「復興五輪」のはずでは?

 東京オリンピックが開幕しました。新型コロナウイルス禍の日本でなければ、開会式前から日々、選手村のレストランの様子がグルメ番組のごとくテレビで紹介されたことでしょう。選手村で食提供に関わる皆さんは、世界中で最も高い評価を受けている東京の食を楽しみにしている海外からのお客様の期待に応えるべく、戦いに挑む選手同様、やる気と緊張感と楽しみと、いろいろな思いを持って安全でおいしい食を提供しようと、日々頑張っているはずです。

 そんな中、残念なニュースがありました。韓国選手団が、福島県産の食材を拒否。独自に弁当製造拠点を手配して自分たちで食事を調達するという情報です。もちろん、福島県産食材の安全性については科学的データが証明しています。そもそも今回の大会は、福島県など東日本大震災の被災地の、復興した姿と安全安心な食材を世界に発信する「復興五輪」のはずでは? 選手村では、福島県産農水産物を多種多量に採用してそのおいしさを確かめていただき、パネルや動画で安全性を積極的にアピールするなどの働きかけがあるべきです。韓国は未だに、福島を含む8県の水産物などの輸入を禁止。中国や米国などは福島県産の一部食品に輸入規制をかけています。

 福島県の生産者の中には、選手村に納入される食材の基準となる「GAP認証」を取得するために、農薬の適切な使用や衛生管理など細かい条件を満たす農法に積極的に取り組んだ団体や個人もたくさんいます。彼らが、「政治」というオリンピックに持ち込むべきではないものの犠牲になっているとしたら。

 それを守るべきは政府ですが、コロナ対策を含め、オリンピック開幕までの呆れるほどのゴタゴタ続きを考えると、とても期待できそうになく、歯がゆさと残念さだけが残ります。

米国で拡がるか“日本式”コンビニ

 セブン&アイ・ホールディングスは6/26、米国のガソリンスタンド併設型コンビニ「スピードウェイ」の買収について、米連邦取引委員会の同意命令案が承認されたと発表しました。2兆円を超える大型買収。成長戦略の核に位置付ける米国事業への投資が本格的に始まります。

 米国のハイウェイを走っているとガソリンスタンド併設のコンビニを至る所で目にします。コンビニと言っても、日本のそれのように明るくて清潔で見やすくて買いやすくてお弁当やサンドイッチがおいしそうで、新商品も揃っていて、調味料も冷凍惣菜も充実していて・・・という存在ではなく。あくまでも私の印象ですが、暗い雑貨店のような空間に、質素なハンバーガーやブリトー、パンがおいしそうに見えないサンドイッチ、フレッシュ感がないサラダ、ピザやホットドッグ、バッファローウィング、チョコレートソースがたっぷりかかったドーナツなどのジャンクフードが雑多に並べられている。ガソリンを入れるついでにちょっと寄ってガムかチョコバー、飲料水やタバコを買う、小腹が空いていたらホットドッグを買う。そんな感じです。日本のように、ランチの弁当やスイーツを買いになど、目的を持って行く存在ではないように思います。

 そんな米国のコンビニ市場でセブン&アイ・ホールディングスがチャレンジするのが、“日本式”の展開です。日本の食品メーカーにも協力を仰いで、米国に食品工場を設置。PB商品を開発し、売上高に占める食品構成比を高める計画です。

 脱炭素社会の流れはガソリンスタンドの経営にはマイナス要素ですし、米国では大型食品スーパーも参入してECが小売市場を席捲。小型店舗ではアマゾンゴーが無人化を進めています。決してラクではない戦場で、“日本式”が武器になるのか。今後が楽しみです。

1年半で4回も起こる「緊急事態」てナニ?

 東京都に、4回目の緊急事態宣言が発令されました。7/12から、再び飲食店での酒類の提供が禁止されます。

 まん延防止等重点措置下では、飲食店の酒類提供は19時まで、1グループ2人まで、滞在時間は90分までという決まりでした。が、渋谷、新宿、恵比寿を見て回ると、3人以上のグループ客が20時以降も酒を飲みながらワイワイガヤガヤ。小さな屋台が密集している恵比寿横丁に至っては、3密どころか、密の3乗でも足りないくらいの混みよう。向かいにある児童公園では、缶ビールを片手に滑り台を駆け上がって喚声を上げる若者たち。店の表に、「朝4時まで営業します」「時間無制限飲み放題」などの貼り紙をしている飲食店も目に付きます。恵比寿が拠点のタクシーの運転手さんが「恵比寿は堂々と(規制時間外の酒提供を)やっている店が多いですよ」と話していました。

 まん延防止等重点措置が緊急事態宣言になったとしても、酒を飲んで騒ぐ若者たちと、規制を無視して酒を提供し続ける飲食店に、自粛を促す力はあるのでしょうか。そもそも1年半足らずの間に4回も発令されたら、「緊急事態」でも何でもないと思うのですが。オリンピック開会式の前日7/22の夜には、日本対南アフリカのサッカーの試合があります。路上飲みをしながら騒ぐ若者たちの姿が容易に想像できます。

 さすがに今回は、速やかに「協力金」の話がでました。既に申請済みの協力金の支払いも遅れているのに、“先に渡す仕組み”を“今から作る”とか。支給額は、一律1日4万円。念書を取って支給するそうですが、詐欺の予感と不公平感は相変わらず払拭できません。酒類販売事業者や金融機関に対しては、酒を提供している飲食店とは付き合わないように要請するなどと言ってみたり。どうにもならなくなって、いよいよ“子どものイジメ”に走っています。

ワクチン争奪戦と食料価格の高騰

 世界中で食料価格の高騰が起こっています。

 まずは穀物。3月時点で、とうもろこしや大豆は60%以上、小麦は12%も上がっています。ということは、穀物が飼料となる牛の肉も。3月の卸売価格は、1ヵ月前に比べて2割以上も上昇しました。新型コロナウイルス下でも、換気をウリにがんばってきた“焼肉店”、テイクアウトを武器に健闘してきた“牛丼チェーン”にとっては、やっと光明が見えた矢先の大打撃です。

 理由は、米国や中国などコロナ禍から一足先に抜け出した国々の需要が一気に爆発したため。我慢してきただけに反動も大きく、供給が追い付いていないのです。加えて、長らく豚肉が中心だった中国の食肉消費の傾向が、中間所得層が拡大するのに比例して牛肉にシフト。世界第2位の牛肉輸入国になっているのです。中国政府は、牛肉の自給率を上げるために、そばから大豆に転作することを奨励しています。日本のそばの75%は中国産。冷たいそばがおいしい季節を待たずして、こちらの価格も上がるでしょう。大豆の価格が高騰すれば、食用油の価格も上がります。節約志向の中、かつてないほど大きなブームになっている“唐揚げ市場”を直撃しています。

 中国の転作政策でもうひとつ価格が上がっているのが、小豆です。取引価格が、20年ぶりの高値になりました。2020年、とうもろこしなどへの転作が進んだからです。一方、百貨店の営業自粛や移動制限によるおみやげ市場の縮小で、国産小豆を使う高級和菓子の需要は低迷していて、国産小豆の価格は下がっています。これからは、スーパーやコンビニの和菓子で、高級なあんこが楽しめるかもしれません。

 にしても、ワクチン争奪戦で後塵を拝したツケは、大きく大きく膨らんで、長く長く私たちの生活を苦しめそうです。

飲食店、90分勝負の戦術

 21日、東京都においては緊急事態宣言が解除され、まん延防止等重点措置に移行しました。飲食店でのお酒の提供が可能になりましたが、営業時間は20時まで、お酒の提供ができるのは11時から19時まで、2人までの人数制限で滞在時間は90分。

 早速ランチ飲みをしに飲食店へ。ビールサーバーの準備ができていなかったのか、ビールが出るのが遅い。ランチビールをこんなに待ち焦がれたことはありませんでした。

 お酒が出せることでやっと営業体制に入れたのが居酒屋やパブ。90分勝負に挑みます。戦略は、何と言ってもスピード感。戦術としては、刺身や作り置き可能な料理などすぐに提供できるメニューのラインアップを増やすことです。客も久しぶりの外飲み。話が弾むと食事そっちのけになってしまうことも。“久しぶり”の高揚感に乗っかって、単価がやや高めの料理を出してみてもいいでしょう。1人客と2人客が主体になるので、盛り合わせの単位も変更して。家庭では味わえない外食ならではの特別感が、今は平常時以上に求められます。“ちょっといいものを少しずついろいろ戦略”が少人数の客には、はまると思います。

 昨年、時短要請が発令される前から、一部のレストランでは“ディナーの時短化”が進んでいました。感染を恐れ、店での滞在時間をなるべく減らそうと、敢えてランチの時間帯を利用したり、ディナーもさっと食べて帰ったりする客が増えたのです。そんな時短ニーズに応え、手頃なボリュームで90分程度で食べ終えられるリーズナブルなコースを期間限定で用意したイタリアンもありました。客にとってはコスパがよく魅力的ですし、一方店側は、3密を避けるために席数を減らしているので回転率を上げたいという事情があり、客と店の双方にメリットがあります。「時短ディナー」は、まさにウィズコロナで生まれたかつてない新しいキーワードになりました。

昭和懐かしハムカツサンド

 渋谷駅で小腹が空いて「渋谷スクランブルスクエア」へ。何かちょっとしたものを買って帰ろうと思い目に付いたのはサンドイッチ専門店のハムカツサンド。「人気2位」とあります。1位は「エビカツサンド」、3位は「カツサンド」。トレンドの“萌え断”分厚いフルーツサンドが並ぶ中、カツが人気のようです。

 ハムカツサンドのフィリングは、卵サラダ、レタス、ハムカツ、ツナマヨ。盛り込み過ぎで、ハムカツの風味が楽しめません。ハムカツがとてもやさしい味なので、余計にです。   

 私好みのハムカツサンドは、昭和の時代、商店街のお肉屋さんが揚げていた分厚いハムカツを、何も塗らない食パンにはさんだもの。プレスハムやチョップドハムで作ったハムカツです。でもそんな昔のハムカツがなかなか探せないのです。今は、ロースハムが主流ですから。そこで、チョップドハムを買って自分でハムカツを作ることにしました。塊のチョップドハムは、ネットで購入します。タイル貼りの壁のような凹凸のある、濃いオレンジ色のビニ―ルに包まれた、アレです。

 因みにチョップドハムとは、塩漬けした豚や牛、馬や羊、ヤギ、ウサギの肉や魚肉に、デンプン、小麦粉、コーンミールなどのつなぎと香辛料や調味料を加えて練り、整形、燻煙、加熱したもの。豚のロースを塊のまま風味付けして乾燥、燻製、加熱したロースハムにはない雑味があり、それが特有のうま味に繋がります。

 高度経済成長初期の日本には、テレビや新幹線など、初めて経験する“感動もの”が次々に登場しました。食品も同様、初めて食べたおいしさの感動が舌に残っているのです。

アップサイクルとホールフード

 最近、“アップサイクル”という言葉がトレンドキーワードに度々登場します。815号の「himeko’s VIEW!」でも取り上げましたからご存知の方も多いと思いますが、“従来は廃棄されていたものに新たな用途や価値を与えて進化させる”という考え方で、2019年に米国企業を中心に設立された「The Upcycled Food Association(アップサイクル食品協会)」は、アップサイクル食品を“本来は人間の食用にされなかった原材料を用い、検証可能なサプライチェーンで調達、生産され、環境によい影響をもたらす食品”と定義しています。

 日本には、古くから“丸ごといただく”食文化があります。米の外皮はぬか床になり、それに野菜やすいかの皮を仕込んで漬け物にしていただく。大豆を絞って豆腐にし、絞りカスは卯の花にしていただく。私は、ごぼうは皮をむきません。そこにごぼうの香りがあるからです。大根の葉は炒めてふりかけにします。ブロッコリーは茎のほうが好きです。これらはまさに、“ホールフード”の実践です。

 では“アップサイクル”との違いは? 例えば、ひよこ豆のゆで汁でビーガンマヨネーズを製造する。これはアップサイクルっぽい。かぼちゃやアボカドの種から油を搾汁する。これはホールフードかな。

 “従来は廃棄されていたもの”“本来は人間の食用にされなかった原材料”の判断がとてもややこしいのです。そもそも食べられる部分か否かは、食文化、食習慣に大きく関わってくること。欧米ではかんきつ類の皮を多用し、東南アジアではパクチーの根っこは欠かせない食材です。

 言葉の認知が高まると存在の必然性が生まれます。“アップサイクル”は、商品開発やメニュー提案の新しいキーワードになり得るかもしれません。なんとなく理解することで安心する日本では余り問題にならないと思いますが、この言葉の定義の解釈はややこしい。

お酒の飲み方の偏差値が上がる機会だったのに

 時間に関係なく、飲食店で酒類が提供されなくなった今、酒好きの私はランチも含めて外食をほとんどしなくなりました。ワインを飲まずにフレンチやイタリアンをいただいて、8時には店を出なくてはならない。そんなゆとりのない食事はしたくないのです。もちろん、お店のためには行くべきなのでしょうが。

 お酒が入ると騒いでしまうから、提供しないように。お酒そのものがいけないのではなく、気が緩んでマスクをかけ忘れたり、密になってしまったり、酔って大声で話したりなど、新型コロナウイルスを感染させてしまう“行動”がいけないということ。ならば、ひとりご飯のときや、バーなどでひとり時間を楽しみたいときは、お酒をいただいても問題ないと思います。一方、レストランやカフェで食事をしながら、しっかり盛り上がっているご婦人グループを見ることも。騒ぐ騒がないは、お酒だけの問題ではありません。

 もちろん、路上飲みで迷惑をかける若者たちも少なからず目にします。でも、「飲める場所を取り上げられたのだから仕方がない」と同情も。まだ子どもなのですから。私も学生なら、いえ20代なら、路上飲みをして盛り上がっていただろうこと想像に難くありません。

 死に至るかもしれないウイルス感染の恐ろしさ、若者も免れられない後遺症の苦しみ、変異を繰り返すウイルスの厄介さ。それらを十二分に理解させ、正しく恐れるよう教育を徹底したうえで、お酒の場での配慮を促せば、世界的に見て決して高いとは言えない日本人のお酒の飲み方における偏差値が上がったのではないかと思います。若者には、大人の嗜みを啓蒙するいい機会になったのではないかと。理想論かもしれませんが、それが残念でなりません。

ヘルシー志向で、馬肉人気が再燃

 新型コロナウイルス禍でヘルシー志向が強まる中、赤身のヘルシー肉として馬肉が注目されています。

 回転寿司チェーン「スシロー」は4/7から、期間限定で“馬刺し食べ比べ”を提供しました。さっぱりとしながらも馬肉のうま味が感じられる“赤身”、脂のり抜群な“とろ”、卵黄じょうゆを加えてコク深く仕上げた“ねぎとろ”を食べ比べできる贅沢なひと皿です。馬肉のユッケをのせた寿司“ユッケ寿司”もブームになりつつあります。東京・新大久保などの飲食店で提供されていて、長さが50cmもある見た目が特徴的。人気ユーチューバーが配信したことから人気に火が付きました。

 日本初の「馬刺し冷凍自動販売機」も登場しています。馬刺し・馬肉製品の老舗「若丸」が長野県飯島町の本社工場敷地内に設置したもので、“馬刺し赤身(300g3000円、200g2500円)”のほか、“焼き肉用タレもみ馬肉”“馬タテガミと赤身のセット”など5アイテムが揃い、24時間購入できます。メディアに取り上げられると県内外から購入客が殺到。ゴールデンウイークの6日間で、例年5月1ヵ月分の約8倍の販売額を記録したといいます。

 予約困難な会員制馬肉専門店「ROAST HORSE」(東京・広尾)と、プロアスリートを食で支えるブランド「ベルメシ」が、最高ランクの馬肉のみを贅沢に使ったレトルトカレー“SPICY HORSE CURRY”を開発。「R&Oフードカンパニー」が予約販売を始めています。

 因みに、新型コロナウイルスで巣ごもり生活が長引く中、JRAの年間売り上げは9年連続で最高額を記録しているとか。私は、こちらの方ではかなり貢献しています。

不景気に流行る内臓料理とマイブーム

 新型コロナウイルス禍の生活が続き、不景気感も強まっています。そんなときに流行るのが、内臓料理です。

 バブル崩壊後の1990年前半、東京では繁華街のあちらこちらに、「もつ鍋1990円」の幟が立ちました。リーマンショック翌年の2009年にも全国的もつブームが到来。網でさっと焼いてから煮込む「炙りもつ鍋」や、脂が乗ったこってり味のもつをさっぱりといただく「酢だれもつ」など進化系のもつ料理が登場。女性たちの間では、もつ鍋や焼きもつをシャンパンといただく「もつシャン」も流行りました。さてさて、第三次もつブームは来るのでしょうか。

 私も今、ちょっとした内臓料理ブームの中にいます。ひとつはレバー。鉄分補給のためにレバーを日常的に食べたいと思っているのですが、毎日スーパーに行けるわけでもなく、ランチタイムに、「レバニラ炒め」のある店を選んだりするほかなかったのです。が、ある日突然「そうだレバーペーストを作ろう!」と思い立ったのです。バターを入れるのでカロリーは少し高くなりますが、大量に食べるものではありません。まとめて作って小さなココットに小分けにし、冷凍庫で保存すれば、解凍していつでも食べられます。おいしいパンとワインがあれば、毎夜リッチな外食気分です。

 もうひとつが、トリッパ。牛の2番目の胃袋です。ハチノス(蜂の巣)と呼ばれる通り、六角形が並んだような凹凸のある表面で、それゆえ独特の歯応えがあり、そこが魅力です。そのままでは硬くて臭みも強いので、ゆでて皮をむき、さらに長時間ゆでて臭みを取るのですが、最近は下処理済みのものをネットで購入することができ、とてもラクになりました。トリッパを香味野菜やハーブと一緒にトマトソースで煮込んだり、ピリッと辛いアラビアータに入れたり、いろいろ楽しめます。