町中華とSCの中華チェーン店

 “町中華”。いい響きです。かつては、商店街には必ずと言っていいほど存在していた庶民派の中華料理店。看板に「ラーメン」と大きく書かれていても、一通りの中華料理が楽しめる店が多かったと思います。
 私も町中華が大好きです。町中華といえば冷えた瓶ビール。餃子は必ず、次に炒め物。もしくは、ご飯ものか麺。本当は両方行きたいのですが、さすがにお腹が付いて来ません。ひとりでさっと飲んで食べるもいいし、複数人でちょっとした飲み会もできる。そんな使い勝手がいいところも、町中華の魅力です。
 商店街が寂れてしまうと、町中華も存在しづらくなります。その代わりのように、大きなショッピングセンター(以下SC)のレストラン街に中華料理のチェーン店があります。久しぶりにその1店に入りました。東京でも名が知れた大きなチェーン店。まだ店舗数が少ない頃、都心の店に入ったことがあります。本場感を演出した店内の雰囲気が楽しく、料理もおいしかったと記憶しています。が、SCのテナント店は、その印象を大きく覆しました。
 収益の上げ方が特殊な地方のSCのテナント店。それなりの苦労は分かりますが、料理の味が記憶と大きく違うのです。食材をケチっているわけではありません。味の落としどころを間違えていると感じるのです。大手チェーンですから、セントラルキッチンで合わせ調味料を作ったり、食品会社にOEMを委託したりしているでしょう。ならば、落としどころさえ間違わなければ、店舗の人員に頼らなくても安定したおいしさを提供できるはずです。
 当初は顧客の期待にはまっていた味が、また魅力と受け取られていた特徴が、立地や店舗の雰囲気、時の流れで異なるものに感じられることがあります。ズレが生じるのです。確認・検討・修正の繰り返しが、メニュー開発にも商品開発にも欠かせないのです。

餅菜(正月菜)と小松菜

 令和5年が始まりました。新型コロナウイルス発生後、初めての行動制限がないお正月。久しぶりに帰省した人も多かったと思います。
 食の産業化とともに地方色が薄まったといわれる故郷の料理。でもお雑煮は、その土地その土地、その家その家ならではの味が残っているのではないでしょうか。かつて女性は婚家の風習に倣い、その家のお雑煮に慣れていくのが当たり前でしたが、最近は、夫の実家では婚家の味で、自宅では妻が慣れ親しんだ味で、お雑煮を楽しむ家庭も多いとか。
 我が家の場合、私は静岡県西部(遠江国)、夫は愛知県東三河(三河国)。県は違えど、このふたつの地域は徳川家康で繋がっていて、食文化はかなり似ています。お雑煮は至ってシンプル。角餅に、カツオだしのすまし汁、具は、小松菜が基本。夫の実家が鶏を飼っていたので、鶏肉も入れます。違いは、東三河では小松菜が餅菜(正月菜)になること。
 年の暮れになると、スーパーには餅菜(正月菜)が並びます。結婚して20年以上。私は、お正月限定で、小松菜の呼び名を変えて販売促進しているのだと思い込んでいました。ところが夫曰く「餅菜と小松菜は違う。餅菜を育てている人から聞いたから確かだ」。そう言われてみると、小松菜に比べて火の通りが早く、今年初めて「あれぇ?小松菜じゃないぞ」と気付いたのです。調べてみると、古くから尾張地域で栽培されてきた小松菜に近い在来の菜っ葉で、小松菜よりも葉の色が淡く軟らかいのが特徴だとか。ただし、小松菜を餅菜(正月菜)として販売している場合もあるとのこと。
 思い込みは禁物。でも逆パターンで騙されることも間々あり。そんなときは、「1本取られました!」と笑い飛ばすことにして、もう少し素直な気持ちで物事に接しようと今年の誓いを立てました。

世界が欲しがる日本の食品

 2022年の1~10月の農林水産物と食品の輸出総額が1兆1千億円になり、2年連続で1兆円を超えました。理由は円安。今なら、2割引程度の安さで買うことができます。
 売れているもののトップ3は、ホタテ貝、ウイスキー、牛肉。ホタテ貝の主要輸出国は中国。殻を外すなどの加工をし、その多くは米国に輸出され、ステーキ店や鉄板焼き店で提供されます。日本産のホタテ貝は品質がよく、おいしいと評判なのだとか。
 ウイスキーも、海外での評価が高い商品。加えて、海外進出に積極的に取り組んでいる酒蔵たちの努力が奏功して、日本酒も人気。アルコールとしてくくるとかなりの金額になると思います。牛肉は、言わずと知れた「wagyu」のこと。今や世界共通語になるほど、ブランド力は強いです。
 そのほか、輸出量を伸ばしているのが、鶏卵。19年比で3倍以上です。主な輸出先は香港。香港ではここ数年、「たまごかけご飯」が注目されていて、「Tamago-EN」というカフェスタイルのチェーン店では、メレンゲにしたふわふわの白身の上に黄身を落とした「究極のTKG」が、インスタ映えすると女性たちに大人気なのだそう。香港に限らず、ほとんどの国では、卵を生で食べる習慣はありません。それは、卵にサルモネラ菌が付着している可能性が高いから。日本の場合、独自の衛生管理体制が整っているため、心配なく生卵が食べられます。
 米や緑茶、イチゴなどの農産物も、和食ブームや品質の良さを理由に輸出量を確実に伸ばしています。日本の食文化の奥深さ、農産物や食加工品の秀逸さ、安全性は、広く世界に認められています。小さな国だからこそ、その価値を守りたいと願います。

タジン鍋とクスクス料理

 およそ1ヵ月間に渡って開催されたサッカーのワールドカップが、深夜、アルゼンチンの優勝で幕を閉じました。日本同様、“ジャイアントキラー”と呼ばれたモロッコは残念ながら準決勝で敗退しましたが、その対戦相手フランスは、奇しくも植民地支配をした国でした。
 モロッコの料理と言えば、とんがり帽子のような蓋が付いたタジン鍋が有名。水が貴重な砂漠で素材の水分を逃がさないように、蓋内の上部に上がった蒸気が冷やされ、鍋の中に戻る仕組みです。このタジン鍋、カロリーを抑えられ、しかも栄養素を逃さない蒸し料理ができるとあって、かつて日本でも大流行。過去の「食のトレンド情報」には、2006年3月にその情報が登場していて、ル・クルーゼから、ステンレス製の土台にカラフルなセラミック製の蓋を組み合わせたおしゃれなタジン鍋が発売されたとあります。その後、タジン鍋は日本風に進化。電子レンジで加熱する安価なシリコン製が発売され、一気に拡がりました。
 フランス料理には、モロッコ料理の影響を色濃く受けているものがあります。そのひとつが、デュラム小麦に水を含ませて粒状に丸めたクスクス。私はクスクスが好きで、煮込んだ肉や野菜をクスクスと一緒にいただく「ビダヴィ」や、細かく刻んだ生野菜とクスクスを合わせたサラダ「タブレ」をよく作ります。「ビダヴィ」を初めていただいたのは、かつて渋谷にあったフレンチの名店ヴァンセーヌ。酒井一之シェフのそれは感動的なおいしさでした。今は、銀座の「コックアジル」で名誉料理長をなさっているとか。「クスクス食べたい!」と電話をしたら、作ってくださるのかなぁ。

元気をいただける先輩女史

 12/3、洋菓子・料理研究家の小菅陽子先生が上梓された「ウィーン菓子図鑑」の出版記念パーティに伺いました。ずっとずっと以前、編集者としてお仕事をさせていただいて以来の再会です。
 本書は、単なる洋菓子のレシピ本ではありません。ウィーン菓子ひとつひとつについて、その由来をオーストリアの催事や風習、歴史や文化と合わせて紹介しています。参考文献リストも多く、情報の正確性を担保するための作業は、さぞや大変だったのではないかと思います。その甲斐あって、図鑑としても、読み物としても秀逸な作品に仕上がっています。
 小菅先生の師、日本の洋菓子研究の祖、今田美奈子先生もご列席されていて、スピーチをなさいました。御年87歳の女史のお話は興味深く、やさしさに溢れ、しかも明朗快活。そのすべてに感激しました。中でも、「(食事は生命のためのもの。一方)デザートは、音楽や絵画と同じ、人を豊かにする芸術であり、夢である」という主旨のお言葉。毎日のように母と一緒にお菓子を作っていた子どもの頃の思い出が、キッチンに立ち込める焼き菓子の香りとともに甦りました。
 私のテーブルには、フリーの編集者時代にお世話になった先輩の方々。こちらの女史たちも、今田先生に劣らず頭脳明晰で元気いっぱい。前向きで探求心に溢れています。
 女性が社会で活躍をするには、まだまだたくさんの障害があった昭和の時代。先達者の存在は、当時も、そして今も、私を励まし、元気付けてくれます。

ロイホのパンケーキ

 11/26に放送されたTBSのバラエティ番組「ジョブチューン」は、ロイヤルホストのメニューを7名のシェフがジャッジするという内容。「パンケーキ」にコメントをしたシェフに対してネット上では批判が起こり、波紋が広がりました。
 「フライパンは進化しているから家でも焼ける」という言葉に反応している人が多く、あのシェフ酷い、ロイホに失礼といった炎上派、星付きレストランとファミレスは違う、自分がおいしいと思えばそれでいいといった悟り派、ロイホのパンケーキ変えないでほしいといった擁護派までさまざま。シェフのレストランのサイトには、多くの誹謗中傷の書き込みがされたといいます。
 このパンケーキ。創業者の製法を守り続け、発売から40年を経た看板メニュー。担当者は、焼き方をマスターするのに5年かかったと言います。それだけに、合格1、不合格6のジャッジにショックを隠し切れない様子でした。
 ファミリーレストランやコンビニのお手伝いを長年してきた私は、システムやオペレーション、開発の苦労などを知っているだけに感情移入してしまい、切なくなります。だからこそ、厳しくてもいいから今後のためになる評価をしていただきたいと願いながら、シェフたちも、どの視点で評価すればいいのか迷うこともあるのだろうとも思い、複雑な気持ちになるのです。大量調理の具を機械が握るコンビニのおむすびだから・・・となれば評価の意味はなくなります。一方、大手ならではの仕入れ力だからできると唸ることもあります。事実、「シーフードドリア」に関しては、価格が高騰しているオマールエビを使ったアメリケーヌソースを高く評価しています。
 3段にしている意味はあるのか、最近のパンケーキのトレンドと違うなど、いろいろな意見が出ましたが、“3段重ね、ホイップマーガリンにシロップがロイホのパンケーキ”という信奉者がたくさんいることも事実。どうする?ロイホ。

辺境料理とガチ中華

 2020年、新型コロナウイルスの影響が及ぶ前の「食市場のトレンド相関図」。キーワードのひとつに「辺境料理」を挙げました。
 世界各国の料理が本場の味で楽しめる日本。よりディープな未体験の味を求める生活者の興味が“辺境の地”の料理へと向かい、中国の地方料理、中でもヘルシー志向を受けて、「発酵」という料理技術を多用する南部の料理に注目が集まりました。
 辺境料理のおもしろさは、未知の食材や料理がもたらす新鮮さや個性だけでなく、その土地に脈々と流れてきた、文化や伝統が色濃く反映されている点です。例えば中国南部に、食材を発酵させたり、スパイスを多用したりする料理が多いのは、食材の保存や菌の繁殖を防ぐため。先祖から受け継がれた知恵が料理に独特の風味を与え、そこがまた魅力にもなっているのです。この点は、今年のトレンドキーワード「日本テロワール」にも通じるところがあります。
 日本に発酵中華を紹介した東京・白金の「蓮香(レンシャン)」は、雲南省や貴州省の少数民族が暮らすエリアの食文化を再現。塩水で乳酸発酵させた茶葉を塩の代わりに使ったり、大豆をすりつぶして板状に成形し、天日干しした干し納豆で風味をつけたりする料理法が注目されました。また同・三軒茶屋の湖南料理店「香辣里(シャンラーリー)」では、発酵させた白身魚の蒸し煮や発酵食品とともに、湖南料理の特徴でもある燻製食品を調味料兼食材として使った料理が話題でした。
 最近、日本人の好みに寄せていない本場の中華料理が味わえる「ガチ中華」が人気だとか。規制が外れ、自重しながらでも外食が楽しめるようになった今、食に対する興味は再び未知なるものへと引き寄せられているようです。

「ターゲットじゃない」話

 フジテレビの秋ドラマ「silent」がいいとテレビでタレントたちがしきりに言っていたので、見逃し配信で学習して3話目から合流しましたが、4話目で挫折しました。そのことを同年代の女性に話すと「ターゲットじゃないから」とばっさり。
 話題の「星のや富士」に行きました。“五感を開き 森を遊ぶ 丘陵のグランピング”と謳うここのコンセプトは「非日常感」。フロントは住宅街、バードウォッチング用の双眼鏡、バードコール、エアクッションが入った好みのバッグを選び、ジープで3分。箱型のコテージに着きます。森の中に作られた施設は気持ちいいし、寛げるベランダも、そこから見える大きな富士山と河口湖も非日常なのでしょうが、料理を含め、演出された諸々が、「非日常」に没入できるレベルではないばかりか、倹約家の私が、“それ、日常なんですけど”と言いたくなるほどの中途半端さ。そのことを同人に話すと「ターゲットじゃないから」と再び。確かに子ども連れが多かった。
 代官山で人気のイタリアンへ。雰囲気はトラットリア、価格はリーズナブル。料理はリストランテ風で、チマチマしていて喜べない。周りは若いカップルでいっぱい。「ターゲットじゃなかった」と反省。
 ほぼ毎日、通勤路にあるローソンに寄ります。野菜や肉、卵を買いに。「弁当50円引き」の券をよくいただきますが、使えません。私は、ローソンのお弁当のターゲットじゃないから。

ペットボトル飲料“白湯”が発売。今度は売れる?

 11/1、アサヒ飲料からホット専用ペットボトル入り商品「天然水 白湯」が期間限定で発売されました。白湯は、特に女性たちの間ではずっと以前から、健康と美容によいものと認知されています。今回発売に踏み切った理由として同社は、白湯の飲用経験率が年々増加していること、中でも新型コロナウイルス下で「朝からカフェインを摂り過ぎないように、意識して白湯を飲んでいる」などの理由で男性の飲用経験率が高まっていること、「飲みたい時に買えない」といった声が多数寄せられていることを挙げています。
 ホットな天然水は、かつても販売されたことがあります。2007年、伊藤園から「あたたかい天然水」が、アサヒ飲料からも14年「アサヒ 富士山のバナジウム天然水(ホット)」が発売されています。健康や美容を気にする生活者の声に応えての発売でしたが、余り続かなかったようです。白湯を飲むのは朝起き立てが効果的と言われていて、外出先での飲用機会はそれほど多くないこと。また白湯に限らず、ホット飲料は品質管理上、加温状態での販売期間が2週間程度と短いことも苦戦した理由のようです。もちろん、熱い支持も一部にはあったようですが、それ以上の顧客獲得には至らなかったのでしょう。
 「天然水 白湯」と過去に販売された2つの商品との大きな違いは、商品名に“白湯”と明記されているか否か。“温かい水”と“白湯”。同じものでも、受け取り方は変わります。その違いは、生活者に響くのか。ウィズコロナの今、男性顧客を期待通り獲得できるのか。朝市場を主戦場にしない展開が図れるのか。マイボトルを持ち歩く生活者が増えている現状で、冷める白湯にニーズはあるのか。今後が楽しみです。

ついに自販機にも導入。ダイナミックプライシング

 需要と供給、繁忙時と閑散時に合わせて価格を変動させる「ダイナミックプライシング(以下DP)」。食市場のトレンド相関図に、このキーワードが初めて登場したのは、2020年です。宿泊施設の宿泊料や飛行機のチケット代でお馴染みですが、それが小売業、飲食業にも広がり始めたのです。
 家電量販大手は、商品表示をデジタル化した「電子棚札」を導入。売れ筋や在庫状況、競合店やネット通販価格などデータを集めて分析し、本部の遠隔操作で販売価格を瞬時に変えることを可能にしました。一方スーパーは、生鮮食品売り場や惣菜売り場でAIを使ったDPの導入を積極的に展開しました。
 飲食業界においては、寿司店が食材の仕入れ価格によってその日のネタの価格を変えるのは当たり前。さらには、顧客の信用度によって料理の価格を変えるという逆DPをシステムに取り入れようと画策した予約サイトもありました。
 そしてとうとう、自販機にもDPの導入が始まります。富士電機が23年1月に発売するのは、天候や気温、設置場所、賞味期限、在庫状況、売れ行きといったデータを組み合わせて分析し、本部が価格を自由に変えられる飲料の自販機です。現在でも、観光地にある自販機の飲料の価格は街中のそれに比べて高めに設定されていますが、暑い日には冷たい飲料が、寒い日には温かい飲料が、更に値上げされるかもしれません。また作業員が商品を補充する際、日付を専用アプリに入力し、その情報を基に賞味期限が迫った商品の価格を調整する仕組みもあるので、日持ちしにくいホット飲料などはタイミングが合えばお得に買えるかもしれません。
 小売業者や飲食業者にとっては、ムダやチャンスロスをなくし、売り上げ増を狙えるDP。米国では、DPの導入で利益が3~7%伸びるとの研究結果もあります。SDGsを追い風に、食品ロスをなくす手段としても、DPに寄せる期待は大きいと思います。