新型コロナウイルスの影響で、多くの飲食店が休業や廃業に追い込まれました。ショーレストランも同様です。
新宿伊勢丹会館の6階に、フラメンコのショーを見ながら食事ができるタブラオがあります。おそらく東京で最も面積が広く、歴史あるタブラオです。前身は「エル・フラメンコ」。1967年開業です。私は大学生のときに知人に連れられ、初めて本場のフラメンコをここで見ました。その後、フラメンコを習うことになる最初のきっかけです。
「エル・フラメンコ」は2016年、フラメンコを愛するファンに惜しまれつつ閉店。その後、「タブラオ・フラメンコ・ガルロチ」と名前を変えて再スタートしたのですが、コロナ禍で2020年に営業を終了してしまいます。何とか、日本におけるフラメンコの老舗を守りたいと立ち上がった現オーナーがクラウドファンディングで資金を集め、フラメンコだけでなくさまざまなエンターテインメントが楽しめる場として「ガルロチ」と改名。5/3に再開を果たしたのです。
その日私は「ガルロチ」に行き、スペインから招聘されたアーティストたちの華やかで楽しいフラメンコを堪能しました。
日本は、本場スペインに次いでフラメンコ愛好者が多い国です。とはいえ、絶頂期の3分の1にまでその数は減少しています。「ガルロチ」をタブラオではなくショーレストランとして再開した意図も充分に理解できます。決してラクではないショーレストランを再開してくれた方々に感謝すると共に、一(いち)フラメンコファンとして、タブラオの火を消さないよう、「ガルロチ」にもせっせと通わなくてはと思う次第です。
投稿者: himeko company
“カタカナスシ”と“客が育てるセカンドライン”
最近の寿司市場。流行りは、“カタカナスシ”と称されるカジュアルな寿司酒場と、“客が育てる”高級店のセカンドラインです。
先日、前者の先駆けとも言える「スシエビス 恵比寿本店」にふらりと立ち寄りました。風変りなメニューがウリとの話は聞いていました。カウンターに座ると、目の前には大きな蒸し器。ちょっと変わった“小籠包”が人気だとか。おすすめは、“名物!エビ・カニ合戦”。カニの甲羅に叩いたエビとズワイガニ、イクラとうずら卵が盛り付けてあり、それをよくかき混ぜて甲羅の下に並べられたカニ味噌の細巻きにかけていただきます。“とろける鰻バター”は、うなぎの握りの上に、スタッフがバターを削りながらたっぷりかけてくれる、動画向きの一品。まさにSNS映えと気軽さがウリの「寿司居酒屋」です。接客も明るくて親切なのですが、オ―ダーは完全スマホ経由。カウンターに座っても、板さんとのやり取りはありません。
後者の代表格は、4/23にオープンした立ち食い寿司店「鮨 銀座おのでら 登龍門」です。「銀座おのでら」が、“お客様に育てていただく鮨店”をコンセプトに立ち上げた店。ポストコロナのさらなる世界展開に向けて、実力のある寿司職人を育てていくことが目的です。ネタは総本店と同じものを使用しながら、価格は若手職人の“勉強代”としてよりリーズナブルに設定していると言います。
これに先立ち昨年10月にオープンした「廻転鮨 銀座おのでら本店」(東京・表参道)。「銀座おのでら」でも提供されている「やま幸」の本マグロを目当てに出掛けました。その時付いてくれた板さんに「どのくらいお寿司握ってるの?」と聞いたら、「6ヵ月です」とのこと。このプロジェクト、その時既に始まっていたのですね。
「生娘をシャブ漬け」。発言内容よりも気になること
吉野家の常務取締役企画本部長の「生娘をシャブ漬け戦略」の発言。驚きと共に、さもありなんとも思いました。
ネットの報道では、“シャブ”という反社に繋がる名称を使ったこと、女性に対する人権侵害と性差別的な発言に当たること、牛丼を中毒性のある食べ物のように表現したことなど、さまざまな批判の声が挙がっていますし、吉野家も発言内容について謝罪をしています。お客様に対してはそれでいいでしょう。でも、この問題で私が最も気になったことは、発言内容そのものではなく、そのような発言が飛び出した理由です。
私は長らく、食品会社や外食会社など食関連企業の方と一緒に仕事をしてきました。ときどきその中に、食に興味がない、食の仕事が好きではない、食をモノとして扱う、人(顧客)を愛していないと感じる方がいます。あくまで私感ですが、そのような方は、市場や人を見るより、数字のマーケティングがお好きな傾向にあるような。
私は、「食」と「人(顧客)」に対して愛情を持つことが、食に携わる人間に求められる最低限の条件だと思っています。食は人を健康にし、笑顔にし、心を満たし、育てます。加えて、地球環境や人権、経済、文化、歴史、宗教などとも深く関わっています。そのぐらい広く深い存在です。愛情がなくてはできません。
マーケティングの現場では、顧客の「囲い込み」という言葉が頻繁に発せられます。この時点で既に、人(顧客)に対する強制が肯定されているような気がして仕方ありません。
飲食店の値上がりと安い外食の限界
食料品の値上がりが止まりません。食用油と小麦粉の価格が上がれば、ほとんどの加工食品と飲食店のメニューが値上がりするのも無理はありません。
弊社近くの、青山骨董通りの行きつけの飲食店も値上げラッシュです。
カジュアルイタリアンの「YPSILON Aoyama(イプシロンアオヤマ)」のランチは、1200円から1350円に。台湾家庭料理の「ふーみん」のランチも、平日は10~50円、土曜日は10~100円の幅で値上げされました。「蕎麦青乃」は、かつ丼や親子丼、しらす丼など丼物とそばまたはうどんのセットが100円程度値上がりしたほか、私のお気に入り“鍋焼きうどん”はエビ天1本の“並”と2本の“上”があったのに、エビ天が大エビ天1本になり、“並”はなくなりました。上の金額への大きな引き上げです。
致し方ありません。店側も苦渋の選択です。この時世においては、客側も充分に理解ができることです。が、感情的には厳しくなるもの。再来店客の口コミなどを見ると、この値段でこの料理なら再々来はないといった内容のものもあります。値上げは料理の現状維持のためであり、値上げ分は食材費に吸収されます。値上げをした分、料理の質や量がアップできるわけでも、店側が儲けているわけでもありません。
私たちは、日本人の正直さと勤勉さとやさしさと器用さが生み出す安全でおいしい外食を、どの先進国と比べても比較的安くいただける幸せを当たり前のように享受してきました。しかし日本人力だけではどうしようもない現実が来ていることを、東欧で起きている惨状と苦難、それが及ぼすさまざまな影響に重ねるカタチで、思い知らされているように感じるのです。
春先の気分は軽やかに。食もファッションも雑貨も同じ
20℃超えで「日中は半袖で」とお天気お姉さんに言われた翌日は、10℃を下回り北風が吹いて真冬並みの寒さに。まさに今春は「三寒四温」でした。
この時期思うのは、いつ衣替えをしようかということ。せっかちな質なので、ちょっとでも温かくなると衣替えに手を付け、何でも一回で済ませたい質なので、コートから徐々にとはいかず。結局、毎年春先に風邪をひきます。今年は、せっかちな私を思い留まらせるのに十分な「三寒四温」ぶりでした。
もうひとつ冬から春へと中身替えをするのが、冷蔵庫と食品庫です。この冬は「食のトレンド情報Web」の立ち上げで忙しく、また寒かったこともあり、昼食は持参していました。定番は、「白菜とれんこん入り鶏つくねのしょうが煮」。白菜半分がペロッと食べられ、しょうがのお陰で身体がポカポカになります。つくねを作り置きして、鶏肉や豚肉を買い置きしておけば、白菜と合わせるだけで温かい煮物が即できます。まさしく白菜は、冬を代表する野菜です。
で、春キャベツが店頭に並び始めると、白菜はお役御免とばかりにフェイドアウト。キャベツ料理に取って代わります。白菜同様、煮物にするにしても、だしからコンソメに、しょうゆから塩に、和風から洋風に料理が移り、見た目も華やかになります。不思議なもので、豚汁に筑前煮にと大活躍してくれた根菜類も重くて。もういいかなと感じるのです。
明るめの色の服を着たくなるように、春先は軽やかな気分でいたいもの。そんな心の移り変わり、私だけではないはずです。生活者の気分が求めるものは、食もファッションも雑貨も同じ。菜の花、グリンピースもいいけれど、もっともっと生活者、とくに女性の気持ちに敏感な店内装飾と販売促進をしてはいかがでしょう。スーパーの社長殿。
2022年にも通じる2007年のキーワード「楽食」
4/1からさまざまな食品や日用雑貨が値上げされました。今年も消費は、ますます保守的な傾向になりそうです。その反動のように高まっているのが、食で楽しみたいというニーズです。今年のトレンドキーワードのひとつに「Fun Foods」を挙げました。
遡ること15年前。2007年最初の食のトレンド情報vol.107 「山下智子の先週の注目記事とトレンド分析」のテーマは、“2007年。今年の食市場キーワードは「進化する楽食」です”。2007年は、楽しい食、楽(ラク)な食が、ますます求められる時代になると予想。楽しい食の中には、食べること自体の楽しみのほかに、選べる自由さ、食を介して人と触れ合う喜びなどの「楽」も含まれていること。またラクな食は、そのものずばり、ラクチンな食、ただ今までの簡便食とは一線を画するラク食で、ラクなだけでなく、ラクで楽しい、ラクだから楽しい要素が求められる食と記しています。
まさに「Fun Foods」にも通じる「楽食」です。新型コロナウイルス禍で私たちは、食を介して人と接することの楽しさ、思いのままに外食をする自由さを懐かしく思い、それらを強く求めました。家で料理をすることが増え、初めは凝った料理に挑戦していた生活者にも自炊疲れが。冷凍食品など簡便食が売れましたが、単に簡便なだけでなくプラス「0.5手間」のアレンジが可能で、その0.5手間に個性を表現できる余地、楽しめる要素のあるラクな食が求められています。
「進化する楽食」で紹介しているのは、“イチゴ用パウダー”や“目玉焼き専用たれ”など。身近な食材や簡単な料理を、ラクしておいしくしてくれる商品であり、どう楽しむかを提案してくれる商品です。
「食のトレンド情報Web」には過去の情報も満載です。当時流行った食品や開発コンセプトがおもしろい商品、生活者のニーズなど、現在に役立つ発見もいっぱいです。これからも過去の情報を紹介しながら、繰り返すトレンド、深化するトレンドのお話をしたいと思います。
グルメも施設も充実。サービスエリア
およそ10年ぶりにスキーをしに中央道を北上。信州へ向かいました。
高速道路のサービスエリア(以下SA)は、ここ10年余りで以前とは比べものにならないくらい魅力的な施設になりました。トイレ休憩のために仕方なく立ち寄る場所から、何かありそうという期待感で寄りたくなる場所に確実に変わったのです。
今回寄ったSAは、「恵那峡」。食したのは「飛騨牛タンバーガー」です。牛タンのパティにマヨネーズとポテトサラダというシンプルな構成で、牛タンの弾力と風味がしっかりと感じられます。飛騨牛のメニューはほかにも、コロッケバーガーや串焼き肉などがあります。「恵那峡」は古いタイプのSAですが、地元の農産物を販売するなど、時流に乗っていろいろと工夫していることが伝わります。
新しいSAと言えば、新東名です。駿河湾沼津SAでは富士山の絶景と駿河湾の輝きの両方が堪能できます。グルメは、やはり海の幸。マグロやキンメダイ、ウニやイクラなどの海鮮がたっぷりと盛られた大ボリュームの海鮮丼や、新鮮な魚介類で作られた「ちぎり揚げ」も人気です。飲食店だけではありません。東名の海老名SA内の「エクスパーサ海老名」には、アパレル、百貨店、スーパーなど多種多様な業態の店舗が出店し、一大ショッピングセンターの様相を呈しています。行楽帰りに食材や惣菜を買うこともでき、“家に帰って夕食どうしよう”などと悩む必要もありません。そのほか、コインランドリーやコインシャワー、足湯や温泉、ドッグラン、観覧車、メリーゴーラウンドやゴーカートといった遊具などを揃えているSAも。SAは今、旅の目的地のひとつになっています。
パンのさらなる値上がりは必至。ご飯派転向もあり?
ウクライナは、ヨーロッパの穀倉地帯であることはよく知られています。上部が青色、下部が黄色という二色の国旗は、空と麦を表わしていると言われ、「ヨーロッパのパン籠」「ヨーロッパの穀倉」と表されます。
日本は小麦の約9割を、米国、カナダ、オーストラリアから輸入しています。昨年10月、輸入小麦の売り渡し価格は、過去2番目の上げ幅(19%)になりました。理由は、地球温暖化が原因とされる強烈な熱波による小麦の不作。北米の太平洋岸のいくつかの都市では、最高気温が50℃近くまで上がり、オーストラリアでは山火事が収まらずコアラの痛々しい姿を映した映像が地球上を駆け巡りました。
さらに農林水産省は3/9、今年4月からの売り渡し価格を、昨年10月よりさらに17.3%引き上げると公表しました。フジパンと敷島製パンは、今年1/1納品分から値上げをしています。4月以降、カップ麺や冷凍うどんなども値上げされる予定です。そして4月の売り渡し価格引き上げに加え、ウクライナの戦禍。パンや麺類の価格がどこまで上がるのか、予想ができません。
これを期に、朝食をパン派からご飯派に切り替える生活者も増えるかもしれませんね。米5kg 2500円(税込)としてご飯1膳分(150g)の価格は34円(ガス代や電気代、水道代を加えるとおよそ+5円)、食パンの平均価格が1斤180円(税込)として6枚切り1枚の価格は30円。ご飯のほうが手間が掛かるし、みそ汁やちょっとしたおかずも必要。一方、マーガリンも値上がりしていて、食パン1枚に15g塗ると+12円。さあ、どうしましょう。
やっと定着するかも? マイボトル
ファミリーマートは3/9、東京都内の10店舗でプラスチック製のフォークと先割れスプーンの配布を休止する実証実験を約1ヵ月間行うと発表しました。
プラスチック削減で最近目立つのは、マイボトル推進活動です。魔法瓶メーカーのサーモスは昨年、マイボトル持ち込みを前提としたテイクアウト専門のコーヒー店「THERMOS COFFEE TO GO」を東京・西新橋と大手町に出店。飲みたい量だけ無駄なく買える“量り売り”でオリジナルブレンドや紅茶などの販売を始めました。一方、象印マホービンは今年2月、マイボトルを活用したモバイルオーダーサービス“ZOJIRUSHI MY BOTTLE CLOAK”の実証実験を始めました。飲食店が顧客のマイボトルを預かり、洗浄して保管。同社のLINE公式アカウントを使って顧客が飲料を注文、決済すると、店舗側はマイボトルに飲料を入れて準備し、顧客へ通知を送信。マイボトルの受け取りと返却は、店舗付近の専用ロッカーや店頭で行います。また日本コカ・コーラは、マイボトルやマイカップの内部を洗う洗浄機を併設した、炭酸水と水の自動販売機を導入。実証実験を開始しています。
プラスチック削減のためのマイボトル、マイカップ推奨の活動はかなり以前から行われています。例えば2007年、スターバックスコーヒーは井の頭公園店で、無料でマグカップを預かるサービスを実施。マイカップを使うと20円割り引きされるサービスは口コミで広がり、利用者は約300人に増えたといいます。2010年、横浜市立大学など3大学は、500個の携帯用ステンレス魔法瓶を学生に配り、給水機の数を増やしたところ、学生から高評価を得たという結果を公表しています。
よいことと分かっていても、生活者にとっては面倒なこと、企業にとっては売り上げが落ちたり経費が掛かったりすることは、長続きしません。現在のように、世の中の大きな流れが必要なのです。
食べ物を食べ物に例える話
出勤の支度をしながらAMラジオを聴くのが朝の習慣です。ニュースや街の情報が端的に分かるのが魅力ですが、何より、リスナーのメールやツイートはまさに「時代の空気」そのもの。興味深いです。
ある朝の番組で、「友だちが“森のバターと言われているほどおいしいのよ”と言ってアボカドを出してくれたが、バターとはほど遠い味で、バターのようにおいしいものではない」という内容のメールが紹介されました。これをきっかけに、話は食べ物を別の食べ物に例えた表現に。「大豆を畑の肉と呼ぶが、大豆はそもそもおいしくて立派な食品。わざわざ肉に例えなくていい」「カキのことを海のミルクというのもおかしい。たしかにカキの白い所はミルクみたいな見た目かもしれないが、口に入れたときの味はミルクとはほど遠い」とか。
私の頭にたくさんの“?”が浮かびました。
アボカドを“森のバター”、大豆を“畑の肉”、カキを“海のミルク”と呼ぶのは、味が似ているからとか、そのくらいおいしいからとか、が理由ではなく、バターのように、肉のように、ミルクのように栄養価が高い、または栄養成分が似ているからなのでは? 栄養成分が似ていれば、もちろん味も似ています。例えばアボカドは良質な脂質を多く含んでいるので、バターのような滑らかな口当たりです。大豆も言わずと知れた、植物性タンパク食品の雄。プラントベースミートの材料です。カキも牛乳のように栄養価が高く、真ガキのうま味が凝縮されたクリーミーな味わいをミルクと表現しているのだと思います。
番組のMCは、春風亭一之輔氏。博学の落語家さんだけに、話を盛り上げるためにわざと・・・かもしれませんね。