お酒の飲み方の偏差値が上がる機会だったのに

 時間に関係なく、飲食店で酒類が提供されなくなった今、酒好きの私はランチも含めて外食をほとんどしなくなりました。ワインを飲まずにフレンチやイタリアンをいただいて、8時には店を出なくてはならない。そんなゆとりのない食事はしたくないのです。もちろん、お店のためには行くべきなのでしょうが。

 お酒が入ると騒いでしまうから、提供しないように。お酒そのものがいけないのではなく、気が緩んでマスクをかけ忘れたり、密になってしまったり、酔って大声で話したりなど、新型コロナウイルスを感染させてしまう“行動”がいけないということ。ならば、ひとりご飯のときや、バーなどでひとり時間を楽しみたいときは、お酒をいただいても問題ないと思います。一方、レストランやカフェで食事をしながら、しっかり盛り上がっているご婦人グループを見ることも。騒ぐ騒がないは、お酒だけの問題ではありません。

 もちろん、路上飲みで迷惑をかける若者たちも少なからず目にします。でも、「飲める場所を取り上げられたのだから仕方がない」と同情も。まだ子どもなのですから。私も学生なら、いえ20代なら、路上飲みをして盛り上がっていただろうこと想像に難くありません。

 死に至るかもしれないウイルス感染の恐ろしさ、若者も免れられない後遺症の苦しみ、変異を繰り返すウイルスの厄介さ。それらを十二分に理解させ、正しく恐れるよう教育を徹底したうえで、お酒の場での配慮を促せば、世界的に見て決して高いとは言えない日本人のお酒の飲み方における偏差値が上がったのではないかと思います。若者には、大人の嗜みを啓蒙するいい機会になったのではないかと。理想論かもしれませんが、それが残念でなりません。

ヘルシー志向で、馬肉人気が再燃

 新型コロナウイルス禍でヘルシー志向が強まる中、赤身のヘルシー肉として馬肉が注目されています。

 回転寿司チェーン「スシロー」は4/7から、期間限定で“馬刺し食べ比べ”を提供しました。さっぱりとしながらも馬肉のうま味が感じられる“赤身”、脂のり抜群な“とろ”、卵黄じょうゆを加えてコク深く仕上げた“ねぎとろ”を食べ比べできる贅沢なひと皿です。馬肉のユッケをのせた寿司“ユッケ寿司”もブームになりつつあります。東京・新大久保などの飲食店で提供されていて、長さが50cmもある見た目が特徴的。人気ユーチューバーが配信したことから人気に火が付きました。

 日本初の「馬刺し冷凍自動販売機」も登場しています。馬刺し・馬肉製品の老舗「若丸」が長野県飯島町の本社工場敷地内に設置したもので、“馬刺し赤身(300g3000円、200g2500円)”のほか、“焼き肉用タレもみ馬肉”“馬タテガミと赤身のセット”など5アイテムが揃い、24時間購入できます。メディアに取り上げられると県内外から購入客が殺到。ゴールデンウイークの6日間で、例年5月1ヵ月分の約8倍の販売額を記録したといいます。

 予約困難な会員制馬肉専門店「ROAST HORSE」(東京・広尾)と、プロアスリートを食で支えるブランド「ベルメシ」が、最高ランクの馬肉のみを贅沢に使ったレトルトカレー“SPICY HORSE CURRY”を開発。「R&Oフードカンパニー」が予約販売を始めています。

 因みに、新型コロナウイルスで巣ごもり生活が長引く中、JRAの年間売り上げは9年連続で最高額を記録しているとか。私は、こちらの方ではかなり貢献しています。

不景気に流行る内臓料理とマイブーム

 新型コロナウイルス禍の生活が続き、不景気感も強まっています。そんなときに流行るのが、内臓料理です。

 バブル崩壊後の1990年前半、東京では繁華街のあちらこちらに、「もつ鍋1990円」の幟が立ちました。リーマンショック翌年の2009年にも全国的もつブームが到来。網でさっと焼いてから煮込む「炙りもつ鍋」や、脂が乗ったこってり味のもつをさっぱりといただく「酢だれもつ」など進化系のもつ料理が登場。女性たちの間では、もつ鍋や焼きもつをシャンパンといただく「もつシャン」も流行りました。さてさて、第三次もつブームは来るのでしょうか。

 私も今、ちょっとした内臓料理ブームの中にいます。ひとつはレバー。鉄分補給のためにレバーを日常的に食べたいと思っているのですが、毎日スーパーに行けるわけでもなく、ランチタイムに、「レバニラ炒め」のある店を選んだりするほかなかったのです。が、ある日突然「そうだレバーペーストを作ろう!」と思い立ったのです。バターを入れるのでカロリーは少し高くなりますが、大量に食べるものではありません。まとめて作って小さなココットに小分けにし、冷凍庫で保存すれば、解凍していつでも食べられます。おいしいパンとワインがあれば、毎夜リッチな外食気分です。

 もうひとつが、トリッパ。牛の2番目の胃袋です。ハチノス(蜂の巣)と呼ばれる通り、六角形が並んだような凹凸のある表面で、それゆえ独特の歯応えがあり、そこが魅力です。そのままでは硬くて臭みも強いので、ゆでて皮をむき、さらに長時間ゆでて臭みを取るのですが、最近は下処理済みのものをネットで購入することができ、とてもラクになりました。トリッパを香味野菜やハーブと一緒にトマトソースで煮込んだり、ピリッと辛いアラビアータに入れたり、いろいろ楽しめます。

フラメンコとシェリーと「エル・ロシオの巡礼」

 5月21~24日は、昨年は新型コロナウイルスまん延防止のため中止になった、スペイン最大の巡礼祭「エル・ロシオの巡礼」です。

 スペイン南部アンダルシア州ウエルバ県に位置する集落エル・ロシオにある礼拝堂で毎年行われるお祭りで、人々は、年に一度だけ目にすることができるマリア像に会うために、数日をかけてエル・ロシオを目指します。ウエルバやセビージャ、カディスなど街ごとに花で飾られた馬車や荷車に乗って向かう人、それを囲むように歩いて向かう人人人。女性は皆、色鮮やかなフラメンコの衣装を着ます。衣装は数枚用意するのが普通。テントで眠る日々ですが、おしゃれも旅の大切な楽しみです。

 ゆっくりと進む長い行列は、時に木陰で休み、食事をし、そして日本の盆踊りに例えられるフラメンコのセビジャーナスを歌い踊り、酒精強化ワインのシェリーを飲みます。酒精強化ワインとは、醸造過程でアルコールを添加してアルコール度数を高めたワイン。日本では、ヘレス・デ・ラ・フロンテーラで作られるティオ・ペペ (ペペ叔父さん) が有名です。ヘレスにあるボデガ(貯蔵熟成庫)には、皇太子時代の徳仁天皇がサインをした樽もあります。

 サンルーカル・デ・バラメダの巡礼者たちが飲むのは、シェリーの1種、マンサニージャ。パロミノ種のぶどうを使い、サンルーカルで作られたシェリーのみが、マンサニージャと呼ばれます。

 マリア像に会える喜びを胸に、飲み、歌い、踊る日々。その行程のすべてが、アンダルシアの人々が待ち焦がれる、年に一度のお祭りなのです。フラメンコとシェリーを愛する私が、いつか必ず参加したいお祭りです

餃子と呼びずらい餃子

 家で料理をする頻度が増え、“簡単”“便利”に対するニーズが高まる中、そこに、“新しさ”、もっと言えば“斬新さ”のある商品が登場しています。切り口が斬新だと、“手間要らず”の簡便商品というやや後ろめたさを伴う商品に、興味と楽しさが生まれ、マイナスの部分が払拭されることがあります。

 昭和産業が3/1に発売した、挽き肉と野菜を混ぜて焼くだけで、外側がパリッとした新感覚の餃子が作れる『もう包まない!混ぜ餃子の素』。家庭で人気が高い一方、作るのが面倒なメニューの代表格“餃子”をアレンジした、“混ぜ餃子”を提案しています。粉を水で溶き、別に用意した挽き肉やキャベツ、にらといった具を混ぜて焼くだけです。米粉やデンプンなど、粉の絶妙な配合により、皮がないのに外側はパリッとした食感に仕上がるといいます。こしょうやにんにくなどの調味料があらかじめ配合されているため、たねに下味を付ける必要もありません。大きく焼いて切り分けながら食べるのもおすすめだといい、パッケージでは調理例の写真の周りに大量の謳い文句を配置し、斬新さをアピールしています。

 敢えて「混ぜ餃子」としていますが、包まない餃子は、はたして餃子と言えるのでしょうか。社内試食会の場で、“焼き役”の私は「お好み焼き、もう少しで焼けます」と“お好み焼き”を連発。スタッフからその都度「餃子!」と訂正を入れられていました。どう見ても“お好み焼き”は、“餃子”と呼ぶのが難しかった。

 フリーの料理編集者だったとき、料理研究家の故小林カツ代先生が、挽き肉の具をワンタンの皮で包まず、挽き肉団子とワンタンの皮を一緒にスープで煮た料理を“我が道を行くワンタン”と名付けて料理本に掲載しました。カツ代先生曰く、「皮で包むなんて、家庭でそんな面倒なことしなくていいのよ。口に入れれば一緒なんだから」。駆け出しの私は、これはそもそも“ワンタン”と名乗っていい料理なのかと悩みましたが、豪快なカツ代先生のおっしゃる通りにいたしました。そんな昔の出来事を彷彿とさせる商品です。

小袋の話

 ハンバーガー店でポテトをオーダーするとき、日本では「ケチャップください」と言わなければ、トマトケチャップは付いてきません。私は、“フライドポテトにはケチャップ派”なので必ず、しかも2つお願いしますが、米国では何も言わなくても付けてくれます。しかも一掴み。

 その米国で今、トマトケチャップの小袋が品薄になっているとか。新型コロナウイルス禍で持ち帰りやデリバリーの需要が急増したためで、トマトケチャップ最大手のクラフト・ハインツは、急遽増産に乗り出したそうです。トマトケチャップは彼の地を代表する調味料。フライドポテトにつけるだけでなく、ハンバーガーに“追いケチャップ”をする人も珍しくなく、使用量も日本とは比較になりません。

 日本では、しょうがの小袋が足りなくなっているそうです。牛丼に付いてくる紅しょうが、寿司に付いてくるガリなどです。理由は米国と同じ。ただこちらの場合は、小規模の工場で製造されているため、増産のための設備をすぐに整えることもできず、かつコロナ後を見据えると設備投資すべきか否かは悩むところです。

 小袋と言えば、最近疑問に思っていることがひとつ。セブンイレブンの場合、チルドの「もっちり自家製焼き餃子」には「酢醬油」と「ラー油」が付いているのに、同じくチルドの「焼売」には何も付いてきません。なぜでしょう。焼売にはしょうゆと辛子をつけたいので、会社にミニサイズのしょうゆを保管し、納豆に付いている辛子の小袋を集めています。納豆と言えば、私は“納豆に付いているたれは使わない派”。生活圏にたれが付いていない納豆を売っている店がなく、捨てられないたれの小袋が冷蔵庫の中で山になっています。

小西先生からの贅沢な春のお土産

 毎年春、母校であり客員教授を仰せつかっている女子栄養大学(以下栄大)に、特別講義をするために伺います。昨年はオンライン講義で行くことができず、2年ぶりです。

 その際、必ず立ち寄るのが調理学研究室(以下調研)です。私は本心、栄養学よりも調理学が学びたくて栄大に入学し、入学式を待たずに調研の扉を叩きました。それからは、調研に入り浸り。先生に「あなた授業はいいの」と心配されるほど。そんな風に過ごしたからか、年に一度調研に行くと、故郷に帰って来たような思いがします。もちろん、当時大変お世話になった高橋先生は教授になった後、退職していらっしゃいますし、助手だった松田先生は教授になられています。現在の准教授や講師の先生方は、皆私の後輩ですが、私には先生としか思えないのは、学生時代に染み込んだ人間関係の所以です。

 高橋教授退職後、佐賀大学から栄大に教授としていらっしゃったのが小西史子先生です。小西先生は、私にいつもお土産をくださいます。「講義が終わったら、必ず戻って来てくださいね」のお言葉は、私には「おいしいお土産、用意してますよ」と聞こえます。そして今回も。

 ふきとわらびの煮物、ほうれん草の胡麻よごし、筑前煮、筍とふきのちらし寿司には海老と錦糸卵、木の芽が散らされ、まさに春満開のお弁当です。食べ慣れた落ち着く味、「年寄りの煮物です」という先生のお言葉通りのやさしい硬さ。それらのお料理が、先生が日々の折々に取っておかれたのでしょう。可愛らしいお菓子の紙箱にラップを敷いて盛り付けられているのです。これ以上の贅沢はあるでしょうか。家に帰り、着替えは後回し、まずはふきの煮物をつまみ食い。至福のひとときでした。

年々減少する仕送りと大学生協

 4/5、2020年4月に首都圏の私立大学に入学した学生の平均仕送り額が発表されました。その額、過去最低の8万2400円。ピークだった1994年の12万4900円から年々減少し、3分の2以下になっています。一方、仕送りから家賃を引いた1日当たりの生活費は607円。こちらも過去最低です。もちろん607円では生活できませんから、奨学金を申請したり、飲食店やコンビニのアルバイトをしたりするなどして、生活費を、人によっては学費をも捻出するのですが、新型コロナウイルス下ではそれも適いません。学生生活が続けられず、休学、退学する学生たちが今後も増えるでしょう。

 私は、十数年にわたって、大学生協の食堂やコンビニのコンサルティングをしてきました。学生たちに、おいしくて栄養のあるものをたくさん食べて欲しいという思いは、皆一緒です。が、そこに大きく立ちはだかるのが、学生たちの懐具合でした。大学生協の使命は、学生たちの食生活を守ること。そのためには、街場の食より低価格で提供しなくてはなりません。年々価格が上がっているのは食材も同じ。スケールメリットを期待して全国で食材を統一したり、海外から安価な食材を入手したり、食品会社に協力を求めて生協用の加工食品を製造してもらったり。皆さん、挑戦と苦慮を繰り返していました。

 そんな大学生協も、キャンパスに学生たちがいなくなり、この1年は大変だったと思います。今春から大学も、少しずつ通常に戻りつつあるようです。苦学する学生たちのために、大学生協の役割はますます大きくなり、期待は高まるばかりだと思います。

春キャベツとアンチョビのパスタ

 春キャベツが出回っています。淡緑色と淡黄色のコントラスト、縮れたようなウェーブがかかっていて、空気を含んだ尖がり頭。私の、春キャベツのイメージです。葉は軟らかでみずみずしくて、“若い!”という言葉がぴったり。私はずっと昔、春の早い時期に収穫するから葉が軟らかく、時間が経つにつれて堅くなると思っていました。若葉がそうだからです。でも考えれば分かること。キャベツは木の葉ではないし、畑でじっと収穫の順番を待っているわけでもありません。秋に種をまいて3~5月に収穫するのが春キャベツ、夏に種をまいて11~3月に食べ頃を迎えるのが冬キャベツです。この間に、群馬県嬬恋村など冷涼な高原で栽培される高原キャベツもあります。

 春キャベツは軟らかく水分が多いので、サラダや和え物、サンドイッチの具など生でおいしくいただけますし、火の通りも早いのでスープ煮にするなど手軽に楽しめます。でも春キャベツと言えば、私の場合はやっぱり「キャベツとアンチョビのパスタ」です。

 30年前、東京・西麻布に「リストランテ ダノイ」がオープンしました。小野清彦シェフが作る料理はどれもおいしくて温かくて、すぐに常連に。そこでこの料理をいただいたのです。今ではレシピサイトや料理番組で紹介されていますが、当時はダノイを代表する名物メニューでした。キャベツは通年野菜ですから、いつ行っても食べられるのですが、春キャベツが出回ると、縮れたような軟らかな葉がパスタにからまって、イタリアンらしいビジュアルになるのです。もちろん、おいしさも格別です。ダノイは今はなく、自分で作らなくてはなりません。スーパーで春キャベツを見つけると、その足でアンチョビ売り場に向かいます。

休業している店に、客は戻ってくるのでしょうか。

 東京、神奈川、千葉、埼玉の1都3県に発令されていた緊急事態宣言が、3月22日午前0時を以て解除されました。と言っても、飲食店の営業時間短縮要請は、20時から21時に1時間延びただけ。協力金は6万円から4万円に減額されました。

 20時までだと、終業時間が18時の場合、落ち着いて飲み食いができるのは1時間程度。21時なら少しはゆっくりできます。ランチで行きつけの店は、夜のメニューを絞って20時まで毎日営業していましたが、解除後数日の準備期間をおいて、夜メニューを元に戻すといいます。それを聞きつけてか、既に予約がたくさん入っているそうです。

 協力金をよすがに、まったく営業しなくなってしまった飲食店もあります。ランチ営業と20時までの夜営業を続けるより、いっそ終日休業してしまったほうが無駄がないと判断してのことかもしれませんが、ランチから20時まで営業すれば、協力金に加え、それなりの売り上げが確保できると思うのですが。

 延長延長が続いた、飲食店への時短営業要請。今のところ4月21日まで延長されるようです。時短営業要請が終了したとき、休業していた飲食店に客は戻るのでしょうか、料理人の腕と勘は落ちていないのでしょうか、サービススタッフはちゃんと動けるのでしょうか。他人事ながら心配してしまいます。人は、“協力金をもらって休んでいた”と思うでしょう。

 初めて自粛要請が発令されたとき、困窮する飲食店を助けようと、「さきめし」や「応援のきもち」などさまざまなプロジェクトが立ち上がりました。ファンがたくさん付いている飲食店は、売上がそれほど落ち込むこともなく、立ち直りも早かったといいます。がんばって続ける姿勢が、共感を生むのでしょう。