商品において、中身と同等か、時にはそれ以上に生活者を惹き付けるのは、パッケージです。形状は使いやすさや保存性を高め、デザインは心を動かします。「食のトレンド情報Excel」で取り上げる情報の中には、パッケージで売れている商品、売れるかもと思わせる商品がよく登場します。
米国で売れている商品は、LAのスタートアップ飲料メーカー「Liquid Death(リキッドデス)」が販売している缶入りミネラルウオーター“Liquid Death”です。ヘビーなアルコールを連想させるゴシックなドクロのデザインが、クラブやダンスイベントでアルコールやジャンキーな飲み物を飲みたくない、でもペットボトルでは・・・という若者のニーズにぴたりとはまり、3年目で早くも年商190億円、企業価値は1010億円に達し、今も急成長中です。
売れるかもと思わせる商品は、3月に発売された「富士甚醤油」の“ジップみそ やさしさ仕立て 九州あわせ”。生活者の「入れ替え不要」「保存しやすい」「取り出しやすい」「使用するごとに小さくなり場所をとらない」「ゴミがかさばらない」といったニーズに応えて開発されたパッケージです。簡単に開け閉めができるようジップを付け、高さは低めにして箸やスプーンでみそを取り出しやすくしています。残量に合わせてコンパクトになるので、冷蔵庫内でムダな場所を取りません。デザインは、パステルカラーを基調にかわいらしく仕上げ、でもみそであることはしっかり主張しています。
振り返れば みそは、昔から形態があまり変わらない食品のひとつです。カップ入りは場所を取るし、袋入りは詰め替えが手間で、底のほうに残ったみそを取ろうとすると、必ず手の甲にみそが付きます。これら、”みそあるある”のストレスを解消したパッケージです。
イタリアで大ヒットしている革新的なパッケージのRTS(ready to serve)、“NIO COCKTAILS(ニオカクテルズ)”が日本に上陸しました。「バーの外でも最高のカクテル体験を」というコンセプトの下、ローマの有名バーの創設者が監修して開発された商品です。デザインの国イタリアらしいおしゃれなデザインと充実した中身の両輪で、若者の心を掴んでいます。
投稿者: himeko company
香川 綾氏と栄大イズム
3/25、26に二夜連続で放映されたテレビ朝日のドラマ「キッチン革命」。ご覧になった方も多いと思います。ドラマの主人公、香美綾子のモデルは、女子栄養大学の創立者「香川 綾氏」です。
ドラマでは、香美氏が母親の早世を機に医師を志し、医師になったのち予防医学の大切さを痛感し栄養学に興味を持ち、日本国民が家庭において栄養豊かな食事が摂れるよう、料理カード(レシピ)作りに奔走する姿が描かれていました。今では当たり前に使っている大さじ小さじと計量カップ。これを考案したのも香川 綾氏です。
それまで主婦はもちろん、プロの料理人も、経験と勘で料理を作っていました。ずっと昔、祖母に“魚の煮付け”の作り方を聞いたとき、「砂糖はこのお茶碗に半分くらい」などと教えられ、困惑したものです。私は既に、量りやスプーンで計量することが当たり前になっていたからです。
また当時、ビタミンB1不足が原因で患者が慢性的に増加した脚気の対処方法として、ビタミンB1が多く含まれている米の胚芽に注目。胚芽米を普及させることで、脚気を予防することに尽力しました。加えて、バランスよく栄養を摂取するために、食材を栄養的特徴から4群に分類。食材のエネルギーを80kcal=1点として1日20点を目安にし、第1~3群からそれぞれ3点以上、残りを第4群で摂取する「4群点数法」を考案しました。私が在学していた頃の栄大は、寮でも学食でも主食は胚芽米。「4群点数法」は今でも身体に沁み付いています。
香川 綾氏は“栄養学”を、だれもが理解できるよう簡明化し、さまざまな料理に具現化し、計量することで再現性を高めるなど、日々実践すべき学問に昇華させました。胚芽米のおいしい炊き方を研究したり、多くの料理カードを作成したり、計量スプーンを開発したりしたのも、そのためです。そこに“栄大イズム”があると私は信じています。
大好きな卵の話
春は卵の旬。「歳時記」には、「鳥の卵」は春の季語として定められています。原種に近い鶏は、春の時季にしか卵を産まなかったからなのだそうです。現在でも、陽気がいい春に生まれた卵はおいしいとされています。
卵は、必須アミノ酸をバランスよく含む完全栄養食品。具材にもソースにもなるし、単独でも一品になり、どんな食材とも相性抜群。加熱によって固まる技には、料理界における「食材栄誉賞」ものの価値があります。
私は卵が大好きです。最後の晩餐には“卵かけご飯”をお願いするつもりだし、晩酌のつまみは“ゆで卵”2個と決まっています。たまにキャベツのせん切りに焼き立て熱々の半熟“目玉焼き”をのせ、しょうゆをかけて黄身を崩しながら食べたくなります。先日、宿泊したホテルでの朝食ビュッフェ。無性に食べたくなってプレートにキャベツを盛ってオムレツを焼いてくれるコーナーに。「目玉焼きできますか?」。料理人は一言「できません」。そうですよね~、卵液でスタンバっているのですから。
忘れられない卵料理があります。20代の頃住んでいたアメリカのダイナーの“朝食”です。当時マンハッタンには、ガラス窓に「Breakfast$1.99」の文字が大きく書かれている古いダイナーが点在していました。鉄板で焼くスクランブルエッグ、ベーコンやソーセージ、ハッシュブラウンやグリルドポテト、カリカリトーストに、おかわり自由の薄~いアメリカン。この組み合わせがサイコーのおいしさで。ビンボーな私には贅沢な朝食ですが、かなりのボリュームなのでランチ代を節約できました。
今、卵の価格が急騰しています。一部スーパーでは、品切れも起きているようです。ところが通勤路にあるローソンでは、1パック(10個)179円(税抜)のまま。驚きを通り越してもはやミステリーです。
駄菓子屋のお好み焼き ≒「遠州焼き」
中高生時代に通った浜松の居酒屋で「遠州焼き」なるものをいただきました。初めて知った料理名ですが、メニューの写真を見て昔懐かしい「お好み焼き」だと分かりました。子どもの頃、駄菓子屋には鉄板テーブルがあり、おばちゃんがお好み焼きや焼きそばを焼いて売っていました。これに冬はおでん、夏はかき氷が、駄菓子屋の定番。コンビニで言うところのFFです。
駄菓子屋のお好み焼きは、お小遣いで買えるおやつ。とても質素だったと記憶しています。肉や魚介などは一切なく、小麦粉を溶いた生地に天かすとねぎ、紅しょうが、おかかを振りかけておしまいのような。ソースも、濃厚なトンカツソースではなく、ウスターソースか、ひょっとしたらしょうゆだったような記憶もあります。
「遠州焼き」を調べてみたら、特徴的なのはたくあんを入れること。そう言えば入っていたかも。ソースではなく、しょうゆ。おかかではなく、サバやアジの削り粉のよう。記憶よりチープな感じだから正しいのでしょう。
懐かしくなってレシピを探し、作ってみました。そうそう、もうひとつ忘れてはならないことが。丸く焼いた後、両端を折りたたんで真ん中で重ね合わせるのです。駄菓子屋ではそれを、横長の発泡スチロールの皿に載せてくれました。薄いからできる提供方法です。
食には貧乏くさいほうがおいしいものがたくさんあります。「遠州焼き」のポイントは、たくあん。古漬けの酸っぱいものとあります。確かに、昔食べていたたくあんは、酸っぱかった。が、近くのスーパーでは見つけられず。
懐かしの味なのかと言われれば、そうのような。違うと言われればちょっと違うような。舌の記憶が曖昧なうえ、古漬けではない。なんとも、中途半端なノスタルジーに浸った休日でした。
人間だけじゃない。猫・犬も食費上昇
2/22は、「にゃんにゃんにゃん」の語呂合わせで「猫の日」です。猫の飼育にかかる費用が5年でおよそ1.3倍に増えたというニュースを耳にしました。
ペットフード協会によると、飼い猫にかける毎月の支出は2017年からの5年で5777円から1.26倍の7286円に増え、このうち市販の主食用、おやつ用のキャットフードに支出した額(食費)が1.25倍になったとのこと。では犬は?と思い、同じくペットフード協会の資料を見ると、17年が9543円、22年が1万3904円で1.46倍。食費は1.34倍です。犬の場合、小型犬以上に絞ると、さらに増えています。キャット・ドッグフードの高級化や物価高などが背景にあるとのことです。
先週の「食のトレンド情報」にも「プレミアムドッグフード」と「猫と楽しむホテル」の話題がありました。ファンケルが2/1に発売した、愛犬の体調に合わせて4つの味を組み合わせて摂取する“フードローテーション”が可能なドッグフード「GOODISH」は、すべての食事をこれに切り替えると月額4万円を超えるとか。
一方、「ハイアット リージェンシー 大阪」は、愛猫と泊まれる客室の提供を2/1に開始。ルームサービスでは、“大仙鶏のつくね”“鹿肉のポトフ”“フィッシュ&ベジタブル”といった猫向けの食事を揃えています。
猫・犬の食事を手作りする飼い主のためのレシピ本、猫・犬の体質の改善をサポートするフードのデリバリーなど、猫・犬を対象にした食のサービスはたくさんあります。病気にならないように食事に気を配り、おかしいと思えばすぐに獣医にかかる。そんな環境で育てられる猫・犬は平均寿命も延びていて、21年の調査では、猫は15.66歳で10年前と比べて+1.3歳、犬は14.65歳で10年前と比べて+0.78歳です。
玄関先に繋がれ、ベコベコになったアルマイトの桶に入った“ねこまんま”を夢中で平らげる犬は、日本にまだいるのでしょうか。私には、“ねこまんま”のほうが、カリカリしたドッグフードよりおいしそうに見えるのですが。
ロシアのウクライナ侵攻から1年
2/24、ロシアによるウクライナへのミサイル攻撃や空爆が始まって1年が経ちました。当初は、ここまで長引き、ここまで影響が大きいとは思いもしませんでした。身近なことでその影響を実感するのは、やはり食品の値上げラッシュでしょう。
まずは小麦。ウクライナ侵攻以前から小麦の国際価格は高値が続いていたのですが、ウクライナ情勢がそれに拍車をかけ、その後の小麦製品の値上げラッシュに繋がります。3月には、ロシアに対する制裁により、タラバガニやボタンエビ、ウニなどの調達に関して先行き不透明感が増し、新たな調達先の模索が始まります。次いで、輸入鶏肉と豚肉の国内卸値が上がりました。日本の鶏肉の主な輸入国は米国やブラジルなどですが、ウクライナは世界有数の鶏肉の輸出国。世界に調達懸念が広がったことによる価格上昇です。4月に入り、ノルウェー産の「生サーモン」が、ロシア上空を飛行できないため迂回することで輸送コストが上がって値上げ、空輸されることが多いチコリやリーキといった西洋野菜の卸値も3月上旬比で5~7割上昇しました。さらに、ロシアによる黒海の封鎖で、ウクライナの穀物輸出量が前月の4分の1に急減。穀物の高止まりを決定付けました。
以上のことは、2~4月のほんの3ヵ月間で明らかになった食品の値上げです。“ウクライナが戦場になっているから小麦粉価格が上がる”。食糧危機がそんな単純なものではないことが、この戦争でよく分かりました。ウクライナから輸入していなくても、品薄になれば取り合いになり、ロシアへの制裁国に加われば、ロシア産の海産物は輸入できなくなる。ロシアが制裁に対抗すれば空輸コストが上がり、港を閉鎖すれば輸入作物の先行きは見えなくなる。漁業に関しても、ロシアとの交渉が進まなければ出漁できません。
自給率が低い日本の食糧を支えている「輸入」という手段の脆弱さを思い知らされた1年でした。
今、企業に求められる「authenticity」
「2022年 食市場のトレンド相関図」に「実感マーケティング」というキーワードを入れました。購入したもの、利用したものに対して、謳い文句は本当なのか、期待通りの効果はあるのか、社会の役に立っているのかなど、生活者の中で、“実証して欲しい”“実感したい”というニーズが高まっているのです。そして今年は、「authenticity(オーセンティシティ)」という言葉が注目されています。直訳すると、「信頼性や真正であること」といった意味で、嘘がない、本物であることが求められる時代になっているということです。
企業に対し、サステナブルな取り組みが求められる中、実体が伴わない環境対策をアピールする“グリーンウォッシュ”の問題も広がっていて、企業には生活者への説明責任を問われています。
加えて、かつては厨房におけるアルバイトの、最近では回転寿司店における客の、不適切な行為による深刻なネット炎上で明らかになったように、行為をしたアルバイトや客が非難されると同時に、店側のずさんな衛生状態や労働環境の劣悪さ、企業の顧客に対する広告の嘘など、企業自体の問題も同時にネット上に“告発”されることになります。
たれの瓶の中で虫が動いている動画がSNSに掲載された「餃子の王将」のケースは、店側の衛生管理に問題があるのか、悪意のある行為があったのか分かりません。が、前者もあり得ると客が思えるのであれば、それは企業側の責任です。
企業側の不都合がバレやすくなっている時代だからこそ、オーセンティシティがより重要になっていると言えます。逆に言えば、企業や従業員の“神対応”が、顧客やファンの感動を呼び、それが大きな話題になることもあり得ます。SNS時代は、“正直者が馬鹿を見る”のではなく、“正直にやっていなければ取り返しがつかなくなる時代”なのです。
節電と常温保存が可能な加工食品
今冬、関東以北の地域では電気代の急激な値上がりが、生活者を悩ませています。昨年と打って変わって今年はしっかり寒い冬。暖を取る電気は、節電しようにも限界があります。では、食は?
himeko’s COLUMNで半年前の夏に振り返った、東日本大震災の影響で計画停電が実施された2011年。エアコンの電力消費量を減らすため火を使わない料理が求められ、加熱しなくてもいただける商品が次々に登場しました。でも、今は冬。やっぱり温かい料理が食べたい。節電料理のアイデアを過去に学べるかと調べたところ、ありました。ベターホーム協会が提案している、加熱調理後の鍋をバスタオルや新聞紙で包み、余熱を利用することで加熱時間を短くする“保温調理”です。ビジュアルは、昭和感満載ですが、二重構造の鍋と同じ発想です。
この年、常温で長期保存ができる缶詰やレトルト食品が売れました。もちろん、防災の意識が高まったこともありますが、節電の意図もありました。ご存知の通り、食品の詰め過ぎは冷蔵庫の消費電力量を増加させます。庫内を少しでもすっきりさせたいとき、常温保存ができる商品はそれだけで価値が高まります。
当時、熱湯で溶かして作る粉末タイプのつけ麺用つゆが発売されています。夏の冷蔵庫の常連と言えば、液体の麺つゆ。常温保存が可能な粉末なら、冷蔵庫に入れる必要がありません。メーカーは、魚介系と辛みそ系の2種類を用意し、「ワンパターンになりがちな麺類の新しい食べ方を提案したい」との意向でしたが、節電が叫ばれているときなら、常温保存が可能な粉末であることを、もっとアピールしたほうがいいのにと思ったことを覚えています。
家計の救世主“もやし”の話
あれもこれもと値上がりし、物価の優等生と言われてきた卵の価格すらも高騰している食市場において、変わらずに低価格で販売されているのがもやし。近隣のスーパーでは「緑豆もやし1袋200g」が29円(税抜)です。
節約志向が強くなると、低価格の食材をおいしく食べさせてくれる調味料や加工食品が発売され、人気になります。この秋冬商品の中で話題になったのが、もやしを主役にする商品。「久原醤油」の鍋つゆ“塩とんこつ もやしのうま鍋”です。“野菜を美味しく食べる鍋”をテーマにした“うま鍋”シリーズの中でも特に売れた商品で、2月を待たずして終売になってしまいました。同じくもやしに注目したのが、「明星食品」の袋麺“明星 チャルメラ もやしが超絶うまいまぜそば ニンニクしょうゆ味”です。新型コロナウイルス禍で、もやしのアレンジメニューが増えていることに着目して2021年に発売された商品。好評なため、今年4月に麺ににんにくを練り込むことで、にんにくのガツンとくるうま味と香りをアップさせたリニューアル商品を発売する予定です。
物価高の中、もやしはまさに救世主のような食材ですが、原料である緑豆種子の価格は高騰しています。一方、小売価格は横ばいか下落していて、もやし生産者は窮地に追い込まれているのも事実。そんな中、もやしの高い栄養価に着目し、“安いだけ”食材から“栄養リッチ”食材へ、イメージの刷新を図るためのブランディング活動、もやしの価値向上を目指す「MOYASHI SMILE PROJECT」が始動しています。
徹底的に地産地消。高松の「おきる」
仕事のため、高松市に宿泊。夕食を「おきる」でいただきました。仕事とはいえ、せっかく彼の地に行くのですから、話題のお店に行きたいし、その土地ならではのおいしさに出合いたいと思うもの。
「おきる」は、地産地消をほぼすべてのメニューで体現している飲食店。店主の小島氏による創作料理がコースで提供されます。例えば1品めは「いりこだし」が利いた「食べて菜」のお浸し。「食べて菜」は、「野沢菜」と「広島菜」を親に持つ「さぬき菜」と「小松菜」のいいとこ取りをした青菜。アクが少なく歯切れのよい食感が特徴です。次は香川県産の「オリーブぶり」の刺身、しょうゆは香川の「かめびし」のものです。3品めは、香川県産のアスパラガス「さぬきのめざめ」を香川の海の塩でいただきます。4品めは、「オリーブ豚」のローストと香川の野菜を盛り合わせたサラダ。「オリーブ地鶏」「オリーブ牛」と、地元の食材が次々と。〆はもちろん、小豆島の素麺で作った「にゅうめん」です。日本酒は、香川の地酒が楽しめます。
地のものを使うことをウリにしている飲食店は少なくありませんが、ここまで徹底しているのは珍しいと思います。しかも、どの料理もおいしくてボリューム満点。因みに「おきる」は香川県の方言で、「満腹になる」という意味なのだそう。コース料金は、4,400円。原価率はかなり高いのではないかと推測します。
店主曰く「地元の人は“観光客のための店”と思っている」。行政や農業団体は、地元の産物を拡げたいと尽力しますが、住民でさえ知らないという現実は、至る所で見られます。「おきる」のような飲食店は、いろいろな意味で貴重な存在なのではないでしょうか。