理も家庭料理のレシピも、味付けが甘くなっているように、私は感じています。
 地球環境に配慮して開発されたプラントベースミートは精肉より加工度が高く、脳の唯一のエネルギー源は分解された糖質です。食の持っている多面性を表わしています。

2022年1月1日 1アカウント3,300円(税込)/月で閲覧できる「食のトレンド情報Web」をリリースしました。
→ https://trend.himeko.co.jp

お知らせ! 「電通PRコンサルティング トレンドレポート」がアップされました

昨年に引き続き、ひめこカンパニー代表・山下智子のインタビュー記事が掲載されています。是非、お読みください。

2022年の歩き方 各界のオピニオンリーダーと考える
”加速”・”定着”・”回帰”・”消滅”
~「食」篇~

「食のトレンド情報Web」いよいよ1月1日リリース!

 前年から続く新型コロナウイルス禍で幕を開けた2021年は、「オミクロン株」で終わろうとしています。弊社の2021年は、「食のトレンド情報Web」開発の1年でした。
 20年以上にわたり、「食のトレンド情報」をExcelで作成し、毎週、会員企業様にお送りしてきました。が近年、多くのお客様から、欲しい情報をすぐに検索できるといいのだが、スマホの画面で見られたら便利、元のデータや画像をすぐに見られるようにして欲しいなどのご要望をたくさんいただき、Web版の開発に着手しました。
 Web版では「トレンドキーワード」「調査データ・ランキング」「himeko’s VIEW!」「himeko’s COLUMN」と「ひめカン編」が閲覧できます。「ひめカン編」では、2004年からのトレンド情報数万件を再編集した「食のトレンド情報アーカイブ」、私の過去の「食市場のトレンド講演」動画、“アール・エフ・ワン”“柿安ダイニング”など5ブランドの惣菜を調査した1500件の「惣菜調査票」、過去と現在のトレンドを比較しながら食市場の流れを分析した「食のトレンド今⇔昔」などが見られます。
 もちろん、すべてのコンテンツがフリーワードで、「トレンドキーワード」と「調査データ・ランキング」はタグでも検索でき、元のデータや画像に即遷移することも可能ですし、パソコンでもスマホでも見られます。また取っておきたい情報、後でじっくり読みたい情報を保存しておけるブックマーク機能もあります。
 Excel版は、企画書や資料を作成するときの情報源として、また1週間分の食に関係する情報をまとめて読みたいときに役立ちますし、Web版は欲しい情報をすぐに入手したいときや新しい情報をいろいろ知りたいときに便利です。
 Web版は2022年1月1日にリリース予定です。1人1アカウント3,300円(税込)/月です。是非、ご利用ください。

食のトレンド情報Web → https://trend.himeko.co.jp

意外とストレス!? ゆで卵

 キユーピーが今年4月から全国販売を始めた袋入りの殻なしゆで卵「そのままパクっと食べられる ゆでたまご」(実勢価格88円)が売れ続けています。卵は、アミノ酸スコア100の良質なタンパク質源。しかもリノール酸や数々のビタミン、ミネラルも含まれています。新型コロナウイルス禍で、手軽にタンパク質を摂りたい生活者にとって最適な商品であることは分かります。

 が、しかし。10個220円程度で買える卵を、ただゆでてあるだけなのに、4倍のお金を払って買うのはなぜでしょう。答えは、“ゆで卵“という料理のハードルが高いからです。「ゆでるだけじゃない」と言う人が圧倒的だと思いますが、そうは思わない人もたくさんいるのです。私の周りにもいます。

 鍋に卵と水を入れて火にかける、タイマーをセットする、水で軽く冷やして殻をむく。たったこれだけの作業の中に、ストレスがいくつも潜んでいます。まず1個の卵をゆでるのにちょうどよい大きさの鍋がない。だから、卵がかぶる量の水とそれを沸かすためのガス代がもったいない。タイマーをかけるのが面倒、鳴ったらキッチンに戻らなくてはいけない、ツルンとむけないとイライラする、結果、殻には白身がいっぱいくっ付き、肝心のゆで卵はでこぼこ。こうなったら悲劇。というのが、“ゆで卵買う派”の主張です。

 鍋で湯を沸かし、時間を計ることに、ストレスを感じる人は多いのかもしれません。アピックスインターナショナルが開発した、レトルト食品を温めるだけの専用調理家電「レトルト亭 」。Makuakeで 20%オフの6140円~で先行販売したところ、用意していた1200台が27時間で完売したと言います。

 因みに私は、バーボンのつまみとして毎日ゆで卵を2個食べます。もちろん、自分でゆでます。

選挙運動と炊き出し

 立候補者を一度も生で見ることなく、主張を聞くこともなく、衆議院選挙が終わりました。夜8時から一斉に始まる選挙結果速報番組。作り置いたチリビーンズをつまみにバーボンを飲みながらずっと見ていました。自分が1票を入れた立候補者は当選したのか、政党は議席を伸ばしたのか。もちろんそれも気になりますが、何より、投票率の高低や票を集めた政党、落選した議員や健闘した立候補者に興味があります。生活者の気持ち、空気感が分かるからです。

 私は、選挙というと炊き出しの光景を思い出します。子どもの頃、政党支援をしている組織に属している夫を持つ妻たちが集まって、おにぎりや煮物などを作っていました。冠婚葬祭や祭りと同じような光景です。昭和時代の女性たちは、炊事で選挙運動を応援していたのです。

 今は、もちろん仕出し弁当。しかも、有名な料理店の弁当を集めたサイトもあり、いろいろなお店の味が楽しめます。ただし公職選挙法で、選挙運動員や労務者への弁当の提供は、1食につき1000円、1日につき3000円が上限になっています。しかも、提供できる弁当の数は候補者1人当たり15人分。掛ける3食で45食に、掛ける告示から投票日までの日数の範囲内と定められています。つまり誰がどの弁当を食べたのか、きちんと管理しなくてはいけないということです。過酷な選挙運動の日々、作り立ての温かい料理で元気付けてあげようという意味では、炊き出しもありなのでしょうが、食材費などの経費を食べた人数で割って、厳密には、誰がどの程度食べたのかを把握する必要もあり、現実的ではありません。活気に溢れた選挙運動と炊き出し。もう見ることのない光景です。

昭和ノスタルジーを満喫。万平ホテル

 緊急事態宣言が解除され、所用で軽井沢に行きました。久しぶりに、万平ホテルでランチをいただきました。

 軽井沢は、本通りも銀座通りも万平ホテルも観光客でいっぱい。規制緩和を受けて関東地区から観光客がどっと押し寄せたのでしょう。10月にしては暑い日でしたから、“夏休みの軽井沢?”と錯覚してしまうほどの混み具合でした。

 万平ホテルのメインダイニングのメニューは、コース料理とアラカルトで構成されています。押しは、コース料理。牛肉のグリルや鶏肉の赤ワイン煮、舌平目のムニエルや真鯛のポワレ、ビーフコンソメスープ、野菜にはヴィネグレットソースがかけられます。何もかもが懐かしい名前の料理。昭和のまま時間が止まっています。

 アラカルトは、名物のカレー。これは正確には、カツレツや魚介、野菜のソテーなどにライスが添えられていてカレーソースをかける提供スタイルなので、料理名は「○○とライス カレーソースと共に」と記されています。ほかには、ハンバーグにビーフストロガノフとこれまた昭和を代表する洋食がずらり。デザートに至ってはそのものずばり、「昭和50年代のレシピで作った カスタードプリン」「昭和50年代のレシピで作った ババロア アプリコットソース」など。本格的なスイーツのおいしさに日本人が驚いた半世紀近く昔の味が楽しめます。給仕人の、黒いスーツに蝶ネクタイの装いも昭和のまま。敢えて時代を追わないのは1936年に建てられた館との調和を考えてのことでしょうし、軽井沢で最初の洋式ホテルという伝統と誇りを守るという目的もあるのでしょう。

 おしゃれなカフェやブーランジェリー、大きなアウトレットモール、風格のある別荘群に加え、そこかしこに漂う昭和の趣が、若者たちを軽井沢に惹き付けているのかもしれません。