フラメンコとシェリーと「エル・ロシオの巡礼」

 5月21~24日は、昨年は新型コロナウイルスまん延防止のため中止になった、スペイン最大の巡礼祭「エル・ロシオの巡礼」です。

 スペイン南部アンダルシア州ウエルバ県に位置する集落エル・ロシオにある礼拝堂で毎年行われるお祭りで、人々は、年に一度だけ目にすることができるマリア像に会うために、数日をかけてエル・ロシオを目指します。ウエルバやセビージャ、カディスなど街ごとに花で飾られた馬車や荷車に乗って向かう人、それを囲むように歩いて向かう人人人。女性は皆、色鮮やかなフラメンコの衣装を着ます。衣装は数枚用意するのが普通。テントで眠る日々ですが、おしゃれも旅の大切な楽しみです。

 ゆっくりと進む長い行列は、時に木陰で休み、食事をし、そして日本の盆踊りに例えられるフラメンコのセビジャーナスを歌い踊り、酒精強化ワインのシェリーを飲みます。酒精強化ワインとは、醸造過程でアルコールを添加してアルコール度数を高めたワイン。日本では、ヘレス・デ・ラ・フロンテーラで作られるティオ・ペペ (ペペ叔父さん) が有名です。ヘレスにあるボデガ(貯蔵熟成庫)には、皇太子時代の徳仁天皇がサインをした樽もあります。

 サンルーカル・デ・バラメダの巡礼者たちが飲むのは、シェリーの1種、マンサニージャ。パロミノ種のぶどうを使い、サンルーカルで作られたシェリーのみが、マンサニージャと呼ばれます。

 マリア像に会える喜びを胸に、飲み、歌い、踊る日々。その行程のすべてが、アンダルシアの人々が待ち焦がれる、年に一度のお祭りなのです。フラメンコとシェリーを愛する私が、いつか必ず参加したいお祭りです

餃子と呼びずらい餃子

 家で料理をする頻度が増え、“簡単”“便利”に対するニーズが高まる中、そこに、“新しさ”、もっと言えば“斬新さ”のある商品が登場しています。切り口が斬新だと、“手間要らず”の簡便商品というやや後ろめたさを伴う商品に、興味と楽しさが生まれ、マイナスの部分が払拭されることがあります。

 昭和産業が3/1に発売した、挽き肉と野菜を混ぜて焼くだけで、外側がパリッとした新感覚の餃子が作れる『もう包まない!混ぜ餃子の素』。家庭で人気が高い一方、作るのが面倒なメニューの代表格“餃子”をアレンジした、“混ぜ餃子”を提案しています。粉を水で溶き、別に用意した挽き肉やキャベツ、にらといった具を混ぜて焼くだけです。米粉やデンプンなど、粉の絶妙な配合により、皮がないのに外側はパリッとした食感に仕上がるといいます。こしょうやにんにくなどの調味料があらかじめ配合されているため、たねに下味を付ける必要もありません。大きく焼いて切り分けながら食べるのもおすすめだといい、パッケージでは調理例の写真の周りに大量の謳い文句を配置し、斬新さをアピールしています。

 敢えて「混ぜ餃子」としていますが、包まない餃子は、はたして餃子と言えるのでしょうか。社内試食会の場で、“焼き役”の私は「お好み焼き、もう少しで焼けます」と“お好み焼き”を連発。スタッフからその都度「餃子!」と訂正を入れられていました。どう見ても“お好み焼き”は、“餃子”と呼ぶのが難しかった。

 フリーの料理編集者だったとき、料理研究家の故小林カツ代先生が、挽き肉の具をワンタンの皮で包まず、挽き肉団子とワンタンの皮を一緒にスープで煮た料理を“我が道を行くワンタン”と名付けて料理本に掲載しました。カツ代先生曰く、「皮で包むなんて、家庭でそんな面倒なことしなくていいのよ。口に入れれば一緒なんだから」。駆け出しの私は、これはそもそも“ワンタン”と名乗っていい料理なのかと悩みましたが、豪快なカツ代先生のおっしゃる通りにいたしました。そんな昔の出来事を彷彿とさせる商品です。

小袋の話

 ハンバーガー店でポテトをオーダーするとき、日本では「ケチャップください」と言わなければ、トマトケチャップは付いてきません。私は、“フライドポテトにはケチャップ派”なので必ず、しかも2つお願いしますが、米国では何も言わなくても付けてくれます。しかも一掴み。

 その米国で今、トマトケチャップの小袋が品薄になっているとか。新型コロナウイルス禍で持ち帰りやデリバリーの需要が急増したためで、トマトケチャップ最大手のクラフト・ハインツは、急遽増産に乗り出したそうです。トマトケチャップは彼の地を代表する調味料。フライドポテトにつけるだけでなく、ハンバーガーに“追いケチャップ”をする人も珍しくなく、使用量も日本とは比較になりません。

 日本では、しょうがの小袋が足りなくなっているそうです。牛丼に付いてくる紅しょうが、寿司に付いてくるガリなどです。理由は米国と同じ。ただこちらの場合は、小規模の工場で製造されているため、増産のための設備をすぐに整えることもできず、かつコロナ後を見据えると設備投資すべきか否かは悩むところです。

 小袋と言えば、最近疑問に思っていることがひとつ。セブンイレブンの場合、チルドの「もっちり自家製焼き餃子」には「酢醬油」と「ラー油」が付いているのに、同じくチルドの「焼売」には何も付いてきません。なぜでしょう。焼売にはしょうゆと辛子をつけたいので、会社にミニサイズのしょうゆを保管し、納豆に付いている辛子の小袋を集めています。納豆と言えば、私は“納豆に付いているたれは使わない派”。生活圏にたれが付いていない納豆を売っている店がなく、捨てられないたれの小袋が冷蔵庫の中で山になっています。

小西先生からの贅沢な春のお土産

 毎年春、母校であり客員教授を仰せつかっている女子栄養大学(以下栄大)に、特別講義をするために伺います。昨年はオンライン講義で行くことができず、2年ぶりです。

 その際、必ず立ち寄るのが調理学研究室(以下調研)です。私は本心、栄養学よりも調理学が学びたくて栄大に入学し、入学式を待たずに調研の扉を叩きました。それからは、調研に入り浸り。先生に「あなた授業はいいの」と心配されるほど。そんな風に過ごしたからか、年に一度調研に行くと、故郷に帰って来たような思いがします。もちろん、当時大変お世話になった高橋先生は教授になった後、退職していらっしゃいますし、助手だった松田先生は教授になられています。現在の准教授や講師の先生方は、皆私の後輩ですが、私には先生としか思えないのは、学生時代に染み込んだ人間関係の所以です。

 高橋教授退職後、佐賀大学から栄大に教授としていらっしゃったのが小西史子先生です。小西先生は、私にいつもお土産をくださいます。「講義が終わったら、必ず戻って来てくださいね」のお言葉は、私には「おいしいお土産、用意してますよ」と聞こえます。そして今回も。

 ふきとわらびの煮物、ほうれん草の胡麻よごし、筑前煮、筍とふきのちらし寿司には海老と錦糸卵、木の芽が散らされ、まさに春満開のお弁当です。食べ慣れた落ち着く味、「年寄りの煮物です」という先生のお言葉通りのやさしい硬さ。それらのお料理が、先生が日々の折々に取っておかれたのでしょう。可愛らしいお菓子の紙箱にラップを敷いて盛り付けられているのです。これ以上の贅沢はあるでしょうか。家に帰り、着替えは後回し、まずはふきの煮物をつまみ食い。至福のひとときでした。

年々減少する仕送りと大学生協

 4/5、2020年4月に首都圏の私立大学に入学した学生の平均仕送り額が発表されました。その額、過去最低の8万2400円。ピークだった1994年の12万4900円から年々減少し、3分の2以下になっています。一方、仕送りから家賃を引いた1日当たりの生活費は607円。こちらも過去最低です。もちろん607円では生活できませんから、奨学金を申請したり、飲食店やコンビニのアルバイトをしたりするなどして、生活費を、人によっては学費をも捻出するのですが、新型コロナウイルス下ではそれも適いません。学生生活が続けられず、休学、退学する学生たちが今後も増えるでしょう。

 私は、十数年にわたって、大学生協の食堂やコンビニのコンサルティングをしてきました。学生たちに、おいしくて栄養のあるものをたくさん食べて欲しいという思いは、皆一緒です。が、そこに大きく立ちはだかるのが、学生たちの懐具合でした。大学生協の使命は、学生たちの食生活を守ること。そのためには、街場の食より低価格で提供しなくてはなりません。年々価格が上がっているのは食材も同じ。スケールメリットを期待して全国で食材を統一したり、海外から安価な食材を入手したり、食品会社に協力を求めて生協用の加工食品を製造してもらったり。皆さん、挑戦と苦慮を繰り返していました。

 そんな大学生協も、キャンパスに学生たちがいなくなり、この1年は大変だったと思います。今春から大学も、少しずつ通常に戻りつつあるようです。苦学する学生たちのために、大学生協の役割はますます大きくなり、期待は高まるばかりだと思います。

春キャベツとアンチョビのパスタ

 春キャベツが出回っています。淡緑色と淡黄色のコントラスト、縮れたようなウェーブがかかっていて、空気を含んだ尖がり頭。私の、春キャベツのイメージです。葉は軟らかでみずみずしくて、“若い!”という言葉がぴったり。私はずっと昔、春の早い時期に収穫するから葉が軟らかく、時間が経つにつれて堅くなると思っていました。若葉がそうだからです。でも考えれば分かること。キャベツは木の葉ではないし、畑でじっと収穫の順番を待っているわけでもありません。秋に種をまいて3~5月に収穫するのが春キャベツ、夏に種をまいて11~3月に食べ頃を迎えるのが冬キャベツです。この間に、群馬県嬬恋村など冷涼な高原で栽培される高原キャベツもあります。

 春キャベツは軟らかく水分が多いので、サラダや和え物、サンドイッチの具など生でおいしくいただけますし、火の通りも早いのでスープ煮にするなど手軽に楽しめます。でも春キャベツと言えば、私の場合はやっぱり「キャベツとアンチョビのパスタ」です。

 30年前、東京・西麻布に「リストランテ ダノイ」がオープンしました。小野清彦シェフが作る料理はどれもおいしくて温かくて、すぐに常連に。そこでこの料理をいただいたのです。今ではレシピサイトや料理番組で紹介されていますが、当時はダノイを代表する名物メニューでした。キャベツは通年野菜ですから、いつ行っても食べられるのですが、春キャベツが出回ると、縮れたような軟らかな葉がパスタにからまって、イタリアンらしいビジュアルになるのです。もちろん、おいしさも格別です。ダノイは今はなく、自分で作らなくてはなりません。スーパーで春キャベツを見つけると、その足でアンチョビ売り場に向かいます。

休業している店に、客は戻ってくるのでしょうか。

 東京、神奈川、千葉、埼玉の1都3県に発令されていた緊急事態宣言が、3月22日午前0時を以て解除されました。と言っても、飲食店の営業時間短縮要請は、20時から21時に1時間延びただけ。協力金は6万円から4万円に減額されました。

 20時までだと、終業時間が18時の場合、落ち着いて飲み食いができるのは1時間程度。21時なら少しはゆっくりできます。ランチで行きつけの店は、夜のメニューを絞って20時まで毎日営業していましたが、解除後数日の準備期間をおいて、夜メニューを元に戻すといいます。それを聞きつけてか、既に予約がたくさん入っているそうです。

 協力金をよすがに、まったく営業しなくなってしまった飲食店もあります。ランチ営業と20時までの夜営業を続けるより、いっそ終日休業してしまったほうが無駄がないと判断してのことかもしれませんが、ランチから20時まで営業すれば、協力金に加え、それなりの売り上げが確保できると思うのですが。

 延長延長が続いた、飲食店への時短営業要請。今のところ4月21日まで延長されるようです。時短営業要請が終了したとき、休業していた飲食店に客は戻るのでしょうか、料理人の腕と勘は落ちていないのでしょうか、サービススタッフはちゃんと動けるのでしょうか。他人事ながら心配してしまいます。人は、“協力金をもらって休んでいた”と思うでしょう。

 初めて自粛要請が発令されたとき、困窮する飲食店を助けようと、「さきめし」や「応援のきもち」などさまざまなプロジェクトが立ち上がりました。ファンがたくさん付いている飲食店は、売上がそれほど落ち込むこともなく、立ち直りも早かったといいます。がんばって続ける姿勢が、共感を生むのでしょう。

豆加工食品第二弾! フジッコの「ダイズライス」

 クラウドファンディングで購入(支援)したフジッコの「ダイズライス」が届き、早速、試食をしました。

 フジッコは、“新しいお豆生活”を提案する新ブランド「Beanus(ビーナス)」を立ち上げていて、その第1弾として大豆粉と大豆タンパクを主原料にした米状の食品「ダイズライス」を開発。一般販売に先駆けて、クラウドファンディングで支援を募りました。目標金額50万円に対し、集まった支援金は2,616,400円。627人が支援しました。

 届いた試作品は、プレーン、ガパオ風、トムヤム風に味付けしたもの、黒ごまいなりと梅いなりです。いずれも3分ほどレンジ加熱していただきます。

「ダイズライス」の特徴は、低糖質・高タンパク質なこと。プレーンは、1パック150g当たり24.6gのタンパク質を摂取することができます。食感は、周りは軟らかで、弾力とプチッとした食感があり、炊き立てのワイルドライスに少し似ています。

 これに先駆け、mizkanグループの「ZENB NOODLE」を試食したとき、豆の匂いが苦手だっただけに、今回も・・・と予想はしていましたが、やはりプレーンは、加熱直後は特に、豆の香りが強く感じられました。「ZENB NOODLE」を試食したときの敗因は、「うどんやパスタのように食べられるヘルシー麺」という思い込み。ですから今回は、「大豆で作った食品であり、米ではない」と強く言い聞かせていました。強い風味を付ければ無理なく食べられます。粘りがあるので、ソースで和えたり、エスニック風、リゾット風に仕上げたりしたほうが合うと思いました。

 一般の人が必要とするタンパク質の量は、体重1kgあたり0.8gです。 例えば、体重50kgの女性なら、1日当たり40gが目安となります。プレーン1食分のタンパク質量(24.6g)は、コンビニで売られているサラダチキンの平均よりやや多いぐらいです。ご飯1食分を「ダイズライス」に替えてサラダチキン1個を食べれば、必要なタンパク質量は摂取できます。問題は、好みに合うか否かと、続けられるかです。

罰則規定ばかりが目立つプラスチックごみのリサイクル法

 3月9日、政府が「プラスチック資源循環促進法案」を閣議決定しました。プラスチックごみのリサイクル強化や排出削減に向けた新法案です。

 日本の場合、リサイクルの3つの方法のひとつ、プラスチックごみを燃やした際に得られる熱エネルギーを回収する“サーマルリサイクル”が大半なのだとか。因みに欧米基準では、“サーマルリサイクル”はリサイクルに含まれないそう。プラスチックごみをそのままプラスチック製品に生まれ変わらせる“マテリアルリサイクル”と、化学分解したあとプラスチック製品に生まれ変わらせる“ケミカルリサイクル”だけをリサイクルと呼ぶそうです。

 政府は、家庭から出る食品トレーや菓子袋などを“プラスチック資源”として回収する仕組みを作るそうですが、回収後はちゃんと“マテリアルリサイクル”や“ケミカルリサイクル”に回されるのでしょうか。

 報道を見ていると、「コンビニのスプーンとフォークの有料化」と「飲食店などでの使い捨てプラスチック製品の削減義務付けは、有料化や代替素材への切り替え、使うかどうかを客に確認するなど、何らかの取り組みを求め、怠った事業者には改善を勧告・命令し、従わない場合は50万円以下の罰金を科す」という政府の文言ばかりが印象に残ります。「地球環境のために、プラスチックのリサイクルに本腰を入れて取り組みます。再び製品化しますから、分別してくださいね、きれいに洗って出してくださいね」という国民への話しかけが最初にあるべきだと思うのですが。小泉環境大臣は、「これからは無料でスプーンが出てこなくなる。レジ袋有料化の発展版だ」とおっしゃっていますが、短期間でレジ袋辞退率7割を達成できたのは、国民の協力あってのこと。生活者から共感されなくては、企業も生き残れない時代に、まったく共感されないアピールを連発している日本政府には呆れるばかりです。

[自粛=飲食店の営業時間短縮]の構図が生む“コロナ麻痺”

 緊急事態宣言が1都3県で2週間延長されました。市中には賛否両論ありますが、賛成の声のほうが多いようです。
 2週間延長したら感染者数は減るのでしょうか。会社がある青山骨董通り辺りの昼間の人波は、平常時とほとんど変わっていません。ランチ時、飲食店はほぼ満席。人気店には長蛇の列です。夏頃までは席数を半分に減らして、列に並ぶときは前後の人と1mの間隔を空けてなどと店側も客側も気を配っていたのに、今はどちらにも緊張感はありません。“コロナ疲れ”ではなく“コロナ麻痺”ではないかと思います。最初は、目に見えないから恐れたのに、今は目に見えないから意識できなくなっているのではと。
 何に恐れ、何のために自粛しているのか、そもそも自粛とは何なのか。[自粛=飲食店の営業時間短縮]という構図が立ち過ぎて、生活者一人ひとりの自戒も、それを促す政府のアピールも疎かになっている気がします。初めて緊急事態宣言が発令された昨年4月。街から人が消え、幹線道路を走る車の数も半分以下になりました。国全体が緊張感に包まれていたと思います。今は、マスクを掛け、手を除菌し、夜、飲食店に行かない。それだけが、ウイルス対策になっているかのように感じます。
 この現状で2週間後、感染者数が減るとは、私には思えません。必要なのは規制ではなく、当たり前のことですが、国民一人ひとりの自覚です。テレビから発せられる行政からの「協力」の声が空気に薄められて耳に届かないのは、「要請」の声の方が強く響くから。私を疲れさせている元凶は、そこにあります。