人間だけじゃない。猫・犬も食費上昇

 2/22は、「にゃんにゃんにゃん」の語呂合わせで「猫の日」です。猫の飼育にかかる費用が5年でおよそ1.3倍に増えたというニュースを耳にしました。
 ペットフード協会によると、飼い猫にかける毎月の支出は2017年からの5年で5777円から1.26倍の7286円に増え、このうち市販の主食用、おやつ用のキャットフードに支出した額(食費)が1.25倍になったとのこと。では犬は?と思い、同じくペットフード協会の資料を見ると、17年が9543円、22年が1万3904円で1.46倍。食費は1.34倍です。犬の場合、小型犬以上に絞ると、さらに増えています。キャット・ドッグフードの高級化や物価高などが背景にあるとのことです。
 先週の「食のトレンド情報」にも「プレミアムドッグフード」と「猫と楽しむホテル」の話題がありました。ファンケルが2/1に発売した、愛犬の体調に合わせて4つの味を組み合わせて摂取する“フードローテーション”が可能なドッグフード「GOODISH」は、すべての食事をこれに切り替えると月額4万円を超えるとか。
 一方、「ハイアット リージェンシー 大阪」は、愛猫と泊まれる客室の提供を2/1に開始。ルームサービスでは、“大仙鶏のつくね”“鹿肉のポトフ”“フィッシュ&ベジタブル”といった猫向けの食事を揃えています。
 猫・犬の食事を手作りする飼い主のためのレシピ本、猫・犬の体質の改善をサポートするフードのデリバリーなど、猫・犬を対象にした食のサービスはたくさんあります。病気にならないように食事に気を配り、おかしいと思えばすぐに獣医にかかる。そんな環境で育てられる猫・犬は平均寿命も延びていて、21年の調査では、猫は15.66歳で10年前と比べて+1.3歳、犬は14.65歳で10年前と比べて+0.78歳です。
 玄関先に繋がれ、ベコベコになったアルマイトの桶に入った“ねこまんま”を夢中で平らげる犬は、日本にまだいるのでしょうか。私には、“ねこまんま”のほうが、カリカリしたドッグフードよりおいしそうに見えるのですが。

ロシアのウクライナ侵攻から1年

 2/24、ロシアによるウクライナへのミサイル攻撃や空爆が始まって1年が経ちました。当初は、ここまで長引き、ここまで影響が大きいとは思いもしませんでした。身近なことでその影響を実感するのは、やはり食品の値上げラッシュでしょう。
 まずは小麦。ウクライナ侵攻以前から小麦の国際価格は高値が続いていたのですが、ウクライナ情勢がそれに拍車をかけ、その後の小麦製品の値上げラッシュに繋がります。3月には、ロシアに対する制裁により、タラバガニやボタンエビ、ウニなどの調達に関して先行き不透明感が増し、新たな調達先の模索が始まります。次いで、輸入鶏肉と豚肉の国内卸値が上がりました。日本の鶏肉の主な輸入国は米国やブラジルなどですが、ウクライナは世界有数の鶏肉の輸出国。世界に調達懸念が広がったことによる価格上昇です。4月に入り、ノルウェー産の「生サーモン」が、ロシア上空を飛行できないため迂回することで輸送コストが上がって値上げ、空輸されることが多いチコリやリーキといった西洋野菜の卸値も3月上旬比で5~7割上昇しました。さらに、ロシアによる黒海の封鎖で、ウクライナの穀物輸出量が前月の4分の1に急減。穀物の高止まりを決定付けました。
 以上のことは、2~4月のほんの3ヵ月間で明らかになった食品の値上げです。“ウクライナが戦場になっているから小麦粉価格が上がる”。食糧危機がそんな単純なものではないことが、この戦争でよく分かりました。ウクライナから輸入していなくても、品薄になれば取り合いになり、ロシアへの制裁国に加われば、ロシア産の海産物は輸入できなくなる。ロシアが制裁に対抗すれば空輸コストが上がり、港を閉鎖すれば輸入作物の先行きは見えなくなる。漁業に関しても、ロシアとの交渉が進まなければ出漁できません。
 自給率が低い日本の食糧を支えている「輸入」という手段の脆弱さを思い知らされた1年でした。

今、企業に求められる「authenticity」

 「2022年 食市場のトレンド相関図」に「実感マーケティング」というキーワードを入れました。購入したもの、利用したものに対して、謳い文句は本当なのか、期待通りの効果はあるのか、社会の役に立っているのかなど、生活者の中で、“実証して欲しい”“実感したい”というニーズが高まっているのです。そして今年は、「authenticity(オーセンティシティ)」という言葉が注目されています。直訳すると、「信頼性や真正であること」といった意味で、嘘がない、本物であることが求められる時代になっているということです。
 企業に対し、サステナブルな取り組みが求められる中、実体が伴わない環境対策をアピールする“グリーンウォッシュ”の問題も広がっていて、企業には生活者への説明責任を問われています。
 加えて、かつては厨房におけるアルバイトの、最近では回転寿司店における客の、不適切な行為による深刻なネット炎上で明らかになったように、行為をしたアルバイトや客が非難されると同時に、店側のずさんな衛生状態や労働環境の劣悪さ、企業の顧客に対する広告の嘘など、企業自体の問題も同時にネット上に“告発”されることになります。
 たれの瓶の中で虫が動いている動画がSNSに掲載された「餃子の王将」のケースは、店側の衛生管理に問題があるのか、悪意のある行為があったのか分かりません。が、前者もあり得ると客が思えるのであれば、それは企業側の責任です。
 企業側の不都合がバレやすくなっている時代だからこそ、オーセンティシティがより重要になっていると言えます。逆に言えば、企業や従業員の“神対応”が、顧客やファンの感動を呼び、それが大きな話題になることもあり得ます。SNS時代は、“正直者が馬鹿を見る”のではなく、“正直にやっていなければ取り返しがつかなくなる時代”なのです。

節電と常温保存が可能な加工食品

 今冬、関東以北の地域では電気代の急激な値上がりが、生活者を悩ませています。昨年と打って変わって今年はしっかり寒い冬。暖を取る電気は、節電しようにも限界があります。では、食は?
 himeko’s COLUMNで半年前の夏に振り返った、東日本大震災の影響で計画停電が実施された2011年。エアコンの電力消費量を減らすため火を使わない料理が求められ、加熱しなくてもいただける商品が次々に登場しました。でも、今は冬。やっぱり温かい料理が食べたい。節電料理のアイデアを過去に学べるかと調べたところ、ありました。ベターホーム協会が提案している、加熱調理後の鍋をバスタオルや新聞紙で包み、余熱を利用することで加熱時間を短くする“保温調理”です。ビジュアルは、昭和感満載ですが、二重構造の鍋と同じ発想です。
 この年、常温で長期保存ができる缶詰やレトルト食品が売れました。もちろん、防災の意識が高まったこともありますが、節電の意図もありました。ご存知の通り、食品の詰め過ぎは冷蔵庫の消費電力量を増加させます。庫内を少しでもすっきりさせたいとき、常温保存ができる商品はそれだけで価値が高まります。
 当時、熱湯で溶かして作る粉末タイプのつけ麺用つゆが発売されています。夏の冷蔵庫の常連と言えば、液体の麺つゆ。常温保存が可能な粉末なら、冷蔵庫に入れる必要がありません。メーカーは、魚介系と辛みそ系の2種類を用意し、「ワンパターンになりがちな麺類の新しい食べ方を提案したい」との意向でしたが、節電が叫ばれているときなら、常温保存が可能な粉末であることを、もっとアピールしたほうがいいのにと思ったことを覚えています。

家計の救世主“もやし”の話

 あれもこれもと値上がりし、物価の優等生と言われてきた卵の価格すらも高騰している食市場において、変わらずに低価格で販売されているのがもやし。近隣のスーパーでは「緑豆もやし1袋200g」が29円(税抜)です。
 節約志向が強くなると、低価格の食材をおいしく食べさせてくれる調味料や加工食品が発売され、人気になります。この秋冬商品の中で話題になったのが、もやしを主役にする商品。「久原醤油」の鍋つゆ“塩とんこつ もやしのうま鍋”です。“野菜を美味しく食べる鍋”をテーマにした“うま鍋”シリーズの中でも特に売れた商品で、2月を待たずして終売になってしまいました。同じくもやしに注目したのが、「明星食品」の袋麺“明星 チャルメラ もやしが超絶うまいまぜそば ニンニクしょうゆ味”です。新型コロナウイルス禍で、もやしのアレンジメニューが増えていることに着目して2021年に発売された商品。好評なため、今年4月に麺ににんにくを練り込むことで、にんにくのガツンとくるうま味と香りをアップさせたリニューアル商品を発売する予定です。
 物価高の中、もやしはまさに救世主のような食材ですが、原料である緑豆種子の価格は高騰しています。一方、小売価格は横ばいか下落していて、もやし生産者は窮地に追い込まれているのも事実。そんな中、もやしの高い栄養価に着目し、“安いだけ”食材から“栄養リッチ”食材へ、イメージの刷新を図るためのブランディング活動、もやしの価値向上を目指す「MOYASHI SMILE PROJECT」が始動しています。

徹底的に地産地消。高松の「おきる」

 仕事のため、高松市に宿泊。夕食を「おきる」でいただきました。仕事とはいえ、せっかく彼の地に行くのですから、話題のお店に行きたいし、その土地ならではのおいしさに出合いたいと思うもの。
 「おきる」は、地産地消をほぼすべてのメニューで体現している飲食店。店主の小島氏による創作料理がコースで提供されます。例えば1品めは「いりこだし」が利いた「食べて菜」のお浸し。「食べて菜」は、「野沢菜」と「広島菜」を親に持つ「さぬき菜」と「小松菜」のいいとこ取りをした青菜。アクが少なく歯切れのよい食感が特徴です。次は香川県産の「オリーブぶり」の刺身、しょうゆは香川の「かめびし」のものです。3品めは、香川県産のアスパラガス「さぬきのめざめ」を香川の海の塩でいただきます。4品めは、「オリーブ豚」のローストと香川の野菜を盛り合わせたサラダ。「オリーブ地鶏」「オリーブ牛」と、地元の食材が次々と。〆はもちろん、小豆島の素麺で作った「にゅうめん」です。日本酒は、香川の地酒が楽しめます。
 地のものを使うことをウリにしている飲食店は少なくありませんが、ここまで徹底しているのは珍しいと思います。しかも、どの料理もおいしくてボリューム満点。因みに「おきる」は香川県の方言で、「満腹になる」という意味なのだそう。コース料金は、4,400円。原価率はかなり高いのではないかと推測します。
 店主曰く「地元の人は“観光客のための店”と思っている」。行政や農業団体は、地元の産物を拡げたいと尽力しますが、住民でさえ知らないという現実は、至る所で見られます。「おきる」のような飲食店は、いろいろな意味で貴重な存在なのではないでしょうか。

町中華とSCの中華チェーン店

 “町中華”。いい響きです。かつては、商店街には必ずと言っていいほど存在していた庶民派の中華料理店。看板に「ラーメン」と大きく書かれていても、一通りの中華料理が楽しめる店が多かったと思います。
 私も町中華が大好きです。町中華といえば冷えた瓶ビール。餃子は必ず、次に炒め物。もしくは、ご飯ものか麺。本当は両方行きたいのですが、さすがにお腹が付いて来ません。ひとりでさっと飲んで食べるもいいし、複数人でちょっとした飲み会もできる。そんな使い勝手がいいところも、町中華の魅力です。
 商店街が寂れてしまうと、町中華も存在しづらくなります。その代わりのように、大きなショッピングセンター(以下SC)のレストラン街に中華料理のチェーン店があります。久しぶりにその1店に入りました。東京でも名が知れた大きなチェーン店。まだ店舗数が少ない頃、都心の店に入ったことがあります。本場感を演出した店内の雰囲気が楽しく、料理もおいしかったと記憶しています。が、SCのテナント店は、その印象を大きく覆しました。
 収益の上げ方が特殊な地方のSCのテナント店。それなりの苦労は分かりますが、料理の味が記憶と大きく違うのです。食材をケチっているわけではありません。味の落としどころを間違えていると感じるのです。大手チェーンですから、セントラルキッチンで合わせ調味料を作ったり、食品会社にOEMを委託したりしているでしょう。ならば、落としどころさえ間違わなければ、店舗の人員に頼らなくても安定したおいしさを提供できるはずです。
 当初は顧客の期待にはまっていた味が、また魅力と受け取られていた特徴が、立地や店舗の雰囲気、時の流れで異なるものに感じられることがあります。ズレが生じるのです。確認・検討・修正の繰り返しが、メニュー開発にも商品開発にも欠かせないのです。

餅菜(正月菜)と小松菜

 令和5年が始まりました。新型コロナウイルス発生後、初めての行動制限がないお正月。久しぶりに帰省した人も多かったと思います。
 食の産業化とともに地方色が薄まったといわれる故郷の料理。でもお雑煮は、その土地その土地、その家その家ならではの味が残っているのではないでしょうか。かつて女性は婚家の風習に倣い、その家のお雑煮に慣れていくのが当たり前でしたが、最近は、夫の実家では婚家の味で、自宅では妻が慣れ親しんだ味で、お雑煮を楽しむ家庭も多いとか。
 我が家の場合、私は静岡県西部(遠江国)、夫は愛知県東三河(三河国)。県は違えど、このふたつの地域は徳川家康で繋がっていて、食文化はかなり似ています。お雑煮は至ってシンプル。角餅に、カツオだしのすまし汁、具は、小松菜が基本。夫の実家が鶏を飼っていたので、鶏肉も入れます。違いは、東三河では小松菜が餅菜(正月菜)になること。
 年の暮れになると、スーパーには餅菜(正月菜)が並びます。結婚して20年以上。私は、お正月限定で、小松菜の呼び名を変えて販売促進しているのだと思い込んでいました。ところが夫曰く「餅菜と小松菜は違う。餅菜を育てている人から聞いたから確かだ」。そう言われてみると、小松菜に比べて火の通りが早く、今年初めて「あれぇ?小松菜じゃないぞ」と気付いたのです。調べてみると、古くから尾張地域で栽培されてきた小松菜に近い在来の菜っ葉で、小松菜よりも葉の色が淡く軟らかいのが特徴だとか。ただし、小松菜を餅菜(正月菜)として販売している場合もあるとのこと。
 思い込みは禁物。でも逆パターンで騙されることも間々あり。そんなときは、「1本取られました!」と笑い飛ばすことにして、もう少し素直な気持ちで物事に接しようと今年の誓いを立てました。

世界が欲しがる日本の食品

 2022年の1~10月の農林水産物と食品の輸出総額が1兆1千億円になり、2年連続で1兆円を超えました。理由は円安。今なら、2割引程度の安さで買うことができます。
 売れているもののトップ3は、ホタテ貝、ウイスキー、牛肉。ホタテ貝の主要輸出国は中国。殻を外すなどの加工をし、その多くは米国に輸出され、ステーキ店や鉄板焼き店で提供されます。日本産のホタテ貝は品質がよく、おいしいと評判なのだとか。
 ウイスキーも、海外での評価が高い商品。加えて、海外進出に積極的に取り組んでいる酒蔵たちの努力が奏功して、日本酒も人気。アルコールとしてくくるとかなりの金額になると思います。牛肉は、言わずと知れた「wagyu」のこと。今や世界共通語になるほど、ブランド力は強いです。
 そのほか、輸出量を伸ばしているのが、鶏卵。19年比で3倍以上です。主な輸出先は香港。香港ではここ数年、「たまごかけご飯」が注目されていて、「Tamago-EN」というカフェスタイルのチェーン店では、メレンゲにしたふわふわの白身の上に黄身を落とした「究極のTKG」が、インスタ映えすると女性たちに大人気なのだそう。香港に限らず、ほとんどの国では、卵を生で食べる習慣はありません。それは、卵にサルモネラ菌が付着している可能性が高いから。日本の場合、独自の衛生管理体制が整っているため、心配なく生卵が食べられます。
 米や緑茶、イチゴなどの農産物も、和食ブームや品質の良さを理由に輸出量を確実に伸ばしています。日本の食文化の奥深さ、農産物や食加工品の秀逸さ、安全性は、広く世界に認められています。小さな国だからこそ、その価値を守りたいと願います。

タジン鍋とクスクス料理

 およそ1ヵ月間に渡って開催されたサッカーのワールドカップが、深夜、アルゼンチンの優勝で幕を閉じました。日本同様、“ジャイアントキラー”と呼ばれたモロッコは残念ながら準決勝で敗退しましたが、その対戦相手フランスは、奇しくも植民地支配をした国でした。
 モロッコの料理と言えば、とんがり帽子のような蓋が付いたタジン鍋が有名。水が貴重な砂漠で素材の水分を逃がさないように、蓋内の上部に上がった蒸気が冷やされ、鍋の中に戻る仕組みです。このタジン鍋、カロリーを抑えられ、しかも栄養素を逃さない蒸し料理ができるとあって、かつて日本でも大流行。過去の「食のトレンド情報」には、2006年3月にその情報が登場していて、ル・クルーゼから、ステンレス製の土台にカラフルなセラミック製の蓋を組み合わせたおしゃれなタジン鍋が発売されたとあります。その後、タジン鍋は日本風に進化。電子レンジで加熱する安価なシリコン製が発売され、一気に拡がりました。
 フランス料理には、モロッコ料理の影響を色濃く受けているものがあります。そのひとつが、デュラム小麦に水を含ませて粒状に丸めたクスクス。私はクスクスが好きで、煮込んだ肉や野菜をクスクスと一緒にいただく「ビダヴィ」や、細かく刻んだ生野菜とクスクスを合わせたサラダ「タブレ」をよく作ります。「ビダヴィ」を初めていただいたのは、かつて渋谷にあったフレンチの名店ヴァンセーヌ。酒井一之シェフのそれは感動的なおいしさでした。今は、銀座の「コックアジル」で名誉料理長をなさっているとか。「クスクス食べたい!」と電話をしたら、作ってくださるのかなぁ。